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漆積探偵事務所の真実

無良さんの後についていくと、お屋敷についた。いつもの私ならダウジングを使わないとたどり着かない場所に、無良さん達はまっすぐたどり着いたのだ。

「ここって本当に入り組んだ場所にあるのに」

「コレも、朱里ちゃんの言う不思議の一部だからかな」

無良さんが扉を開いて、お屋敷の中へ。

「アタシは買い物を置いてくるから、アンタ達はあの部屋に行ってなさい」

「うん、よろしくルリ」

しばらく進んだ後、最初の別れ道で瑠璃耶ちゃんは右、私達はまっすぐ進んだ。それから最初に見つけた扉を開き、私達は応接室へと入った。

「さて、僕達の不思議について、だよね?」

「はい!」

ついに私も、不思議との関係を、非日常の住人に!

「とは言っても、話せない部分も少なからずあるからそこは勘弁してね」

私達は椅子に向き合うように座った。少しして瑠璃耶ちゃんが現れ、無良さんの隣に座る。

そして、無良さんが話始めた。

「まず言っておくことは、僕達は別に別世界から来た生物とか、謎の集団とかと戦っている、という訳ではいんだ。僕達がしているのは、人の中に住み着くあるものをあるべき場所に導いているだけなんだ」

人の中に住み着くあるもの。それがさっきの浜樫君から聞こえた低い声の正体なのか。

「そのあるものというのは一般的には欲求、欲などと呼ばれているものを糧にする奴でね、僕達はそれを、ヨク、と呼んでいるんだ」

ヨク、人の中に住み着く欲求や欲を糧にするもの。うわぁ……とっても非日常な雰囲気がする!

「朱里ちゃん? 何だかボーッとしてるけど、大丈夫?」

「大丈夫よ、夢が叶って有頂天なだけだから、ほら朱里、話聞き逃すわよ」

「あ……あ、うん!」

思わず悦に入っていたところを瑠璃耶ちゃんの声で現実に戻った。

「その、ヨクというものと戦っているんですよね?」

「うーん。間違いでは無いんだけど、少しばかり違うんだよね」

「え? でも今さっき」

無良さんは十字架を振って戦っていた筈だけど。

「先に言ったけど、僕達は戦っている訳じゃない、あれは戦いではなく、導きなんだよ」

導き?

「ヨクを倒すことは出来ない。仮に相手を動けなくしてもヨクはその人から離れ、また別の欲を求めに行ってしまうんだ……だから」

無良さんは左手を前に出した。

すると、その手に虚空から現れた十字架が握られた。あの時に使っていたそれと同じものだ。

「おぉー!」

目をキラキラさせて十字架を見る。

「僕がやっているのは、ヨクに欲求を満たさせ、満たされたものが逝く場所へと導く事なんだ」

ヨクの欲求を満たす……戦いじゃなくて、導き。

「期待を裏切っちゃったかな?」

「……」

確かに私が考えていた非日常の世界とは全く違っている。別世界も、謎の集団もいない、相手は人の中に住み着くヨクという現実のある存在……


……けど。


「すっっっっっっっっっっっっっっっっっっっごいです!」


バン! 机を叩いて身を乗り出した。

「そ、そう?」

無良さんは驚いて少し後ろに下がっている。

「現実の中にある日常とは違った日常に潜む生物……まさに非日常の……不思議の世界ですよ!」

「そ、そっか、喜んでもらえたらなら何よりだよ」

「ルリちゃんもそうなの!? あの時持ってたアレが無良さんの十字架と同じようなもので…」

「落ち着きなさい」

「何だか音が鳴ったと思ったら周りが静かになって! 火がぶわぁーって出たりして!」

私のテンションは最高潮だった。瑠璃耶ちゃんが何か言っているけどこの溢れる感情は止められない!

けどその瞬間、

「落ち着けぇ!」

ダァン! 瑠璃耶ちゃんは机の上にあの時の鐘を叩きつけた。さながら、静粛に、と言いながら木槌を叩く裁判長みたいに。派手な音が響いて部屋の中に沈黙を作る。

「落ち着きましたか?」

丁寧語で、にっこりと、けどそこからは怒りしか見当たらない笑みと共に首を傾げた。

「は、はぁい……」

その音で冷静になった私は椅子に座り直した。

「僕とルリは少しばかり違うんだ。目的は同じだけど、行いが異なるんだよ」

無良さんが手を握ると、十字架がふっと消えた。おぉ、あれもどうやってるんだろう。

「ヨクに普通の攻撃と呼ばれるものは効き目がない。元々倒せないからね、そのヨクに導きを行うのが僕達がやっていることなんだけど、実際にヨクを導けるのは僕だけなんだ」

「じゃあ、ルリちゃんはいったい?」

「朱里ちゃん、七つの大罪って聞いたことは無いかな?」

七つの大罪。それならまさに昼休みに知ったばかりだ。

「あります、七つの大罪……えっと…」

私はガクシから聞いた七つの大罪の情報を話した。

「欲の塊だということまで知っているなら話が早い、ルリはそれなんだよ」

「それって……ルリちゃんは七つの大罪、ってことですか?」

「正確には、欲が罪として宿った人でね。ルリがルリじゃなかった数年前、大罪の一つを宿して今のルリになったんだ」

「え!?」

瑠璃耶ちゃんじゃなかった数年前。それってつまり……

「そういうことよ、アタシは一度、死んだ人間なの」

「え……?」

一度……死んだ……?

「えぇーーーーーーーーーーーーーー!!!」

部屋の中いっぱいに私の声が響いた。

瑠璃耶ちゃんはうるさそうに耳を手で塞ぎ、無良さんは何故か微笑んでいる。

「じゃ、じゃあ、ルリちゃんはいわゆるゾン…」

「違うわ」

手を机の上に置いた鐘に持っていき、その表面を撫でた。

「はっきりと説明は出来ないけど、アタシは一度死を経験してる。でもそれはアタシになる前のアタシで、今のアタシは死を経験してない一般人と似て非なる者。大罪の一つを宿した、導き手のサポーターよ」

導き手というのは無良さんのこと、つまり2人は互いに助け合う関係ってことなのかな?

「実際に力を使ったところを見たと思うけど、僕達は普通の人と何のへんてつも無いからね。たまに服装で人目を引くことはあるけど」

確かに瑠璃耶ちゃんのゴスロリもそうだけど、無良さんの姿も普通じゃない。

そして本当に今さらながら、私は気づいた。

「無良さん、目の色が……」

無良さんの左右の瞳の色が異なっていた。オッドアイ、と言ったと思う。右目が明るい緑で、左目が濃いオレンジっぽい色だ。

「あぁ、普段は大丈夫だけど十字架を出した時になってしまうんだ。僕も罪を身に宿しているからね」

私は瑠璃耶ちゃんの瞳を見た。その目は瑠璃色ではなく、炎のように赤かった。大罪を宿した人は瞳の色が変わるんだ……あれ? でもまてよ。

「でも無良さんは導き手というのじゃ?」

「そうだけどね、お守り、というのかな。ヨクと戦う為に僕自身も大罪を宿しているんだ」

「ほぇ~」

「さて、とりあえずこのぐらいにしようか、何か聞きたい事はあるかな?」

聞きたい事……うーん……

「いつからやっているんですか?」

「かれこれ、三年ぐらい前からかな」

三年前。無良さんが今19って言ってから、16の時から、私はまだ中学生でこの町には来てなかった。

「その時ルリちゃんは11歳で…」

「違うわよ!」

ダンダン! 瑠璃耶ちゃんがまた鐘で机を叩いた。

「アレはアタシがアタシになった時の年齢だから仮のそれで、だから実際はそれにプラス三年よ!」

プラス三年ということは……

「……17歳?」

見えないなー。

「今思いっきりケンカ売らなかった?」

ぎくり。

「そそ、そんなこと、ないよ?」

「その動揺ぶりを信じるなと言われても仕方ないんだけど?」

「あ、あはは……」

「ああそうそう、後一つ言っておかないといけなかったね」

パンと手を合わせて無良さんが話題を変えてくれた。

「朱里ちゃん、明日もあの子と一緒に来るよね?」

あの子とは、しおなんの事だろう。

「はい、昨日もそう言いましたし」

「それじゃあ悪いんだけど、またあのダウジングを使って来てくれるかな?」

「へ? 別に良いですけど、何かあるんですか?」

そういえばさっき、このお屋敷も不思議の一つだって言っていたような。

「この探偵所はね、その存在次第が一部の人……ヨクに宿られた人やその関連者にしか分からない場所なんだ。街の至るところにチラシが貼ってはあるんだけど、ソレはそういう人にしか見えない、そしてここにはそういう人しか来ることが出来ないんだ」

えっと……つまりヨクが体に入ってる人か、その人に深く関係している人にしか来ることは出来ないってことかな?

てことは……

「私の中にもヨクが入っているということですか!?」

私が最初にここに来れたのはそういう理由かもしれない。普通なら怖がるんだろうけど、私は凄いわくわくしていた。

「その可能性があった、んだけどね、多分そうじゃないよ」

「そう、ですか……」

ホッとしたような、ガッカリしたような。

「さて、話が一段落したところだけど、時間は大丈夫かな?」

「えっと…」

私は携帯を開いて時間を見た。17時27分か……さすがにそろそろ帰らないといけないかな。

「そろそろ帰ります」

「そう、じゃあ玄関まで送るよ」

私達は部屋を出て廊下を歩き、玄関へ、無良さんが扉を開けてくれた。

「そうそう、今日聞いた事は誰にも言わないでね、一応、あまり多くの人に知られるのは避けたいからさ」「もちろんです」

「助かるよ、それじゃあ」

「また明日です、無良さん、ルリちゃん」

「っ……アンタまた」

「あ、ゴメン……」

どうも慣れないな。

「ふふっ、なんやかんや言っても、ルリは朱里ちゃんが気に入ってるんだね」

「ほぇ? そうなの?」

「バッ……! なに言ってんのよ無良! なんでアタシが朱里を気に入ってることになってんのよ!?」

「そりゃあ、わざわざ玄関まで見送りに来てるからだよ、前ならあの部屋から出もしなかったのに」

「っ……!」

そういえば、一昨日は無良さんだけだったけど、今日は瑠璃耶ちゃんも玄関まで来てくれてる。

「素直じゃないなぁ」

「朱里、早く出て扉を閉めなさい、血を見たくなかったらね」

うわぁ……瑠璃耶ちゃんの目が怖いよ……

「だ、ダメだよルリちゃん、暴力は」

「そうだよルリ、怒りすぎは体に悪いよ」

そう言った無良さんは、瑠璃耶ちゃんの頭の上に手を置いた

「ちょ! アンタまたこんな時に……あ……んっ……」

一瞬怒った瑠璃耶ちゃんはまた一瞬の間に目がトロンとして、何だか気持ち良さそうな表情に変わった。

「さ、今のうちに」

「へ? は、はい」

私は玄関を抜け、お屋敷の外へと出た。しばらく歩いてお屋敷が見えなくなったところで、さっきの事を考えてみる。

無良さんに頭を撫でられた途端にあんなに怒ってた瑠璃耶ちゃんが気持ち良さそうに表情を変えていた…

…瑠璃耶ちゃん、頭撫でられるのが好きなのかな?

今度試してみよう。そう思いつつ、私は帰路についた。





「ん……あぁ……」

「ルリ、いつまで続ければいいんだい?」

「ん……あんなこと言った罰よ、あっ……アタシが言うまで続けなさい……んっ……」

「やれやれ……ま、頭を撫でるぐらいなら何時だってしてあげるさ」

「フフ……ところで、アレが何なのか分かったの?」

「あぁ、多分傲慢のヨクだね。詳しくは明日、依頼人達に話すつもりだよ」

「依頼人、達、ねぇ」

「どうかしたかい?」

「何でもないわ、ほら、手が止まってるわよ」

「はいはい……けど、もしかしたらまたすぐに戦うことになるかもしれないね」

「どういう意味……ん……」

「きっとすぐに分かるさ、欲求を満たせぬ人が集まるのが、この探偵所だからね」

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