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今のはいったい

『貴様等には同胞を倒された恨みもある。決して逃がさないぞ』

浜樫君が手のひらをこちらに向けた。すると、その手前に丸い球体が現れ、

『くらえ!』

それを握ってこちらへ投げつけた。

無良さんはそれに対して、

「球体を飛ばす……僕のソレと同じか、それとも……」

何やら呟いた後、

「お返しするよ」

十字架を振るい、球体を弾き返した。

『くっ……』

返ってきた球体を浜樫君は避ける。

『やるな……だが、これだけだと思うなよ!』

再度球体を作る。今度は一度に三つ、

『これでどうだ!』

正面と左右の三方向から球体を飛ばす。

「どうにもならないよ」

無良さんは三方向から来る球体に。


パチン!


何故か指パッチンを鳴らした。瞬間、あの時のように風が吹き荒れた。

その風によって球体の軌道が変わり、全部地面に落ちてしまった。

『なっ……!』

「今のが全力かな?」

『くっ……貴様ぁ!』

「そろそろ終わりにさせてもらうよ」

無良さんが足に力を入れ、地面を蹴る。

一瞬の間に、無良さんの姿は浜樫君の後ろにあった。完璧な死角から左手に持った十字架を振るう。けど、

『甘いわぁ!』

球体を作りながら振り返り、向かってくる無良さんへ投げつけた。

「む……」

無良さんは接近を止めて球体を弾き落とす。

『この者は珍しく後ろへの反応が良い、この私に死角など無いぞ』

「そうか、宿主は野球のピッチャーだったっけ」

無良さんが十字架を構える。

『動くな!』

それを浜樫君は声で止め、球体を握る。その持つ手を、私達の方へと向けた。

『そこから一歩でも動いてみろ、あの2人にコレを投げるぞ』

「それは……少し困るね」

私たちの方を見た無良さんは十字架を下ろす。

『ふっ、理解が良いな……だが! それが命取りだ!』

その瞬間、浜樫君は球体を私達へ向けて投げつけた。

「ルリちゃん!」

私は前に立つ瑠璃耶ちゃんの肩を掴む。

「動くんじゃないわよ」

しかし瑠璃耶ちゃんは冷静だった。球体は明らかに瑠璃耶ちゃんに当たる位置を飛んでいるのに。

『枠をはるだけの奴にはどうすることもできまい!』

「……ナメられたものね」

後数センチ、そこまで球体が迫った時、

カラン

再び、鐘の音。

それと同時に、私たちの目の前に炎が巻き上がった。

「えぇっ!?」

『なっ!?』

球体は炎の中に入り、そのまま出てこなかった。

「今さらだけど、アンタ何番よ」

『何番だと? ふっ、聞いて驚け! 私は二桁、97だ!』

番号? 97? 急に現れた炎にまだ驚いてる私の前で瑠璃耶ちゃんは更に分からないことを浜樫君に訊ねて、その応えを聞いて、

「はっ」

鼻で笑った。

「さっきからバカだとは思ってたけど、本っ当のバカだったのね。なにが二桁よ、下から数えた方が全然早いじゃない」

『な……!』

「それにアタシ達はね、昨晩75をやったばかりよ?」

『なっ! キサマ!』

「後今さらだけど、後ろに気をはらなくていいの?」

『なに……?』

後ろを振り向いた瞬間、近づいていた無良さんが十字架を右斜めに振りきった。

『ぐぁ……!』

「深き欲よ……我が導きにしたがいて、道を抜けろ」

何か呪文のようなものを唱えた途端。浜樫君の背中から光が現れ、空へと飛んでいった。その反動で浜樫君は前のめりに倒れる。

「ふぅ……」

それを見た無良さんは十字架を地面に置いて、浜樫君を仰向けに動かして顔を覗いた。

「無良、終わったの?」

瑠璃耶ちゃんが聞く。

「うん、もう大丈夫。欲は解放されたよ」

「そう、朱里、もう動いてもいいわよ」

瑠璃耶ちゃんが無良さん達の方へ向かったので、私も後に続いた。浜樫君は寝ているように目を閉じて動かなかった。

「あんな番号に溺れるなんて、コイツの器が知れるわね」

瑠璃耶ちゃんはそんな寝ている浜樫君の腕を足で蹴る。

「こらこら……しかし、彼の欲は何だろうね」

「さっき言ってたじゃない。レギュラーを抜けたいって、その為のサボりだから怠惰の類いでしょ」

「それにしては力がおかしかったんだよね、まるで傲慢の類いに似て…」

「あ、あの……」

何だか難しい感じの話をしている2人に、私は口を挟んだ。

「あぁごめん、朱里ちゃん」

「いえ、それでその、今のはいったい……? 浜樫君はどうしたんですか? ……あと…」

あとあのさっきの会話。怠惰とか傲慢とか、今日の昼休み調べた七つの大罪とかいうのだけど。

分からないことが……謎が……不思議なことが多すぎる! やっぱり2人は不思議に関係してたんだ!

多分今の私は、怯えた目でも理解に苦しむ目でもなく、

「今のはいったい何なんですか?!」

凄いワクワクして、キラキラと輝いた目をしていると思う。

「今同じこと二回言ったわよ?」

「あはは……ここまで見られたら、もう隠しだては出来ないね」

瑠璃耶ちゃんは呆れ顔で、無良さんは苦笑いだ。

「てか、さっき終わったら話してあげるからって言っちゃったから。もう後戻りは出来ないわよ」

「そっか、じゃあ落ち着ける場所で話そうか」

「とりあえず、枠を外すわよ」

カラン

瑠璃耶ちゃんが持つ鐘を鳴らした。すると、何かが変わった。

「あれ? また……」

辺りを見回してみると、今度は変化が分かった。

私達の横を自転車が通り過ぎて。目の前のスーパーから買い物を終えた人が出てくる。特に変わった光景じゃない、むしろこれが普通の光景。

そうだ、さっきまでがおかしかったんだ。こんな人通りが多い商店街通りに人が一人も通らなかったことが。

瑠璃耶ちゃんが鐘を鳴らしたのと同時にいなくなり、また鳴らしたら戻った。これが瑠璃耶ちゃんの言っていた、枠、というものの効果なんだろうか。

「よいしょ……さて、行こっか」

倒れている浜樫君をスーパーの壁に立て掛けた無良さんが歩き始めた。後に続いて瑠璃耶ちゃんが、その後に私がついていった。

「あの、浜樫君はあのままで良いんですか?」

道の横に避けてきたから通行の邪魔にならないだろうけど、気絶してるみたいな人をほおっておくのは……

「大丈夫だよ、二、三分で目を覚ます筈だから」

「はぁ……」

一応もう一度浜樫君の方を見て、ゴメンね、と頭を下げておく。

「ほら、行くわよ朱里、不思議について知りたくないの?」

「今いく!」

走る勢いで近づいて瑠璃耶ちゃんの横を抜けた。

「……今の間で絶対アイツのこと忘れたか、頭の片隅に追いやったわね」

「ほらルリちゃん! 早く行こうよ~!」

何か呟いていた瑠璃耶ちゃんに手を振る。

「アンタ! また!」

瑠璃耶ちゃんが走ってきて、私の隣に並んだ。

「何度言ったらアタシのことちゃんと呼んでくれるのよ」

「えへへ、ゴメンね」

その時、無良さんが何か呟いていたような気がした。

「ルリも同じようだね」



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