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依頼を持って

「はぁ……」

結局お屋敷には戻れず、本当に門限が来たので帰ってきました。

私が通う高校には遠くから来る生徒の為に学生寮が設けられていて、別に家が遠いわけではないけど私もそこで暮らしている。

中に入り、自分の部屋を目指して歩いていると、

「あ、ちょっと朱里」

「ん? しおなん?」

後ろから声をかけられた。振り返ると、声の主であるしおなんがこちらに向かってきていた。

「どうしたの?」

「それはコッチのセリフよ、こんな遅くまで制服で何してたの?」

「ダウジングで不思議探しを」

「え、アレ使ったの?」

「でもスゴかったんだよ! あのね、おっきなお屋敷があって…」

「あーいいから、それは光に話してあげて」

「むぅ、スゴかったのに」

「ところでさ朱里、ちょっと頼まれてくれない?」

「何を?」

しおなんが頼み事とは、珍しい。

「アンタも知ってるでしょ、浜樫」

「野球部の?」

「うん、アイツの様子が最近ヘンなのよ」

「ヘン?」

「最近部活に出ずに早く帰るようになって、部長達が心配してるの。それでマネージャーのあたしが聞きに言ったら何でもないの一点張り、だから今度アイツの後をつけてやろうと思うのよ」

「後をつけるの?」

「それぐらいしなきゃアイツが何してるかなんて分からないからね」

後を付けるかー、何だか……

「あ!」

そこで思い出した。

「だったらしおなん! ここに行ってみなよ!」

私はあの名刺をしおなんに見せた。

「なな……つみ? 探偵所って」

「尾行と言ったら探偵だよ、頼んでみたら?」

「うーん……名前から言って怪しさ満点なんだけど」

「大丈夫! みんないい人達だよ!」

「え? 何で知ってんの?」

「思い立ったが吉日だよ! さっそく明日行こう!」

「いや、思い立ったってことは今日だけど」

という訳で、明日もあのお屋敷行くことにしました!





授業終わりの放課後。私としおなんは漆積探偵所を目指して歩いていました……けど、

「どうやって行くんだっけ?」

「あたしが知るわけないじゃない」

昨日は行けた筈なんだけど。もしかして時間が関係してるのかな? と思って昨日行けた時間帯を選んだんだけどな。

「むぅ……何か他に条件があるのかな?」

「そんなゲームじゃないんだからあるわけないでしょ。家が立って動かない限りそこにある筈よ」

「うーん……あ、そうだ」

私は鞄の中からダウジングを取り出した。

「昨日もコレに従って進んでたんだ。きっとこれで大丈夫だよ」

「……あまり期待はしないでおくわ」

「さぁ! 頑張れ不思議ダウジングマシン!」

まずは三百六十度回る。すると、ある方向に反応。

「こっちだ!」

「いや、壁だけど」

「こっちに裏道があるよ」

「ただの家と家の隙間じゃない?」

「れっつごー!」

家と家の隙間を抜け、左に曲がり、次は右……右……そして右……

「これ戻ってない?」

「大丈夫だよ、ダウジングを信じて」

左……右……真っ直ぐ……

「着いたー!」

「着いたー!?」

目の前にあのお屋敷が現れた。

「一周した結果逆走した気がするけど……」

「着いたんだからいいじゃん! さっそく入ろう!」

ダウジングを閉まって庭を歩き扉の前へ、

「こんにちはー」

扉をノックした。

「はい」

少しして、扉が内側に開かれて瑠璃耶ちゃんが現れた。

「ルリちゃん!」

「……」

私の顔を見た瞬間、瑠璃耶ちゃんの表情が固まり、

「……それではまた」

少しずつ扉を閉めていった。

「……て、ルリちゃん! どうして閉めるの!?」

「だから! ちゃん付けで呼ばないでって言ったでしょ!」

バーン! と音を立てて力一杯開かれた。結構大きくて重そうな扉なのに、ルリちゃん見た目によらず力が強いんだ。

「あ、ごめんごめん」

「ったく……って、なんでアンタがここに居るの!?」

「ほぇ? そんなに驚かなくてもいいじゃん。またダウジングを使って来たんだよ」

「ダウジン……グ…」

扉に体をもたれ掛けて、瑠璃耶ちゃんが何やら呟いている。

「なんでよ……ダウジングが効かないように無良が動かした筈じゃないの? まさかアイツ、ズルした? いやそれは無いわね……あんな奴だけどやるときはしっかりやる奴だし…」

「どうかしたの? ルリちゃん」

何かタイミングが悪かったのかな?

「ねぇちょっと朱里」

しおなんに耳打ちされる。

「なに、この子? ここの子?」

「うん。ルリちゃんだよ」

「アンタまた!」

瑠璃耶ちゃんが復活した。

「変わった格好だし、まさかこの子が探偵だなんて訳ないわよね?」

「はぁ? アンタこそいったい誰……!」

しおなんを見た途端。瑠璃耶ちゃんは目を見開いた。

「……そう、そういう事」

そして、目を細めて笑っているような、もしくは怒っているような、複雑な表情をし、

「どうぞ、依頼を持つ者よ、我が探偵所は貴女のような依頼主をお待ちしておりました」

お屋敷の中へと招いた。

「え? 確かにあたしは頼みたい事があって来たんだけど」

「探偵は今部屋の方にいます。すぐにお呼びしますので、それまで応接室の方でゆっくりしていて下さい」

「は、はぁ……」

なんだろう、さっきまでの大声のとも昨日の瑠璃耶ちゃんとも違う、なんだか、少し怖い。

「朱里」

その目のまま、瑠璃耶ちゃんは私を見た。

「は、はい!」

「アンタの友達よね?」

「う、うん」

「じゃあ、あの部屋に行っててくれる?」

一回瞬きした後、その目は普段の瑠璃耶ちゃんのものに戻っていた。

「え? う、うん」

「じゃ、よろしく」

瑠璃耶ちゃんは一足先にお屋敷の中へ歩いていった。

「よし、行こう!」

私達もお屋敷の中へ、

「ねぇ朱里」

後ろを歩くしおなんに話しかけられた。

「ん?」

「あの子何者? 格好もそうだけど、口調までおかしな感じだし」

「うーん……難しいお年頃、何だって」

「は? ていうか、それを知ってる朱里も朱里よ、こんなデカイお屋敷を平然と歩いて案内してるなんて」

「私は私だよ、このお屋敷だって昨日初めて来たばっかりで……あれ?」

立ち止まって左右を見る。

「どうしたの?」

「……あの部屋、どこだったっけ?」

「……は?」

完全に迷子になりました。

「ちょっ、朱里が大丈夫って言うからあたしは着いてきたのよ?」

「だって、昨日瑠璃耶ちゃんに案内されて入ったばっかりだったし」

「じゃあ何で大丈夫だって言ったのよ!」

「あぅ……ごめん」

「はぁ……どうすればいいのよ、この状況」

「んー……とりあえず、進んでみよっか」

「みよっか、って……まぁ、あたしよりここ知ってるだろうし、朱里に任せるわ」

「よーし、れっつごー!」





キィ……

「無良、依頼よ」

「……」

「……って、あら?」

「……くぅ」

「椅子に座って寝てる……確かに昨晩は徹夜だったけど、帰ってきてから寝てた筈よね?」

「……くぅ……くぅ」

「全く、無良ったら……」

「……」

「無良……依頼だって言ってんでしょさっさと起きなさーい!」

パァン!





「やぁ、君が依頼人……おや、朱里ちゃん」

「無良さんこんにち……あの、大丈夫ですか?」

部屋に入ってきた無良さんの頬には、平手打ちの赤い痕がついていた。

「あはは、ちょっと激しい目覚まし時計に起こされただけだから大丈夫だよ」

瑠璃耶ちゃんにひっぱたかれたんだなー。

「お待たせいたしました。こちらが探偵の」

その瑠璃耶ちゃんは猫をかぶっていて丁寧語だ。その右手は少し赤みがかっているけど。

「逸見無良と言います。お見知り置きを」

無良さんが深く一礼。

「あ、ど、どうも」

しおなんも慌てて立ち上がって礼をする。

「さっそくですが、依頼の内容を話して頂けますか」

「は、はい」

「では、私はお茶を煎れてきますね」

「あ、私も手伝うよ!」

スカートの裾を詰まんでお辞儀をして部屋を出ていこうとした瑠璃耶ちゃんの後を追って部屋の外へ、扉が閉まられ、数歩歩いた瞬間。

「部屋に行けたようね。迷子になって泣いてるんじゃないかと思ったわよ」

瑠璃耶ちゃんは猫を脱いだ。

「えっへん! 道で困った時はダウジングだよ!」

迷子になった私達は、ダウジングによってあの部屋にたどり着くことが出来たのです。

「それ、使い方間違ってるわよね」

「でもたどり着けたよ」

「百パーまぐれよ」

「むぅ」

「全く……次来るときは依頼を持って来いとは言ったけど、まさか次の日に来るなんて」

「でも道に迷っちゃってね、今度は地図を調べてから来るからね」

「……次も依頼を持って来なさいよね」

「はーい」

やっぱり、瑠璃耶ちゃんは私を毛嫌いしてる訳じゃないみたいだ。

「にしても、珍しい依頼主ね……本人とは限らないけどあれだけ忠実なんて」

「ん? 何か言った?」

「なんでも、来たからには手伝ってもらうからね」

「まっかせてよ! 私、結構器用なんだよ!」

「ふーん……じゃあ、働いてもらおうじゃない」





「なるほど……休みがちの部員が何をしているかを調べてほしい、と」

「はい」

「ふむ……何かその部員さんについて分かることはありますか? 最近になってし始めたこととか」

「始めたこと……部に顔を出さずに帰ることくらいですかね。後は……隠し事が多くなりました」

「なるほど、では一つだけ聞かせて下さい、その人は、自分のやりたい事をやっていますか?」





「ルリちゃ~ん。これでいいの?」

「えぇ、それでいいわ。でもその呼び方はダメよ」

「えへへ、ゴメンね」

「ったく……でも、本当に何でも出来るのね。アタシの呼び方以外」

台所に来た私は、瑠璃耶ちゃんに色々とお手伝いさせられました。でもどれも対した事じゃなかったし、何より、

「私は器用なんですよ!」

えっへん! と胸を張った。

「子供の頃からお母さんのお手伝いしてたから料理は大体出来るよ、それに今は寮生活だから掃除も洗濯も自分でやんなくちゃだし」

「勉強は?」

「……器用なんですよ!」

再びえっへん!

「苦手なのね」

ジト目で見られました。

「うー、勉強は難しいのですよ……特に科学とか、歴史とか数学とか現代文とか」

「それ、ほぼ全部じゃない」

今度は哀れみの目だ。

「ぶー、ルリちゃんだって苦手科目の一つぐらいあるでしょー」

「無いわね」

「えー」

あれ? そういえば……

「ルリちゃんって小学生? それぐらいなら私だって苦手は無かったよ」

「誰が小学生か! アタシはこう見えて……」

急に口ごもった。

「こう見えて?」

何でか瑠璃耶ちゃん、自分の年齢を言いたくないみたいだけど。

「……じゅう……よん……よ」

「ほぇ? なんて?」

「二度も言わせないでよ! 14よ! じゅうよん!」

「14! やっぱり私より年下なんだ!」

「て……あ、違っ……いや、違くはないけど……そう、建前よ! 今のは建前上の年齢で本当の年齢じゃなくて……ってああなに言ってんのよアタシは!」

「ル、ルリちゃん落ち着いて!?」

慌てふためいて両手をバタバタさせる瑠璃耶ちゃんを宥め押さえる。

「はー……はー……いい? 女の子にそうやすやすと年齢を聞くんじゃないわよ? 結構逆鱗に近かったりするもんだからね?」

「う、うん……」

そんなに年齢言いたくなかったのか……私も女の子なんだけど。

「ふぅ……お茶運ぶわよ、話が終わってるだろうし」

お茶セットを乗せたお盆を持って瑠璃耶ちゃんは扉へ向かう。

「あ、私持つよ」

「言った本人の私が持って行かなくてどうすんのよ。扉を開けなさい」

言われた通りに私は扉を開けて、瑠璃耶ちゃんの進む道を開けた。分かったことだけど、このお屋敷の扉は全部部屋に向かって内開きだ。中からはこちらへ引かなくてはいけない。

少し進んだところで扉を閉めて、瑠璃耶ちゃんに追い付く。

「それにしても、おっきなお屋敷だよね~」

「もう慣れたわよ」

「このお屋敷に無良さんと2人で暮らしてるの?」

「今のところはね、でももう一人同居人はいるわ。今なにしてるかなんて知らないけど……扉開けて」

「は~い」

応接室の扉を内側に押して開き、瑠璃耶ちゃんを通す。

「お待たせしました」

猫を被った瑠璃耶ちゃんの声を聞いてから私も中へ、

「では、そういうことでよろしいですね?」

「はい、お願いします」

ちょうど話が終わったみたいだ。

瑠璃耶ちゃんは2人の間にある机の上にお盆を置いて紅茶を注ぎ始める。私はしおなんの隣に座った。四人分を注いでそれぞれの前に置いた瑠璃耶ちゃんは、無良さんの隣に座った。

「どうなったの?」

「さっそく明日、浜樫をつけてくれるって」

「今は特に事件もないので、最優先でやらせていただきます。報告は明後日になりますが、またここに来ていただけますか? もしご都合が悪いようでしたら電話でお知らせする事も可能ですが」

「分かりました。明後日にまたお伺いします」

「私も来ます!」

しゅた! と手を挙げて宣言する。

「分かりました。では明後日、またこちらへいらして下さい」

それから私達は紅茶を飲みながら少しだけお話して、お屋敷を後にした。

その帰り道、お屋敷が完全に見えなくなったところでしおなんが聞いてきた。

「悪いわね朱里、明後日付き合わせちゃって」

「大丈夫だよ、多分またあのお屋敷に行こうかなって考えてたから」

明後日は土曜日、学校も午前中で終わるのでいつもより早くお屋敷に行けるのだ。

「あぁ、そう……じゃあ今度はダウジングに頼らないように事前に調べてから行きましょうね」

「じゃあ私が明日調べておくよ」

「うん。よろしく」

「そして明日にはひかりんと一緒に調べた通りに行ってみるから」

「え? でも明日は浜樫をつけてるから逸見さんは居ないんじゃない?」

あ、そっか……でも、

「きっと瑠璃耶ちゃんが居る筈だよ」

「あの子か……確かにそうかもね」

よーし、明日はちゃんと行き方を調べてから行くぞ!





「で? 可能性はどれぐらい?」

「うーん、五分五分かな」

「じゃあきっとハズレね。なんせ昨日の晩アタリだったんだから」

「それは分からないよ、ここに来れたんだから」

「おまけにあの子が付いてくるとは思わなかったわよ。最初はアンタが手を抜いたかと思ったわ」

「ヒドイな、ちゃんとやったさ」

「とにかく、明後日にまたあの子達は来るのね、アタリの可能性を考えてこのままにしておきましょ」

「あの子は付き添いだけどね。そこで先に出るのは、やっぱり気になるからじゃない?」

「なっ! 違っ……」

「あはは、明後日が楽しみだね?」

「……バカ、そんなのよりアンタは明日をどうにかしなさいよ、アタシは手伝わないからね」

「はいはい」


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