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漆積探偵事務所

それからしばらくダウジングが反応する方へ歩いていくと、私はお屋敷の前にたどり着いたのだった。

「ごくり……」

思わず息を飲む、ここなら絶対に何かある。ノブに手を伸ばして、掴む。

カチャリ、とノブが回った。そのまま内側へと引くと……

「……あれ?」

開かなかった。力が足りないのかと思って、おもいっきり引く、

「んーー!」

けど開かない、反対側のノブも持って両手で引く、

「んぐーー!」

やっぱり開かない。

「くはぁ……はぁ……はぁ……」

さすがは不思議への入り口、扉ですでに不思議な力が……

カチャ

「どちら様ですか?」

扉が開いた―――――向こう側に。

「あ……押し戸なんだ……」

その考えは無かったなー……

「あの、ご用件は?」

「あ、えっと……え?」

扉を開けたその人……いや、その子を見て私は驚いた。

見た目からして私よりも年下の女の子、黒と白だけの色にフリルやリボンがあしらわれている、いわゆるゴスロリという服に、長い髪を頭の左右で赤いリボンでまとめている。全体で見ると、まるで西洋人形のような姿だった。

ここに住んでいる子なのかな? 一人で? いやそれは無いよ多分、きっとお爺さんとかお婆さんが一緒で、その人のお孫さんなんだろう。

「……ご用件は?」

じっと見ていた私に気づいたのか、少し睨むようにして女の子に再び訪ねられた。

「あ、あの、ここは…」

「……もしかして、依頼ですか?」

「え? えっと……は、はい、そうです」

「そうでしたか」

とっさに返事をしてしまうと、扉が大きく開かれ、

「どうぞ、お入り下さい」

女の子はにっこりと笑って、私をお屋敷の中へと招き入れた。

「は、はい……おじゃまします」

「ふふふ、そんなに固くならないで下さい」

笑いを絶やさずに私の前を歩く女の子の後に続いてお屋敷の中へ。あの女の子、笑うととてもかわいい。でも何だろう、何か違和感を感じるのは。

「こちらでお待ち下さい」

一室に通された。カーテンの開かれた縦に長い窓、その手前に大きなテーブルと椅子が一つ、更に手前にもテーブルがあり、その左右には椅子が2つずつ置いてある。住むというよりも、団欒する目的の部屋という雰囲気だ。

「どうぞ、お掛けになって下さい」

「は、はい」

私は椅子の一つに座った。部屋の中を見回すと、まるで物語に出てくるような西洋風の飾りがされた壁などが目に映った。

こんなお屋敷がこの町にあったなんて、それも町中を不思議を探して歩き回った私が知らなかったんて。やっぱりここ、何かあるのかも。

「すみません、探偵は今出掛けておりまして、すぐに戻ると思いますのでそれまでこちらでお待ち頂けますか?」

「いえ、あの…」

……ん? 探偵?

もしかしてここが? 私はポケットにしまっていたあの紙を取り出した。

「その紙…」

女の子が紙を見ている。

「あの、ここって…」

「えぇ、ここは漆積(ななつみ)探偵所ですよ」

「なな、つみ?」

これ、ななつみって読むんだ。

「……ご依頼があってこちらに来たんですよね?」

「えっと……す、すみません。違うんです…」

「……違うんですか? じゃあ、何しに…」

「えっと、不思議探しに」

「……不思議探し?」

「はい、コレで…」

鞄の中からダウジングを取り出す。すると、左右に開きだした。

「!」

目の前にはそれを見て目を丸くする女の子、まさかこの子も不思議と関係が?

「な、なによ、その手作り感溢れるダウジングは」

「ご覧の通り、手作りのダウジングです」

「はぁぁ!? 手作りですって!?」

女の子からは先ほどまでの笑顔は消え、変わりに、

「何でそんなちゃちい物に頼ってここにたどり着くのよ!」

とても怒った顔をしていた。

「何でって、反応したから」

「はぁ……全く、とんでもない奴が居たものね」

今度は呆れた顔だ。いつのまにか口調まで変わっている。

「てか、その紙はどこで貰ったのよ?」

「コレは、メガネをかけた男の人から」

「もしかしてソイツ、黒の上下に、金と茶が混ざったような髪の?」

「あ、はい、そんな感じのです」

「アイツ……何やってんのよ、たく…」

女の子は私の正面の椅子にどかりと座った。

「一応言っておくけど、ここはちょっと探しにくいところにあるだけの、普通の探偵事務所だから」

「はぁ……確かに、少し入り組んだ道を歩いた気がしますけど」

「アンタが探しているであろう不思議とは、一切、関係ないからね」

「でも、ダウジングが反応してて」

女の子が正面に座ってからというもの、そちらに向いて百八十度以上開いている。

「……ねぇアンタ、命知らずにも程があるんじゃない? そんな物に身を任せて下手なことに首を突っ込んで、最悪命を落とすかもしれないのよ? 人間は一回きりの自分という人生、そんなことで棒に振りたくないでしょ? 悪いことは言わないわ、即効で帰りなさい」

そう言って私を見た女の子の目は、さっきの笑顔からは想像できないほど、怖かった。

黒に青が溶けたような……そう、藍色に近い瞳が、こちらを睨むように見ている。

「うっ……」

気迫に押された。でも、そこまで念を押すのは、やはり何かあるということの裏返しでもあるはず。

何故私はここに来たのか、それを再度思いだして、私は、

「私は…」

「ん?」

「……私は、自分のやりたいことをして、それで命を落とすのなら、悔いはありません!」

はっきりと、言いきった。

「なっ……!?」

女の子が目を見開く、私の言葉は予想外だったらしい。

「な、なによコイツ……ここまで自分の欲に忠実なのに普通で居られるなんて」

何やら呟いているけど、よく聞こえなかった。

「そ、その意気込みは認めてあげる。でもね、さっきも言ったけどここは少し入り組んだ場所にあって見つけにくいだけの、ただの探偵所なだけだから、不思議が欲しいなら他をあたりなさい」

「むぅ……」

そういえばさっきから気になっていたのだけど。

「ねぇ、貴女いくつ?」

「アタシの話聞いてた!? なんでいきなり年齢の話になんのよ!」

「だって、さっきからずっと気になって…」

見た目だけなら、13~4ぐらいかな?

「っ! ……なんなのよコイツ、ここまで自分を突き通すのに、溺れてる気配無いし…」

溺れてる気配?

「私、結構泳げるよ?」

25Mプールなら6周ぐらいできるかな。

「そういう溺れるじゃないのよ……アンタ、天然って言われない?」

「うん。よく言われる」

そんなつもりはないんだけどね。

「っ……なんか頭痛くなってきた」

「ねぇねぇ、ところで年齢は?」

「あ? そんなの覚えてないわよ。てか、人に聞くときはまず自分からって知らないの?」

「あ、ごめん。私は七宮朱里、17歳の高校生二年生だよ」

「そんなあっさりと……ったく、これも全部アイツがあの紙を渡したからだわ」

あの紙とは、この名刺のことだろう。そうか、この……名前を読めない人が探偵で、この子と一緒にここに住んでるんだ。

その時だった、

「ふぅ、やっと帰ってこれたよ」

扉が開き、あの男の人が入ってきた。

「ん? お客さんかな?」

「あ、あなたはさっきの」

「あれ? 君は確かさっきの」

「はい、先ほどぶりです」

「うん、先ほどぶり、あの時はゴメンね、この帽子は大事な人からの贈りも…」

「このムノウ野郎が!」

ビュン!

「おっと」

「えぇ!?」

気が付いたら女の子が私の手からダウジングを一本取って男の人に投げつけていた。男の人はそれを避けつつキャッチする。

「アンタね!」

椅子から立ち上がって指を突きつけながら男の人に詰め寄る。

「どうしたんだよルリ、珍しいじゃないか、お客さんに猫を被らないなんて」

「黙れ!」

男の人が壁際に追いやられて、女の子は壁に手を当てて更に追いやった。ただし、2人には身長差があって女の子が男の人を見上げている形になっている。

「本当にどうしたんだい?」

「百歩譲ってあの名刺を渡したのは良いわ、でもまさか、力を使ってるところを見られてないわよね?」

「あー…………もちろん」

「……本当ね?」

「……ゴメン。ウソ」

「な!?」

「大丈夫だよ、見られたのは分かりにくい方だから、きっと分かってな いてっ」

ジャンプした女の子が男の人の頭をひっぱたいた。

着地した後、男の人に耳打ちをする。身長差がある為に女の子はつま先立ちだ。

「アンタね、アイツはダウジングを信じてここに来るような変な奴なのよ?」

耳打ちにしては大きい声なので、私にも聞こえた。

「あぁ、コレね」

男の人がダウジングの片割れを振る。

「凄いよね、今の高校生はこういうのが流行ってるのかな」

「アンタだってほとんど同じ年齢じゃない!」

女の子が再びジャンピング。

「いてて……でも何とかなるでしょ? ニャコちゃんさえ居れば」

「今のアイツの居場所を知ってるの?」

「ううん全く、でもいずれ帰ってくるさ、それに、ちゃんとバレた訳じゃないから大丈夫だって」

そう言って男の人は、女の子の頭に手を置いた。

「な! ちょっとなにすんのよ!」

「怒らない怒らない」

そのまま頭を撫でる。

「ちょっ、やめ……撫でるの……や……あっ……きもち……いい…」 

すると女の子の顔が次第にとろけだし、

「……て、なにしてんのよ!」

瞬時に復活した女の子のアッパーが男の人にクリーンヒットした。





「とりあえず自己紹介させてもらうよ」

殴られた後が痛そうなのに男の人はにっこりと笑って、対面の椅子に座って自己紹介をした。

「僕はこの漆積探偵所の探偵で、逸見(いつみ)無良(むろう)。漢字にすると難しいけど、名刺に書いてある通りだから、よろしく」

いつみ、むろう。珍しい名字と名前だな。

「で、こっちが…」

無良さんは隣に座る女の子の頭に手を置く、むくれっ面の女の子に手を弾かれた。

「……愛崎(あいざき)瑠璃耶(るりか)よ」

「無良さんと、瑠璃耶ちゃんですね」

「っ……」

「?」

何故か瑠璃耶ちゃんは嫌そうな顔だ。

「ルリはちゃん付けが嫌いなんだ。悪いけど、ルリ、と愛称で呼んであげてもらえるかな?」

「え、は、はい」

ルリ、か。

「えっと……ルリ?」

「なによ?」

「年はいくつ?」

「まだ引っ張るの? それ」

だってさっき瑠璃耶ちゃん答えてくれなかったら。

「年が無いわけはないよ」

「……」

視線を右下に向けた。思いだそうとしているのかな?

「ちなみに僕は、19、ということになってるよ」

「なってる?」

「自分の誕生日を忘れてしまってね、適当に日を決めてその日が過ぎる度に一歳加算してるんだ」

誕生日を忘れているって……

「それってどういう…」

「朱里」

急に名前を呼ばれた。それは瑠璃耶ちゃんの声だ。

「人にはね、色々な理由があるもんなのよ、アタシも、無良もね」

「……」

そういえば、2人は名字が違う。

「確かに、僕もルリも訳あってここで働いているからね、名字が違うのは親子でも兄妹でもないからなんだ。その訳というのは、聞かないでもらえると嬉しいんだけど」

そう言って無良さんは私を見た。そんな言い方されたら、本当に聞けなくなる。

「は、はい」

「ありがとう……ところで、君の家はここから近いのかな? もう外は暗いけど」

「え?」

窓の外を見ると、すでに日は落ちて暗かった。時間は分からないけど、ここには学校からしばらく歩いて来たから、さすがに帰らないと不味いかも。

「そ、そうですね、そろそろ帰らないと」

「そっか、じゃあ玄関まで送るよ」

無良さんが立ち上がり、扉を開けて部屋の外へ、私はその後に続いた。瑠璃耶ちゃんは座ったまま動こうとしない。

「またね、ルリちゃん」

「っ……ちゃんを付けないでよ」

あ、しまった。

「ゴメンね、ルリ」

「ふん……今度来るときは依頼の一つでも持ってきなさいよね」

あちゃー、機嫌損ねちゃったかな。

瑠璃耶ちゃんに別れを告げて、そのまま無良さんの後に続いて長い廊下を歩いてると、

「ゴメンね、朱里ちゃん」

無良さんに謝られた。

「はい?」

「ルリは色々と難しいお年頃なんだ」

難しいお年頃? あ、そういえば年聞いてない!

「そして……ちょっと難儀な性格なんだよ」

難儀な性格?

「裏返し、と言えばいいのかな? ああやってルリが言う場合は、また会いたいということの裏返しなんだよ」

今度は依頼の一つでも持ってきなさいよね。

それはつまり、依頼を持って来いということで、もう来るな、とは言ってないということかな?

「少しだけ、分かった気がします」

「あはは、助かるよ」

無良さんが玄関を開けてくれた。

「ゴメンね、何のお構いも出来なくて」

「いえ、楽しかったです」

「ルリはああ言ったけど、また遊びに来てくれても構わないからね」

「はい」

お屋敷の外へ、

「それじゃあね」

無良さんいよって玄関が閉められた。庭を歩き、お屋敷の敷地内から外へと出ていく。

とっても変わった人達だったけど、多分、私が探す不思議とは違うんだろうな。

うん。そう決めなくちゃ、2人に悪いもん。

さて、早く帰らないと門限に遅れて……?

「……あれ?」

そこで違和感に気付いた。空が明るい、まだ夕焼けだった。

何で? さっき窓の外を見た時は暗かったのに。

私は携帯を開いた。時間は―――16時21分。まだ全然明るい時間だ、空が暗くなるわけ無い。

「じゃあ、さっきのは……」

私は慌てて振り返る。しかし、

「……あれ? どうやって行くんだっけ?」

とりあえず来た道を戻ってみるけど、その先にあのお屋敷は見当たらなかった。

「……やっぱり」

やっぱり、あの人達は不思議に関係してるんだ!





「……帰った?」

「うん」

「そう……全く、ここまで面倒くさいことするとは思わなかったわ」

「でも、なかなか面白い子だったじゃないか」

「面白いって、変わり者の間違いじゃない」

「変わり者レベルで言ったら僕達も負けてないと思うよ?」

「バカなこと言ってないで早く仕掛けしなさい、あの子が戻ってくるかもしれないわよ」

「はいはい、でも、あの子ならまた来てくれても良かったのにな」

「ダウジングなんかに道を解かれたのよ、それに従って進んだあんな子、また会いたいなんて思わないわ」

「とか言っちゃって」

「なによ?」

「さっき聞いたよ、もう会いたくないのならあんなこと言うのはおかしくない?」

「なっ……そ、それは仕方なしによ! 依頼でここに来れたなら仕方なく会ってあげなくはないって…」

「はいはい、そういうことにしておくよ」

「っ……!」

「ま、実際あの子は人だ。巻き込む訳にはいかない、それぐらい分かってるよ」

「だと良いけど」

「大丈夫、分かってるよ」

「ちょ、なんでそれで頭に手がいってんのよ!」

「怒らない怒らない」

「だからやめ……あっ……ん……もう……」

「あれ? 怒らないの? いつもならこの辺りでアッパーカットが来るんだけど」

「……アンタと、2人きりだからよ」

「へ?」

「だってアタシは……ん?」

「あ、電話だね」

「ったく……誰よ、こんな時に」

「誰って、ここの電話番号を知ってるって事はさ」

「えぇ、分かってるわよ。さっさと出なさい、耳障りだわ」

「はいはい……はい、こちら漆積探偵所、ご依頼ですね?」



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