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「お~いしおな~ん、ひかり~ん」

手を振りながら2人に駆け寄った。

「2人共今帰り?」

「えぇ、部活の終了が同じだったのか正門で会ってね、せっかくだからって」

「ほぇ~」

「とか言って、本当は夜月君と一緒に帰りたかった光であった」

「なっ!? ちょっと塩波! 勝手な事言わないでよ!」

ひかりんが顔を真っ赤にして、

「ん~? 違うのかな?」

にやりと笑うしおなん。

「そ、そりゃ……同じ寮生だし…でも用事があるって言うから…だからえっと…その…」

「はいはい、素直じゃないね、ぴ・か・り・ん」

「ぴかりん?」

「っっ!? な、なんでその呼び方を…?」

「そりゃ、あだ名メーカーからに決まってるでしょ」

「明花め……後で覚えてなさいよ」

「で、朱里はどうして寮の入り口にいるの? しかも制服のまま」

「えへへ、ちょっと不思議探しに行こっかなって」

そう言って、ダウジングを取り出した。

「良かったら2人も一緒に行かな…」

「「ごめん、いいや」」

こんな事、前にもあったなー。まぁ分かってたけど。

「そういえば塩波? あの浜樫とはどうなったのかしら?」

体制を立て直したひかりんがしおなんへと反撃に出る。しかし、

「あぁ、うん。まだ言って無かったね、あたしと浜樫、付き合うことになったの」

「なっ……!?」

「お~! しおなんおめでとう!」

目を丸くするひかりんの横で、私はぱちぱちと拍手を送った。

「ちょ、やめてよ朱里、祝われるとハズいじゃない」

「どちらから告白したのですか?」

インタビュアーの真似でマイク代わりにダウジングの片方を向ける。

「えっと……昨日の部活終わりに偶然部室で2人きりになって、それであたしが言おうとしたら浜樫と被って、なんか変な感じになったところで再度あたしから……って、何言わせんのよ朱里!」

結構細かく教えてくれてからツッコンだ。本当は言いたかったんだろう。

「そ、それで? もうどこまで行ったのかしら?」

復活したひかりんが再度訊ねる。

「どこまで…って?」

「そりゃもちろん、アレよアレ」

「アレ……」

とたんに、しおなんの顔が真っ赤に変わる。

「そ、そんなことまだ出来る訳ないじゃない! まだ二日目なのよ!?」

「ねぇしおなん。アレ、ってなに?」

「っっ!? 言える訳無いでしょうが!」

「あらあら、アレでどこまで想像したのかしら」

「あ、あぅ……」

「ほぇ~、2人共恋する女の子なんだね~」

「……」

「……」

私が言った途端、2人の顔がリンゴのように真っ赤になった。

「そ、そういう朱里はどうなのよ? 好きな人とか、気になる人とか」

「私は…」

「ダメよ光、朱里は不思議に関わってる人にしか興味ないんだから、光と同じでね」

「へ、へぇー、そぅ……」

「と言いつつ、帰国子女の夜月君が好きな光であった」

「あぐぅ……」

さてと、もっとおしゃべりしていたいけど、行かないと。

「それじゃ2人共、また後でね~」

「あ、朱里、ちょっと待って」

「ん? なーに?」

「えと……ど、どうしたの? そのペンダント」

「あぁ、これ?」

首に下げていたペンダントを持った。

「珍しいじゃない、朱里がそんなオシャレアイテム持ってるなんて」

「むぅ、どういう意味?」

頬を膨らます。

「ゴメンゴメン、似合ってるわよ」

「えへへ、ありがと」

「それでね、朱里」

「なに?」

「……いや、ゴメン。何でもない。暗くなる前には帰りなさいよ」

「は~い」

私は2人と別れて、一人ダウジングが示す方向に進んだ。

行く先は決まってるけどね。





「こんにちは~」

お屋敷の扉を押して開ける。このお屋敷の扉は全部内開き、もうさすがに覚えたよ。でも中までは把握できてないので、玄関に入ってその場で待つ。

「来たわね」

しばらくして、ルリちゃんが奥から現れた。

「こんにちはルリちゃん」

「場所はいつものところよ、来なさい」

先を進むルリちゃんの後について、お屋敷の通路を歩く。

――――――あの出来事があってから、二日が経っていた。

月曜日の今日、学校が終わってから、私はお屋敷に来るように言われていたのだ。

あの日の出来事……つまり私は本当に一度、死んでいる。

でも今の私はご覧の通り、普通に学校にも行っている。

あの時、ヨクを導いた後に一度意識を失った私は、今まで通りの生活を送れている。

けど、ただ二点ほど人とは違うところがあった。

一つは、私の身体の中に『強欲』の大罪が宿っている事、今でもダウジングを使って土から柱とかを造ることが出来る。

そして、もう一つは……

「ついたわよ」

一つの扉の前についた。客間の扉だ。

「無良、朱里が来たわよ」

「こんにちは~」

扉を押してルリちゃんが中へ、後に私が続く。

「……」

「無良?」

「無良さん?」

無良さんは椅子に座って、

「……すぅ…」

眠っていた。

「はぁ……仕方ないわね」

ルリちゃんが近寄って、

「無良……さっさと起きなさい!」

スパーン! いい音を立てて平手打ちを放った。

「う……あれ? またやってしまったかな?」

叩かれた場所を擦りながら無良さんが目を開けた。

「ったく……目を離すとすぐにこうなんだから」

「ふわぁ……やっぱり今までと違うね、百パーセントだと密度が違うよ」

「そんな事どうでもいいわよ、朱里が来たわよ」

「無良さん、こんにちは」

「やぁ朱里ちゃん。さて、分かった事を教えるね」

机を挟んで向こう側に無良さんとルリちゃんが座った。

「答えから話すと、今の朱里ちゃんの状態は『強欲』を身に宿している。技を使えるのが証拠だ。でも、ルリのように完璧じゃなかった。という訳なんだよ」

完璧じゃなかった?

「正確に言えば『強欲』の大元はそのペンダントの中で、それを身につける事で朱里ちゃんは技を使える。ようは電池と、電池で動く者、という関係に近いんだ」

なるほど、電池が無いと動かせない道具、それが今の私の状態……つまりこの電池であるこのペンダントが無いと生きていけない体になってしまったんだ。

あの時無良さんにペンダントを渡した瞬間に意識を失ったのはそういうことだ。電池を抜かれた道具は止まって、動くことは無い。その時は無良さんがペンダントを戻してくれたことによって元に戻ったけど、何かの拍子にこのペンダントを無くすような事があったら……

「朱里ちゃん?」

「! は、はい! なんですか?」

ついボーッとしてしまった。

「……やっぱり、とんでもない事に巻き込んでしまったようだね……謝って許してくれるとは思ってない、でも言わしてくれ……本当にゴメ…」

「そんなことないです!」

バン! 机を叩いて立ち上がる。

「朱里ちゃん?」

「謝らないで下さい、私が自分でやったことなんです、自分でしたことで他人に謝られるなんておかしいですよ!」

いつだったか、ここに初めて来たときにルリちゃんへと言った言葉を、私はそのまま繰り返した。


「私は、自分のやりたいことをして、それで命を落とすのなら、悔いはありません!」


まさにその通りだ。

不思議を探していた私が、探していた不思議に出会い、それで命を落とした。

まさに私の欲望が満たされ……ては、いないのかな? 

だって、私は生きている。条件付きだけど、今までのように生きていける。

コレは……どういう意味なんだろう?

……ま、いっか。

今必要なのはそれを考えることじゃなくて、これからの私の生き方を考えることだよね。

「ペンダントは絶対に無くしたりしませんから、きっと大丈夫です」

「うん……その事なんだけどさ、朱里ちゃん」

無良さんは申し訳なさそうに頬をかいた。

「はい?」

「さっき、朱里ちゃんは電池で動く者と同じだと言ったよね?」

「はい、だからペンダントを肌身離さず持てば…」

「それだけじゃダメよ」

今まで黙っていたルリちゃんが足を組んで話す。

「朱里、電池で動く物が止まる理由って何がある?」

「え? 電池を抜かれる事でしょ?」

今言ったばかりだ。

「他には?」

「他には……」

電池で動く物が、電池を抜かれる以外に動かなくなる方法……あ、

「電池切れ?」

「そ、どういう意味か分かる?」

「そりゃあ、電池が切れる事…」

それってつまり……

「そうよ、ペンダントの中身が切れたら、抜かれるのと同じって事」

「えぇ!? じゃあ何をしても時間が来たら私は動けなくなるって事?!」

それって……それって!

「落ち着なさい朱里」

「でもだって!」

「いいから落ち着きなさいよ」

「あぁそっか! 変わりの電池をはめれば……でもそんなのどこにあるんだろう!」

「落ち着き…」

「でもまずいつまで持つのかを調べないと……でもどうやってそんなの調べれば良いのかな! ルリちゃん何か知らな…」

「落ち着けぇ!」

ダン! 鐘を机に叩きつけた。今さらだけど、あれどこに持ってるんだろう?

「は、はーい……」

落ち着かされて、椅子に座りなおした。

「ははは……」

無良さんは苦笑していた。

「確かに電池が切れたわ動けなくなるわ、でもね朱里、その電池は充電池なのよ」

充電池?

「そして充電池ということは、充電が可能ってこと、どういう意味か分かる?」

充電が出来る……という事は、

「朱里ちゃん」

無良さんに呼ばれた。前を見ると、私を見ている。

「朱里ちゃんが生きていく為には充電を……具体的には『強欲』を求めていく必要が、何かを欲することを続ける事が必要なんだ。朱里ちゃんは、不思議を求めてここにたどり着いた。そこで朱里ちゃん、ここで働かない?」

「え……?」

ここで、働く?

「ここはヨクに宿られた、あるいはそれに近しい人が集う探偵所、ここで働けば朱里ちゃんが必要とする不思議と会える機会は沢山あるだろう……どうかな? 悪い話じゃないと思うんだ」

「……」

私がここで働く……不思議と関わって、充電も出来る。私に一切損は無い、それに私は『強欲』を身に宿した導き手、無良さんのサポーターになった。

無良さんと一緒に居る事にも繋がる……だから、

「はい! 私、ここで働きます!」

私は大きく頷いた。

「そっか、ようこそ、漆積探偵所へ」

無良さんの右手が前へ出る。

「はい!」

その手を取り、握手を交わした。

「全く無良ったら心配性ね、朱里ならダウジング両手にうろうろしてるだけで充電出来る筈よ、なのにわざわざそんな事言うなんて」

隣でやれやれという風にルリちゃんが言った。

「あはは、そりゃあ責任があるからね。それに……この案はどこかの素直になれない女の子から聞いたんだよ」

「……ふん」

そっぽを向いてしまった。

「ありがとうルリちゃん」

「なっ!? あ、アタシがいつお礼言われるようなことしたのよ? それに、アタシはまだ賛成した訳じゃないんだからね」

「え……? もしかしてルリちゃん……私がここに来るのイヤなの?」

「う……べ、別にイヤだなんて言ってないじゃない……ただ……」

「ただ?」

「う……その……」

なにやら手をもにょもにょと動かしている。目はこちらを、握手している手を見ていて……

あぁ、そっか。

「これからよろしくね、ルリちゃん」

空いている左手でルリちゃんの手を握った。

「………………うん」

そっぽを向いたまま、ルリちゃんは頷いた。



こうして、私は人じゃなくなり、不思議の住人になった。

全ては、欲を満たす為に足を踏み込んだ出来事の結末。

満たされぬ欲を満たせずに罪に落ち、人でなくなった者の、導き手に示された。これから歩む道だった。


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