表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/13

決着、そして

無良さんとルリちゃんが前へと走った。

少し行ったところでルリちゃんは止まり、無良さんが一人ヨクに向かう。

『倒されてなるものか!』

ヨクが炎を放つ、今までの槍のような縦にではなく、横に長い炎を通路いっぱいに放った。

パチン!

無良さんが指を鳴らす、風が吹き、炎をかき消した。

『ちぃ……ならば、コレならどうじゃ!』

ヨクは両手を上げ、炎の塊をそこに造り、

『風ごときではかき消せぬこの火力、さぁどうする!?』

両手を前へ、同時に炎の塊が無良さんへと迫る。

「簡単じゃない、似た火力をぶつければいいのよ」

カラン

ルリちゃんの持つ鐘の音、それに合わせて無良さんの前に炎の球が現れた。

炎の塊と球がぶつかる。威力はほぼ同じらしく、お互い次第に収縮して消えた。

『ぬぉ……やられぞこないごときが!』

「ただの手加減よ、本気でやればアンタなんかに膝なんてつかないわ」

『減らず口を……!』

「どうでもいいけど、そんなこと言っててもいいわけ?」

そこでヨクは気づいた。無良さんが目前に迫り、自分が十字架の届く間合いに入りつつあるのを。

『フフフ。舐められたものじゃな、わざわざ教えなければ危なかったものを!』

無良さんが十字架を振るう、

『甘いわ!』

するとヨクがその場でジャンプ、そして背中に翼が生え、そのまま宙に浮いた。

『どうじゃ? 飛べぬ限り我に十字架を当てられぬぞ、導き手よ』

ヨクはお屋敷の天井付近、かなり上の方にいる。普通にジャンプしても届かな位置に浮くヨクを見上げて、無良さんは、

「残念だけど僕は飛べない。でも同じ高さに、なら大丈夫だよ」

そう呟き、膝を曲げた。

それが合図だった。

「創出せよ!」

私はダウジングを床に向け、下にある土を、ある形を、それを出す場所を思い浮かべる。

ちなみに今言ったのは私オリジナルの呪文だ。なんかそういうのがあった方がカッコいいよね?

ダウジングが振動し、床から土の柱が現れる。それはちょうど無良さんの真下で、その上に居た無良さんを押し上げた。

最大まで伸びたところで無良さんが跳躍、自ら上昇して、ヨクと同じ高さに並んだ。

けれど、

『はっ、何かと思うたらそんなものか、我に届いてないではないか』

後少し届いていなかった。ヨクとの距離は約2メートル、十字架の範囲外だった。私が斜めに柱を造っていれば届いていたのに。

「しまった……」

「大丈夫よ朱里、それよりも」

落ち込んでいたところに、ルリちゃんが耳打ちしてきた。





ヨクとの間は2メートル程、十字架は届かない。

『今しがたお主は飛べないと申したな? ならばそのまま落ちるがいい……ただし』

ヨクが両手を前に出すと、

『落ちた先は、炎の中じゃがの』

その手から炎が溢れる。右手のは上に、左手のは下に流れ、僕が落下する位置で燃え盛っている。

このまま落ちれば、間違いなくあの炎に焼かれる……けど、

「言った筈だよ。同じ高さに、なら行けると、あれは同じ高さに行けたなら大丈夫という意味があったんだよ」

『……どういう意味じゃ?』

「こういう……意味だよ」

パチン!

指を鳴らす。今までよりも強い風を吹かせる。

僕の身に宿るは『怠惰』

『怠惰』とは、怠けること、惰性を身に得ることで……今の僕の身は、まるで木の葉のように。

その惰性したこの身を、風は運んだ。

『なっ!?』

風の軌道の先、ヨクの真後ろへと僕は移動した。

「深き欲よ……我が示し道に従いて…」

十字架を縦に振るう、これでヨクの上への逃げ道を遮る。前にはヨク自身が出した炎、下がらないところから見るに自分で触れてもまずいのだろう。

これで後ろも塞いだ、残るは、

『ならば右……いや左に…』

「ムダよ」

ヨクの左右に炎の柱が上がった。ルリの炎だ。

それは僕達を照らし、同時にヨクの逃げ道を無くした。

『おのれぇ……ならば!』

残された逃げ道は、真下。ヨクは背に生やした炎の翼を消すと、重力に従って落ちていく。

しかし、

「創出せよ!」

『何ぃ!?』

下に下がるよりも先に、ヨクの足が床についた。降りた訳ではない、床が上がって来たんだ。

『あやつか!?』

分かっている、朱里ちゃんだ。ルリにでも言われたのだろう、ヨクが逃げるであろう下の床を持ち上げたんだ。

これで、ヨクに逃げ道は無い。

「……導かれよ!」

十字架を一線、ヨクの体に上から下へと、十字架の通った軌道という名の道を創る。

瞬間、道の頂点から光が溢れ出した。

『ぬぉ……!? こ、これは……なんじゃ、まるで……身体が満たされているような…』

「そうだよ」

足が床についた。朱里ちゃんが持ち上げた床に足がついた為、ヨクと同じ目線になった。

「僕が行っていることは、ヨクを倒したり消滅させたりすることじゃない。道を創り、その先のヨクのあるべきある場所に導くこと、それが導き手としての僕が行っていることなんだ」

『フフ……なるほどの……だから大丈夫と申したか、今なら分かる……この先は、ここよりも居心地が良いと』

「先に逝った仲間に会えることを、祈っているよ」

『すまない……な…』

一際大きな光が抜け、光が収まる。これで、ヨクは完全に導かれた。

「おっと」

ヨクが抜けた朱里ちゃんの友達が前のめりに倒れるのを押さえる。

「ふぅ……一件落着だね」

ヨクが出した炎が消え、続いてルリが出した炎が消える。それにより、下にいる2人の姿が見えた。

「無良さーん」

「完璧にヨクを導いたようね、朱里、早く床を戻して下ろしてあげなさい」

「あー……それなんだけどさ、ルリちゃん」

「なによ?」

「どうやったら床を戻せるの?」

「はぁ!? 何言ってんのよアタシが知ってる訳ないじゃない! この床ちゃんと直しなさいよ!?」

何やら叫んでいた。どうやらここに居ても降りられそうにないみたいだね。

それにしても、2人は随分仲良くなったみたいで何よりだ。まるで姉妹みたいだと思ったのは、2人には内緒だ。

ちなみにどちらがどちらかも……内緒、ということで。





床の戻し方が分からずにルリちゃんと右往左往していたら、風を使って無良さんが降りてきた。その手にはヨクが抜けて眠るように目を閉じるしおなんが。

「しおなん!」

「2人共ありがとう、おかげでヨクを導けたよ」

しおなんを床に置きながら、無良さんは私たちにお礼を言った。

「礼なんていいわよ、導き手のサポーターとして同然の事をやっただけなんだから」

「そうですよ無良さん」

「ありがとう、特に朱里ちゃんは、初めてなのにここまで出来るなんて」

「それほどでも~」

「ま、出せても戻せないんだけどね」

「あ、あはは……」

揃って同じ方向を見る。無良さんを上昇させた柱とか、床はだ持ち上がったままだ。

「よし、僕がやるよ。朱里ちゃん、ペンダントを」

「はい」

私は首からかけていたペンダントを外して、無良さんへと渡す。

私の手からペンダントが離れた。

「え……?」

その時、身体中の力が抜けた。

「朱里!?」

「朱里ちゃん!?」

2人の声を聞きながら……



私の意識は、無くなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ