決着、そして
無良さんとルリちゃんが前へと走った。
少し行ったところでルリちゃんは止まり、無良さんが一人ヨクに向かう。
『倒されてなるものか!』
ヨクが炎を放つ、今までの槍のような縦にではなく、横に長い炎を通路いっぱいに放った。
パチン!
無良さんが指を鳴らす、風が吹き、炎をかき消した。
『ちぃ……ならば、コレならどうじゃ!』
ヨクは両手を上げ、炎の塊をそこに造り、
『風ごときではかき消せぬこの火力、さぁどうする!?』
両手を前へ、同時に炎の塊が無良さんへと迫る。
「簡単じゃない、似た火力をぶつければいいのよ」
カラン
ルリちゃんの持つ鐘の音、それに合わせて無良さんの前に炎の球が現れた。
炎の塊と球がぶつかる。威力はほぼ同じらしく、お互い次第に収縮して消えた。
『ぬぉ……やられぞこないごときが!』
「ただの手加減よ、本気でやればアンタなんかに膝なんてつかないわ」
『減らず口を……!』
「どうでもいいけど、そんなこと言っててもいいわけ?」
そこでヨクは気づいた。無良さんが目前に迫り、自分が十字架の届く間合いに入りつつあるのを。
『フフフ。舐められたものじゃな、わざわざ教えなければ危なかったものを!』
無良さんが十字架を振るう、
『甘いわ!』
するとヨクがその場でジャンプ、そして背中に翼が生え、そのまま宙に浮いた。
『どうじゃ? 飛べぬ限り我に十字架を当てられぬぞ、導き手よ』
ヨクはお屋敷の天井付近、かなり上の方にいる。普通にジャンプしても届かな位置に浮くヨクを見上げて、無良さんは、
「残念だけど僕は飛べない。でも同じ高さに、なら大丈夫だよ」
そう呟き、膝を曲げた。
それが合図だった。
「創出せよ!」
私はダウジングを床に向け、下にある土を、ある形を、それを出す場所を思い浮かべる。
ちなみに今言ったのは私オリジナルの呪文だ。なんかそういうのがあった方がカッコいいよね?
ダウジングが振動し、床から土の柱が現れる。それはちょうど無良さんの真下で、その上に居た無良さんを押し上げた。
最大まで伸びたところで無良さんが跳躍、自ら上昇して、ヨクと同じ高さに並んだ。
けれど、
『はっ、何かと思うたらそんなものか、我に届いてないではないか』
後少し届いていなかった。ヨクとの距離は約2メートル、十字架の範囲外だった。私が斜めに柱を造っていれば届いていたのに。
「しまった……」
「大丈夫よ朱里、それよりも」
落ち込んでいたところに、ルリちゃんが耳打ちしてきた。
ヨクとの間は2メートル程、十字架は届かない。
『今しがたお主は飛べないと申したな? ならばそのまま落ちるがいい……ただし』
ヨクが両手を前に出すと、
『落ちた先は、炎の中じゃがの』
その手から炎が溢れる。右手のは上に、左手のは下に流れ、僕が落下する位置で燃え盛っている。
このまま落ちれば、間違いなくあの炎に焼かれる……けど、
「言った筈だよ。同じ高さに、なら行けると、あれは同じ高さに行けたなら大丈夫という意味があったんだよ」
『……どういう意味じゃ?』
「こういう……意味だよ」
パチン!
指を鳴らす。今までよりも強い風を吹かせる。
僕の身に宿るは『怠惰』
『怠惰』とは、怠けること、惰性を身に得ることで……今の僕の身は、まるで木の葉のように。
その惰性したこの身を、風は運んだ。
『なっ!?』
風の軌道の先、ヨクの真後ろへと僕は移動した。
「深き欲よ……我が示し道に従いて…」
十字架を縦に振るう、これでヨクの上への逃げ道を遮る。前にはヨク自身が出した炎、下がらないところから見るに自分で触れてもまずいのだろう。
これで後ろも塞いだ、残るは、
『ならば右……いや左に…』
「ムダよ」
ヨクの左右に炎の柱が上がった。ルリの炎だ。
それは僕達を照らし、同時にヨクの逃げ道を無くした。
『おのれぇ……ならば!』
残された逃げ道は、真下。ヨクは背に生やした炎の翼を消すと、重力に従って落ちていく。
しかし、
「創出せよ!」
『何ぃ!?』
下に下がるよりも先に、ヨクの足が床についた。降りた訳ではない、床が上がって来たんだ。
『あやつか!?』
分かっている、朱里ちゃんだ。ルリにでも言われたのだろう、ヨクが逃げるであろう下の床を持ち上げたんだ。
これで、ヨクに逃げ道は無い。
「……導かれよ!」
十字架を一線、ヨクの体に上から下へと、十字架の通った軌道という名の道を創る。
瞬間、道の頂点から光が溢れ出した。
『ぬぉ……!? こ、これは……なんじゃ、まるで……身体が満たされているような…』
「そうだよ」
足が床についた。朱里ちゃんが持ち上げた床に足がついた為、ヨクと同じ目線になった。
「僕が行っていることは、ヨクを倒したり消滅させたりすることじゃない。道を創り、その先のヨクのあるべきある場所に導くこと、それが導き手としての僕が行っていることなんだ」
『フフ……なるほどの……だから大丈夫と申したか、今なら分かる……この先は、ここよりも居心地が良いと』
「先に逝った仲間に会えることを、祈っているよ」
『すまない……な…』
一際大きな光が抜け、光が収まる。これで、ヨクは完全に導かれた。
「おっと」
ヨクが抜けた朱里ちゃんの友達が前のめりに倒れるのを押さえる。
「ふぅ……一件落着だね」
ヨクが出した炎が消え、続いてルリが出した炎が消える。それにより、下にいる2人の姿が見えた。
「無良さーん」
「完璧にヨクを導いたようね、朱里、早く床を戻して下ろしてあげなさい」
「あー……それなんだけどさ、ルリちゃん」
「なによ?」
「どうやったら床を戻せるの?」
「はぁ!? 何言ってんのよアタシが知ってる訳ないじゃない! この床ちゃんと直しなさいよ!?」
何やら叫んでいた。どうやらここに居ても降りられそうにないみたいだね。
それにしても、2人は随分仲良くなったみたいで何よりだ。まるで姉妹みたいだと思ったのは、2人には内緒だ。
ちなみにどちらがどちらかも……内緒、ということで。
床の戻し方が分からずにルリちゃんと右往左往していたら、風を使って無良さんが降りてきた。その手にはヨクが抜けて眠るように目を閉じるしおなんが。
「しおなん!」
「2人共ありがとう、おかげでヨクを導けたよ」
しおなんを床に置きながら、無良さんは私たちにお礼を言った。
「礼なんていいわよ、導き手のサポーターとして同然の事をやっただけなんだから」
「そうですよ無良さん」
「ありがとう、特に朱里ちゃんは、初めてなのにここまで出来るなんて」
「それほどでも~」
「ま、出せても戻せないんだけどね」
「あ、あはは……」
揃って同じ方向を見る。無良さんを上昇させた柱とか、床はだ持ち上がったままだ。
「よし、僕がやるよ。朱里ちゃん、ペンダントを」
「はい」
私は首からかけていたペンダントを外して、無良さんへと渡す。
私の手からペンダントが離れた。
「え……?」
その時、身体中の力が抜けた。
「朱里!?」
「朱里ちゃん!?」
2人の声を聞きながら……
私の意識は、無くなった。




