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ようこそ不思議へ

「朱里! しっかりしなさい!」

ルリが真っ先に朱里ちゃんへと駆け寄る。ヨクはそれに対して、朱里ちゃんを盾にした。そもそも、そうすれば攻撃されないと分かっているから。

そのまま位置を入れ換わり通路を背にした瞬間、朱里ちゃんを投げて闇に消えた。

ルリは朱里ちゃんを揺すって声をかける。

「ルリ……」

朱里ちゃんの目に光が無い見た目からして明らかだ。心臓を、貫かれている。

朱里ちゃんは……もう……

「……許さない」

朱里ちゃんを置いて、ルリが立ち上がる。

「絶対に許さない。無良、アンタが何と言おうとアタシはアイツを焼き殺すわ、同じ……いえ、同じ以上でね」

「ルリ、怒りたい気持ちは分かる。けど少しは冷静にならないと出来ることも出来ないよ」

「なんでアンタはそこまで冷静なのよ。朱里がやられた時、一言も言わないなんて、どうかしてるんじゃないの?」

「叫んだところで、朱里ちゃんは……」

「っ……そうね、分かってた筈なのに。アタシは」

「ヨクを、頼めるかな?」

「えぇ……ただし無良が導く必要は無いわ。アタシが叩き落としておくから……地獄に」

鐘を持ち、ルリはヨクの後を追った。

「……」

朱里ちゃんの横へと並ぶ。さっきまで、生きていたはずなのに。

「……」

手を顔に置き、目を閉じさせる。それにより朱里ちゃんはまるで寝ているようになった。その手にダウジングと、僕が渡したペンダントを持っている。

「本当に、ゴメン。朱里ちゃん……」

ペンダントに手を伸ばす。鎖を掴み、上へと持ち上げる。

力の入らない朱里ちゃんの手から、鎖が抜けて……





『しおなんって、浜樫くんの事が好きなの?』

『っ!? 急に何を言い出すのよ朱里?』

『もう有名だよ? 野球部の一年エースとマネジャーができてるって噂。それってしおなん達の事でしょ』

『誰よそんな情報流した奴は』

『どうなの? しおなん』

『そ、そういう朱里はどうなのよ?』

『私? 私は…』

『はいはい、どうせ不思議に関わってる人、って言うんでしょ?』

『まだ言ってないのにー……まぁそうだけど』

『高校生になったんだから、いい加減諦めなさいよね』

『ダメだよしおなん、諦めなければ大体のことは出来るんだよ』

『はぁ……言っても無駄なのも、諦めた方がよさそうね。せいぜい頑張りなさい』

『うん。それで、本当のところどうなの?』

『っ~!! 言えるわけないでしょうが!』

しおなんが怒った……

確かコレは、去年の五月ぐらいだ。

走馬灯。というのかな、私は今、昔の記憶をたくさん思い出している。

体は動かない、むしろ体があるかもよく分からない、見えてはいるんだけど、目で見ているという感覚じゃない。まるで、頭の中で思い浮かべているような感じ。

これが全部終わった時には……

私……本当に死んじゃったんだな。

こういう時、悲しめばいいのか、哀しめばいいのか、よく分からない。よく分からない内に死んじゃったから、なおさらよく分からない。どうすればいいんだろう……

と思っていると、次の記憶が出てきた。

次はいつだろう、さっきから年代がバラバラで規則性が無いから、ちょっと楽しみになっていた。

コレは……


『よーし! さっそく行っくぞ~!』

私が、不思議探しを始めた時の記憶だ。

『しゃきーん! 不思議検索そうちー!』

初めて作った検索装置を掲げている。今ではもう、七つもある。

『まずはぁー、こっち!』

装置を向けた適当な方向に歩き出していく……とっても、懐かしい。

この後、別に何かを見つける訳でも無く、日が暮れて、そのまま家に帰っただけ。

それでもその日から私は、毎日のように不思議を探し続けていった。

遠くへ行ったこともあった、装置を新しく作ったこともあった。

今としては、良い思い出。

そして……もう、思い出でしかない。

『ただいま~!』

家に帰ってきた私が扉を閉めた瞬間、周りが暗くなった。

走馬灯が終わったのかな……ということは、私はもう……もう、良いかな。

不思議も見つかったし。

無良さんやルリちゃんとも出会えたし。

悔いが無いと言えば嘘になるけど、私は自分のやりたいことをして、それで命を落とすのなら悔いは無い。確かにそう言ったから。

やりたいこと……不思議を探すこともやったし。


うん……だから……


……




…………





……………






…………………いやだ


まだ死にたくない。


だって、まだやりたいことやってないんだもん。


私は自分のやりたいことをしてそれで命を落とすのなら悔いはありません


確かに言った、言ったよ? でもまだ、やり足りないんだもん。


せっかく不思議を見つけたのに、まだ全然楽しんでない。


まだ出来ることが沢山ある。


やりたいことが沢山ある。


やりたくて……やりたくて……


全然満たされてない!



その時、今まで身体のような感覚が無かった筈なのに、左手に違和感を覚えた。

まるで輪っかを持っていて、それを誰かに引っ張られているような感じ。

まさか、私を迎えに来た何か?

そんなのいやだ!

抵抗するため、左手を引っ張る。

瞬間、声を聞いた。


『ミタサレヌモノヨ』


迎えに来た何かの声かな? なんだか、ヨクに似ている気がする。

『オマエニ、ツミトシテイキルカテヲアタエヨウ』


? 聞き取りにくいな。


『タダシソレハツミトシテイキルトイウコト、ヒトデハナク、ヨクノツドウツミトシテイキルトイウコト、ソレヲワスレルナ』


声が聞こえなくなると、引っ張りが強くなり、上へと引っ張られた。

「えぇ!?」

もはや抵抗出来る状態じゃない。でも……上へと向かう度に、体に感覚が戻ってきていた。


そして……





「……あれ?」

声が出たのと、ペンダントを引っ張られて反射的に左手が握ったのと、目を開けた先にお屋敷の天井が見えたのはほぼ同時だった。

でもおかしい、私は今さっき死んだはずなのに、何で声が出てて、ペンダントを掴めてて、目が見えてるんだろう。

「私、どうして……」

「朱里、ちゃん?」

声のした方向を見ると、無良さんが何故か片目を押さえていた。

「無良さん、私、確か…」

「うん、朱里ちゃんはヨクに騙されたんだ」

騙された、という言葉で濁してるけど、あれは夢ではなかったらしい。

「でも……私、生きてますよね?」

だったらこれは、どういう意味なんだろう。

「……朱里ちゃん。落ち着いて、そのまま右手を左胸に持っていってみて」

「? はい」

右手を持ち上げ、ゆっくりと左胸へ、ダウジングを持ったまま持っていく。

カツン

「え?」

まさかだった。

まさか……体の上にくるはずのダウジングの先端が、床を付くなんて。

それはつまり、私に穴が開いているということ……

「えぇぇーー!?」

私の心臓に穴が開いてる!? これは絶対に死んでないとあり得ないことでということは私は死んでいてでもそれを認識出来ているということは生きているということだから……

「えぇぇぇーーー!?」

もう一回叫んで、がばりと起き上がった。

「無良さん! 私どうなってるんですか!? 心臓に穴が開いて…」

そこで改めて気づいた。

無良さんは何故か眼鏡を外して左目を押さえている。右目は明るい緑色の瞳、大罪を使っている証拠だ。

「どうしたんですか無良さん? 目が何か」

「あぁ……うん、予想外だったよ、まさか痛みがあるとは思わなくてね」

押さえていた手が外される。そこには無良さんの左目、明るい緑をした瞳があった。

あれ? 確か無良さんの左目はオレンジ色だった筈。でも今の無良さんは両目共に緑色の瞳だ。

「朱里ちゃん、立てるのなら、そこの窓に行ってみるといいよ」

「? はい」

私は言われた通り立ち上がり、窓の前に立った。

すでに外は暗く、月明かりが窓から少し差し込んでいる。黒くなった窓ガラスに私が移っていた。

やっぱり、左胸に穴が開いていて後ろが見えている。でも他に変わったところは……あった。

私の目が、瞳の色が……オレンジ色になっていた。

昨日見た、無良さんの左目と同じ、濃いオレンジ色に。

「こ、これは……」

「まさかこんな事が起こるなんてね」

隣に無良さんが立っていた。眼鏡をかけて、手に十字架を持っている。

「無良さん、私、もしかして」

無良さんは頷いた。

「言ってしまえば……朱里ちゃんは、ルリと同じ者になったんだ」

「……」

私が、ルリちゃんと同じ者。大罪をその身に宿した、一度死を経験した……導き手のサポーター……こんな時、どうするのが正解か分からない。

だから私は、今の自分に合った選択をした。

「じゃあ……これで私も不思議の住人なんですね!」

私はその事実に喜び、笑った。

「うん……朱里ちゃん、本当にゴメン。僕がもう少し早く来ていれば、こんな事にはならなかったのに……」

深く頭を下げて、謝られる。

「謝らないでください、元はと言えば私が部屋から出たのがいけないんですから、むしろ謝るのは私の方なんです」

そう、私があの時部屋から出なければ、こんな事は起こらなかった。

悪いのは全部私、自業自得なんだ……けど。

「それに、私は今の状態、すっごく嬉しいんです。願い続けた夢が、ついに叶った、って。不思議を見つけただけじゃなくて、その中に入る事が出来たんですから、だから、謝らないでください」

「朱里ちゃん……」

「さぁ無良さん! ヨクを倒しに行きましょう! 私がサポートします!」

ペンダントを首にかけて、ダウジングを両手に持った。

「……うん。ありがとう朱里ちゃん、今はルリが一人で対抗している、急ごう」

「はい!」

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