ジャック・オ・ランタンの喜楽
「パプ~。今年もこの日がやってきたプキ~!」
ここは、人が見えなくなり忘れられたモノ達が集まる世界。
世界規模で続く祭りの立役者達が居る世界。
様々な異国が混ざり合った街並みをしている世界だが、今日と言う日は街の灯りがオレンジ色に染まり薄暗くも温かな光に包まれていた。
そんな街の中心には、街中を見下ろせるほど高い時計仕掛けの大鐘楼が聳え立っている。
その大鐘楼の天辺に、今日の主役とも呼べるモノが居た。
魔女の様なトンガリ帽子を被り、真っ黒な外套を
風に靡かせながら立つ顔がくり抜かれたカボチャ頭のモノ。
皆は、彼の事を【ジャック・オ・ランタン】と呼ぶ。
「パプ~。そろそろプキ~! 時計がⅩⅡ時を指し、鐘が鳴り響くプキ~!」
跳び跳ねる声音で、今か今かと待ち侘びるジャック・オ・ランタン。
大鐘楼の時計も59分を指し、分針は今にも揃いそうなくらい、震えて踊る。
――そして、ついにその時が訪れる――
正確な時を刻む大鐘楼の時計が、待ち切れないとばかりにカチッと音を鳴らし、時針と分針が揃ってⅩⅡ時を告げる。
――ガラン…ガラン――
同時に、大鐘楼の名に相応しい大きな大きな鐘が街中はもちろん世界中に鳴り響けと言わんばかりの清浄な音を轟かせた。
しかも不思議な事に鐘が鳴る度に、まるで宝石の様な色鮮やかな包装がされたキャンディーを街の至る所に降り注がせながら。
そして、街にはジャック・オ・ランタンと同じように今か今かと待っていたモノ達が、魔女やオバケと言った思い思いの仮装をして飛び出し、大鐘楼の鐘の音に負けじと声を張り上げ言い放つ――
――トリック・オア・トリート!!――
「パプ~!プキ~!!」
ジャック・オ・ランタンは、それはそれは楽しそうに声を出して街の上空を飛び回り、お手製のパンプキンのお菓子を振り撒き、大鐘楼にも街のモノ達にも…誰にも負けないように叫んだ。
「ハッピーハロウィン!プキ~!!」