~パンドラの棺編~第八話
講和 淵衝です。皆さんはいかがお過ごしでしょうか?
さて、この度ですね、私たち〈ハムカツオブシンドローム〉にイラストレイターを招くことになりました!
しろタマさんとおっしゃる方で、とても優しい方でこれから一緒に作品を作っていくことにワクワクが止まりません。
そんな、雰囲気の中八話にもますます気合が入りまして、自分の中で新しい挑戦になった八話になりました。その挑戦の結果を皆さんに見てもらえると嬉しいです。
そんな感じで、八話です、いよいよ準備を終え第三大陸バステーユにやってきたレイルたち一行、彼らの見たこの世界の現実とは・・・謎の少女も現れるドキドキ新展開の第八話・・・開幕です!最後までごゆっくり
第八話 娯楽と貴族
「それで・・・任せろって言ってたのがこれかよ」
「こんなこと、初めてです・・・」
「一瞬、君たちについてきたことを後悔しそうになったよ・・・」
「静かにしているんだ。ばれたらどうする」
「分かっちゃいるが、この状態だとどうにも言いたくなっちまうのが人間ってもんさ」
「すいませんね、セレナ、静かにしています」
「い、いえ!決してそのように重く考えないでください!ただ、ばれてしまうと厄介なので、お願いしますね」
「はい、分かっていますとも。それにしても、袋の中だと身動きが・・・ってレイル!どこを触っているのですか!」
「わ、わりい、動きがうまく取れなくてな」
「分かっていますが、き、気を付けてください!恥ずかしいです・・・」
「貴様・・・後で覚えておけよ・・・」
「だから、不可抗力だって!」
「おい、誰と話をしている?」
「い、いや誰とも話していないが」
「おかしいな、今お前が誰かと話をしている声が聞こえたと思ったのだが」
「気のせいじゃないか?この部屋には私しかいないぞ」
「確かに、誰もいないか、俺の勘違いのようだな。それはそうと、おとなしくしているんだぞまったくとんだ来客だ」
「分かっている」
そういって、兵士は部屋を出て行った。俺たちが今いるのは、革命軍が使っている貿易船の中だ。軍の貿易船だからなのかリヴァイアさん達の船とは大違いだった、船の中は必要最低限の備品しか置いてなく、壁と床も手入れが行き届いていないのか薄汚れていて、ただ積荷を移動させるためだけにしかないといった感じが至る所から感じられた。
「にしても、この魔弾の効果ってのはすごいな」
「ああ、さすが魔術都市キャラリングだ。武器市場を探せばすぐに見つかった」
「セレナ、魔弾とはなんなのですか?」
「はい、姫様、〈魔弾〉とはですね私のような魔装銃者たちが使ってる弾のことです。今回使ったのは小退化式魔弾という旅などで荷物がかさばらないように小さくすることを目的にして作られた魔弾で本来人間に使うことは禁止されています、ちなみにこのような特殊な魔力が込められている魔弾は神話聖戦終了後に革命軍がキャラリングの学者に作らせたことが始まりだと言われているのですよ」
「詳しいのですね。セレナ」
「い、いやぁそれほどでもないですよ!」
「おい・・・また大きな声を出すと外の兵に怪しまれるぞ」
「わ、分かっている」
「とにかくだ。これでなんとか、バスティーユまでいけるな」
「そうだね、行くのにこんな苦労するとは思わなかったけど」
「我慢しろ、あと三十分ほどすれば着く」
「今日ばかりは、三十分が長く感じるな。研究をしている時はそうでもないんだが」
「こういうのも悪くないってことでいいじゃないか」
「・・・少し、寝る」
「そうすると良い」
その言葉を最後にバスティーユに着くまでの間、誰も言葉を交わすことはなかった。中にいても海のさざ波が聞こえるくらい静まりかえった部屋の中で、何もすることなく三十分という時間が静かにそして、ゆっくりと過ぎていく。
そして、俺たちは第三の大陸バスティーユに着いた。
「よし、ここら辺なら貿易船の奴らにも見られる心配はないだろう。そろそろ効果が切れる頃だ。袋から出すぞ」
船から降りるとすぐにセレナが貿易船から死角になる物陰に隠れる、そろそろ魔弾の効果が切れる時間が迫っていたのだ、セレナの話では魔弾の効果は一発で約30分ほど効果が続くらしい、その言葉通り袋から出ると俺たちの身体はすぐに元の大きさまで戻った。
「ふぅ、やっと元に戻れたな。にしても・・・ようやく着いたかバスティーユ」
「そうだね、もう二度と来るつもりは無かったんだけど」
「ここがバスティーユ大陸・・・何だかキャラリングとは違い重たい雰囲気のする場所ですね」
「そう思われるのも無理はないかと思います、この場所は一言でいうなら全てを区別した場所なんですから。私もこの雰囲気は好きではありません」
セレナが言った通り、このバスティーユ大陸は全てを区別する場所なのだ。街そのものを三つの区画で区別している、今俺たちのいるこの錆びれた港からその風景が一望できた、一番下で朝も夜も煌びやかに輝く妖艶な区画、入口にある巨大な門が全てをうけつけない様を見せているように、綺麗な街並とは裏腹に、そこはこの大陸の全ての闇を孕んだ場所でもあった。
それが第一の区別、闇を閉じ込める為に貴族が作った場所、次の中間に見える、
高くそびえ立ち、遠くから見ても豪華な飾りばかりが目立つ建物の多い区画が貴族たちの住む場所、人々は皮肉交じりに楽園と呼んだ。
「楽園あそこにだけは近づかないようにしないとな、勿論あそこに鍵があるのなら話は別なんだけどな」
「嫌な話をしないでくれ、そうあってほしくないと思っているのは君も同じだろう、レイル」
「そりゃあそうだけど、その可能性も無くはないだろ」
「あのレイル」
「なんだ?」
「あの一番奥に見える塔は何なのですか」
「あれか?あれはな絶望だ」
「絶望?」
「そう絶望、頂上にそびえ立つ黒く無機質な鉄の要塞を思わせる漆黒の塔あれは、この大陸バスティーユの名を冠する牢獄〈バスティーユ牢獄〉だ。全ての大陸で罪を犯した者はそこに投獄されることになる、罪が軽かろうが重かろうが待っているのはまさに絶望そのものさ」
「罪人なのです、罪を受けるのは当たり前の事ですし、幽閉しておかなければならないほどに凶悪な人ばかりなのではないのですか?」
「言ったろ、確かに重い罪の奴だっている、でも本当に罪の重い奴ってのはそう簡単に捕まるほど弱い奴は少ない。逆に入れられる奴ってのは罪も軽く弱い奴だ。どういうことか分かるよな?」
「それは・・・」
ジェシカが言いかけた所でその言葉を遮り、セレナが間に割って入ってくる。
「あの塔にいる者たちは、皆罪の軽い罪人です。罪を犯した者はこの世界では神に背いた愚か者の烙印が押されます。軽かろうと重かろうと、そうした烙印の付いた者たちがたどる道は二つ、貴族達の奴隷になるか、牢獄で死ぬまで幽閉され、人としての尊厳を失いゴミのように扱われるかです。それがこの大陸の姿なのです。姫様が見る必要など・・・」
次はジェシカがセレナの言葉を遮りものすごい剣幕で怒鳴り散らした。
「どうして・・・どうして、そのようなことが起こっているのですか!」
「姫様・・・」
「私、許せません!どうして、人が人に対してそのような非道なことができるのですか!」
「人間ってのはな、完璧にはできちゃいないのさ」
「分かっていますよ!それは私にも!」
「いいや、分かっちゃいない。お前は今人に非道でないことを求めている。人間とは生きていく限り非道な生き物なんだ。良くも、悪くもな」
「ですが・・・それでも」
「納得できないか?だったら、行ってみるか、第二区画楽園に」
「おい、レイル!貴様、姫様をあんなところに連れて行くというのか!」
「ああ、そうだ。それが例えジェシカにとって辛い現実になろうとも、その現実を知らない限りこの世界を知ることはできないだろ」
「だとしてもだ、危険すぎる、大体な・・・」
「私は・・・行きたいと思います。それで、私が今よりもこの世界を知ることができるのなら」
「姫様、何を言っているのですか、あそこは危険だと・・・」
「分かっています。セレナが私の事を心配して言ってくださっていることも」
「ならば、なぜ!」
「セレナ、お前も分かっているだろ、ジェシカはジェシカなりに自分で前に進むことを選ぼうとしているんだ」
「・・・」
「すみません、セレナ少し我儘を・・・私の我儘を聞いてはもらえませんか?」
セレナは黙ったまま、四人の周りだけ時が制止したように静かになった、しかしその沈黙を破ったのもまたセレナであった。
「分かりました・・・姫様の我儘、確かに承知しました」
「セレナ・・・」
「そうと決まれば、早速行こうか。僕は第二区画までは行ったことが無いんだけどレイル、君は道を知っているんだろ?」
「ああ勿論、仕事の都合で何回も行っているからな」
「そろそろ、軍も積荷を降ろして出港する頃です、動きましょう」
「おい、そう安易に動くな、軍の奴らはここの港にも指名手配書を貼っていったかもしれないだろ」
「それなら、大丈夫だ。船に乗ってる時に少し細工をしてきたんだ」
「細工?もしかして、一度トイレに行ったときか」
「そうだ、あの時指名手配書の顔を書き換えてきたからな、気づかれることはまずないだろう」
「それなら、一時的なしのぎにはなるか」
「では、行きましょうか」
「はい、姫様」
・
歩き始めてから、数分後大体、第一区画の入口に来た所だろうか。ジェシカが突然大きな声を出した。
「レイル!見てください、あれ門が開いていますよね?」
「そうか、開門の時間に重なったな。ここ第一区画の門はな、時間になると開く仕組みになっていて・・・っておい!」
気がつくと、ジェシカは一人門の中に入ろうとしていた、後の二人は先を歩いていて気がついていない。
「待てジェシカ、そっちには行くな!」
「はい?何か言いましたかーレイル!」
ジェシカはすでに門の中にまで入っており、ここからそこまでそれなりの距離があったのでジェシカに声が届いていなかった。
しかも、最悪なことにジェシカが中にいる状態で門が閉まろうとしていた。
「おーい、何をやっているんだい、レイルあんまり離れないでくれよー、所でフランはどこにいったんだ?」
「そういえば、姿がお見えにならないな・・・ってあんなところに、姫様お待ちください!」
二人もジェシカに気がつき、門まで走っていた、俺もそれにつられて走りだす。にしてもこの門も近くでみると中々の禍々しさを放っている。空まで届ているんじゃないかと言わんばかりの大きさは見る者を圧倒し、その漆黒の色は他の者を寄せつけないように見える。
「なんで、中に入ったんだよ!」
「え?キラキラしてて綺麗だなと思いまして、もっと近くで見たいなと」
「ここの門はな、開いてる時間が短いんだ。しかも、開く時間も間が相当あるから一度入ると中々出れないんだぞ、入ったのは仕方がない早くで・・・」
「残念だけど、レイルもう閉じてしまったよ」
「遅かったか・・・」
「ひ、姫様!どうしてこんな所に入ったのですか!」
「だ、だから・・・キラキラしてて綺麗だったから・・・」
「理由になっていません!」
これに関しては、さすがのセレナも怒っていた。だが、この第一区画が危険だという説明をしていなかった俺たちにも原因があるか。
「セ、セレナの・・・セレナのばかー!」
しかし、中に入った以上に、事態は悪い状況に進もうとしていた。ジェシカが突然、街中に向かって走り出したのだ。
「おい、ジェシカ!」
「まずいね、奥は危険すぎるよ」
「ど、どうしよう!私が姫様に厳しいことを言ってしまったから・・・」
「落ち着け、まずは早く追いかけないとだろ」
「そ、そうだな・・・」
「あら、どこかで見た顔が走って行ったかと思えばくししし、お久しぶりじゃない」
「誰だ!」
「貴方は・・・」
走り出そうとしたその時、俺たちは予想外の人物に遭遇した。
・
門の向こう側から街の景色を見た時、私は素直にその景色を綺麗だなと思った。気がつくともっと近くで見てみたいと中に足を踏み入れていた。
実際に街の中に入ると、絢爛豪華な街並に目がチカチカしてしまいそうなくらいだった。街灯、建物内の光、その全てが七色で不規則に力強い光を放っている。その力強さに更に魅かれそうになった
ただ、それだけだったのに。レイルも、セレナもすごい怒るしこの大陸に来ることになってからずっとそうだ。
私が何も知らないから悪いの?ずっと鳥かごの中にいた私だって、外に出て自分なりにいろんなことを知ろうとしているだけなのに。
ただ、危険だと言われて、動くなって・・・それじゃあ今までと一緒なのに!
レイルは、レイルだけは分かってくれていると思ってた。初めて会った時からずっと私の事を守ってくれて、それで・・・
あれ、私・・・どうして・・・なにこれ。
走り出してから、それほど時間は経っていないというのに、ふと立ち止まって自分の胸に手を当ると、自然と鼓動が早くなっているのが分かった。走っただけが理由ではないようになぜか思えた。
気のせい・・ですかね・・・
レイルの事を考えた直後から、鼓動が早くなったように思えた。どうしようもなく胸の奥底が切なくなる感じ。
原因は分からないけど、後でレイル本人に聞けばわかるかもしれない。
「あれ、そういえば私無我夢中でここまで走ってきましたけど、ここどこですか?」
「お嬢さん、どうしたのさ。こんな道に突っ立って、危ないよ」
「あ、すみません!って貴方は・・・」
「もしかして、君は・・・」
・
「どうして貴様がここに居るんだ、答えろ!」
「あら、それはこっちのセリフなのだけど、どうして軍の特殊部隊である貴方が彼らと一緒に行動しているのかしら?私はそっちの方が不思議よ、くししし」
「う、うるさいこれにはちゃんとした理由が・・・」
「まぁ、何でもいいわ」
「もう一度聞く、どうして貴様がここに居る」
セレナは声を掛けてきた女性に銃を突きつけた。知り合いなのだろうか。
「おい、小娘!このお方を誰と知って、銃を向けている」
「そうだ、気易く銃を向けるなんて自殺行為だぞ。今すぐ降ろせ」
女性の後ろにいる男たちの何人が騒ぎはじめ、こちらを威嚇してきたがそれでも、セレナは銃を降ろそうとしなかった。
「やめなさい、そう簡単に女の子を威嚇するもんじゃないよ」
「ですが、サラ様・・・」
「なに?私に歯向かう気、いい度胸じゃない」
そういうと、サラと呼ばれた女性は、おもむろに胸に手を突っ込むと笛を取り出した。
「そ、それだけは!申し訳ありませんでした!ど、どうかお許しを」
男は頭が地面に埋まってしまうのではないかという勢いで地面に頭をつけて謝りだした。
「わかれば、よろしい。あら、ごめんなさいね。怖いところを見せてしまって」
「貴様・・・」
「こいつ、そうか七英雄の・・・」
「そうだ、奴はサラ・ウォーレン、通称〈ナイトメアゴート〉」
この街のように漆黒に染まったドレスを纏った、そう一言で言えば花魁のような姿をした不思議な雰囲気の女性だ。
「あら、貴方とは一度会ったことあるはずだけど、覚えてないかしら?」
「いや、初対面だと思うが」
「そう、覚えてないの。少し、残念かも」
「そんなことより、答えろ!どうして、ここにいる」
「どうしてって、貴方、自分の家にいるのに理由っているのかしら?」
「自分の家・・・?」
「そう、私はね、七英雄であると同時に、このバスティーユ大陸第一区画煉獄の統括者でもあるのよ。だから、ここは私の家同然なの」
「ここの統括者だと」
「そうよ、それよりもさっき走って行ったのはお姫様よね?何かあったのかしら」
「ジェシカと少し言い争いしてな。それで、怒ったジェシカがどこかに走っていったてとこだ」
「おい、レイル!こいつは私たちの敵なんだぞ!」
「落ち着け、ここまであからさまに敵意が無いってのに戦う理由は無いだろ」
「し、しかし・・・」
「くししし、そうね彼の言う通りだわ。私達には別に貴方たちを捕えなさいなんて命令出ていないもの確かに敵だけど、今日は気分がいいの、何もしないわ」
「ほら、こう言ってるわけだし」
「納得できん、ハルト君はどう思っているんだ」
「僕かい?僕は、レイルの言うことに従うよ。別にその人に狙われているわけじゃないし。まぁ、仲間である以上僕も敵として認識されていてもおかしくないだろうけど、交戦意欲の無い敵と戦う気にはなれないね」
「・・・しょうがない、いったんこの武器は収めることにしよう。しかし、何か少しでも変な行動を見せたらすぐに撃つと思え」
「くししし、怖い、怖い、貴方の師匠も一度火がつくと止められないタイプだけど、もう少し冷静に物事を判断する人よ。そこらへんは習わなかった?」
「う、うるさい!師匠と私は今はもう関係はない!」
「はいはい、もう落ち着いたかしら?あ、そうだもしよければお姫様を探してあげましょうか?」
「本当か」
「ええ、すぐに見つかるわ。何といっても、ここは私の家同然なのだから」
「そうしてもらえると助かる」
「ええ、カウスト聞いていたわね、さっき私たちの横を通り過ぎたあの女の子を探してきなさい」
「承知いたしました」
カウストと呼ばれた、さっきからずっとサラの右後ろに立っていた初老で紳士風の服装をした男性が他に後ろをついていた若い男たちに指示を出し始めた。
「やぁ、サラもしかして君が探しているのはこのお姫様のことかな?」
「あら、ヴェノム貴方いつ来ていたの?声を掛けてくれれば良かったのに」
突然、現れた男に俺は見覚えがあった、嫌なことに。最初に俺を襲撃してきた、七英雄の一人だ。その顔は忘れたくても忘れられないだろう。
「いやぁ、まさに君を探していたところだったんだけど、ちょうどその時偶然姫様と会ってね。事情を聞いてね、君に会う前にレイル君に会いたくなって、そのついでに姫様の護衛をしたってわけさ。久しぶりだね、レイル君会いたかったよ」
「俺はあんまり会いたくなかったけどな、でもジェシカをここまで連れてきてくれたことは感謝する」
「どういたしまして」
「姫様!」
「セレナ・・・私、すいませんでした。勝手な真似をして」
「いえ、いいのですよ。私もつい強く言いすぎてしまいました。申し訳ありません」
「なにはともあれ一件落着ってわけね。なぁんだ、つまんない」
「いいじゃないのさ、サラ」
「くししし、まぁね」
「所で、どうしてあんたは俺に会いたかったんだ?」
「ん?いやね、君にお願いしたいことがあったのさ。君は城の入口で僕とサラの二人を相手に君の仲間が二人戦いを挑んできたときの事を覚えているかい?」
「いや、なんのことか・・・もしかして、俺とジェシカを逃がすためにあの二人はお前らと戦ったのか」
「どうやら、覚えていないようだね。まぁ、その通りなのさ。しかし、結果は運悪くというべきか引き分け気がつけば隙をついて逃げられる始末でね、最初は君たちと合流したのかと思ったけど、姫様に話を聞けばどうやらそうじゃないっていうじゃないか」
「おい・・・いまなんて」
「だから、彼らに逃げられて・・・」
「じゃあ、あいつらは生きてるんだな!」
「そうなるね。僕らとしては悔しい限りだけど」
「そうか・・・よかった」
グランとシェリルが生きていた。それだけですごく嬉しい気持ちになった。もしかしたら考えたくは無いことも考えていたから。
「そこでだ、君に頼みたいことがあるのさ」
「なんだ?せっかく、ジェシカを助けてくれたんだ。それくらいは聞こう」
「もしも、この先の旅で彼らに会ったとしたら、その時は僕らが再戦を望んでいることを伝えてほしい」
「なんだ?そんなことでいいのか。それなら承った。会ったら必ず伝えるよ」
「よろしく頼むよ。さぁ!話はここまでにしよう。いつまでも敵同士が慣れ合ってるのはいささかまずい、今回は戦わないけど、次に会ったときはまた敵同士だろう、せいぜい平和なこの時間を大事にすることだね。行こう、サラ話があるのさ」
「分かったわぁ、名残り惜しいけどまたね、坊やたち、そうだ、せっかくこの街に来たんだから楽しんでいってね」
「お言葉に甘えて、まぁ女性陣もいるんでほどほどに」
「うーん、それもそうね。でも、もしかしたらセレナにも、お姫様にもいい経験にはなるかもよ」
「余計なお世話だ。とっとと、行け」
「はいはい、もうツンデレさんなんだから」
「う、うるさい!」
「おや、セレナじゃないか、そうか今はレイル君たちと一緒にいるのか、今後は君も敵だな。いやいや厄介なのさ」
「う、うるさい・・・です」
「じゃあ、改めて・・・」
「あの、カッツェ、ありがとうございました」
「どういたしまして、姫様」
「今は敵かもしれませんが、いつか貴方たち共また同じ道を歩めることを少しだけ望んでいます。また会いましょう」
「・・・・」
その言葉には何も返すことなく、そのまま二人は去って行った。確かに、ジェシカの言うように今は敵かもしれないが、決して悪い奴らじゃないかもしれない。もしかしたら・・・いや、少し考えすぎか。
「レイル、レイルにも迷惑をかけてしまいました。それで私・・・」
「いや、いいよ。大丈夫だ、それより無事でよかった」
そう言って、ジェシカの肩に触れようとすると、明らかに拒絶するかのような反応を見せて、顔を真っ赤にした。
「お、おいどうした?」
「い、いえ・・・なんでも・・・ないです」
「貴様、姫様に何をした!」
「い、いや何もしてないぞ!」
「あれ、旦那?旦那じゃないですか、お久しぶりですね。なんだ、ここに来てるんならうちの店にまた寄ってくれればよかったのに新しい子入ってますぜ、おやもうひっかけ済みですかい、こりゃあ出遅れたな。旦那今夜は頼んしんでくだせぇな」
最悪なタイミングで、嫌な奴に出会ってしまった。以前、ゴルドーさんに無理やり連れて来られた時に無理やり入らされた店のオーナーだった。やけにしつこく絡んでくるので覚えていた。
「おい・・・レイル、今のは一体どういうことなのかしっかり説明してもらおうか」
「い、いや・・・これはだな、ハルト、助けてくれー」
「自業自得ってやつだね」
「・・・レイル、不謹慎ですよ」
「お、お前らな!誤解だって言って・・・」
「ええい、問答無用!貴様の心臓貫いてくれるわ!」
「うぉおおおおおおおお!」
その後、一時間ほどセレナに追い回されることになり、ジェシカとハルトに再会する頃には俺自身ボロボロになっていたのは言うまでもないかもしれない。
・
それから、更に一時間ほどの間街の片隅にある店で食べ物を食べた。なぜか、全額俺持ちになったのは納得がいかなかったが。にしても、久しぶりに第一区画の街の中を歩いたが改めて周りを見渡すと何というか、華やかに着飾った女性から、ボロボロで先も見えないような老人が道端に座っていたり、それでもなんとか今日を生きてるこいつらを見て、自分たちがどれだけ裕福な生活をしてきたのか、そしてこの大陸の現実を見たような気がした。それに、何よりも辛かったのは、この街にいる奴らは心の底から笑っているように見えなかった。それが余計心を締めつけた。
「私、ずっと考えているんです」
「何をだ?」
食事の席で隣に座ったジェシカが唐突に話しかけてきた。
「もしも、鍵を見つけることができたとして、それで世界がなんとかいい方向に向かうことになるとして、その時もしかしたら、国の王位の座につくことになるかもしれません。その時、この街の人たちも私は助けることができるのかどうか」
「それはちょっと大げさすぎるかもな。それに少し背伸びをしているように見える。いいか、人間にできることなんて実際ちっぽけなことだ、でもその小さな積み重ねがやがて大きくなったとき、もしかしたらこの街を助けることもできるかもな」
「はい・・・そうですね」
ジェシカが俺の言ったことをどういう風に考えているかは分からないが、きっとこいつなら大丈夫だろう。今はそんな気がした。
・
そして、門が開く時間になり、ようやく第一区画から出ることができ、元いた門の前にこれた。
「ふぅ、やっと戻ってこれたな。一時は死ぬかもしれないと思ったが生きてて良かったぜ」
「そんな簡単に死なれても困るだろ、僕らが」
「それもそうか」
「とにかく、改めて第二区画に行こう。そもそもの目的地はそこなんだから」
「そうだな。二人も大丈夫か?」
「ええ、お腹が一杯すぎて、ちょっと動きづらいですが大丈夫です」
「私は大丈夫だ。今度は姫様がどこにも行かないように私が見ていよう」
「わ、私だっていつもそうしているわけではありませんよ!セレナ」
「分かっていますけど、万が一何か危険が無いとも限りません。なので、その護衛も兼ねてですよ」
「それなら、お願いしますね。セレナ」
「はい、姫様!」
「どうやら、大丈夫そうだな。よし、行くぞ」
こうして、四人の足並み揃えて第二区画〈楽園〉に行くことになった。
歩いている最中ずっと目に入ってくる街並みにきっと俺だけじゃなく四人全員が違和感を感じたことだろう。第一区画から見ると高台の位置に第二区画があるため少し急な坂を歩くことになったのだが坂の角度が緩やかになっていくにつれて、街並が豪華絢爛に変わっていき、道を歩く人々の服装も変わっていった。
少し上に別の区画があるというだけで、こうも違うのかと、俺はそう感じた。ふと、ジェシカを横目に見るとすごく不機嫌そうな顔をしているのが見えた、しかしさっきから言いたいことを押し殺すかのように黙々と歩いていた。
第一と第二区画の間は境界線が無くいつの間にか街並みが変わっていれば第二区画だと以前ゴルドーさんに教えてもらったんだっけな。
あの時はそこまで意識はしなかったが、見えない境界線が見えた、そんな気がした。
「よし、着いたな。ここが第二区画の中央広場だ」
中心に純金で出来た、噴水があり、周りで子供たちが遊んでいた。
「レイル・・・もう我慢できないのですが」
「言ったろ。我慢だ、まずは現実を見ること、いずれチャンスはあるさ」
「しかし、あれはなんですか、子供たちまであんなこと」
「確かに、あまりにもむごすぎる」
「だから、僕はここに来たくなかったんだ」
俺たちの、目の前に広がる光景はただただ悲惨な物だった。豪華に着飾った夫人や子供が何の服も来ていない人間に首輪をつけてまるでおもちゃのように扱っているのだ。
「おほほほほ、楽しそうですわね、坊や」
「うん、でも、ママーこいつもう飽きちゃった僕新しい奴隷 (おもちゃ)がほしいなー」
「そうね、そろそろ奴隷落札が始まる事だから、新しいのを買いましょうか。こんな使えないゴミは早く捨てましょう」
「うん、でもその前にほら、お前はゴミになるんだ!どうせ死ぬならおもちゃのまま死ねるようにしてやるから光栄に思えよ!」
「は・・・はい、ありがたきしあわ・・・ぐごごごごごお!」
子供は何の迷いもなく男を、噴水の水の中に入れ苦しむ姿を眺め笑っていた。
そして、それを見ていた周りの人たちも笑っている。
いったい何なんだこれは、知っていたが、これは何度見ても耐え難い苦痛であった。基本的に、ほとんどの人間はまずこの第二区画まで上がってくることはない、商人の間でもここに仕事に来る奴は死ぬも同然だと言うらしい、その意味がよく分かる。
「こら、そこまでにしなさい、噴水が汚れてしまったらどうするの、いいわ今からそのまま捨ててきましょ」
「はーい、ちぇ最後の最後まで役に立たないんだからさ、ほんとできそこないの奴隷だな」
更に、その近くを歩いている二人組の男も耳を疑うような話をしている。
「実は、前回あった奴隷落札で落とした奴隷がもう使い物にならなくなりましてな」
「ほう、それはとんだハズレでしたな」
「そうなんですよ。家事を失敗したので、ちょっと大きいハンマーで頭を叩いただけで、動かなくなるのだから、あれは不良品でしたな」
「まったくですな。次はもっと頑丈な奴隷にすべきでしょう」
「最近は、やわなのばっかりですからな。いいのがいるといいのですが」
自然と、拳を強く握っている自分がいるのには気がついていたが、ジェシカにああ言った手前、何も手が出せなかった。
「悔しいです・・・何も、何もできない自分が」
「行くぞ、これで十分だろ」
「レイル・・・また私は貴方に謝らなければなりません」
「おい・・まさか」
そういうと、ジェシカはものすごい形相でその子供に向かって歩いていく。
「やめろ!馬鹿、ここで騒ぎを起こしたら・・・」
「起こしたら・・・なんだと言うんです。いい加減にしてください、そんなことどうでもいいでしょう」
低く、殺意のこもった、普段のジェシカならありえないような声を出して、怒りをあらわにしていた。
それでも、彼女を止めるべきだと頭ではわかっていたが、それ以上止めることができなかった。
それは後ろの二人も同じだった。そして、ただ茫然と歩いていくジェシカを見ていることしかできなかった。
しかし、一人だけ、ジェシカに近づく影があった。その影は近づくと服の袖を引っ張ってジェシカを止めた。
「なんですか!止めないでと言って・・・ってあら、子供?」
ジェシカの目の前にいたのは、八歳くらいの女の子だろうか、紫色の小さなゴシックドレスを身に纏い、もう片方の手には体くらいある大きな本を持っていた。
「だめ・・・フランジェシカ、貴方はここで騒ぐことはできない」
少女は冷静にそう言った。
「貴方は一体・・・」
突然現れた、少女に戸惑いながらもジェシカはその場に足を止めた。
「ひ!紫血の魔女だ!ち、近寄るな君が悪い」
その声に広場にいた貴族たち全員が顔を青くしたのが分かった。どうやらこの少女はよほどに嫌われた存在らしい。
「そ、そういえば坊やそろそろ、お勉強のお時間よ。さ、お家に帰りましょ」
「う、うん・・・」
気がつくと広場には俺たち四人と少女の五人だけが残っていて後は誰も残っていなかった。
「これは一体・・・今あいつらは、この少女の事を紫地の魔女と呼んだ。この女の子にどんな力が・・・」
「おい、ジェシカ、少しは落ち着いたか?」
「え、ええ・・・でも・・・どうして」
「お嬢ちゃん、ありがとうな。このお姉ちゃんの事止めてくれて」
「礼には及ばない。レイルファントム、私はするべき事をしただけ」
「どうして・・・俺の名前を」
「知っている、貴方たちの事は。私の名前はコトミ、ここに居る人たちはみんな紫血の魔女と呼ぶ、別にどちらで呼ばれても構わない」
「じゃあ、コトミどうして俺たちの事を知っているんだ?」
「その前に、彼女を止めた報酬をもらうのが先」
「へ?報酬?」
「そう、私はお姫様抱っこを所望する」
このトンデモ少女に出会ったことをきっかけにここでの俺たちの物語は大きく歯車を動かすことになっていった。