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ロストオブギルティ  作者: 講和 淵衝
パンドラの棺編
7/11

~パンドラの棺編~第六話

いよいよ、梅雨が本格的になってきたように思います。読者の方はどうお過ごしですか?僕は、ちょっと憂鬱かな。そんな感じでこんにちわ講和淵衝です。

気が付けば、第六話になりました。今回は書きたいことが本当に多めで随分長くなってしまった気がします。

ここまで、長いのも本当に久しぶり、腕がちょっと疲れました(笑)

さて、本題に入りましょうか。

第六話です

里に入り祭りに参加することになったレイルとフランジェシカ、そんな二人とラインハルトの前にミカエラと名乗る少女が現れます。

一体彼女は何者なのか?そして、レイルたちは無事鍵を手にすることができるのかいろんな人間の想いと感情が交差するそんな第六話です。

冒険は常に始まりの連続のような気がするのは私だけでしょうか。

第六話いよいよ開幕です。

どうぞ、楽しんでいってください。

第六話 星の願いと龍の願い


少し、昔の事を思い出した。あれは私とハルトがまだ小さかった頃の話だ。

 里の隅にある〈星の丘〉に二人でお願い事をしにいこうと、夜家を抜け出して一緒に行くことになった。

 「まってよ!ハルト、あしはやいよぅ」

「きみが、おそいだけだ。ほら、もうすぐちょうじょうだよ」

 この頃は、いつでも、私はハルトの後ろにくっついて歩いていたっけ。みんなからは兄弟みたいだねって言われて確かにそれでも嬉しいけど私としてはあの頃からハルトの事が好きだったわけで、でも小さな私は恋人にはちょっと背伸びだったかな。

 「うわぁ!きれいだね。ハルト・・・」

「うん、ここからみえるほしはせかいでいちばんきれいなほしなんだって、とうさんがいってた」

 「ねぇ、なにかおねがいごとしようよ!」

「カトレア、おねがいごとっていうのはね、ながれぼしにするものなんだよ」

 「ぷー、それぐらいしってます!でもでも、あんなにきれいなおほしさまなんだよ!きっとかなえてくれるよ!」

 「いうだけなら、いいのかな」

「そうだよ!ハルトはどんなおねがいするの?」

 「うーん、ひみつかな」

「えー、おしえてよぅ!」

 「じゃあ、おおきくなったときぼくらがまだいっしょにいて、もういちどここにくることができたらおしえてあげる」

 「わかった、やくそくだよ!」

「うん、やくそくだ」

 それから、二人でお願い事をした。私はその時、大きくなったら星巫女になれますようにってお願いした。そして、もう一つ・・・

 そうして、その日から随分と時間が経ち、ハルトと私はお互い大人になった、今でも私はハルトの事が好き、ねぇハルトあなたは今どこにいるの?

                     ・

「それで、どういった理由で、ミカエラさんは声が出ないんですか?」

 「ふむ、それについてはわしも含め、どの〈星詠師スターリスト〉がお告げを聞いてもその答えはでなかったのじゃ。結局、ミカエラは声が出ないまま、〈龍流祭ドラゴニックフェスタ〉に出る星巫女はそこで、歌を歌うのが習わし、声が出なければ星巫女を務めることはできん、そこでフランジェシカ殿にやってはもらえんかのう」

 「大体の事情は分かりました。でも、部外者が関われるようなことでは、他に代役の子はいないんですか?」

 「それは・・・」

「星巫女になるには、三つの条件がある、まず星詠師の家庭に生まれなければならないということ」

 「ちょっと待て、この里の人間は全員が星詠師じゃないのか?」

「別に、そういうわけじゃないさ。時代が変わるにつれその役割を担う人間も少なくなった。そして、もう一つの条件が女性であること、これは当然といえば当然のことだが女性に限るとなると、その幅は狭くなる。そして、最後の一つは年齢だ。星巫女には二十一歳の年でなければ駄目だ、これは災いの際に怒りを鎮めた巫女の年齢が二十一だだったことになぞらえてだ」

 「なるほど、それで代わりになる人間が今、この里にいないってことだな」

「そうなる、だから長老は、彼女に任せてはどうかと言っているけど、僕は反対だ」

 「じゃが、お告げの通りならば、これも運命かもしれん。じゃから、わしはこの人に頼むというておるのじゃ」

 「そうだな。長老の言う通りだ。ハルト君、現状祭りを中止にするわけには行かないだろうし、俺たちが来たことに意味があるとすれば、そうするべきなんじゃないかと俺は思う」 

 「でも、それでも・・・ぼくは・・・」

「ちょっと待ってください。みなさん、ミカエラさんが話したいことがあるって」

 「どういうことだい。ミカエラは喋れないって・・・それは、本なのか?」

―初めまして、村の外の人、挨拶が遅れました。ミカエラ・スーラと言います。そして、久しぶりだね。ハルト―

 本に文字が浮かび上がった。どうやら、彼女は本に魔力で、文字を書いているようだった。

 「初めまして、レイルファントムです。こっちは、フランジェシカ」

「よろしくね、ミカエラちゃん」

―レイルさんと、フランちゃんですね、よろしくです―

 「ミカエラ・・・君は、どうして声が出なくなってしまったんだ?」

―それは、私にもよくわからないの。お祭りも近いし、歌の練習をしようと思って、声を出そうとしたら、突然でなくなってしまったの―

 「そんなことが・・・なんとかならないのか・・・」

―ハルト、私ねフランちゃんに星巫女をお願いしようと思う。お告げの事もあるし、これはきっと運命なのよ―

 「何を言っているんだ!ミカエラ、星巫女になるのは君の夢だったじゃないか!こんなくだらない運命を認めてあきらめるっていうのか!」

―それは、私だって、つらいよ。とっても、でも分かって。―

 「分からないさ!どうして、君は簡単に夢を諦める!どうして・・・」

ミカエラは、ハルトの頬を平手打ちしていた。頬に涙を流し、とてもつらそうな顔をしていた。

―分からないのはハルトのほうだよ!ばか!―

「待て、ミカエラ!」

 ミカエラは、部屋を飛び出してしまった。

「あの、私、ミカエラちゃんの様子見てきます!」

 「ああ、頼んだ。そばにいてやってくれ」

「はい!」

 ジェシカも、ミカエラを追って部屋を飛び出しいく。そして、その後ろを追うようにハルトも部屋を出ようとした。

 「おい、どこにいくつもりだ。ハルト君」

「別に、どこでもいいだろう。少し、一人にさせてくれ・・・」

 「そういうわけにはいかないな。少し二人で話でもしないか」

「断るよ。君と話すことなんてなにもないさ」

 「俺には、少しだけある。だから、俺の話を聞いてくれるだけでいいから。ちょっと外に出よう」

 「どんなに断っても、ついてきそうですね。厄介な人だ」

「よく言われるよ。では長老、少しお時間をいただきますね」

 「よかろう。これはお主たちで解決するべきじゃろう。年寄りは手をださんわい」

「すみません。それじゃあ、行こうか」

 「・・・」

                     ・

「待ってください!ミカエラちゃん!」

 私は、なんとかやっとの思いで、ミカエラに追いついた。思ったより足が速くて追いついたときには倒れこみたくなるくらいに、息が上がっていた。

―大丈夫ですか?―

 「う、うん。大丈夫ですよ・・・それより、だいぶ里の外れに来てしまいましたね。ここはどこなんですか?」

―ここは・・・星の丘ってみんながよんでいる場所です。ちょっと丘の上で休みましょう―

 「はい、それにしても綺麗な場所ですね。つい、うっとりしてしまいます」

―はい、私もお気に入りの場所です。小さい頃からなにかあれば、ハルトと一緒に来ていましたから―

 「ミカエラちゃんは、ハルト君の事が大好きなんですね」

―うん、普段はちょっと固いところもあるけど、本当はすごく優しいんだ―

 「うーん、私にはちょっと分からないです。会ってからずっといじわるされてますから」

 ―それはきっと、フランちゃんがハルトに無いものを持っているからだと思います―

「それって?」

―ふふ、まず先に座りましょうか―

丘の上に着くと、二人並んで座った。丘の上からだと里全体が一望できた。

―フランちゃんはまっすぐなんです。きっと、ハルトが出会ってきたどんな人たちよりも、そしてそれは自分が一番なりたい姿なんです―

 「うーん、私は自分の事をそんな風に思ったことはありません。私はこれが普通だと思ってきましたから」

―フランちゃんは、身分の高い出なんですか?―

「そうですね。レイルにはあまり人には言うなと言われているのですが、ミカエラちゃんならいいでしょう。私、こうみえて一国の姫なんです」

ーお姫様!そうなんだ!どおりで、上品でまっすぐな人だと思った。いいなぁ、うらやましい。フランちゃんは、可愛いしそれでいてお姫様だよ。私も、お姫様だったらハルトを振り向かせることもできたのかな―

 「そんな、私はたいしたことはないです!私なんて、この旅で初めて外に出たくらいで、世間のことなんてなんも分からないです。だから、ここまでレイルにもいろんな人にも迷惑をかけてしまったと思います。それにくらべたら、ミカエラちゃんはうらやましいですよ」

―うらやましい?そんなこと初めて言われたよ―

「えー、そうですか?私なんかよりも、ずっと可愛いですし、それに常識は知っていますし」

―でも、今の私なんてハルトに分かってもらえないし、あんなことしたら嫌われちゃったよね―

「そんなことはないと思いますよ」

―え、どうして?―          

「私、先ほども、言いましたけど、ハルト君にはいじわるされっぱなしで、あんなにひどい人みたことないくらいでした。でも、そんな私から見ても、あの時の彼は優しく思いやりがあるように見えました。あの場の誰よりも、ミカエラちゃんの事を考えていました。ミカエラちゃんがあの時怒ってしまった気持ちも分かります。でも、それと同じくらいハルト君の気持ちも分かってしまったんです」

―ハルトの気持ち・・・―

「はい、私が代わりに星巫女になることが仕方のないことだということは彼自身も分かっていたと思います。分かっていても、大好きな人の夢だから自分も本気で叶えてあげたいと思っていたのではないでしょうか」

―ハルトが私の事を好き?そんなこと―

「ありますよ。ミカエラちゃんを見ていたハルト君の目は恋をしている目でした。私はそう思ったのですが、違うのですか?」

―ううん、きっとフランちゃんが思っている通りだと思う。私が気付いてなかったの、ありがとう―

「そんな、お礼なんていいんです。自信を持ってください。もしかしたら、お祭りまでに声が戻るかもしれないですし!」

―きっとそれはないと思う。なんとなく分かるんだ。自分の事だし、だから本当にお願いするね、私の代わりに星巫女をやってほしいんだ―

 「そこまで言われては仕方がないですね。分かりました、ほかならぬミカエラちゃんの為です」

―ありがとう。あ、そうだ、フランちゃんはどうなの?―

「はて?どうとは?」

―好きな人、いないの?お見合いとか―

「うーん、私まだ十七ですし、そういった話はしたことがなかったので」

―え、フランちゃんってまだ十七歳なの!?私と同じくらいかと思った、すっごい大人びてるんだもん―

「そういえば、ハルト君が言っていましたね。星巫女は二十一にならないと駄目だって、ということはミカエラちゃんはお姉さんなんですね。あれ、でもそうなると私にはなおのこと星巫女はむりなのでは?」

―うーん、星のお告げっていうのはそういったルールよりも大きい力を持っているって私たちは思っているし、いいんじゃないかな?それよりもだよ、恋をしたことがないなんて女の子としてはだめだめだよ!そうだ、レイル君とかどうなの?ハルトにはかなわないけど、かっこいいし―

「ああ、それは・・・」

                        ・

 「よし、ここら辺にしようか」

俺と、ハルトは人のいない川辺に来ていた。どうにか、ハルトを連れ出すことはできたが、さて、どうするか。

 「それで、話っていうのはなんですか」

「おお、ちょっと興味があるかな?」

 「いえ、早く聞いて一人になりたいだけです」

「そうだな。じゃあ、さっそく少し話をしようか。俺はジェシカと出会う前、ギルドに入っていた、そこでリーダーもしていてな。ギルドの仕事としては決して、褒められたものではなかったが人に依頼されて殺しをしていた」

「殺しを・・・とても、そんな風には見えませんけど」

 「ジェシカも、そのことは知らない。だから、あいつはきっと気の優しいお兄さんかなんかだと思っているだろうな。でも、そんなことはない、子供だろうが女性だろうが依頼されれば誰でも殺してきた。それが、俺たちにとって生きる活路であり、すべだったんだ」

「確かに、生きるには仕方がないことかもしれませんね」

 「ああ、でも俺はそのせいで、大切なものが何なのか分からなくなっていた。人の脆さ、残虐さ、醜さ、裏の裏の部分を沢山見た、人が信用できないくらいに」

 「人とはそういうものです。結局は、まっすぐに生きることなんてできないんです」

「俺も、ずっとそう思ってた。結局のところ、善意だけで人は生きれない。でも、そんな考えをあいつは、ジェシカは全否定しやがった」

 「あの人は、まっすぐというよりはそれしかしらない無知なだけだと思いますが」

「俺も、最初はそう思ってた、でもこの大陸に来た時、あいつは俺にこの世界の事について聞いてきた。あいつは、外に出るまでこの世界にはいいやつしかいないと思っていた。でも、いざ出てみたら世の中には悪い奴だっていた。その時、ジェシカにはこの世界が嫌な世界に見ていた。でも、その反面、優しい人もいて良い世界だとも思った。どっちが正しい世界なのかって聞いてきたんだよ。どっち、が正解だとハルト君なら考える?」

 「簡単ですよ。どちらも正しい、違いますか?」

「ああ、そうだな。でも、あいつはそれでも満足はしてなかった。それが分かったからこそ、もっと前に進もうとした。俺はその時、ジェシカは無知とかそういうんじゃなくて誰よりも、考えて悩んでいるんだなと思ったんだ。それがあいつだった」

 「なるほど、僕も少し、見誤っていたかもしれません」

「そして、俺はもう一人、ジェシカと同じくらいに真っ直ぐな奴を知っている。それが君だ、ハルト君」

 「僕が?何を言っているんですか。僕は彼女とは違います。真っ直ぐでもなければ正直でもない」

 「そうか?そう思いたいだけなんじゃないのか?俺はミカエラさんの為に、抗議していたハルト君をみてそう思ったけどな」

 「別に・・・研究者の性分で嫌だっただけです。簡単に諦める人が嫌いなだけで」

「好きなんだろ。彼女のこと」

 「いきなりですね」

「いいから。どうなんだよ?」

 「・・・好きですよ」

「そうだろうな。だからこそ、あの時必死に、諦めるなって言ったんだろ。俺は、ジェシカとハルト君は似ていると思う、でも一つだけ違う所があると思った」

 「違うことろ・・・」

「それは、あいつが自分に嘘をついていないことだ。君は、自分に嘘をついている。嘘をつくのは簡単だ。俺も、自分にずっと嘘をついてきたからな。でも、今のままだと後悔するぞ」

 「残念ですね。もう、後悔してますよ」

「なに、今からでも謝ればいいさ。それで、自分の想いをぶつけてこい、絶対うまくいくさ」

 「僕の負け・・・ですかね、貴方は僕が思っていたよりも、すごい人だ」

「そんなに、すごくはないさ。ハルト君よりちょっとだけ、かっこいい生き方をしっているだけだよ」

 「ハルト、でいいですよ。僕も、レイルって呼びます」

「お、嬉しいね。じゃあ、そろそろ戻るか、あの二人も戻っているかもしれないしな、ハルト」

 「そうですね、行きますか、レイル」

何とかなったな。それにしても、俺もレイルファントムの名前がすっかり板についちまった。俺こそ、本当の嘘つきだ。

                      ・

 長老の家の前に戻ってくると、ちょうどジェシカ、ミカエラと鉢合わせた。

「お、ちょうどよかった。二人も今戻ってきたんだな」

 「はい、なんですか、お二人もお話でも?」

「まあ、男同士の話をな、楽しかったぜ。なあ、ハルト?」

 「ええ、まさかレイルがこんな人だとは思っていませんでしたし」

―だいぶ仲良くなったんだね。二人とも―

「ええ、そうだ。ハルトからミカエラさんに話があるそうですよ」

 「ちょっと待ってください。まだ心の準備が・・・」

「いいから、いましかないぞ」

 「レイル、貴方という人は・・・」

―ハルト、私もね・・・話が―

「どうやら、俺とジェシカはお邪魔虫みたいだな、先に中に入っているよ。いくぞ、ジェシカ」

 「え、でも、私お二人の話が気になりますよ」

「いいから。いくぞ」

 ジェシカを強引に連れて、屋敷の中に入っていた。ジェシカのこういう所は、きっちりと言い聞かせないとかもしれないな。

                          ・

「なぁ、ミカエラ、話が・・・あるんだ」

―うん、私もあるよ。でも、先に聞くよ―

 「僕は、さっき君に諦めるなって言った。それは、本当に心の底からだった。小さい頃から君をずっと隣で見ていたから、簡単に諦めてほしくなかったから」

―私はね、夢を好きに追うことのできたハルトが羨ましかった。だから、ハルトには私の気持ちなんて分からないと思ってた。でも、ハルトは誰よりも私の事を理解してくれてた、嬉しかったよ―

「ありがとう。でも、君に頬を叩かれて、そしてレイルに言われて気が付いた。僕は自分に嘘をついていただけだ。君に諦めるなと言ったのは、自分は逃げたと思いたくなかったから」

―そうだよ。やっと、気が付いた?私はあの日、ハルトが里を離れた日から私の中でハルトはずっと嘘つきだった。辛かったんだよ―

 「ごめん。本当は別れを言おうとしたんだ。でも、言えなかった・・・その・・・」

―どうしたの?―

「その・・・き、君の事が好きだったから・・・」

―ハルト・・・―

 「もしも、あの時別れを言ってしまったら、僕は君とそのまま終わるような気がして・・・」

怖かった。君に嫌われてしまうのが、振られてしまうのが。

―馬鹿ね、ハルトあれだけ一緒にいて気が付かなかったの?―

 「え?」

―私もね、ハルトのこと・・・大好きだよ―

僕と彼女は口づけを交わした。僕たちはこの日、永久の愛を誓った。

                     ・

「もう、どうしてですか。せっかく二人のいい所を見れるかもしれなかったんですよ!」

 「はぁ、ジェシカ、さすがにそれは空気を読めなさすぎだ」

「空気を読むってなんですか?空気って本なんですか?」

 「違う、その場の雰囲気を察しろと言っているんだ。お前、もしも自分が告白するような時に、大臣とかにそばにいてほしいと思うのか?」

 「そんなの、思うわけないじゃないですか!恥ずかしいですよ」

「そうだろ。お前はそういうことをしようとしたんだ」

 「はて、そう言われてみればそうですね。もう、初めからそういてくださいよ」

「普通は言われなくても分かるだろうよ」

 「分かりませんよ。そんなことより、二人ともうまくいきましたかね」

「さあな、うまくいくといいが」

 「ふぉふぉふぉ、若いというのはいいものじゃのう」

「あれ、長老いつのまに?」

 「いつのまにって、ここは長老の家だろうが本人がいておかしいのか?」

「あ、そうでした!すみません、二人の事が気になってしまって気づきませんでした」

 「よいよい、気にしませんぞ。それも青春じゃ」

「俺からも、すみません。長老」

 「よいよい、それよりも、どうですかな?意志は固まったでしょうかの?」

「はい、ミカエラちゃんからも頼まれました。私、やります!」

「ありがとう。では、早速明日から準備を始めましょうかの。〈龍流祭〉まであと一週間、レイル殿も手伝っていただけるかな?」

 「もちろん、全身全霊で手伝わせていただきます」

「すまぬの。まあ、今日の所は休んでくだされ。ちょうど、二人も戻ってきたようですしの」

「お、戻ってきたか。なんとか、仲直りできたようだな」

 「ああ、レイルのおかげかな」

「大げさだな。大事にしてやれよ」

 「もちろんだ。もう、これ以上嘘をつくのはやめだ」

―もう、約束だよ。ダーリン―

「ああ、約束だ」

 「おいおい、ダーリンってそれは気が早すぎじゃないのか?」

「そんなことはないさ」

 「だといいが」

「あの、ということはお二人はうまくいったのですか?」

―うん、そうだよ。フランちゃんもありがとね―

 「よかったです!」

「僕も、君には感謝しないとかな」

 「あら、悪口でも言われるかと思いました」

「まあ、しいていうなら君は女性のわりにはデリカシーに欠けているところもあるからな。そこは直さないとかもね」

 「もう、すぐそうなんですから!」

ハハハハハハ!それから、四人でお腹が痛くなるくらいに笑いあった。

                      ・

次の日の朝、さっそくジェシカは、ミカエラ指導の下歌の練習が始まり、ハルトと俺は設営の準備を手伝った。

 長老から、里の皆に今回の経緯が話された。最初はみんな不安そうな顔をしていたが俺たちの必死の説得になんとか了承してくれた。それから、一週間の間、ジェシカは歌、俺は準備と、とても充実した日々を過ごした。

 そして、祭り当日がやってきた。

「いよいよだな」

 「はい、衣装を着たせいでしょうか。すごく緊張してきました」

―大丈夫だよ。フランちゃん、とっても可愛いし、練習もばっちりだったもん自信を持って―

 「ありがとうございます。本当なら、この衣装を着るのも、歌うのもミカエラちゃんだったはずなのに・・・」

―いいんだ。ここまで、きて文句なんか言わないよ。応援してるよ―

「そうだよ。ここまで来たんだ。君が頑張ってくれないと、僕とレイルが頑張ったのも無駄になるかもしれないだろ」

 「それも、そうですね。私、頑張ります!」

「よし、その意気だ。さて、そろそろか」

 お告げの通りなら、このまま龍が目覚めてくれるはず。少しの不安と、興奮の中、〈龍流祭ドラゴニックフェスタ〉は静かに始まった。

 「今宵は、我が里の神聖なる祭り〈龍流祭〉の日じゃ!はるか昔のこの日、この里を救い龍となった巫女様に心よりの感謝を伝えるため、いっちょ、派手にやろうではないか」

 うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!と群衆から歓声が上がり、祭りは盛り上がり始めた。

 いたるところで、食事の屋台が賑わい、子供から大人まで、歌えや騒げの状態だった。

それから、一時間ほど、俺たち四人もその騒ぎの中に入り、騒いだ。俺はそれがすごく嬉しかった。これまでの嫌なこと辛いことを忘れられたような気がして。

 そして、一時間後、祭りの盛り上がりもマックスになると、いよいよメインイベントである〈スターへの鎮魂歌レクイエム〉が始まった。

 「さあ、皆の者!盛り上がるのも良いが、少しの間だけ静かにしてほしい!

これより、〈星への鎮魂歌〉を始める」

 「いよいよだな」

「ああ、今はジェシカを信じるしかないが、頼んだぞ。ジェシカ」

 「今宵の星巫女よ!星の祭壇に上がるがいい!」

「はい!」

 長老に、促され、ジェシカは祭壇の上に立った。そして、さっきまで、自分の声も聞こえないくらいだったその場にぴんと糸を張ったかのような静寂が訪れた。

 そして、歌が始まる。


星よ、永遠にその光が続くのであれば、我らを照らすだけでなく、我らが為に守り神となったかの巫女を讃える光にもなれ・・・


ジェシカの歌をその時、初めて聞いた。身体を透き通るくらいに綺麗な声で、心にしみわたるようだった。

 「綺麗・・・」

「え?ミカエラ、声が・・・」

 「あ・・・本当だ、ハルト・・・!」

ミカエラは思わず、ハルトに抱き付いていた。

 「本当だ。よかったじゃないか、ハルト!」

「ああ、良かった・・・本当に良かった・・・」

 「きっと、あの子の声が私の心を癒してくれたんだと思う」

「戻ってきたら、礼を言わないとな、ハルト」

 「ああ、今度ばかしはね」

「え・・・あれは、ねえ二人とも!あれをみて!」

 「あれは・・・龍か?」

空のはるか先に龍が現れた。その直後、地を揺らすほどの咆哮が里に響いた。

 「な、なんだ!」

「きゃあ!」

 「落ち着くんだ!これは・・あの龍からか?」

里の全員がざわめき始めた。しかし、一人だけその咆哮を気にもしないものがいた。

 「なんで、ジェシカはまだ歌を歌っているんだ・・・」

「フランちゃん、もしかして気が付いていないの?」

 「いや、なんだか、違う気がするが・・・」

どういうことだ?まるで、何かにずっと呼びかけているようなそんな風に歌っているように見えるが。

 そんなことを考えていると先ほどまで、遠くにいた龍が近づいてきていた。まるで、ジェシカに導かれるかのように。

 龍は静かに、ジェシカの前に降り立った。

「そなたか、我を呼ぶのは」

 「はい、この地を守りし、〈守護龍クレスティア〉よ」

「お主・・・そうか、我の守護する鍵と、その地図を求めておるのか」

 「そうです、過去に私があなたに預けたものです」

「そうか、ついにこの時がきたのだな」

 「邪悪なる者の復活、悪しき世界の誕生、過去にあの方が予言したことが現実になろうとしています。再び目覚めることになった、今私は止めなければなりません」

 「よかろう、ならば我の役目はここまでだ・・・」

一体何を話しているのだろうか。ここからだと、ジェシカと龍が何を話しているのか分からなかった。

 「おい、レイル、まずいんじゃないのか」

「なんだ、ジェシカはあの龍と何を話しているんだ?」

 「おい、レイル、聞いているのか?レイル!」

「あ・・・わ、悪い」

 「はぁ・・・とにかく、彼女の所に行こう」

「そうだな」

 「ミカエラはここで待っていてくれ。何があるか分からないからな」

「う、うん・・・」

 俺とハルトはすぐ祭壇に向かった。祭壇の上まで来ると改めて龍の威圧感に圧倒されてしまう。

 「ほう、面白い来客じゃのう、蛇よ」

「何の事だ?悪いが俺には蛇なんて愛称はあったことがないぜ」

 「〈守護龍〉よ彼はまだ、完全な目覚めを遂げておりません。いまだ、各地の〈神話人形クラウンドール〉たちは真の覚醒を迎えていないのです。もちろん、それは私もですが」

 「ふん、そのようなことは我には関係のないことだ。だが、よかろう我が友の為、我が守護を解放しよう」

 「おい、いったいなんのことだ。ジェシカ!お前は一体・・・」

「今は、全てを知る時ではありません。貴方たちは鍵を探しなさい。そして、もう一つ貴方の最愛の友であった賢者ロキの残した遺物〈ロキレポート〉も集めるのです」

 「だから、なんのことだ!ロキってのは誰だ!」

「今は、知ることはできないのです。どうしても知りたければ思い出すのです。貴方が自ら失った記憶を」

 「俺が失った記憶・・・?」

「私も表に出ている時間はあまり残されていません。さあ、龍から鍵とそして地図を受け取りなさい」

 「ちょっと待ってくれ。君はフランジェシカじゃないな。誰だ、彼女を操っているのは」

 「それは、少し外れですよ。ラインハルト・エーゲル。私は言うなれば彼女自身、それゆえにこうして表に出てこれる」

 「分かった。とにかくこの状況には納得できないが、今の目的は鍵だ。貰い受けようか」

 「待て!レイル、罠かもしれないぞ」

「それでも、今はこうするしかないだろ」

 「・・・仕方がないのか」

「さぁ・・・受け取るがよい。手を掲げよ」

 レイルが龍の前に立ち、手を掲げると手の中が光り輝き、そこに鍵と地図が現れた。

「それが、お主らの求めるものだ。この先の鍵はその地図が導くだろう。・・・さぁ、我の役目はここまでだ。ようやく我も〈かの地〉に戻ることができよう。いずれ再び会いまみえよう、蛇よ」

 「だから、蛇じゃないんだけどな」

「・・・さらばだ」

 龍はそう言い残すと、空のかなたへと飛んで行った。龍の姿が見えなくなると、ジェシカは突然倒れこんだ。

 「おい!ジェシカ!」

「少々疲れてしまいました・・・やはり、短期間で力を使うのには無理があるようです・・・貴方も・・・きをつけ・・・」

 そう言い残し、完全にジェシカの意識は途切れたようだった。

「いったい何が怒ろうとしているんだ?」

 「分からない。とにかく彼女を下におろしたほうがいいんじゃないか?」

「あ、ああそうだな」

 「なんということじゃ・・・このようなことが・・・」

「すみません、長老こんなことになってしまって」

 「いや・・・まずは、その娘を休ませることじゃ。さあ、わしの家に行くがよい。わしもこの混乱を収めたらすぐに戻る」

 そういわれて、祭壇の下を見ると、里の人間たちがざわついているのにようやく気がついた。

 「さぁ、ゆくのじゃ・・・」

「はい・・・」

 龍とジェシカの謎の行動、俺自身も混乱しているのか事態はひとまずの収束を迎えた。

                    ・

それから、数日の間ジェシカはずっと眠り続けた。その間、俺とハルトそして長老の三人で龍の事や鍵の事について話し合った。

 結局のところ、結論は出なかった考えるよりも行動をする方が早いという判断に収まった感じだった。

 そして、三人の話がひと段落ついたころ、ジェシカは目を覚ました。

「ようやく、お目覚めか。気分はどうだ?」

 「ええ・・・だいぶ良くなりました。それにしても、どうも祭壇に上ってからの記憶が無いのです。いったい何があったのですか?」 

ここまで、あった出来事をまとめて説明した。ジェシカは時より、目を見開きながら信じられないという顔で話を聞いていた。

 「そんなことが・・・でも、私そんなことを言った記憶など一切ないのです」

「じゃあ〈神話人形〉とか〈ロキレポート〉とかそこらへんの言葉は何か知らないのか?」

 「分かりません・・・」

「あの時、君は間違いなく別人だった僕は君が誰かに操られているんじゃないかと考えたが違ったようだ。自分自身だと答えていたよ。別人格の可能性があるとして思い当る節はあるかい?」 

 「分かりません・・・」

「それじゃあ、何も前に・・・」

 「落ち着けハルト、ジェシカを責めても何にもならないだろ。とにかく、ジェシカも目を覚ましたことだし。明日には、里を出ることにする」

 「次の鍵を探しに行くのか?」

 「ああ、今の俺たちはそうやって前に進むしかないだろうしな」

「そうですね。記憶にはありませんが、この世界で何かが起ころうとしているのは間違いではありません。こんな時、セレナがいてくれたら心強いのですが・・・」

 「セレナってのは誰の事だ?」

「はい、私の城での唯一の友人で、特殊部隊の副隊長をしている女性で、私と同じくらいの歳の子なんですよ」

 「すごいな、そんな若い子が副隊長をしているなんて」

「彼女は優秀で、芯の強い子です」

 「どこかの誰かさんとは大違いだな」

「あら、失礼。貴方よりも真面目かと」

 「それだけ、しゃべることができたらもう十分だな」

「ええ、とっくに私は元気ですので」

 「おいおい、ハルトなりにジェシカの事を心配して言ってくれているんだ。ちょっとつっかかりすぎじゃないか」

 「彼が?まさかそんなことあるわけありません」

「そうだ。別に僕は心配しているわけじゃない」

 「そういうことにしておくさ。それより、言い忘れていたが世話になったな。ハルトがいなかったらここまで来ることはできなかった」

 「別に・・・」

「ありがとう」

 「僕は何もしちゃいないさ・・・こんな時間か、ミカエラに呼ばれていてね、失礼する」

 「そっか。あと一日はここに居るから何かあったら声を掛けてくれよ」

「・・・気が向いたら」

                     ・

  「あ、ハルト!どうだった?フランちゃんの様子は」

「随分と、元気そうだったよ。相変わらず」

 「そっか、じゃあ後で会いに行こうかな」

「僕は、本を読んでいるよ」

 「そういえば、ハルトはどうするの?あの二人についていくんでしょ?」

「ん?どういうことだい。まさか、僕がそんなことをするわけないだろ。研究も残っているし、それに里にはあまり居れないが君のそばには出来る限りいたいからね」

 「ハルト・・・でもいいの?レイル君たちと一緒に居た時の貴方は私には活き活きして見えたよ。ねえ、研究もいいけどもっと大事なことがあるんじゃない?」

 「・・・」

「私、二人の所に行ってくる。考えてみてね」

 そういって、ミカエラは外に出て行った。確かに言われてみれば、この数日間あの二人といて自分の事をもう一度見つめなおす機会にはなったかもしれない。

 でも、だからといって僕がここを離れるべきなのだろうか?彼ならレイルならどういう決断をするのだろうか。

 「そうか・・・そういうことか」

我ながら、くだらない発想が増えた気がする。たまにはそういうのもありかもしれない。

                ・

 次の日の朝、俺とジェシカは里の入口にいた。二週間近く、里にいたせいかここを離れるのは少し寂しい気がした。

 「長いこと、お世話になりました」

「よいよい、わしらもこの地で、お主たちの幸運を祈っておるよ。世界の為に頑張ってくるのじゃ」

 「はい、長老さま、ありがとうございました!このご恩は一生忘れません。長老も身体にはお気をつけて」

 「すまぬの。近い未来、お主が王国を治める日を期待しておるぞ」

「はい、必ず」

 「ありがとね、フランちゃん、フランちゃんのおかげで声も戻ってハルトとも、もっと仲良くなれた。もう、ハルトもお別れくらい言いに来ればいいのにね」

 「ハルトはハルトなりに照れくさいんだろ。あいつにもよろしく言っておいてくれ」

「ええ、もちろん」

 「その必要は・・・ない!」

「ハルト?」

 「どうした、ハルト、大丈夫か?」

「ああ・・・大丈夫だ。間に合ってよかった」

 「なんだよ。出迎えにきてくれたのか、ありがとう」

「いや・・・そうじゃない。そうだな、建前はいらない、僕も君たちについていく!」

 「え?」

「それって・・・」

 「ハルト・・・やっぱり・・・」

「そうか、お主も行くのか」

 「はい長老」

「どうしてだ?お前には研究があるだろうし、それにミカエラだって・・・」

 「研究ならいつでもできる。それに、僕はミカエラがずっと待っていてくれるのを信じている」

 「どうします、レイル?」

「あのハルトがここまで言っているんだ。もちろん、大歓迎さ!」

「ハルト、行ってらっしゃい・・・」

 「ああ、必ず帰ってくる。それまで、少しのお別れだ」

「うん、信じてる」

 「よし、じゃあ改めてよろしくなハルト、頼りにするぜ」

「ああ、彼女よりは役にたってみせるさ」

 「あら、それはどうすかね。ついてこられるかも心配です」

「君こそ・・・今はいいか、それよりよろしく、フラン」

 「どうする?ハルトのほうがずっと大人にみえるぜ?」

「もう・・・二人とも意地悪です。よろしくです、ハルトこれからは仲間ですね」

 「さあ、行こうか。まずは、地図にある第三大陸バスティーユだ」

「冒険か。我ながらわくわくする」

 「ここからまた始まるのですね。この気持ちドキドキです」

 こうして、二人あらため三人の冒険の幕が開くことになった。

               第六話終


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