~パンドラの棺編~第四話
第四話「嘘と真実」
「これはいったいどういうことですか!」
私は、城に戻ってくると、まっさきに、セルディ隊長のもとに詰め寄った。今朝、任務中に王の死という考えられない、知らせが届き、急いで戻ってきたのだ。
「落ち着けセレナ、私も気持ちは一緒だ」
「落ち着いてなどいられません!王が・・・王が死んだなんて・・・」
「俺も信じられん、だがこの目で確かに見た。軍人として、目の前の事実に目を背けることはできん」
「そんな・・・」
「しっかりしろ!セレナ・メイデン、今お前がすべきことは悲しむことではなく、真実を見つけることだ」
「真実を見つけることって」
「いいか、俺はこれから王宮会議に出る、これから国の方針と、軍の方針について話しあわれる、すでに各小隊は命を受けて動いていて、お前にも任務が来ている。それは王女の救出及び、誘拐犯の暗殺だ」
「王女の救出って、王女様は生きておられるのですか!」
「ああ、聞いた話によると、王女は王暗殺の首謀者たちに連れ去られたらしい」
「そんな、王だけではなく、王女を連れ去るなど、なんと非道な・・・」
心の底から、怒りが込み上げてきた。若くして、王直属の特殊部隊に入る事の出来た私は王とも親しかったが、それと同時に王女とも親交を持ち、王女の初めての親友になったのは私だった。
だからだろうか、本当に許せなかった。
「確かに、この話を聞くだけなら、その首謀者たちが悪いように見える、だが俺にはどうも真実が見えないんだ」
「真実なら、明確です!そいつらが姫を誘拐し、あげくに王を殺した」
「ああ、だがもしそれが信用できない男からの情報であるとするならば、お前はどうする?」
「信用ならない男?」
「ああ、そもそも王の死に際に立ち会ったのは誰だったと思う?」
「それは、七英雄の方々ではないのですか」
国の王宮を守るのは選ばれた兵士と七英雄の仕事であった。王を殺すほどの者であれば。それを阻止しようとしたのが七英雄だというのは分かりきっていた。
「確かに、その場には七英雄もいた。だが、それよりも気になる男が一人いてな、そいつの名は、ギルガメッシュ・オールドマン、元近衛兵隊長であり軍を追放された男だ」
「ギルガメッシュ、なぜ奴が城に・・・」
「奴の話では、偶然にも、城に戻りたいと王に直接交渉しに来た所を襲撃にあったらしい」
偶然と言えば、偶然かもしれないが、果たして本当にそれだけなのだろうか。あの男、ギルガメッシュは軍にいるころから何かと気にいらない男だった。
いつも、何を考えているのか分からないし軍を私的に利用している節があったからだ。「どうやら、お前も俺と同じ考えのようだな」
「はい、隊長、あの男は信用できません。何か裏があると考えてもいいかと」
「そうだな。俺はどうも、あの男の言うことは嘘にしか思えない、もしかすると王を殺したのもあいつかもしれん」
「あの男が!でも、なぜ軍を追放されたことがそんなにも許せなかったのでしょうか」
「いや、あいつはその程度ではこのようなことはしない」
「ならばなぜ・・・」
「いいか、セレナお前には姫救出と共にもう一つ、俺から個人的に任務を頼みたい」
「隊長自らの依頼ですか」
「そうだ。姫を救出すると同時に、各地の軍の動向を探り、ギルガメッシュがこれから何をしようとしているのか調べてくれ」
「なぜ、軍の動向調査なのですか?それなら、直接奴に・・・」
「奴はこれから、間違いなく軍にもどり、実権を握ってくることだろう。そうなれば、軍の動きを見るのが一番だ。奴は自分が動くことよりも、駒を動かすことが好きな人間だからな」
「分かりました・・・隊長の依頼しっかりとこなします」
「よろしく、頼む。それと、姫の救出もな」
「はい!」
「よし、お前ら聞いていたな。そういうことだ、俺は任務にはいけないがセレナを隊長代理として、三人で動いてもらうからな」
「了解しました」
「承知したぜ」
「なんだ、お前たち来ていたのか」
後ろを振り返ると、そこには同じ特殊部隊の仲間、ディスとベイカーが立っていた。軍に同期として、入り一緒に切磋琢磨してきた仲だ。
「当たり前だろう。何言ってやがる」
「そうだぜ、俺たちだって王殺しは許せねえ、やってやろうぜ、セレナ」
「そうだな。よし、さっそく任務開始だ」
「頼んだぞ。お前たち」
「「「はい!」」」
こうして、私の長い旅が始まることになった。
・
「では、これより王宮会議を行う」
ひっそりと、そして、冷たい雰囲気の中会議は始まった。会議には七英雄のうちの六人と軍のトップにたつ、特殊部隊隊長である、セルディとその場にはふさわしくない男ギルガメッシュ・オールドマンの八人であった。
「まず始めに、王の代理については話し合いたいと思う。誰か意見のある者はいるか」
会議の内容は大きく二つ、王女奪還までのあいだ、国の混乱を抑えるための王代理の決定と、軍の動きについてだった。
「はい、私は王代理人として、ギルガメッシュ・オールドマン氏を推薦します」
「なっ!待て、どういうことだ!」
「セルディ殿、何か意見がおありのようだが」
「大ありだろう!なぜ、この男を王の代理にしなければならないのだ。こいつは軍を追放された男だぞ、おかしいじゃないか!」
「なにも、おかしいことはありません。なぜなら、彼はすでに軍に戻っています」
「なんだと?」
「それは、僕から説明しましょう。セルディ・ゲイズ、僕は王に直接交渉し、なんとか軍に戻る事を了承していただきました。なので、私はすでに軍に戻っていることになっているのですよ。これでいかがかな」
「王がそのようなことを本当に言ったのか。信用にたる証拠はあるのか!」
「ありますとも、その場にいた七英雄の六人が証人ですよ」
「くっ!卑怯な・・・」
「卑怯ですと?そのような言葉を使うなんて、ひどいですね」
この時、セルディの中にある、疑いは確信に変わっていた。
「貴様、この国を乗っ取るつもりだな・・・」
「この国を乗っ取る?人聞きの悪い、私は別にそんなつもりはないですよ」
「ふざけるな、お前の腹の中は読めているぞ!何が会議だ。お前は自分を王にすることによってこの国を支配しはては世界を手にするつもりか。王殺しもこの為だな」
その場にいる全員が黙った。しばしの沈黙の後、ギルガメッシュが口を開いた。
「ご名答とだけ言っておきましょうか。よく、気が付きましたね。相変わらず、感の鋭い人ですね」
「やはりか・・・悪いがお前のような男にこの国は渡せんな」
「では、どうするのですか?僕をこの場で殺しますか」
「お前も、察しがいいな、その通りだ!」
隠し持っていた刀でギルガメッシュの心臓を貫こうとした。奴の隣に座っていた俺のこの行動にさすがの七英雄も手が出せないだろう、そう思ったのが失敗だった。
七英雄が六人しかいないことにもっと注意を払うべきだった。
「甘いですね、その程度のこと予想済です」
ガキイイイイイイイイン、と会議室に刃と刃がぶつかった音が響いた。セルディの奇襲が失敗したことを意味していた。
「相変わらず、行動が荒い人だ。暗殺とはもっとしなやかにそして、冷酷に行うものですよ」
「貴様は・・・レ・・」
瞬間、セルディは空中に浮いていた。いや、正確には空中に浮いたように思えたのだ。一瞬何が起こったのか分からないくらい正確にセルディの首は飛んでいた。
「暗殺とはこうするものです」
「遅かったね。フォックス、ちょっとひやひやしたよ」
「申し訳ありません。主」
「いや、いいよ。それよりも、どうだった。なにか見つかったかい?」
「はい、面白いものが見つかりましたよ。それは後ほど、会議を早く終らせてしまいましょう」
「そうだね、では採決といこう、僕が王代理で賛成の者は手を上げて」
ギルガメッシュがそういうと、七英雄全員が手を上げた。
「これにて、会議終了、それではこれより、軍再編成を行ったのち、各自任務についてもらう」
これから、始まる。全てを終わらせるんだ、自らの手で。
「さぁ、革命の時間だ」
・
「それにしても、昨日は災難だったね。レイル」
「まったくだ。もう、あんなに説教されるのはこりごりだぜ」
「まぁ、さすがはお姫様というか、なんというか」
「それにしても、あいつはさっきから、なにキョロキョロしているんだ?」
「この街が珍しいんじゃないかい」
あの後、一日しっかり体を休め、早速朝から、街にでて港に向かっていた。街に出ると言ってから、ジェシカの様子がどうもおかしかった。そわそわしっぱなしなのだ。「レイル!見てください。人が居ますよ。街ですよここは!」
「そりゃあ、そうだろう。何を言ってるんだよ。落ち着け」
「あ、す、すみません。私、外に出るのが初めてで」
「外に出るのが初めて?」
「言ってなかったですね。私、生まれてこの方、城から外に出たことが一度もなくて、それでつい嬉しくなってしまって」
なるほど、それでか。でも、おかしいな。こいつが昔俺の会ったことのあるやつなら、
外に出たことが無いってのはおかしい気がするが。
「そうか、それは悪かったな」
「いえ、構いませんよ。今は外にいます。それで今は十分嬉しいです」
「そっか」
「本当にかわいいよね、お姫様って、意外と競争率高いかもよ」
「おい、ロックあんまりふざけていると、ぶっとばすぞ」
「おお、怖い怖い、そんなことより、見えてきたよ。あれが港だよ」
ロックが指さす方向を見るとそこは、港を埋め尽くす大きな船と、人だかりがひしめきあっていた。
「すごいな」
「まぁ、この国の流通拠点だからね。まぁ、僕たちの用があるのはそっちじゃなくて、港の外れ人が少ないところだよ」
ロックが再び指を指した方向を見ると、確かにそこには一隻の船が泊ってはいるがそこには人が居るようには見えなかった。
「あそこの船か。なんで、あんなところに泊っているんだ」
「それは、行ってみればわかるよ。さぁ、行こう」
そう言われて、ロックの後について、俺とジェシカは港に向かった。実際に船の目の前まで来ると、その大きさに驚かされた。
「すごいな・・・こんな大きな船、見たことないぜ」
「軍の正規船よりも、大きな船で個人所有はこの船だけだと思うよ。船長の趣味でね、何かと派手好きなのさ」
「そいつが、お前の知り合いか」
「うん、そうだよ」
こんな、デカい船を趣味でもって、派手好きとはロックに似た性格なんじゃないだろうか。
「おや、やっときたのかい。ロック、ちょっと待っておくれ、今の交渉がもう少しで終わるところなんだ」
「おい!早くしろ。こんな所、軍人にでも見られたらどうする」
「五月蝿いねぇ、分かったよ。じゃあ、ランチャー六箱とロッド五箱だったね。値段は七千万パストだ」
「ああ、金なら用意してある。ほら、こいつだ」
「オーケイ、ボニィー数えな」
「何を悠長な!帰ってからでも数えれば・・・」
「黙りな、アンタにアタシらのやり方をとやかく、言われる筋合いはないよ」
「リヴァイア、終わったよ。七千万パストちょうどだ」
「よし、交渉成立だ。持っていきな」
「おい、今何をしたんだ」
「企業秘密さね。知りたければ死にな」
「チッ、いくぞ」
武器を受け取った黒スーツの男たちが足早にその場を去っていく。これは、もしかして武器の裏密輸の現場を見たのか。
「おい、ロックこれって」
「うん、見て分かるように武器の裏取引さ。僕は、もちろんそんなことはしてないけど」
「じゃあ、なんで知り合いなんだよ」
「お客を紹介しているうちに仲良くなってね。それだけだよ」
「おや、そこの二人が今回、船に乗っけて行けばいい二人だね。よろしく、アタシはこの船の船長をしている、リヴァイアってんだ。よろしく」
「レイル・ファントムだ。よろしく頼む」
「あんたが、朱眼の死神か。ロックの元上司ってやつね」
「俺の事を知っていてもらえるとは、光栄だね」
「裏の世界では有名さ。アンタのおかげでどれだけ交渉相手が死んだか分からないくらいだよ」
「悪かったな」
「いや、いいさ。気に食わない奴が多かったし。せいせいしたよ。それより、そこのお嬢さんは誰だい。アンタのガールフレンド?」
「初めまして、私、フランジェシカ・アル・・・」
俺はとっさに、ジェシカの口を塞いだ。
「どうしたんだい?とつぜん」
「ふ・・・ふご、ふご!、ぷはぁ!何をするんですか!レイル」
「馬鹿、フルネームを言ってどうするんだ」
「どうしてですか?相手に名を名乗るのは礼儀ですよ」
「そうじゃない、お前の存在がばれたらいろいろ厄介だろうが、ただでさえ王が死んで混乱している状況でこんな所に姫がいたらおかしいだろう」
「それもそうですね・・・」
城にずっといたせいか。どうも、こいつには足りてないものがあるような気がする。注意していかないとな。
「こいつの名前はフランジェシカ、ギルドの新入りでな。今回の仕事でいろいろと経験させてやろうと思ってな」
「そうかい、部下思いでいいことだね。気に入った、スターリングに着くまでに、アンタのこれまでのギルドでの活躍たくさん聞かせておくれよ」
「もちろんだ。なんでも、聞いてくれ」
これで、ひとまずなんとかなった。そんなこんなで船に乗ることになった俺とジェシカはロックに別れを告げ、統一大陸フロンティアを後にした。
・
「ふーん、そんなことがあったのかい。それは災難だったね」
俺は、船に乗ると、さっそく、リヴァイアにつかまり、ギルドの事をたくさん聞かれた。今までどんな仕事をしてきたのか、苦労したことや楽しかったこと、全てだ。
聞かれたからには、全部話してやろうと思っていた。リヴァイアはそんな話を嫌な顔一つせずに、すべて聞いてくれた。
そして、最後には先日ギルドを襲われた話をした。
「いろいろと、大変だが、なんとか生き残った奴らで再編を頑張っているよ」
「アタシより十一個も年下なのにすごいんだね」
「いや、この船を立った二人で動かしているリヴァイアさんたちのほうがよっぽどすごいですよ」
最初、この船には沢山の人間が乗っているものだとばかり思っていた。しかし、乗ってみると船員はたったの二人だそうで、俺はすごく驚いた。
「そういえば、あの子は大丈夫かい」
「ああ、初めての船で酔っただけみたいだから、問題ないさ」
「そういだといいけどね。あと、二時間ほどでつくよ。それまであの子には辛抱してもわらないとだねぇ」
シェリルは案の条、慣れない船に船酔いしてしまっていた。直になれるかと思ったがあれはそうとうだな。さっきから海の方ばかりを見て、今にも落ちそうだ。
「おい、大丈夫か。ジェシカ」
「はい・・・な、なんとか・・・それにしても、この船という乗り物恐ろしいですね。本にはそんなこと書いてなかったですよ・・・うぷ・・」
「おい、本当に大丈夫か。あと、二時間でスターリングに着くそうだ。それまでの辛抱だぞ」
「すまないね。お嬢ちゃん、これでもいそいでいるんだけどね」
「い、いえ・・・これしきのこと」
「まぁ、無理はしなさんなよ。そうだ、レイル、お前さんにちょっと聞きたいことがあるんだ」
「なんですか」
「お前さんたち、見たところ、武器を持っていないようだけど、これからどうするんだい。現地調達するつもりかい?」
「ああ、まあそのつもりではいるよ。それがどうかしたか?」
「もしよければ、アタシらの武器庫から、好きな武器を持ってくといいさ。ここで会ったのも何かの縁、困ってるやつを見ると放っておけない性分だしね。いいだろう、ボニィー」
この船の、副船長をしているボニィーさんは、普段はほとんど話すことはないらしい、リヴァイアさんに声をかけれられると、無言で頷いた。
「ボニィーもいいって言っているし、どうだい」
「いや、申し訳ないですよ。大事な商売道具をいただくなんて、せめてお金を払わせてください」
「いや、お金もいいさね。何を遠慮しているんだい、こういう時は素直に受け取るもんだよ」
「はぁ・・・でも・・・」
「もう、じれったいね。いいって言ったらいいんだよ。一度決めたことは曲げたくないのさ」
その気持ちはなんだかわかるような気がした。ここまで、言うのであれば、素直にもらうとするか。
「分かりました。これ以上、断る理由もありませんしね。ここは一つその厚意を受け取って武器をもらうことにしますよ」
「始めっから、素直にそういえばいいんだよ。よし、行くよ。あっと、そうだお嬢ちゃん、お嬢ちゃんはどんな武器を使うんだい。アタシが代わりにとって来るさね」
「す、すみません・・・私は・・・ベクトルアーツを使います・・・」
「ベクトルアーツ?変わった武器を使うんだね。分かったよ。確か、武器庫にもあるはずだ、いいやつを持って来よう」
「ゆっくり休んでろよ」
「は、はい・・・」
ジェシカを一人にしておくのも心配だったが、まあよほどのことが無い限りは大丈夫だろう。
ジェシカを置いて、俺と、リヴァイアさんは武器庫に向かった。船の内部はほとんどが武器庫になっているらしい。それ以外は必要最低限の休憩室と、食事場があるだけらしい。
二人しかいないのであれば、妥当なのだろうか。
「さて、着いたよ。アンタはたしか槍だね。アンタの右横の樽がちょうど槍の置き場になっているはずだよ」
そういわれて、そちらを見るとたしかにそこには樽いっぱいの槍があった。軽く、三千本はあるだろうか。
そのほかの武器も大体、それぐらいはあるだろうか。恐ろしいなこの船一つで戦争が何回でもできる気がする。
「アタシは、お嬢ちゃんの武器を奥まで取りにいくから、好きなを探しているといいよ」
「ありがとうございます。ゆっくり探すとしますよ」
「ああ、アンタが運命の相手に出会えるように願っているよ」
さて、この中から、自分にしっくりくるものはあるだろうか。その後、スターリングにつく二時間の間、ずっと武器庫に籠り槍を探して、ようやくお気に入りの一本を見つけることができ、これで旅の準備は整った。
・
「名残り、惜しいねぇ。もっと、乗っていてくれてもよかったのに」
「いえ、やらなければならないこともあるので、俺たちも名残り惜しいですがまたどこかで会いましょう」
「そうさね、今度会ったときは一杯おごらせてもらうよ」
「期待しています」
手短に、別れの挨拶をすますと、船は足早に港を後にして、去ってしまった。またどこかで会えるだろうか。
そんなことよりも、ジェシカは船から降りた途端すぐに元気になり、すぐに沢賀ぎ始めた
「着きました、着きましたよレイル!早速、ジーニアス殿のところへ行きましょうよ!」
「落ち着け、まずは情報収集が先だろう。お前、ジーニアスさんがどこにいるのか知っているのか?」
「そ、それは・・・知りませんが、きっと豪華な建物にいるに違いありません」
なんだ、こいつの無駄な、気合の入り方は。初めて外の世界に出ただけじゃなく、別の大陸に来てすごいテンションが上がってしまっているのは気持ちとして分からなくはないが、呆れてしまう。
「そうとは、限らんだろう。とりあえずは、情報収集が先だ
行くぞ」
「わかりました・・・」
少し、意地悪をしてしまったか。あとで、なんか買ってやるか。それよりも、着いたんだなスターリングに。
ちょうど、四年ぶりくらいだろうか。ここに来るのは性に合わない、どうも俺はここの真面目な雰囲気が肌に合わなかった、その為ほとんど訪れることのない場所だった。
俺たちが着いたのは、スターリングの主要都市として、流通と魔術の交差点と呼ばれる魔術都市キャラリングであった。
「でも、どこでお話を聞けばいいんですか」
「そうだな。まずはそこらへんの露店の店主にでも聞くかな。ちょうど、腹も減ったしなにか買えればいいだろうしな」
「では、あそこのお店なんてどうでしょう。美味しそうなフルーツがありますよ」
「あれは、マウイの実か、あれならいいかもな」
「美味しいのですか?」
「なんだ、食べたことないのか。そもそも、見たことが無い時点でそうなんだろうけど」
「王宮の料理は、王宮付きの料理人が作ってくれていましたから」
「そりゃあ、木の実なんて出てくるわけないか。あれは、そうだな子供の頃から、食べてきたがなかなか旨い実だと思うよ」
「それは、気になりますよ。早速、行きましょう!」
「あ、おい!たく、気が早いお姫様だことな」
露店にはマウイの実のほかにも、沢山の実が売られていた。その大陸にしかないような貴重な実もおいてあり、改めて、流通の拠点なのだと感じさせられた。
「あの!これをおひとついただけないでしょうか」
「おう、いらっしゃい。お嬢ちゃん、マウイの実は一個六十Pだよ」
「六十パストってなんですか?」
「おいおい、何いっているんだ。お金だよ、お金」
「あ、そうか。お金を払わないといけないのですね」
「お嬢ちゃん、冷やかしなら帰って・・・」
「ああ、すまない。こいつ、ちょっと酒の酔いが抜けてないみたいでな。二つ、もらおうか、百二十パストでいいかな」
「おう、そうだったのかい。こんな明るい時間から飲むなんて、身体に悪いぜ」
「レイル、何を言っているのですか?私は酔ってなど・・」
「ちょっと、黙ってろ。お前が話に加わるとややこしくなる」
「むー、それはいじわるすぎますよ。レイル」
「ああ、もう分かったよ!いいから、行くぞ。すまんね、ありがとうよ」
「あいよ、毎度!また寄ってくれよな」
ちょっとだけ、ひやひやしてしまった。温室育ちってのはこういうのがあるから困りもんだ。もう少し、いろんな事を教えないと。
「まったく、勝手に先走って、迷惑かけないでくれよ」
「迷惑?私の行動のどこが迷惑だったのですか?」
「いいか、この世界で、お金を使う感覚が鈍い奴ってのは、大体貴族ってことになる。どんな大陸に行っても、貴族はいいように見られない。いい貴族もいるかもしれないが、大概の奴が一般市民を馬鹿にして踏ん反り返っている奴が多いからだ」
「なんて、ひどい方たちなのですか!貴族たるものそんなものではいけません」
「もっともの意見だが、現実はそんなものさ。お前がどんなに力説しようと、世の中は貴族をそういう目でしか見ない。だから、お前もできる限り、貴族ってことは隠さないようにしないとこの先大変だぞ」
「レイル、一つ質問よろしいですか?」
「ああ、なんだ」
「どうして、私が貴族というのを隠さなければならないのですか?何が大変だというのです?人の目を気にするということはそんなに大事なのですか」
「確かに、そうだが。お前は嫌じゃないのか、自分は悪くないのにその・・・悪口を言われることとか」
「いえ、それが民の声であるならば、それを聞くのが一国を背負う者の使命だと私は思っています」
ジェシカは、先ほどまでの浮かれた感じとはうってかわって、急に真剣な眼差しをしはじめた。
昨日の夜会話をしている時にもこんな表情を見せた時があった。
「何度も言っているかもしれないが、お前の気持ちも分からないわけじゃない。でも、一度外の世界に出たからには、難しいことかもしれないが、不条理がつきまとうことがおおくなる。それが世の中ってやつなんだ」
「では、もう一つ聞かせてください。その不条理というものはいったいどこの誰が作ったのですか」
「そ、それは・・・」
「私には分からないんです。不条理というものが、外の世界の常識であるならば、私が思っている以上に、この世界は嫌な世界です。でも、私が今日出会った人たちはみんな優しくて、こんな方たちがたくさんいる世界なら、いいと思いました。どっちが、本当のこの世界の姿なのですか?」
「その答えとして、もっとも正しいのはどちらともだろうな」
「どちらともですか?」
「ああ、そうだ。お前が今日出会った人たち、そして、これから出会うかもしれない貴族の人間たち、そいつらはみんな非現実じゃない、現実だ。嫌な奴も良い奴もどっちもいてこそだ。忘れるな、これが世界だ」
「分かりました。レイルのその言葉忘れません。あとは、私自身の目で見極めるしかないということですね」
「そういうこった。さて、こんなところで真面目な立ち話を続けてもつかれるだけさ。そこらへんに腰かけて、マウイの実、食おうぜ」
「はい、そうしましょう。さっきから、お腹が鳴って大変ですよ」
「俺もだ」
近く、にある階段の所に座って、休憩をすることになった。しかし、そこである事を思い出した。
「あ、そうだ!ジーニアスさんのこと、聞くの忘れてた」
「そういえば、そうですよ。まったく、しっかりしてください」
「ジェシカには、言われたくないような・・・まぁ、先に食っててくれすぐに聞いてくる」
「お願いしますよ。もう・・・」
「あのう、すいません」
露店の店主に聞きにいこうとすると、見知らぬ男が声をかけてきた。
「突然、すみません。私、旅商人をしている者なのですが、この街に来る途中で、盗賊に襲われてその際に、仲間ともはぐれ、何もかも失ってしまって・・・昨日の夜から何も食べていないのです。よければ、その実を私にくれませんか。もちろん、タダとはいいません、どうやらジーニアス氏を探しているようですね。よければ私が案内しましょう」
「本当ですか!」
「ええ、もちろんその実をくださればですが」
「なるほど、交換条件か。いいだろう、俺の実をくれてやる。それでいいか」
「できれば、二つほしいのですが」
「どうする?ジェシカ」
「し、仕方ないですね。これも、ジーニアス殿に会う為ですから」
少し、残念そうな顔をしながら、ジェシカは男に実を渡した。
「ほら、俺のもやる。さあ、案内してもらおうか」
「ええ、いいいですとも、このガロン・ドラゴノフ、恩はしっかり返す主義ですのでね」
ガロン、という男どうも胡散臭い気がするが、きにしすぎだろうか。さて、食べれなかったジェシカが機嫌をそこなわなければいいが俺にはそれだけが心配の種だった。
第四話終
どうもこんにちわハムカツオブシンドローム講和淵衝です
第四話いかがでしたでしょうか?いよいよ、次の大陸に到着したレイル一行
次なる冒険はどうなっていくのか?お楽しみに!
ではでは第五話で会いましょう!