~パンドラの棺編~第三話
第三話「出会いと別れ」
「父上・・」
「おお、フランジェシカ・・・そばにきておくれ・・・」
「はい」
ジェシカは、父の近くに寄り添うような形で座っていた。
「私がここで死ぬことは運命だ。決して・・・・変える事の出来ぬな。だが、悪くない人生だった。お前の母さんと出会えたこと、そしてお前に出会えたこと・・・」
「父上、死ぬなんて・・・そんなこと・・・」
「いや、いいんだ。これで・・・ここから歴史は動き出す。再びな、フランジェシカ・・・最後にお前に頼みがある」
「なんでも、おっしゃってください」
「よいか・・・奴らより先に、鍵を全て手に入れるのだ・・・その鍵で・・・」
「父上!鍵を手に入れるとは」
「魔術都市にいる、ジーニアスの元にいけ・・・奴ならばこの意味が分かるだろう・・・」
「父上!分かりました。分かりましたから、もうしゃべらないでください!傷が・・・傷が・・・」
その時、ジェシカは自らの父の死を悟った。そして、それと同時に〈父の意志〉を引き継いだような気がした。
「フランジェシカ・・・私は・・・」
そして、ラゼル王は静かに息を引き取った。眠りにつくかのように。
「父・・・上・・・」
「お姫様、その・・・」
「連れて行ってください・・・」
「え?」
「私を外の世界に連れて行ってください!私にはやらなければならないことができたのです!」
「そうさはせないよ!姫に自由に動かれては困るんでね!」
「しまった!」
ギルガメッシュがレイルの姿を借りた者の攻撃を避け、ジェシカに近づき攻撃をしかけようとした。
「神話の法具〈黄金の罪〉これで、チェックメイトだよ。君にも死んでもらう!」
「させるかよ!これ以上、誰かが死ぬのを見過ごすわけにはいかないぜ!」
ギルガメッシュの放った剣の前に、グランが立ちはだかった。
「守護の陣風〈風の神盾〉!」
空中に木の葉が無数に現れ、目の前に桜吹雪のように散っていく、その木の葉はグランたちを守るように剣の前に立ちはだかった。
「ふん、〈近錬魔法〉ごときに僕の魔法は止められないよ」
その言葉通り、剣は木の葉を貫き、止まることなく、グランたちに迫る。
「俺の魔法じゃ、奴にはかなわないってことかよ、くそ、どうしたら」
もうだめか、そう思った直後、隣に一つの影が現れた。
「よくやった。これだけ時間を稼いでくれたらどうにでもなる」
「レイル!」
「今は、ちと、違うがの。そんなことより、さて止めるか、絶光の奇跡〈光の海〉」
今度は、目の前に光が間欠泉のように目の前に吹き出した。その光は剣を飲み込み、そして消えていった。
「ち、やってくれるな。だが、君にも防御の隙が出来たことは、誤算だったんじゃないのかな」
「ふん、それも計算のうちじゃ。こい!」
「悪いけど、君には興味がないんだよね」
「そうじゃった、お主の狙いは!」
「今度こそ、決めさせてもらう!神速の魔剣〈死を・・・」
「そうはさせないよ!トイボックスオープン召喚〈巨偽なる右腕〉」
後ろで息をひそめ待機をしていた、シェリルが今度は姫を守った。目の前の空間が裂け、巨大な右腕が現れた。
右腕は、ギルガメッシュにむかって、その大きな腕を振り下ろした。
「くそ!どれだけ、僕の邪魔をすれば気が済むんだい!君たちは」
ギルガメッシュは右腕を避けなければならず、魔術詠唱を止められてしまった。
「私がいるのも忘れないでもらいたいわ!」
「数的には不利か、じゃあ、そろそろ僕の仲間にもまた、動いてもらうことにしようかな。〈動き出せ〉」
ギルガメッシュはこの時まで、自分ひとりでも、目的を達することができると思っていた。しかし、それは自身が思いもよらなかった形で崩れることになったのだ。
「うぉ!ふぅ、やっと動けるようになったのか」
「くそ、奴らうまい具合に止まってくれていると思ったのに。どうすんだよ、レイルこの数は相手にできないぜ」
「じゃから、レイルじゃないというておろうに。しかし、我もそろそろ限界じゃ。さて、どうするべきか」
「なんだよ、お前もいい案ないのかよ。これはもう後がないか」
嫌な汗が頬を伝うのが分かった。いずれ、仲間にかかった、魔法を解除することは予想できていたがこのタイミング、やはり中々の策士か。
「ち、よくわからんが、やってくれたぜ激しく反撃だ!」
「まったく、美しくない」
「グヘヘヘ、オデウゴカナカタラハラヘタ」
「おい、お前たち主を助けるぞ」
その場で動けなかった、七英雄の四人も攻撃の態勢にはいった。この時、その場にいた誰もがこの優劣が変わることはないと思った。
しかし、まだ、ギルガメッシュの誤算は終わっていなかった。
「みなさん、すこし目をつぶっていてください」
「どういうことだ、お姫様、いったいなにを」
「いいから、お願いします。この状況を何とかしなければなりません」
ジェシカの目はまっすぐ前を見つめ、強い力を帯びているように感じた。そして、不思議と、従わなければならない気持ちに三人はかられた。
「お主、そうか・・・これは、トールの」
「いいですから、みなさん早く!」
「わかった」
「よかろう」
「よくわかんないけど、分かったよ」
三人は目を瞑った。目を閉じるとなぜだか、落ち着くようなそんな気持ちになった。
「おや、どうしたんだい。もう、あきらめたのかな」
「いえ、これは諦めではなく、抗いですよ」
「なに?」
「先代トールより、受け継いだこの力、これは人を縛る力ではなく、守る力なのです」
「訳の分からないことを。やれ、七英雄奴らを殺すんだ!」
「「「「はい!」」」」
「そうはさせませんよ!〈有限の牢獄〉」
その瞬間、ジェシカの目が青色に変わり、再び七英雄、そしてこんどはギルガメッシュの動きも止まってしまった。
「しまっ・・た、この・・・魔法・・・は」
「ちく・・しょう、またうごか・・なく・・・」
「みなさん、目を開けてください!時間がないです。今のうちに逃げましょう!」
三人はその声で目を開けた。
「ん、何がどうなってるんだ?」
「そうか、これはトールの力、もとい、三賢者の力か」
「はい、今父が私に継承してくださったのです。蛇よ」
「なぜ、我の事を・・・」
「いえ、それはここを出てから話しましょう。この魔術には制限があります。早く、脱出を」
「そうじゃな。おい、お主らとりあえずこの場は逃げるぞ!」
「言われなくても、そうするつもりだけど、後でちゃんと説明してくれよ」
「そうだよ、レイル君、わけわかんないもん」
「じゃから、レイルじゃないと何度も・・・もうよい、面倒じゃ」
三人は、七英雄たちを横目に、玉座の間を後にする。
「ま・・まて」
「待てと言われて待つ奴はおらんわ。お主とはいずれ、決着をつける。忘れるでないぞ」
最後にそう言い残し、この場の戦いは一時の終りを迎えるのであった。
・
その数分後、最後の魔術の力が解け、全員が再び動けるようになった。
「くそ、いったいどういうことだ。ここまで予想外が続くなんて」
「主、どうしますか、奴らを追いますか。まったく、それにしてもあの二人は何をしていたのだ。姫の一人も殺せないとは」
「いや、その必要はないよ。仕方がないけど、今回は僕らの負けだよ。でも〈器〉はこちらの手に入った。それで、問題はないでしょ」
「そうですね。では、〈器〉は教団に送る手はずにします」
「ああ、そうしてくれ、教団側も気長には待ってくれないだろうしね」
あまりにも、予想を超える事態になってしまった。まさか、同時に二つの因子が目を覚ますことになるとはね。
でも、計画通りには進んでいる。多少軌道がずれたが修正できないレベルではない。
「主!とんでもないことが・・・」
「うん、どうしたのかな」
「すみません、何度も確認したのですが、やはり、〈器〉の権限が移ってしまっています。こいつはただの死体です」
「なんだと、まさか、あの継承の瞬間に権限も移動していたのか。ふーん、そうかまあいいや」
「いいとは、どういうことでしょうか」
「王はだめだったけど、運良く〈器〉の移動場所は分かっているんだ。軍の特殊部隊を動かせばいいだけだよ。すぐに、捕まるさ」
「ですが、あの部隊をどうやって動かすおつもりですか。奴らは王親派ですよ。主と敵対していたわけですからね」
「うん、そのことなら大丈夫だよ。僕にいい考えがあるからね」
「その考えとは・・・」
ギルガメッシュが不敵な笑みを浮かべた。
「なに、簡単さ僕が新しい王になればいいんだよ」
・
「ここまでくれば大丈夫でしょう」
「そうじゃな、くっ!」
「大丈夫か、レイル?」
三人は城の正面ホールに来ていた。一番最初に訪れたところである。そこにつくと、レイルが膝から崩れてしまった。
「ここまでくることはできたが、無理じゃな・・・すま・・・ん」
そのまま、レイルは意識を失い倒れてしまった。
「レイル君!どうしよう、どうしたら」
「落ち着きなさい。彼は力を使い切って今は眠っている状態です。えっと、そこのあなたグランさんといったかしら、彼をおぶってくださるかしら」
「分かった。女性にさせるわけにはいかないしな」
そういって、グランはレイルを背中に背負った。
「さあ、ここまで彼らが追ってこなかったとはいえ、城の中も安全ではないでしょう。とにかく外に出てましょう」
ジェシカの行動力にグランは少しのいや確実な違和感を持っていた。初めて月に照らされた彼女を見た時とは違う雰囲気に変わっていたからだ。
それに、あのギルガメッシュとかいうやつが、姫の事を〈威圧の姫〉と呼んでいたことも気になった。
あれはいったいどういう意味を示していたのだろうか。そして、何よりも分からないのがレイルの事である。
さっきから、話し方も雰囲気も全て変わって挙句には自分はレイルじゃないというしまつ、ではいったい誰だというのか。
この二人にはいったい何が起きたというのか、ただでさえ、城がこんな状況で混乱していたのにさらに混乱してしまっている。
「待て!やっとおいついたのさ」
「お前たちは!」
「ヴェノム!それに、サラ、どうやらあの巨人を倒してきたようですね」
「ええ、お姫様、くししし、少し手間取っちゃったけど私たち二人ならどうってことなかったわよ」
先ほど、シェリルの巨人型の人形に足止めを食らっていた、二人が追いついてきた。人形を倒してきたようだ。
「まったく、計画がまるっきし変わってしまったじゃないのさ。でも、それもここまでだよ。姫は返してもらう」
「はいそうですかって言えるかよ。悪い、お姫様一つ俺の我儘を聞いてくれないか」
「なんでしょう」
「悪いんだが、こいつを連れて先に外に出てくれないか。あの二人は俺とシェリルで足止めをする」
「そんな、無茶です。先ほどは、一瞬の隙をついてなんとかなりましたが、真正面からでは無理です!」
「分かっちゃいるけど、こればっかしは、無理をしないとな」
「どうしてそこまで」
「どうしてって、そりゃあ、なあシェリル?」
「そうだよ。私たちにとって、レイル君はとっても大切な存在なんだよ」
ジェシカは、二人の覚悟にもう止めることはできないでいた。それくらいに熱い熱意が伝わってきたのだ。
「分かりました。何とかします、あの二人はシェリルさんと、グランさんにまかせましたよ。でも、死なないでレイルさんの為に必ず帰ってきてください」
「分かってるよ。当たり前じゃないか」
「よーし、もう一回やってあげちゃうよ!」
頼もしい、二人を背に、グランの変わりに、無理をしつつもレイルを背負ってジェシカは城の外に出ていく。
「まて!逃げるのは許さないよ」
「おっと、まちな。姫を追いたいんなら俺たちを倒してからにしてもらおうか」
「あらあ、あんまり出しゃばっちゃうと痛い目見るわよ。さっきは偶然だったんだから。くししし」
「そんなことはないと思うぜ。戦ってみないことにはな」
「いいよ。そんなに死にたいなら、殺してあげるのさ」
四つの視線が激しい火花を散らし、この後の激戦の様を早くも予見しているかのようであった。
・
「はぁ・・・はぁ、さすがに、大の大人ひとりを背負うのは辛いですね。ここら辺までくれば問題はないでしょうか」
城から出て、四分ほど歩き、近くの森林まで来ていた。それにしても、あの二人は大丈夫なのだろうか。今は信じることしかできない。
ここまで来て、ジェシカにはもうレイルを背負う力は残っていなかった。彼を木のそばに降ろすと、ジェシカはレイルに寄り添うようにして座り込んだ。
「それにしても・・・久しぶりに会ったというのに、貴方も目覚めてしまっているし、元に戻ったかと思えば寝ているのですから、少し寂しい再会になりましたね」
子供の頃、私がまだフランジェシカの代わりに表に出ていた頃、そんな時に出会ったのがこの少年だった。
初めて会ったときにこの少年は、自分と同じ存在であるということに気が付いた。彼の方はまだ、目覚めてはいなかったし、私はフランジェシカとして振る舞い彼も私ではなく彼女と過ごしたとしか認識していないだろう。
実際には、フランジェシカと過ごした時間は一瞬だけだったのだが。そんなことさえも、彼は知らないのか。
「貴方は、これから知らなければならないわね。この子の事、世界の運命、そして自分自身の罪の事について・・・」
これから、世界は間違いなく今までとは違う方向に進むことになる。その時、自分ははたしてどうすべきなのか。今は、それが分からないけれど、彼女を通して彼がどのような選択をするのか見ることにしよう。
「それにしても、そろそろね。どうしよう・・・運よく、良い人に見つけてもらえると嬉しいんだけどな・・・」
フランジェシカと入れ替わってから、予想以上に体力を使い、もう表に出ていることは出来ない状況であった。
意識が遠のきそうになる中、遠くから馬車の音が聞こえてきた。その音がだんだん近づいてきた。
「見つけてくれると・・いいな」
そこで、ジェシカの意識は途切れてしまった。
・
再び夢を見た、不思議な所だった、神聖と言う言葉が似合う静かな草原だった。
俺は草原に座り、星を眺めていた。隣にはもう一人知らない男がいた。会ったことはないはずだが、その男の顔をどこかで見たことがあるような気がした。
「君はいつも星ばかり見ているね」
男がいきなり、そう話しかけてきた。
俺は何も答えなかった。どうせ、夢だし答える必要はないだろうしな。
「それにしても、君とこうして星を見上げるのもいつ以来だろうね。こうして、夢の中なら楽園に戻れるんだ。嬉しいよね」
今何と言った?夢の中?たしかに、ここは俺の夢の中・・・だと思う、でもどうしてだろうかその言葉に俺は嘘偽りを感じることができなかった。
「君はこの夢をきっとただの夢だと思っているかもしれないけど、忘れないで夢には必ず何かいみがあるものさ」
夢には何か意味がある。じゃあ、この夢にも何か意味がるのだろうか。俺は本当は忘れているだけでこいつの事を知っているのか。
「さて、短かったけど君も夢から醒める時間だよ。彼女を助けてあげてくれ。僕には君にお願いすることしかできない」
彼女?彼女ってのは誰の事だ、シェリルのことなのか。俺がそれを聞こうとすると急に意識が遠のいていくのが分かった。
これが夢から醒めるってことなのか。
「最後に、ひとつ。さっきは、君に手荒な真似をしてすまなかったね。今はこうするしかないんだ」
その言葉を最後に、俺は夢から目を醒ました。
・
「ん・・・ここは、どこだ?」
目を覚ますと俺はベッドのに横になっていた。確か俺は城に居て、王を助けようとして・・・それから、何があったんだ。それにしても、あの夢はなんだったのか。
頭が、一時的に混乱していた、目を覚ましたらいきなり見知らぬベッドで眠っていた。
ここがおそらく城では無いことは分かるが。どうしてこんなところにいる?
とにかく、状況を整理することが必要かもしれない。俺をここに運んだのが敵か味方なのかもわからないしな。
「とにかく・・・起きるか、ん?」
ベッドに手をついて力を入れようとしたら、ふにゅんと柔らかいものに手が当たった。
ベッドの横を見ると、そこにはどこかで見たような美少女が眠っていた。俺は手の先を見るとどうやら、二の腕の当りに手がふれてしまったらしい。
なんだ、二の腕かと少し残念に思ってしまった。ってそんなこと考えてる場合じゃねぇ!なんで、この子と一緒に寝ているんだ!ますます訳が分からん。
それにしても、この子本当にどこかで見たことがあるような、小さい頃どこかで・・・だめだ、あとちょっとで思い出せそうなのに。
そんなことを思い悩んでいると、扉が開き、思いもよらない人物がそこに立っていた。
「やぁ、目が覚めたんだね。よかった」
「お前は、ロックか」
「そうだよ。久しぶりに会ったね。レイル、二年ぶりかな」
そいつ、ロックの事はよく知っていた。俺のギルドで二年前まで幹部をしていた男だ。ある事件がきっかけで、ギルドを抜けることになってから、一度も会っていなかった。
「久しぶりだな。でも、どうしてお前がここに?」
「君を昨日助けたのが僕だったからさ。昨日、ゴルドの街に用があって、行った帰りに、城の近くの森を通った。森に入ってからしばらくしたら、木に横たわって眠っている君と横の女の子を見つけてね。そこにそのままにしておくわけには行かなかったし僕の家に連れてきたってわけさ」
「そうだったのか。それは助けられたな」
「いいや、いんだよ。昔のよしみというやつさ。それにしても、どうしてあんなところに、もしかして例の事件に関わっていたんじゃないだろうね」
「例の事件?」
「ああ、今朝国中に不吉なニュースが伝えられた。昨夜王が殺されたとね」
「なに、王が死んだ!どういうことだ!?」
俺はベッドから飛び起きると、ロックの胸ぐらをつかんでいた。
「ちょっと、落ち着きなよ。どうやら、君は何も知らないみたいだから安心したけど」
「どうなっていやがる。どうして王が・・・」
「レイル、いったいどうしたっていうんだ。まずは、僕も事情を知りたいんだけど」
「あ、ああすまん。つい、勢い余って、悪かった。実はな・・・」
俺は、昨夜の作戦で何があったのかすべてを話した。仲間を殺されてその復讐に誘拐をしようとしたこと、王が殺されそうになるところを見たこと。
「まあ、こんな感じだ。でも、俺も途中から記憶が曖昧でな。何があったのか覚えてない」
「そうか、まったく、無茶なことをするもんだよ。それが君のいい所だったりもするんだけどさ」
「茶化すなよ。それよりも、お前あの子のこと知ってるか?」
「いや、僕は会ったことが無いよ。でも、心あたりなら一つあるよ」
「心あたりって、なんだよ」
「うん、実は王殺しと一緒に入ってきた話なんだけど、実は姫が今行方不明らしいんだ。もしかしたら、その子がそのお姫様なんじゃないかって」
「まさか、じゃあこの子が、でもどうして俺が一緒にいたんだ。姫の事はグランとシェリルに任せてたんだが、くそ!あの二人どこに行ったんだよ」
「グランとシェリルが君を置いて勝手にどこかに行くことはないと思う、そうなるとその場で二人の身に何かあったと考えるべきじゃないかな」
「おいおい、物騒なこと言わないでくれよ」
「悪い、悪い、あの二人の事だからきっと大丈夫さ」
そう、思いたいものだ。しかし、本当になにがあった。王は殺され、俺はもしかしたら姫かもしれない奴と一緒にいる。グランとシェリルは行方不明、何もかもがぐちゃぐちゃになっている。
「ん・・・ここは、どこなのでしょうか。貴方たちは・・・」
「お、お姫様が起きたよ」
「おい、まだそう決まったわけじゃないだろ。おい、大丈夫か。自分が誰かわかるか」
「私は・・・私は、フランジェシカ・アルバディーネです」
「なんてこった」
「予想通りとはね」
この子が、本当に姫だったとは。
「あの、貴方たちは、ここはどこなのですか」
姫はこの状況が理解できてなかった。そこで、俺とロックはこの状況を説明すると同時に、姫も何か覚えていないか聞いた。
すると、姫から俺の知らない情報を手に入れることができた。姫は、部屋にいると、と突然知らない二人組が中に入ってきた自分を連れ去ろうとしたらしい、その後、一瞬の隙をみて、逃げ出し、玉座の間に入ったらしいのだが、その瞬間父親である、王が殺されるところを見たらしい。その後、王と言葉を交わした後、やはりというべきか彼女の記憶も無くなっていた。
「私が知っているのはここまでです。それにしても、本当に父上は死んでしまったのですね」
「すまない、俺も守ろうとしたんだが、どうやら守れなかったみたいだ」
「いえ、それでも、貴方が私を守ってくれたので、父上の最後の言葉を聞くことができました。ありがとう」
彼女は、俺に満面の笑みで微笑んでくれた。その笑顔を見ると、昔、この笑顔をどこかで見たことがあるとそう思った。
その瞬間、俺はある事を思い出した。
「そうか、君は・・・」
「私がどうかしましたか?」
間違いない、この子は昔、貴族会であったあの子だ。あの時は、お互い小さかったし、でも確かに思えばどことなくあのころの面影があるような。
「フランジェジカ姫、昔どこかで会ったことはありませんか」
「レイル、こんな時になに、ナンパしているんだい」
「馬鹿、違うわ!」
「ふふ、私の事はジェシカでいいですよ。あと、敬語も構いませんよ。貴方は私の命の恩人ですから、でも貴方と会ったのは昨夜が初めてかと思いますが」
「そう・・か・・・」
どうやら、姫、ジェシカは俺の事は覚えていないようだ。俺も、さっきまで忘れてたとはいえ少し寂しと感じた。
「見事に、振られたね」
「うるさい、そんなんじゃねえって言ってるだろ」
「はいはい、そんなことよりも、これからどうするんだい」
確かに、ロックの言う通りか、この先どうするべきか。行方の分からない二人を探すべきがでも、姫はどうすべきか。
「あの、一つ、レイルさんにお願いがあります」
「なんだ?」
「実は、私記憶がなくなる最後、父に頼まれたことがあるんです。鍵を探してほしいと」
「鍵?それはいったいなんのことだ」
「いえ、それについては、詳しくは話てくださりませんでした。ただ、父はこうも言っていました。魔術都市にいるジーニアスに会えばわかると」
「魔術都市のジーニアスってまさか・・・」
「うん、レイルの予想通りだろうね。魔術都市のジーニアスといえば、魔術革学園の理事長のことだろうね」
「魔術都市にいる父上のご友人さまが城に来たことがありました。その時の、ご友人というのがジーニアスさまだったと覚えています」
「なるほど、王の友人であるなら、何か知っているか」
「こうなれば、話がはやいかもね」
「どういうことだロック?」
「まずは、魔術都市のある、星詠大陸スターリングに姫と一緒に行ってみるっていうのはどうだい。まずは、王が姫に何を伝えたかったのか。それと、もしかしたら二人の情報も聞けるかもしれないしね」
「簡単には言うが、スターリングの大陸に行くための手段もないしな。移動船は軍が管理しているし、個人で船を持っている知り合いもいなし」
「でも、どうにかして、スターリングに行きたいんです。なんとなかりませんか。お願いします。父の最後の願い叶えたいんです。どうして、私にそんなことを頼んだのかそれも知りたいですし」
なんとかといわれても、すぐにどうこうできるわけはないしな。俺もいつまでもここでじっとしているわけにもいかない、二人を探さなければならないのは事実だし、はてどうすべきか。
「あの、それなら、僕に一つ提案があるんだけど」
「なんだよ、ロック」
「うん、僕は残念なことに君たちについていくことはできない。少しここを離れることは出来ないんでね。でも、君たちをスターリングまで連れていくことはできるかもしれないよ」
「本当か!でも、お前って船の操縦とかできたのか」
「いや、僕は船も持ってないし、操縦もできないよ」
「じゃあ、なんで」
「今、僕は貿易関係の仕事をしていてね。それで、昨日から僕の友人の貿易船がこの街の港に来ていてね。なんと、偶然なことに次の貿易先はスターリングなんだよ」
「本当ですか!ぜひ、お願いしたいです!」
「そんな、小説みたいな偶然、起きるのかよ。でも、これでなんとかなるかもな。やっぱお前は頼りになるな」
「まあ、昔から僕とベルカがいないとだめだったからね」
「うるせえよ。一言余計なんだよ。でも、その友人は俺たちを乗せてくれるのか」
「うん、それについてはお願いすれば、彼女も引き受けてくれるとは思うんだけど、悪いんだけど一日ほど、時間をもらえると助かるよ。話をつけなきゃいけないし、それに君たちはまだ休んだ方がいい」
「そうだな、俺も目がさめたとはいえ、まだ体のあっちこっちが痛くてしょうがない。ジェシカは大丈夫か」
「正直なことをいうと私も、なんです。なさけないです、将来、一国を治めなければならないのですが、このようなことで根をあげてしまうとは」
「そんなことはないさ。ジェシカだって、休む時は休まないと」
「レイルさんは本当にやさしいですね」
「おいおい、さっきからさんづけはやめてくれよ。俺がジェシカって呼んでるのになんか変じゃないか」
「それも、そうですね。失礼しました、レイル」
ジェシカは不思議な子だった。一緒に居ると、どんなに不安に感じていたとしても安心できるそんな雰囲気を持っている子だった。
にしても、さっきはロックのせいで話がそれてしまったが、ジェシカはどうも俺の事を覚えていないらしい、昔の話をしたら、思い出してくれるのだろうか。でも、自分から聞くのはなんか恥ずかしかった。
いずれ、一緒にいれば思い出してくれるのだろうか、そうだと信じたい。
「じゃあ、僕はちょっと行ってくるよ。あ、そうだ行く前にひとつ」
「なんだよ」
「この部屋実は、ベッドが一つしかないんだよね。悪いんだけど、また一緒に寝てもらっていい?」
「また一緒に?あの、いったいどういうことですか・・・」
「どういうことって、いま、ジェシカが座っているそのベッドしか寝る場所がないから二人で寝てほしいって意味でいったんだけど」
プルプルと小刻みにジェシカが身震いをし始め、顔がみるみる真っ赤になるのが分かった。
「おい、ロック余計なことを」
「何の事かな、じゃあ、ごゆっくり」
そういって、ロックは部屋を後にして、出ていく。
「じゃ、じゃあ、俺あいつが行ったことだし、ちょっとトイレに・・・」
「待ってください。これは一体どういうことですか。私はさっきまで昨日知り合ったばかりの殿方と寝床を一緒にしたのですか」
「い、いや、これはそのしょうがないというか・・・」
「しょうがない?女が殿方と一緒に寝床を共にする・・・一緒に将来を誓った仲ならそうするでしょうでも、私たちはそんな関係ではありませんよね」
「そ、そうですよね」
「では、しょうがないのはおかしいですよね?」
「そ、それもそうですね・・・あの、俺ちょっとトイレに・・・」
「その前に少し話があります、いいですね?」
「は、はい・・・」
この後、5時間ほど、ジェシカの説教が続き、とんでもなく疲れたのは言うまでもないかもしれない。
第三話終
みなさんこんにちわ、ハムカツオブシンドローム講和淵衝です~
第三話はいかがでしたでしょうか?
前回の衝撃の終わりより物語は次なる展開へと動くことに
今回よりあとがきだけ書くスタイルで行きたいと思います~
さてさて、次回はどうなるのか、第四話に続きます
よろしければ、感想のほうよろしくお願いします。