~パンドラの棺編~第二話
こんにちわ、ハムカツの講和淵衝です。これを投稿する頃には八月に入り、暑さも日に日にひどくなっているような気がします。
熱中症にはきをつけましょう。
そんなわけで、第二話になります。
城に潜入したレイルたちは二手に分かれることに・・・王の元へたどり着いたレイル、姫の元にたどり着いた、シェリルとグラン双方を待ち受けている者とは・・・緊迫の第二話開幕です。
第二話「蛇と皇帝」
「こいつはいったい・・・」
「ひどい、こんなことになっているんなんて、二人とも死んでるの?」
「いや、気絶しているだけだ,にしても、どうなっている」
城内に潜入すると、城の門番をしていたと思われる兵士たちが全員倒れていた。
「とにかく、城の中に入ろう。中に入ればもっと状況が分かるかもしれない」
「そうだな」
周りに気を払いながら、城の中に入っていく。城の中に入ると兵士たちが二百人ほどだろうか倒れていた。
「城の中も全員やられていると見た方が早いね」
「ああ、たくどんな連中なんだよ。ここまでするって」
「想像していたよりも大きな部隊、おそらくはギルドが動いていると見た方が早いかもしれないね」
「ああ、だがどこのギルドだっていうんだ」
ここまで、城を簡単に攻めることのできる勢力なんて言うのは、聞いたことが無い。どこかのギルドが連合を組んで攻めてきたのか。いや、そこまでして国を攻める連中もいないか。
ちくしょう、落ち着け、こんな時こそ、冷静になって周りを見渡すんだ。
「レイル君、あれ見て、あの人まだ意識があるよ」
「本当だ。何か情報が聞けるかもしれない、いくぞ」
「おい、大丈夫か!」
「ああ・・・お前たちは・・・奴らの仲間か」
「お、俺たちは・・・」
一瞬、言葉に詰まってしまう、どう答えるべきなのか。
「僕たちは、城の近くを通った、ギルドです。城の異変に気が付いて入ってきました。いったい何があったのですか」
グランが機転を利かせてくれた。こういう時に冷静に行動できるところはさすがと言ったところだろうか。
「そ、そうか、一時間ほど前だ。突然、白いフードを被った連中が襲ってきたんだ。一瞬だった。一瞬で、周りの仲間たちは倒されて、俺も・・・」
「分かりました。その連中を倒すことはできないかもしれませんが、姫や王を助けることはできるかもしれません、姫と王はどちらに」
「姫は、今2階の左奥にある私室だ。二階の中央広間に出て、道なりに左に行けばつく。頼んだぞ。お、王は・・・」
そこで、兵士の意識は途切れてしまった。
「駄目だ。また、気絶してしまったよ」
「そうみたいだな。それにしても助かった、グラン。」
「褒めても酒は出ないよ。それよりも、姫の居場所は分かったんだ。今がチャンスだ」
「ああ、だが王の事も気になる」
「王の事が?レイル、目的は違うだろ」
「確かにそうかもしれないが、王が死んだら誘拐の意味は無くなるんだ。ここは二手に分かれよう、お前たちは姫の誘拐を頼む。俺は、王の様子を見てくる」
「危険すぎる!相手の勢力が把握できない以上軽率な行動はするべきじゃないって言いたいところだけど、王に死なれても困るのは事実だ。様子を見たらすぐに戻って来いよ」
「ああ、シェリルお前も頼んだぜ」
「まっかせてよ!レイルの為なら頑張るよ」
「期待してるぜ」
「じゃあ、僕らは早速お姫様に会いに行こうか。レイル何度も言うが気を付けてくれ」
「ああ」
グランはそう言い残して、シェリルと一緒に二階に向かった。
「さて、俺も行くか」
・
王の居場所については、おおよその見当はついていた。城の三階中央に位置する玉座の間、おそらくそこに王はいるだろう。
以前、この城に来た時に王と話をした場所だ。
この大きな扉を見ると幼い頃の事を思い出す。いや、今はそんなことを思い出している時間はないか。
扉の前に立つとかすかにだが扉が開いているのに気がついた。そばに立つと中の様子が見え、声が聞こえた。
「さて、教えてもらいますよ。ラゼル王、貴方が棺について知っていることを」
中には、王とそれを囲むように五人の白いフードのついた服を着た人間が立っている。
「何度も、言っているだろう。私は何も知らないと」
「何も知らないわけはないでしょう。かの三賢者の中でも、一番アノ人に近かったトールの継承者である貴方なら棺の事を知らないわけが無い」
「なぜ、貴様が三賢者の事を」
「話をすり替えないで頂きたい、私が三賢者を知っているという事など、どうでもいい話、私が知りたいのはロキレポートと棺の在処だけです」
「ロキレポートだと、いったい何のことだ」
「おや、ご存じないと、仕方ない。手荒な真似はあまりしたくはなかったのですが、やれるかピスト」
「御意」
命令をした男には見覚えがあった。あの森で俺を、仲間たちを襲ったやつだ。あの顔を忘れることはない。他の奴らは見たことない奴らだが、あいつの仲間なのだろうか。
「何をするつもりだ」
ピストと呼ばれた男は、懐に収めていた銃をゆっくりと引き抜いた。瞬間、ピストの持つ銃の先は王のこめかみに触れるほどの距離にあった。そう、あの時と同じように。
「どちらがいいか、選べ一瞬で殺されるのか、それとも生き続けるのか。死ぬのが嫌なら、我らが主にすべてを話すことだ」
「だから、私は何も知らないと言っているだろう。確かに、我が一族は賢者トールを継承する一族ではあるが、ほかの賢者のことなど知らぬ」
「ほう、では棺のことは?あの棺のことならしっかりと伝承されているはずです。どこにあるのですか」
「私は棺のこともそのロキレポートとやらのこともなにも知らん」
あくまで、王は何も知らないの一点張りだった。頑なに相手から目を話すこともなくただ真っ直ぐに真実だけを話しているように見えた。
「グヘヘ、オデ、ハラヘタ、コイツクテモイイカ」
「やめとけ、こいつは俺が殺す、激しくな」
「いや、彼はこの私が美しく殺すとしましょう」
「なんだと!レイディス、何が美しくだぜ。こういう時は激しくだろうがよ」
「あなたこそ、ローレンツ、死には礼節というものがあるのですよ」
「グヒヒヒ、ハラヘタ」
「やめないか、お前たち、主の前だぞ、見苦しい」
「大丈夫さ。ピスト、こいつらはいつも通りだよ。さて、私の仲間がうるさくしてしまったね」
「なぜだ、なぜ私を裏切るのだ。七英雄たちよ」
「裏切る?とんでもない、私たちは今も昔も、主の忠実な同志にほかありませんよ」
「まったくですよ。王には申し訳ないと思いますがこれが私たちの仕事なのでね。どうかご了承いただきたい」
「無礼者どもめ」
「さあ、お話はここまでにしましょう。本当はあまり手荒な真似はしたくなかったのですが、いつまでもこうしてはいられません、腕で構わん、撃て、ピスト」
「御意」
こめかみに向いていた。銃が今度は、標準を腕に変えた。それを見た、瞬間俺の体は勝手に動き出していた。
扉を勢いよく開けて思いっきり叫んでいた。
「やめろ!」
部屋にいた全員の視線が自分に向いた。
「おや、君はあの時の少年、また会ったね」
「あぁん、てめえいきなり出てきてどういうつもりだ」
「グヘヘ」
「美しくない」
「おや、これは意外なお客さんだな」
突然の乱入者に動じることもなく、冷静にさっきまで王と話をしていたのとなにも変わらない状態だった。
「どうしますか、主」
「しょうがない。殺すわけにはいかないだろう。それも計画だからね。でも、自由に動かれるのもこまるから、捕まえろ」
「御意」
王に向いていた殺意がこっちに向いたのが分かった。やばい、と思った時にはピストがもう目の前にいた。
やばい、そう思った瞬間、俺の意識は遠のいていった。
・
「レイル君、大丈夫かな」
「あいつなら、大丈夫。昔から無茶ばかりしてきたが、一度だって死んで帰ってきたことはないからな」
「それはあたりまえだよ!」
「はは、悪い、わるい、さあ、もうすぐ目的の部屋の前だ」
レイルの事は、心配していたが、心配よりも信頼のほうが大きかった。だから、今は自分の与えられた仕事をこなすことにだけ集中することにした。
「鍵は、よし、開いているな。シェリル俺の合図で突入だ」
「うん、わかった」
慎重に、慎重にやれば絶対に大丈夫だ。あせるなよ。
「よし、いくぞ!」
勢いよく扉を開ける中に入ると明かりはついておらず、差し込む月明かりで中がかろうじて見える状態だった。
姫はどこだ。まさか、もう敵に見つかったんじゃ。そう思った瞬間窓辺に座る小さな影に目を奪われた。
「グラン君、お姫様どこだろう、暗くて何も・・・グラン君?」
「綺麗だ・・・」
シェリルに声をかけられたことにも気が付かなかった。それくらい窓辺にたたずむ影が美しかったのだ。
月にかかった雲がなくなり、月の明かりがより強くなると、影はしっかりとした形をあらわした。
クラスト帝国王女フランジェシカ・アルバディーネの姿がそこにあった月を見つめ悲しげにしている彼女の瞳に吸い込まれるようにグランは見惚れていた。
「グラン君、ちょっと見惚れてどうするの。早く、誘拐しないと」
「ん、ああすまん。そうだな」
もう、しっかりしてよ、とシェリルに落胆されてしまった。にしても、人を一瞬で惹きつけるあの凛とした美しさはなんなのだろうか。
そんなことよりも、どうするべきかどうやらこちらにはまだ気づいていないようだし後ろからいきなり、いやここは慎重に行動しよう。まずは、相手の様子を見るところからだ。
「こんばんわ、お姫様、考え事ですか」
ゆっくりと、姫に近づいて、声をかけた。
「こんばんわだなんて、挨拶は二度もいりませんよ。カッツェ」
「カッツェ?一体誰の事を」
「え、だって貴方はカッツェ・・・どなた?」
「まさか・・・しまった!後だ、シェリル!」
どうしたの、と困惑するシェリルの後ろで影が動いた。とっさに、剣を構え攻撃態勢にはいった。
「避けろよ、シェリル!紡ぐは風の声〈旋律の双風〉」
シェリルは俺の声を聞くとすぐに横へとダイブしていた。シェリルが避けた所に向かって二つの風のような衝撃波が通り抜ける。
二つの風は黒い影を切り裂いた。やったか!そう思った瞬間、自分の後ろに殺気を感じた。
「甘いのさ」
黒い影から剣の矛先が襲ってきた。とっさに、身をよじり後ろに無理やり後退してなんとか避けた。
「チッ、仕留めたと思ったんだど、今度はこっちが甘かったのさ」
「お前がカッツェさんかい、随分と荒いお出迎えだな」
「ふん、侵入者に対する態度としては当然なのさ」
「お前らだって、侵入者じゃないのか」
「何を言っているんだい。僕らは城の人間さ、だからあくまで姫の護衛をしたまでだよ」
「なるほど、そういうことか。お前、七英雄の一人だな」
「だとしたら、何だっていうんだい」
「ベルカ・ロッドという男の事を覚えているか」
「ベルカ・ロッド?いや、そんな奴には覚えがないのさ」
「じゃあ、レイル・ファントムという男を知っているか」
「レイル?ああ、あの森であった少年か。そうだね、珍しくギルガメッシュが興味を持っているようだったから覚えているのさ」
「そうか、お前だったか、おい、無事か、シェリル」
「う、うん、なんとかね」
「そうか、じゃあ後ろに下がっていろ、お前を巻き込むかもしれん」
「グラン君、何する気、グラン君!」
もう、シェリルの声は聞こえてはいなかった。俺の思考は目の前にいる敵を殺すことしか考えていなかった。
「おや、その殺気、僕とやる気かい、面白い受けて立とう」
「一撃だ、一撃で貴様を沈めてやる」
全身に強く、力を入れた。ここまで、怒り本気になろうとしているのはいつ以来だろうか。
今は、そんなことなど、どうでもいいか。どうせ、こいつを殺したらこの怒りはおさまるのだから。
人の命の代償は人の命でしか償うことはできない。だからこそ、こいつの命でつぐなわせてやるんだ。ベルカの、一緒に散って逝った友たちの命を。
「創造するは天乱の嵐〈無限の・・・」
「おやめなさい!何をしているのですか!」
瞬間、凛とした声が部屋に響いた。その声はそれまで殺気に満ちていた二人のにらみ合いを一瞬で止めたのだった。
「この部屋で、いいえ、私の目の前でいったい何をしようというのですか!突然入ってきた貴方!そもそも、ノックもなしにレディの部屋に殿方が入るとは何事ですか。マナーはないのですか」
「な、何を突然」
「突然ではありません!話を逸らさないでください。それも、失礼ですよ、それにカッツェ、貴方も貴方です、私を守ってくださったことには感謝いたしますが、それでも先に乱暴をはたらいたのはカッツェではないですか、国の軍に従属する人間なら最低限お客様をもてなすマナーを知りなさい!」
「す、すみません、フラン様」
「本当に、反省していますか。反省しているのなら、お客様に謝りなさい」
「謝るって、しかし、フラン様、相手は侵入者ですよ、どうしてそんなことを」
「まだ分からないの!いいこと、侵入者だろうがなんだろうがこの城に入ったものはお客様です!それ以前に、喧嘩をしたら、先に仕掛けた方が謝るのが普通でしょう!」
「け、喧嘩って、僕は子供では」
「ハハ、アハハハハハ!」
グランはあまりにもその光景が面白かったのか。突然笑い出していた。
「な、何がおかしいのさ」
「い、いや失敬、おかしいわけじゃないんだ。ただ、お姫様の言葉を聞いていたらあんたに怒りを持ったことが急に馬鹿らしくなってね」
こんなに、真っ直ぐな人間を今までに見たことがあっただろうか。ギルドという市民の生活とは離れた暮らしをしていたグランには姫の反応が新鮮に見えた。
「まったく、まあ、いいか。別に僕の目的は君を殺すことではないし、それに君からはもう殺気を感じない。そんな人間、斬っても意味がないのさ」
「俺もさ、別にあんたと仲良くしようなんて気は毛頭ないが、お姫様にこれ以上怒られる方がおっかねえや」
「それもそうだね」
気が付くと、グランとカッツェは姫を見て笑っていた。不思議なことにさっきまで、いがみ合い殺そうとした相手をこうも簡単に笑いあうことができる事に、グランは心のどこかで安心しそして、驚いていた。
これが、将来一国の民を背負うことになる、姫の持つ力なのだろうか。
「な、何がおかしいのですか!お二人とも、笑わなくても」
二人は、それでも、笑っていた。敵も味方も関係なくただ二人は親友同士であったかのように。
そんな光景を後ろから見ていた、シェリルはどうしてか笑うこともなくあきれ返っていた。
「グラン君ってあんなキャラだったけ、なんだか幻滅しちゃいそう」
シェリルが好意を抱いているのはレイルだが、グランのことはギルドの先輩としても尊敬していたし、何より親しくしていたので、その姿が何とも言えない気持ちを生み出していた。
そして、それはシェリルの後ろで腕を組んで立っている人物も同じ気持ちだった。
「はぁ、呆れた。ヴェノムの奴、何が狙った獲物は逃がさないのさ、よ、狙いもしないんじゃ意味ないじゃないの」
その声は、シェリルの耳にはっきりと入った。後ろに誰もいないと思っていた、シェリルは驚き後ろを振り返る。するとそこには、妖艶な笑みを浮かべるセクシーな女性が立っていた。
「はぁい、お嬢さん、初めまして、くししし」
「貴方は誰、あいつの仲間?」
「まあ、いちよそうね。自己紹介しましょう。私は七英雄が一人、サラ・ウォーレン持っている異名は〈ナイトメアゴート〉よ」
「そう、サラさんね、私も自己紹介しなくちゃ、私の名前は・・・」
「いえ、結構よ。私、女性の名前には興味がないの」
「貴方って、嫌な性格してるのね」
「くししし、よく言われるわ。さて、申し訳ないけど私、貴方とこれ以上お話している暇はないのやらなきゃいけないことがあってね」
「やらなきゃいけないこと?」
「そう、お姫様を主の元へ連れて行かなければいけないのよ。もう、早く連れて行かないと怒られるのにな、ヴェノムときたら」
グランと一緒に笑っている彼と、私の話しているサラという女性もお姫様の事を狙っているようだ。
本当は、誰とも戦わずに済めばいいとおもっていたけど、やはりそうはいかないようだ。それもそうか、ここは今戦場と何も変わらないのだから。
敵がいて味方がいればそこはもう、シェリルにとって戦場である事を意味していた。
「そうなの。悪いけど、私たちもお姫様に用があってこれから、一緒に連れて行こうかって話をしていたの、だからおばさんたちに連れていかれると迷惑なんだけど」
なんか、むかついたから、おばさんって呼んでやった。なんだか、すっきりした。
「お、おば・・・お嬢さんもう一度言ってみなさい」
「ええ、いいわよ。何度でも、言ってあげるわ。オ・バ・サ・ン」
「このガキはちょっとこっちが親切に声をかけたらつけあがりやがって!歳が若いだけでいきがってんじゃねえぞ!」
「あら、本性丸出し。こわーい、年齢の事を気にしているのはおばさんのほうじゃないの」
「こんガキャア!いっぺん痛い目みんと分かんないのかい!」
怒り狂った、サラはポケットから笛を取り出すと、いきなり吹き始めた。
「そんなに、お望みなら永遠の眠りに招待してあげるよ」
笛から歪にゆがんだ音が鳴り響いた。耳をふさぎたくなるくらいに嫌な音がした。
「お、おい!ゴート!みんな目を閉じて耳を塞ぐんだ」
ヴェノムの一声で、サラを除いた三人は目を閉じて、耳を塞いだ。微かに音は聞こえていたが、目を閉じた瞬間音は遠のいていくように感じた。
しばらくすると、音も止まり再び静寂が戻った。
「まったく、いきなりを笛を吹くなんて、どういうつもりだ。計画を台無しにしたいのか」
「台無しにしたいのはそっちでしょうよ。主は早く連れて来いって言っていたのに、いつまで時間かけてるのよ。心配して見に来たら知らない奴と笑ってるし、呆れるわよ」
「そ、それはだな。フラン様のせいというかなんというか」
「はぁ、言い訳はいいからさっさと、姫を連れていくわよ」
「分かったのさ。しょうがないな、そういうことでフラン様申し訳ありませんが一緒に来てもらいますよ」
「あら、こんな時間にどこに行こうというの。分かっているとは思うけど、お父様のいいつけで、私はこの時間に、部屋の外に出ることは許されていないのよ」
「それは、承知していますよ。でも、僕ら七英雄はもう、王に仕えてはいないのでそんな命令は関係ないんですよ」
「それは一体どういうことですか。もう、父に仕えていないとは」
「そのままの意味ですよ。さあ、これ以上ゴートにせかされるのは嫌なのでね。行きましょうか」
「ちょっと、待てよ。お前ら、いったい何のつもりだよ」
「何の、つもりっって、そういえば君たちは何の目的でここにいるのかな」
「ん、俺たちか、俺たちは・・・」
グランは、ここで本来の目的からそれてしまっていることに気が付いた。再び剣を強く握りなおした、片方の剣だけ。
「危ない!ヴェノム」
「なに、しまっ・・・・」
ヴェノムは一瞬懐に入られしまったように感じたが、相手はその横をすり抜けただけであった。
「そうか、目的は僕らと同じなのか!」
グランの目的に、気が付いたときには一歩遅かった。グランは姫の手をつかむと一目散に部屋の出口に向かっていた。
「逃がさないよ」
後に続く形で、ヴェノムも走り出す、しかし何かにひっかかり倒れてしまう。
「なんだっていうのさ!」
「ヴェノム、下よ、下」
「なに、これは玩具の兵隊?」
足元を見ると、そこには玩具の兵隊が二人立っており、その兵隊に足をひっかけられたのだ。
「いつのまに」
「どう、私の玩具の兵隊さんたちは」
「やってくれたね、ゴート、あいつを止めるんだ」
「言われなくても、やるわよ」
再び、サラは笛を吹こうとするが、その時になってようやく、手から笛がなくなっていることに気が付いた。
周りをとっさに見ると、そこには玩具の忍者がいた。
「しまった、私もやられていたのね」
「あら、おばさんどうしたの。最近、不注意が多いんじゃないの」
「く、あのアマやってくれる!」
「いくぞ!シェリル、それぐらいで十分だ」
「うん、行こうグラン君!」
「待ちなさい、こなったら接近戦で」
「おあいにくさま、貴方達の相手は私じゃないもん」
そういうと、シェリルは手に持っているおもちゃ箱を全開に開けた。
「トイボックスオープン、召喚〈戦慄の巨兵〉!」
すると、おもちゃ箱から、部屋に入りきらないくらいに大きな玩具の兵隊が現れたのだ。
「巨兵さん、この二人をよろしくね」
シェリルが、そういうと、巨兵は大きな頭を揺らして、頷いたように見えた。
「ばいばーい」
巨兵を残して、姫とグラン、シェリルは部屋を後にした。
「大丈夫、ヴェノム、一泡食わされたみたいね」
「まったく、七英雄が二人もいながら、情けないのさ。仕方がない面倒だけど、まずはこのでかい玩具を解体してからだね」
「そうね、くひひひ、ちょっと面白いかもね」
「ハンタードッグの腕が鳴るよ」
「ナイトメアゴートに眠らせることができないものはないってね」
普段は、いがみ合ってばかりの二人だが、こういうときだけは仲が良くなるのであった。巨兵がその大きな腕を振り下ろした。
・
「少し、眠っていろ!」
目の前の殺気に恐怖を感じた。死の恐怖だ、それが全身を包み込み、体が動かなくなり意識が遠のいていく。
その時、体の中から声が聞こえた懐かしいようで、それでいてなにか不思議な感じがした。
―その恐怖を消し去りたいか―
声は俺にそう問いかけてきた。今目の前に迫る恐怖を消し去るというのだ。
―恐怖を消し去ることができるのか―
俺は、その声に助けを求めた。
―そうだ、さあ、我にその身を委ねろお前を守ってやる―
俺は全てに身を委ねた。意識が自分の奥底に沈んでいく感じがした。
―そう、それでいい―
ピストは、レイルの後ろに回り込み、手刀をいれようとした。しかし、次の瞬間手刀を入れようとした先にはなにもなく、ピストの手は空を切った。
「なんだと」
ピストは、焦りを感じたが冷静になってあたりを見回した。すると、レイルは王の目の前に立っていた。
「いつの間に、おい王の前から離れてもらおうか、いったいどんな魔法を使ったのか知らないが」
「うるさいのう。〈黙れ〉」
「!」
その声に、ピストは体が動かなくなった。まるで、鎖でしばられたかのように。その感覚をピストはどこかで感じたことがあると思ったが、今はそんなことを考えている場合ではなかった。
「おい、どうした、ピスト素直にしたがちまってよ」
「グヒヒヒヒヒヒヒヒ、ナサケナイ」
「どうしたというのですか、まさか怖気ついたのでは」
「はぁ、お主らも五月蝿いぞ。〈黙れ〉」
すると、今度は周りにいた、七英雄の三人が動けなくなってしまった。
「さて、そこのお主も五月蝿くするのか」
「いや、そんなことはしないよ。でも、面白い魔法を使うんだね」
「ほう、お主には見えておるようじゃな」
「単刀直入に聞こうか、君はいったい何者だい。部屋に入ってきたときはまるで別人のようだけど」
「なあに、神に忘れられた悲しい蛇だよ」
「蛇・・・だと」
「話はここまでじゃ、お主が動いているのが一番厄介なようじゃな」
レイルの姿を借りた者は、再び言葉を発しようとした。しかし、アーサーはそれを黙ってみていることはしなかった。
「悪いけど、僕も止められるわけにはいかないよ。こう見えて、僕も魔法使いでね。君と同じくらい面白い魔法が使えるんだよ」
「見せてみろ、と言いたいところじゃが、我の目的はお主らを黙らせることではなくこの借りた身体を守る事じゃからな。余計なことをする前に〈黙れ〉」
その声に、アーサーは動けなくなると、その場にいた七英雄たちは誰もが思った。自分の身で体感したことの恐ろしさを十分に理解したからだ。
しかし、予想は大きく外れることになった。アーサーは動かなくなるどころが空中に魔方陣を描き始めたのだ。
「ほう、我の魔法を打ち消したな。なかなかやるではないか」
「別におかしいことはしてないよ。だって、元々その魔法を生み出したのは僕自身といっても過言じゃないからね」
「どういうことじゃ、お主、まさか」
「今度は、君に黙ってもらおうか。幽玄の扉よ開け〈沈黙の理想郷〉」
「爪弾かれる宴〈栄光と円卓〉」
二つの、双対となる力がぶつかった。その衝撃は凄まじく、まさに破壊の権化ともいえる力だった。
「お主、なぜ〈賢帝魔法〉を」
「言ったじゃないか、これは僕自身が創った魔法だと」
「答えるのじゃ、お主は・・・」
「悪いね、僕の方が先に時間が無くなりそうだ。悪いけど、チェックメイトとさせてもらうよ」
「いったいなにを」
「僕がここにいる目的は〈器〉の確保でね、それさえ手に入ればほかには何も用はないよ。聞きたいことも答えてはもらえないだろうしね。そして、その器は王の死によって手に入る」
そういうと、アーサーは王に仕掛けておいた魔法を発動した。その魔法により、王の胸の前に金色の剣が現れ、王の心臓を貫いた。
「神話の法具〈黄金の罪〉」
そして、王の心臓を剣が貫くと同時に、再び玉座の間の扉が開き、フランジェシカ、グランとシェリルの三人が入ってきた。
「父上・・・父上!」
一人の少女の悲しげな叫びがその場に響いた。そして、その声はレイルにも届いていた。
「レイル、これはいったいどういうことだ」
「レイル君!」
「お主たち、レイルの知り合いじゃな、手を貸せ、我がこいつを止めるそこの少女を父のもとへ」
「何をいって、おいレイルどういうつもりだ。この状況は」
「今は説明している暇はない!いいから早く」
「グラン君、とにかくお姫様をあの人の所に」
「あ、ああ。姫様、こっちです、ってもううごいてるじゃないか」
フランは無我夢中で父のもとに走っていた。その後を追うように、グランとシェリルが続く。
それを見た、アーサーは今度はフランたちに向けて魔法を発動しようとした。
「偽りの影〈蠢く欲望〉」
しかし、それはレイルの姿を借りた者の邪魔が入り、止められた。
「いったい、何をするつもりかな」
「ふん、〈器〉がいったい何なのかは我にも分からぬ、じゃがレイルがこの身体の主があの少女を助けろというのでな、手を貸すまでじゃよ」
「厄介だね」
「お主もな」
この時、その場にいる誰もが理解できなかった。これから何が起きようとしているのか、そして、何が終わろうとしているのかも。
第二話終
如何でしたでしょうか?
様々な謎の飛び交う第二話、果たして真実はどこに・・・
第三話へと続きます。
※感想と評価のほどお時間があればでいいのでよろしくお願いします!