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ロストオブギルティ  作者: 講和 淵衝
パンドラの棺編
2/11

~パンドラの棺編~第一話

プロローグも終りここから本編になります。

まずは第一部~パンドラの棺編~

この作品始まりの物語すべてがここから始まります。

森から救い出されたレイル、国に復讐するために意外な形で旅を始めることに・・・

革命の冒険ファンタジー開幕です。

        

             第一話「復讐と誘拐」


  小さい頃の夢を見た。これはあの時の夢か?あの浜辺にあの子と一緒に抜け出して遊びに行った時の・・・

 それで、浜辺であいつらに襲われて。だめだ、俺はあの子を守らないと。でも、あの子って、誰だ?

 「そこに・・・いるのは・・・」

「私の事しっかり守ってくださいね。私だけの・・・」

 誰だ。俺を見ている君は誰なんだ。あと少しで手が届きそうなのに。どうして届かないんだ。

 「・・ル」

頭の上から誰かの声が聞こえてきた。この声は、とても身近に感る声、この声は誰だ?誰が俺を呼んで・・・・

 「ちょっと、レイル君、大丈夫?」

「ここは・・・」

声の主、シェリル・ホーク・フェンリルに呼ばれて目が覚めた。

 「ここは〈さばきのつるぎ〉の拠点だよ、それより大丈夫?だいぶ、うなされていたけど」

 「大丈夫だ、ちょっと昔の夢を見ていただけだ。所でどうして、俺はここに居るんだ?たしか、俺は森にいて・・・」

 「ギルガメッシュって人がね三日前にここに来て、森にいるれいるファントムを助けてやってくれって、それだけ言ってどこかに消えちゃったんだけどね、お父さんがすぐに回収部隊を編成して助けに行ったんだよ」

 「そうだったのか、ゴルドーさんにもお前にも迷惑かけちまったな」

「もうほんとだよ、レイル君てば三日も寝てたんだから、起きなかったらどうしようかとおもったんだからね」

 「・・・そんなことより、俺以外の仲間は・・・そうか、あの時殺されて・・・」

「レイル君・・・仲間の人たちはみんな埋葬したよ」

 「そうか、ありがとうな、シェリル」

「ううん、

 「おう、やっと起きやがったか。坊主」

「ゴルドーさん」

 「お父さん」

「なんだ、思っていたよりも元気そうじゃねえか。心配してそんしたぜ、ほら見舞いの酒だ、受けとれ」

 「あ、ありがとうございます」

突然、部屋に入ってきたのは、〈さばきのつるぎ〉の頭領、シェリルの父親である男、ゴルドー・リード・フェンリル。

 俺がガキの頃から何かと面倒を見てくれた人で、俺にとっても父親みたいな存在であった。

 「にしても、本当に今回は災難だったな。まさか、国に目をつけられることになるとはな」

「はい、まさか国がギルドを潰そうとするなんて」

 「なぜ、国がお前さんたちに目をつけたのか、単刀直入に聞くが坊主、お前やばい橋渡ろうとしてたんじゃないだろうな?」

「お父さん!いくらレイル君でもそんなこと」

 「うるせぇ、俺はお前に聞いちゃいねぇ、坊主に聞いてんだ」

「・・・すいません、特に思い当るところはないです」

 「ほら、お父さんが疑いすぎなんだよ」

「ここでは、お父さんなんて呼ぶんじゃねえ。頭領とよべと言ってるだろ、しかしこいつが狙われる理由と言えば、仕事絡みのことしかないだろうが。シェリルお前も、こいつがギルドでどんなことをしているか分かっているはずだ」

 「そうだけど・・・でも、一番被害を受けたのもレイル君なのよ。少しは彼の気持ちも考えてあげてよ」

 「はぁ、我が娘ながら泣けてくる。確かに、この坊主は一番の被害者だ、しかしギルドを自ら立ち上げたのなら、それなりの覚悟があったはずだ、生半可な覚悟はこういった結果にしかならねぇ」

 「どうしてそんなひどいこと!」

「いいんだシェリル、ゴルドーさんの言うとおりだ、俺があんな馬鹿な事をしなければ・・・仲間も死なずに済んだし、なにより覚悟が足りなかったのは紛れもない事実」

 「でも・・・」

「悪い癖だな、結局俺は酒に弱かったんだ、すぐ酔っちまう」

 「お前が、酔っていたのは酒だけじゃねえだろう」

「え?」

 「お前が、仲間を死なせちまった最大の原因、それは坊主お前さんが自分の力と名声に酔っていた、だから無茶な事だと分かっても行動しちまった、酒を言い訳にするな、これは自分自身の過失だろうが」

 自分の力と名声に酔っていた、確かに言われてみれば、それが一番大きいことかもしれない。〈朱眼しゅがん死神しにがみ〉なんて言われて舞い上がっていたんだから。

「でも、それでも・・・俺は、仲間を殺したあいつらが・・・」

 俺にはあの二人が許せなかった。大切な仲間を奪われたままでいいはずがない、あいつらを殺しても仲間たちが戻ってこないことはわかっているが、それでもあいつこのままにしていても仲間がうかばれない。

 俺自身の犯してしまった過ちの為、仲間の弔いの為・・・目覚めた俺の心の中は再び憎しみと怒りに支配されていた。

 「おい、馬鹿なことは考えるな。国に対して報復なんぞ、次は本当に死ぬことになる」

 「分かってますよ、分かっていますけどでも!」

「レイル君・・・もし、もしよければなんだけどね、私たちのギルドに戻ってこない?」

 「〈裁きの剱〉にまた俺が」

「そりゃあ、いいじゃないか。お前さんなら俺のギルドでまた世話しても構わん、昔の事は水に流してよ」

 「ありがたい言葉ですが、こんな時にすぐ他のギルドに移れる余裕は俺にはないですよ」

 「そんなこと気にしなくていいじゃない。確かに、みんなが・・・その、死んじゃったことは悲しいことかもしれない、でもきっとみんなはレイル君が笑っていてくれるのが一番だと思っているはずよ」

「まぁ、一晩、ゆっくり考えてみな。なに、すぐにギルドに入れとは、俺も思っちゃいないさ、お前さんにもまだ思う所はあるだろう」

「ちょっと、風に当ってきてもいいですか」

 「そうだな・・・行って来い」

ありがとうございます、といって俺は部屋を出ていった。少し、考える時間が必要かこれからのことを。

 「お父さん、レイル君、このまま行っちゃったりしないよね」

「頭領と呼べ、後はあいつ自身が決めることだ。俺たちはそれを見守るしかねぇ。にしても、あいつが酒を置いていくとはこりゃあ嵐の前触れかもな」

 「レイル君・・・」

                   ・

「時期的には八の月だっていうのに、あいかわらず夜は寒いな」

 確かに、ゴルドーさんの言うことには一理あるよな。俺が馬鹿な行動をとってしまったばかりに仲間を殺した、生半可な覚悟を持ってしまっていたが為に。ゴルドーさんは復讐はするなと言った、でも、それじゃあ、この心の蟠りはどうすればいいと言うのか。

 「あ、そういえば酒、置いてきちまったな」

何だか、寂しい気がした。自分の体の一部が無くなったようなそんな気分だ。いつまでも酒に頼ってばかりもいられないのだろうけど。

「ま、そう簡単にやめられるのなら、苦労はしない・・・か」

 「そうだよ、酒ってのは俺らの心を洗ってくれるものだし、なによりレイルがやめたら俺の飲む相手がいなくなるじゃないか」

「ん、なんだ、グランじゃないか」

 「よう、久しぶりだな。レイル、ようやくお目覚めかい」

「あぁ、どうやら三日も寝ていたみたいでな、おかげでいつもより目が冴えてるきがするよ」

 「でも、心はどこか煮え切っていない、そんな顔してるぜ」

何もかもお見通しってわけか。〈裁きの剱〉の六人しかいない幹部の一人、グラン・ガルーク、シェリルと同じ俺の親友の一人で俺がギルドから抜けた後もよく一緒に酒を飲んでいる。

 「お前、国に復讐するつもりか」

「本当に、勘が鋭いなお前は、何でもお見通しときたもんだ、なぁ、グランお前も俺の考えは馬鹿なことだと思うか?」

 「いや、俺は思わないね」

「そいつは意外だな」

 「意外か?気持ちは分かるぜ、だって、親友を殺されたのはお前だけじゃないんだからな」

 「そっか、お前とベルカは生まれた時から一緒にいるんだもんな」

「そう、だから気持ちは分かる」

 「悪いことしたな・・・」

「なに、本当にそう思うのなら、俺と一緒に復讐でもするか?」

 「おいまさか、いや駄目だ。グランにまで人殺しをさせるわけにはいかない」

「何バカ言っているんだよ。誰が、人殺しをするって言ったんだ」

 「じゃあ、どうすりゃあいい?それ以外に方法なんて・・・」

「ないと思うか?」

 「ああ、俺はいつだってそうしてきたしな」 

「簡単な話さ。誘拐ってやつをしちまえばいいだけ」

 「誘拐?」

「そう、誘拐、三年前に女王が亡くなってから、王が最も大事にしているものといえばなんだかわかるな?」

「一人娘の王女様、なるほどお前らしい考え方だな」

 「その通り、察しがいいじゃないか。その王女様をさらってそれをダシにして、奪えるものを全て奪うのさ、俺たちが失ったものには届かないかもしれないが、それでも十分だろう」

「なるほど・・・悪くはないかもしれないな」

 こいつは昔からそうだった、俺が暴走しそうになったとき、うまく止めてくれる。グランのそういった優しさにいつも救われる。

 「そうと決まれば、明日の朝一番に、ここに集合だ」

「ちょっと待て、俺はこのまま行動をとってもいいとして、お前は本当にいいのか?こんなことをしようとしていることがゴルドーさんに知れたら、脱退どころじゃすまないぞ」

 「なあに、心配しなさんな。俺だって、お前にこんな話をするくらいだ。覚悟はとっくにできているよ」

 「覚悟って・・・お前なぁ、覚悟なんて言葉を簡単に口に・・・あ」

俺はその時、ふと昔の事を思い出した。それは俺がギルドを抜ける日のこと・・・

 「俺は自分でギルドを創る!」

「馬鹿野郎!今のお前にそんな覚悟があるって言いやがるのか」

 「覚悟ならあるさ!」

「覚悟なんて言葉を簡単に口にするんじゃねえ、この青二才が!そうか、分かった。お前がそこまで言うならもう勝手にしろ俺はお前には二度と関わらねぇからな」

 「俺も、もうアンタを親父となんか思わないさ!じゃあな」

そういって、俺はゴルドーさんと喧嘩別れして・・・なんだ、やっぱり俺には覚悟がたりなかったのか。

 「どうした?」

「いや何でもないさ、俺が人様に覚悟がどうのこうのって言える立場じゃなかったなと思ってな」

 「なんだ、突然変な奴だな、それよりも俺はもう決めてるんだ、俺はこのギルドを抜ける」

 「それがお前の覚悟か、でも何もそこまでしなくても」

「言っただろ。俺にとってもこれは重要だ。もし仮に、お前がいなかったとしてもやっていたことだろうよ」

 「それでも、仮にギルドを辞めたとして、その後はどうする」

「それは、後でちゃんと考えてあるさ。だから俺には覚悟が出来ている、後はお前次第なんだよ」

 あとは俺次第か、でも・・・いや、そうかもう後ろは向いちゃいられないんだな。

 「分かった。明日の早朝だな」

「ふ、待ってるぜ。そうだ、この話は、置いておいてどうだ飲みに行かねえか?久しぶりによ」

 「ほんと、お前は飲むことばっかりだな」

「さして、お前と変わらんさ」

 「じゃあ、いつもの場所に行くか」

「おお、いいねえ。行こう、行こう」

 その時、誰かが俺の背中を押してくれた、そんな気がしたんだ。

                 ・

とんでもないことを聞いてしまった。まさか、グラン君がそんなことを考えていたなんて、ちょっとレイル君が心配で慰めに来ただけなのに。

 誘拐?ギルドを抜ける?何がなんだかわけが分からなくなっていた。

 「まさか、あの二人本気で・・・」

でも、誘拐するだけだったら、いいんじゃ、ってそんなことないじゃん!レイル君にそんなことさせちゃだめだよ。止めないと。

 でも、どうしたらいいの。私に止めることなんてできそうにないし、父さんに相談しようか、だめだめ、そんなことしたらお父さんはグラン君を・・・

 ああ、でもどうしたらいいの!グラン君にもレイル君にもそんなことしてほしくないよ。

考えるのよ、シェリル、こういう時は・・・

 「女の勘に頼るべし!うん、それしかない!」

こうなれば、私もレイル君たちについていくしかないわ。でも、素直に私も連れて行ってくれるとは思わないし。ここは準備が必要ね。よし、シェリルやろう!

                    ・

 「全ての準備は整った、後は残り半分の歯車が動きだすのを待つのみとなった」

「いよいよ、始まるんだね。くしししし、たのしみぃ」

 「ぐひひひ、オデガンバル」

「死なねえ程度に全力だ!」

 「騙しまくるよ。美しい嘘で世界を満たすのさ」

「狙った獲物を狩るだけなのさ」

 「激しく響く、革命に同意」

「アーサー様、ご命令を」

 「ふむ、七英雄たちよ!今こそ革命のときだ。全ての歯車が回り始めるこのときより、俺たちは真の意味で、自らの罪を消し去るのだ」

静かな部屋に叫び声が響いた。全ては自らの罪の為、自らの過ちのため、真に革命を求める者たちの宴がはじまる。

「ピスト、どうした気分が良くなさそうだが」

 先ほどから、頭痛がしていた。誰か、とても大切な人を忘れているような気がしたが、気の迷いだと思うことにした。

 「こんな時に暗い気分にはなれんよ。むしろ、楽しみなくらいさ」

「そうか、それならいいが」

 「グリフォン、ドック、オマエラノメ。ウタゲ」

「ベアー、君は食べすぎだよ」

 「オデ、タベル、スキ」

七つの罪の子は、全ての原罪の象徴でもある・・か。悲しい世界になったものだよ。

                         ・

 旅立ちの朝、爽やかな日差しと一緒に目が覚めた。空をこうやって見上げるのはいつ以来だろうか

「遅かったじゃないか」

 「そんなに遅くはないだろ、とにかく行くぞ」

「はいはい、行きますか」

 「おう、そうだ忘れるところだった、ほれ」

グランがこちらに向けて何かを投げた。これは、俺が愛用していた酒を入れる瓢箪じゃないか。それに、こっちは槍か。

 「これは、どこにあった。てっきりなくしたもんだとばかり」

「レイルの回収部隊には俺もいてな。その時、拾っておいた。昨日渡そうと思ったんだが忘れてた」

 「肝心なところが抜けてるな。相変わらず」

「俺だからな」

 本当に、こいつは緩いのやら真面目なのやら、よくわからない男だ。昨日の真面目に話をしていた奴とは思えないよな。

 そんなことがありながらも、拠点を出発した。そして、俺とグランは道中でさっそく厄介な出来事に遭遇することになった・・・

                       ・

「さて、坊主どもは行きやがったか」

 「ええ、でもよかったのですか、行かせてしまって」

「大丈夫さ、メリー、その為にグランをわざと自由に動かさせたんだ。まさか、ギルドを辞めるなんて言い出すとは思いもしなかったがなぁ」

 「それも、予想通りだったくせに・・・」

「何か言ったか?」

 「いえ、何も・・・」

にしても、グランがまさかあの坊主の復讐劇に自分も付き合うと言い出すとは・・・

 よく聞けば焚き付けたのは自分だときやがった。たく、なんでこんな奴を幹部にしちまっていたのか。俺も、見る目がなかったということなのか。

 まぁでも、坊主の事が配だったがあいつと一緒なら大丈夫だろうよ。

俺にとっては相当なショックな出来事だったが、そういったことが表情にも出ないようなタイプなもんで秘書のメリーにはそんな風には見えませんと言われたが、あいつは人の心を理解するのが難しいタイプだからな。

 そんなことより、一番ショックだったことと言えば・・・シェリルまで一緒についていっちまったことだ。

 「シェリルも、まだまだ子供だと思っていたが、家出をするくらいに大きくなったんだな」

 「お嬢さんに関しては、先ほどのお二人の出発とほぼ同時にその後をつけて行ったのを確認しておりますが、いかがいたしますか」

 「本当はものすごく心配だが、こうなりゃ、あの二人に任せた方が早えだろう、どっかの国のお姫さんみたいにいつまでも籠の中じゃ、あいつも窮屈だろうしな」

 「そうですか、頭領もあれですね、親ばかということなのですね」

「お前はどうしてそう、真顔でそんなことを言いうのかね」

 「すみません、癖なものでして」

「慣れちまってるからこの際、気にしねえよ。それよりもだ、例の奴ら、どうなったその後なにか動きを見せたか」

 「いえ、どうやら、我々の動きに気が付いたのかすぐにこの街を離れたそうです。このまま、監視を続けますか」

 「いや、いい。それについては俺が動く」

「頭領、自ら動くのですか」

 「それしかねえだろ。さて、俺たちもあいつらに負けねえくらいの大冒険の始まりだな」

 待っていやがれ、俺の島で勝手をしようとした、礼はきっちりさせてもらうぜ。闇商人ギルド〈不可侵域ふかしんいき魔弾まだん〉さんよ。

                       ・

 「なあ、グラン」

「どうした、まだ出発して五時間くらいしか経ってないぜ。さっき休憩したばかりだし」

 「そうじゃねえよ。お前も気が付いているだろ。さっきから」

「ああ、そのことな。気が付いてるよ、ベクトル山に入ったあたりからかね」

 「ゴルドーさんが心配して誰か偵察につけたか?」

「いや、それはないと思うけど」

 「そうか、まぁ偵察ならこんなに分かりやすいわけが無いな」

「うん、僕もそう思うよ。でもそうなると一体誰なんだろうね」

 「さあな」

「もしかしたら、山賊とかじゃないかって思うんだけどどう思う?」

 山賊か・・・確かにここらへんなら出てもおかしくはないか。

「可能性としては無くはないな、だがそれでも妙だ」

 「というと?」

「ああ、かれこれ山に入ってから三時間くらいたってるんだぞ、後ろからつけてくるだけってのはおかしい、一度休憩をしているわけだし」

 まったく、早く姿を現してくれた方が分かりやすくていい。さすがに痺れを切らせた俺はつけてくる奴に対して声をかけた。

 「そろそろ、後をつけるのはやめてくれないか。あんまり気分が良くないんでね」

「おい、レイルいいのか?戦闘は避けた方が」

 「分かってる、でもなにもしないよかましだろう」

「君ってやつは・・・」

 しばらくすると近くの茂みで動く音がした。だがそう簡単に姿を見せてはくれないようだ。

 「おい、レイル、そんな安っぽい挑発にかかるほど、相手も馬鹿じゃないんじゃないかい」

 「そうでもないみたいだぜ。見ろよあの茂みのとこ」

「レイルの一声できづかれたと思って一瞬動こうとしたことが裏目にでたね」

 「俺との間合いを広めてくれ」

「オーケー、お前の射程にいたら、こっちは痛い目を見てしまうし」

 「理解が早くて助かる」

「いくぜ、夜幻流やげんりゅう四の陣〈月光一蹴レストキック〉」

槍を低い姿勢から全身を使い風を起こすかのように攻撃する技、牽制になるようにうまく、的を外して茂みに攻撃した。

「きゃあ!」

 狙いは。うまくいき、茂みから、隠れていた奴が姿を現した。

「何すんのよ。びっくりしたじゃない」

 「シェリル!どうしてこんなところに居るんだよ」

「あ・・・こ、こんにちわーこんな所で奇遇だねー・・・」

 「シェリル、さすがにそれはわざとらし過ぎるんじゃないかい?」

「あはは、やっぱり?」

 「お前がどうして」

「いやぁ、ちょっと・・・ね?」

 「ね、じゃないぜ。まったく」

現れたのは、シェリルだった。ゴルドーさんが、シェリルを密偵に送ってきた?いや、そんなことはないと思うが。

 「どうしてここに、まさか、頭領に頼まれたんじゃ」

「そ、それはないけど・・・実はね・・・」

 それから、シェリルがどうしてついてきたのか事情を聞いた。どうやら、昨日の夜の会話を聞かれていたらしく、シェリルもなんか知らんが、俺の為に何かしたいと思いたちこっそりついてきたそうな。

 昔から、こいつは好奇心旺盛な奴だ。ここまでついてきた行動力については認めるがそれにしても、何で俺の為にこんなことをしたんだ?訳が分からん。

 「どうする、グラン、今からこいつを連れて帰ると時間が無くなるぞ」

「待って!お願い、私も連れて行って、絶対足手まといにならないから」

 「しょうがない、レイル、シェリルも一緒に連れていくしかないよ」

「いいのか。シェリルには実戦経験はないはずだろ」

 「馬鹿にしないでよね。これでも、こっそりグラン君に稽古をつけてもらっていたんだからね」 

 「グラン・・・こいつさらっととんでもないこと言ったんだが」

「それについては、僕が謝る。すまない、シェリルにどうしてもって言われて断れなかったんだ。でもこれでシェリルを連れて行っても、援護ぐらいはまかせられるってことが分かってよかったじゃないか」

 「言いたいことはたくさんあるが今はここで言い合ってる場合じゃないか、しょうがない足引っ張るなよ?」

 「うん!ありがと、レイル」

俺たちには前に進む以外に選択肢が無いようだし、ここは賢明な判断だったと言うことにしておくか。

 「少しは、役に立つことを期待する」

「レイル君、私がんばるね」

 「恋する女性は強いんですな・・・」

「何か言ったか、グラン?」

 「いや、なんでもないよ」

「変な奴だな」

とにかくこんな次第でシェリルが参加することになってしまった、こいつを俺たちの誘拐に参加させることについては、どこかに抵抗みたいなものがあったがうだうだ行っていても仕方がなさそうだ。

 「そういえば、シェリルの武器を俺は見たことないんだが、普段からその持ち歩いてる箱みたいなやつか?」

 「おお、よく聞いてくれました!そうなのです、私の武器はこの〈トイボックス〉ていうおもちゃ箱なんだ」

 「トイボックス?なんだそりゃ」

「まあ、これに関してはレイルも口で説明されるより実際に戦っている所とか使っているところを見るとどんなのか分かるよ、正直なかなかに面白い武器だと俺は思うね」

 「グランが、そこまで評価するとなると、期待できそうだ。何かあったときには頼りにさせてもらうぜ、トイボックス」

 「もう、トイボックスにも期待してほしいけど、私に期待してほしいな」

「ああ、お前にも期待してるさ」

 「ほんと!やったぁ」

「レイルって、意外に鈍感なのな。いや、昔からかだったかな」

                     ・

それから、また少しの休憩を挟んで、山を越え、気が付けば夜になっていた。だがなんとか目的地に到着し、城の近くまで来ることができた。

 「ふう、やっと着いたな」

「ここまで来るのも一苦労だけど、これからが本番だ。さて、どうやって城に潜入するかだね」

 「そうだな、まずは城の中がどうなっているのか偵察できればいいんだが」

「ふふーん、このシェリルさんの出番ですな!さっそく、活躍しちゃうよ」

 「おい、大丈夫なのか。かなり危ないんだぞ」

「大丈夫、別に私が直接動くわけじゃないから」

 「どういうことだ、まさかそのトイボックスを使うのか?」

「まぁ、そういうことだね。偵察に行ってもらうってことだよ。まあ、見てて、トイボックスオープン!召喚サモン小人兵隊ミクロンソルジャー〉」

 シェリルの掛け声に合わせて、さっきまで閉じていたトイボックスの蓋がひらいた。すると中から、小さい小人くらいのサイズだろうか、兵士の格好をした玩具が現れたのだ。

 「これは、玩具の兵隊?」

「そう、この兵隊さんたちは私の言うことなら、何でも聞いてくれるんだよ。よし、兵隊さんたち、さっそくお城に潜入して中の様子を見てきて」

 さらに、シェリルが命令すると、兵隊は敬礼をしてトコトコと城に向かって歩いて行った。

 「これで、少し待てば帰ってくるよ」

「なあ、シェリルあれはいったいどんな原理で動いているんだ」

 「あれはね、一種の魔術だよ、いちよこれでも魔導士ですからね」

「そういえば、そうだったな。なるほど、それの応用なのか」

 「俺もこれを初めて見た時には心底驚いたもんだよ」

 「なるほど、すごいなシェリル」

「いやあ、二人に褒められると照れちゃいますな」

 シェリルは魔導士である、今この世界に存在する魔術という概念の中でも比較的に古くから存在し、〈原初魔術レイマジック〉として知られている、現在この魔術を使える人間は世界でもごく限られた存在しかいないだろう。理由としては、魔術式がほかの魔術よりも複雑な上に、相当な技術を要求されてしまうからであった。

 「あ、兵隊さん帰ってきたよ、お帰りなさいどうだった?」

シェリルが指をさす方向を見るとこっちに向かってトコトコと歩いてくる兵隊たちが見えた。

 「うんうん、それでそれで?」

なにやら、突然兵隊と会話し始めた。どういうことだ。

 「グラン、シェリルはいったい何をしているんだ」

「見て分かるとは思うが人形と話をしているんだよ。魔導士は自分の使役する〈召喚精霊サモンピクシー〉と会話ができるらしいからね」

 「なるほど」

「よし、分かったよ。ありがとうね、兵隊さん戻っていいよ」

 そういうと、またシェリルに敬礼をしてトイボックスの中に戻って行った。

「何が分かったんだ。城の中はどうだって」

 「うん、ちょっと大変なことになってるみたい」

「大変な事って、そんなに警備が固かったのか」

 「そうじゃなくてね、警備兵だと思うんだけど、周りの人はみんな倒れていたらしいの」

 「倒れてた?じゃあ、もしかして、俺たちの他に侵入している連中がいるのか」

「おそらくそうなるだろうね」

 「それ以外に何か言っていたのか、シェリル」

「ううん、それだけだよ。兵隊さんたちはそれしか確認してないって」

 「とにかく、誰かが侵入しているのは間違いないんだろうし、ここは慎重に動かないとだね」

 「そうだな、焦って、動けばあの時の二の舞になる」

「レイルには、あの時の事がよほど堪えているみたいだな」

 「当たり前だろ。もう二度と、誰も失いたくないさ」

「レイル君・・・」

 「こんなところで感傷にふけっている場合じゃないか。二人とも慎重に、潜入するぞ」

 「うん」

「おう」

 この時、俺は心のどこかで胸騒ぎがしていることに気が付いていたけど、きっと気のせいだと思うことにした。

 でも、この時もう少し自分の心に目を向けてやるべきだったかもしれないそう思ってしまった。

              第一話 終

第一話、如何でしたでしょうか?

楽しんでいただけたようでしたら幸いです。

さて、第一話はここまでになります、この後いよいよ城に潜入していくことになるレイルたち、いったい何が待ち受けているのでしょうか

第二話に続きます・・・

※良ければ、評価のほどよろしくお願いします!

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