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ロストオブギルティ  作者: 講和 淵衝
パンドラの棺編
10/11

~パンドラの棺編~第九話

この作品を読んでくださっているみなさん、お久しぶりです!講和 淵衝です。

九話のお話が非常に難航してしまった為に、投稿が遅れてしまいました。

なので、調節のため、第十話は今月11月中に投稿する形にしたいと思います。

11月末までお待ちください。

さて、今回は第九話です。いよいよ第三大陸内での物語が始まっていきます。

この大陸にはいったいどんな秘密がかくされているのか・・・しかし、その前に

知らなければいけないことがレイルたちにはあるようで?

過去とつながる第九話いよいよ開幕です。どうぞごゆっくりお楽しみください。

 第九話「革命と歴史」


レイルたちがバスティーユ大陸に着いてから数時間後の出来事。 

 バスティーユ牢獄の最深部の更に奥に、たった一つだけ隔離された独房があった。外からは完全遮断状態で、空気はとても薄く、必要最低限の魔力だけで燃える近錬式灯ランプの明かりがうっすら影を作る、そんな孤独な独房へと歩み寄る二つの影があった。

 「私たち警備兵ソルジャーが近づけるのはここまでです。戻るまで待機していますが、くれぐれもお気をつけください」

 「ありがとう、案内に感謝します」

「行こうよ、兄さん」

 「そうだね、ではしばらくお待ちを」

その双子は警備兵ソルジャーに頭を下げると奥の独房へと二人で歩いて行く。双子の姿はその牢獄の中で浮いていた。左側を歩く弟は薄黄色の煌びやかなドレスを纏い、まるで少女のようにもみえる、兄はさながら紳士のようにスーツを着こなしていた。

 「久しぶりの再会だね」

「そうだな、あの人も元気にしているといいけど」

 「あの人なら大丈夫だよ、元いたところだってこんなじめじめしたところだったじゃないか」

 「それもそうか」

「悪いね、さすがのアタシもここまで薄汚いところは好きじゃないよ」

 隔離された独房の中に一つだけ置いてあるシンプルな木の椅子、その椅子に一人の女性が座っていた、白い白衣を纏い両手には三重さんじゅうかせがついている。長い間ここに投獄されているためか、みためはとてもみすぼらしくなっていた。

 「相変わらずですね、母さん、いえ、ドクターアイリス」

「そういうお前さんたちは双子座トゥエリスの坊やたちじゃないか。こうして傑作ピースを見るたんびに自分の才能に惚れ惚れするよ」

 「兄さん、やっぱりお母さん嫌い・・・」

「そりゃあそうさね、母親ってのは子供にとっては怖いものだよ」

 「大丈夫だよ。さぁ、世間話はここまでにしましょう。単刀直入に言います、アイリス、貴方にはここから出てもらい、再び我が教団の為に力を使って頂きたい」

 「ふん、次は本当に神様でも造れって言うんじゃないだろうねぇ」

「いえ、貴方には・・・」

 「なるほど、いいだろう。ここから出しな、すぐにでも造ってやるさ」

「貴方ならそういうと思っていました。レイズ、鍵を開けなさい」

 「いいの?兄さん、警備兵さんに怒られるかもよ」

「かまわない、これも全てはあの計画の為」

 「分かったよ、あれは僕らの理想だからね」

「そうですね、そしてどうやら上の階には彼らが来ているみたいですよ。邪魔者も数名いますが」

 「へぇ、それじゃあ僕らが暴れれば、面白いことになりそうだね」

「計画には無かったことですが、これはこれで、実力が試せるいい機会です」

 「お前さんたち、見ない間に一層、面白くなったじゃないか」

「貴方は黙ってついてきてもらいますよ」

 「はいはい、分かっているさね」

「じゃあ、開けるよ」

 こうして、再び地上に一人の堕天使が舞い降りる。しかし、その翼を広げるのはまだ少し先の物語。

                      ・

 「それで・・・ここがコトミちゃんの家でいいんだよな?」

「はい、そうです。では、さっそく中に入りましょうか」

 広場での一件の後、コトミはとりあえず私の家に来てほしいと言うので一緒に行こうとしたら、お姫様だっこをしないと動かないというので、俺はしかたなくコトミをお姫様だっこして、コトミの家まで歩くことになった。

 途中、仲間たちの笑い声が止まらなかったのが恥ずかしくてしかたなかった。五分ほどすると、豪華な家の立ち並ぶ街並みにひと際大きな家を見つけた、しかしどこか違和感を覚える家だ。

 よく見ると、家の外見は煌びやかな光を失い、所々が錆びているのも目に付いた。どうやらこの家は〈訳アリ〉のようだ。

 「・・・似ている」

「ん?セレナ、何か言いましたか?」

 「な、なんでもありません」

「そうですか・・・」

 「さぁ、門を開いてください」

立派にたたずむ冷たく静かな門をハルトがゆっくりと開ける。俺たちが屋敷の中に入ると、窓から見ていたのだろうか、この家の執事と思われる老人が飛び出してきた。

 「コトミお嬢様!いったいどこに行っておられたのですか!お部屋にいらっしゃらないと思ったら屋敷のどこにもおらず、カルディア様もそのうち戻ってくるから安心してよいと、そのままにしていますし・・・私は心配で、心配で、所でそちらの方々は・・・」

 「わ、私たちはその・・・どう説明しましょう?、レイル」

「お前も落ち着けジェシカ、あの、俺たちは怪しい者ではありません。旅をしているんですが、さっきそこの広場でコトミちゃんに会って、成り行きで家まで送り届けることになったんです」

 「この方々が言っていることは本当ですか、お嬢様?」

コトミは唐突に、俺にお姫様抱っこやめるように言い、その場に俺が降ろすとこちらを見て、会釈をし、老人の方を向いた。

 「本当ですよ、私がここまで連れてきてほしいと言ったのです、この方々に話さねばならないことがあるので、それよりもケインズ、貴方も落ち着きなさいシャーネス家の執事たるものがそんなことではいけませんよ。さぁ、久しぶりの客人です。丁重にもてなす準備をなさい」

 「お嬢様・・・承知いたしました。取り乱してしまい申し訳ありませんでした。さぁ、お客人方、どうぞ屋敷の中にお入りください」

 俺たちは、ケインズと呼ばれた執事に従い、屋敷の中に入っていった。

中に入るとまた違った印象を俺たちに与えた。眩しいほどに輝くシャンデリア、よほどに腕の立つ彫刻師が造ったであろう、立派な石造など、表とは違い、絢爛豪華な家の中はまさに貴族エヴォリアーであることを思わせた。

 しかし、外見からの印象もあってか、どうにもハリボテのようにしかそれは見えなかったのだが。

 「目が眩んでしまうくらいに眩しいな、ここは」

「どうしたよ、ハルト、こういったところは苦手か?」  

 「苦手じゃないけど、こういった輝きとは無縁な生活をずっと送ってきたものだから、きっとそう思うんだろうな」

 「なるほど、そういうことか。俺は少しだけ慣れっこだ・・・」

「君のギルドはこんな派手な装飾をした場所が拠点だったのかい?」

 「いや、そういうわけじゃねぇよ。ただ・・・」

「なんだい?」

 「いや、この話はまた今度な。気が向いたら話してやるよ」

「もったいつけずにと言いたい所だけど、君に話す気が無いなら、仕方がない。また今度聞こうか」

 「わるいな」

「なに、もう慣れた」

 「ふふ、なんかいいですね」

「ん?どうした、ジェシカ、突然こっち向いて笑って」

 「いえ、なんだかこれが旅をするってことなんだなと思いまして、みんなと他愛もない話をして、それで何だか落ち着くんです」

 「あんまり、浮かれすぎないことだよ。僕らは何の目的もなく遊びながら旅をしているわけじゃないんだ」

 「分かっていますって、もう、本当に意地悪ですね」

「皆様、楽しいお話の最中に申し訳ありませんが、私も貴方たちに重要な話があるんです、まずはこちらの部屋に入ってください」

 「おう、悪いな。今行くよ」

コトミに促され、俺たちは、二階にある客間に案内された。部屋には大きなソファがテーブルをはさんで対になる形で二つあり、その奥に一人が座れるサイズのソファがあった。

 「みなさん、どうぞ適当にお座りになってください」

そういわれ、左側に俺とハルトが座り、右側には、ジェシカ、セレナの二人が座った。コトミはその中心、一人用のソファにちょこんと座った。

 「ケインズ、まずは皆さんと私に紅茶を」

「かしこまりました」

 ケインズはどこからか、ティーセットを運んでくると自然に無駄のない動きで、紅茶を入れ始める、その姿はまさに一流の執事そのものであった。

 「さぁ、どうぞ」

一人ひとりの前に、紅茶が並べられる。

 「ありがとう、ケインズ。さて、みなさん、紅茶でも飲みながら少し長いお話をしましょうか」

ゆっくりと、静かに、コトミが話を始める。

 「まずは、そうですね、私がなぜ貴方たちの事を知っているのか、私の有している能力と一緒に説明しましょうか」

 「あ!私、それすごく気になっていたのです、どうしてコトミちゃんは私たちの事を知っているのですか?私は一国の姫ではあるので、多少なりとて名前は通っています、それにレイルも、でも他の二人のことまでどうして」

 「それこそが私の能力です」

「まさか、名前を知る能力とかいうんじゃないだろうね?」

 「そんな無粋な力ではありませんよ。ラインハルト、私は未来と過去を視る力すなわち透視フューマーの力を有しているのです」

 俺たちはその時、動揺を隠すことができなかった。それほどの驚きだった。

透視フューマーね・・・普通では信じられないことだけど」

 「私は過去を視ることにより、貴方たちの事を知ったのです」

「じゃあ、コトミちゃんには俺たちの未来と過去が視えるっていうことだな」

 「そうなります。限定的にではありますけど」

「じゃ、じゃあ私たちはこの後どうすべきなのですか!どういう道を辿るのかおしえ・・・」

 「残念ながら、それを私の口から話すことは出来ないのです」

「どうしてだい?」

 「先ほども、申しましたように、あくまで限定的なのです。私に視える未来は、無限ともいえる無数な道の一つでしかありません、更に私に見える過去は、私が過去に出会い関係のあった人間のものしかみえませんし、いくら未来のことが視えて、仮にその未来を貴方たちに教え回避したところで別の道に運命が変わるだけの事、一体どの道に進むのかは結果的に、私にはわかりません」

 「まてよ、俺たちは全員一度コトミちゃんに会ったことがあるっていうのか?」

「はい、しかしそれは現世での話ではありません。あくまでそれは前世の話と言うほうが正確でしょう」

 「前世ってもしかしてそんな過去までわかるのか?」

「いえ、前世の記憶が垣間見えるわけではないのです。私が知る限りの知識のなかで、その可能性が一番高いと判断しただけです」

 「話が見えてこないのだが、つまりは姫様と私、レイルとハルト、そしてコトミとは前世のどこかで一緒だったということか」

 「そうなります。そして、そのことは古き歴史の書物、古文書ルーンブックにはっきりと示してあるのです」

 古文書ルーンブックという言葉を聞いて、真っ先に反応したのがハルトだった。

古文書ルーンブックだと?まさか、あれがここにもあるっていうのか」

 「はい、このシャーネス家は、代々この大陸の歴史を裏で守ってきた、そういう歴史のある家柄なのです。なので、この家の地下には複数の〈古文書〉が眠っています」

 「なるほど、それで、その〈古文書〉に僕らはどんな関係を持っていたと書かれているんだい」

 「そうですね、その話こそが、私が皆さんをここに呼んだ最大の理由でもあります。これから、話すことは、貴方たちの旅の目的を紐解くお話です、そしておまけといいましょうか、歴史のお勉強にもなります」

 「俺たちの旅の目的につながる事?」

「はい、疑問に思ったことはありませんか?なぜ、鍵をそろえなければならないのかと」

 「確かに、それは思ったことはあるがコトミちゃんは知っているのか?」

「はい、ですので、それを踏まえ話をするのです。もう一つの革命かくめいのお話をね」

 「もう一つの革命・・・」

ゆっくりとカップを持ち上げると、コトミは紅茶を一気に飲みほした、そして再び話を始める。

 「さて、始めましょうか・・・遥かなる歴史の話を・・・」

                     ・

「おーい、ロキどこにいんだよー」

 木の上から聞きなれた声が聞こえた。これはトールの声か。

 「そこにいるのは、蛇か?おい、蛇、ロキどこ行ったかしらねぇか?って知るわけないか・・・そもそも俺の言葉理解してんのか?」

 勿論理解しているに決まっている、と言いたいがさすがに人間と口を聞くことはできない。でも、言葉は理解しているので、案内はするわけだが。

 「お、そっちか」

ここは、神ノアが全てを管理する、楽園エデンなに一つの穢れもなく、水が全てを癒し、空がその広さを生み、森が音を奏でるそんな場所。

 噴水までの道、彼は木の上を飛びこえ進む、正直、それだけでも私にとってはうらやましかった。

 私は地を這うことしかできない生き物、神の気まぐれで生まれただけの存在。

こうして、すぐに噴水にたどり着く、噴水近くの木に背を預け、優雅に本を読んでいる我が主 、いつ見ても美しい。

「お、居たな、おーいロキ!」

 「ん?なんだ、トールか。何のようだい?」

「ノアが呼んでんだよ、なんでも俺たち三賢者に用があるみたいだぜ」

 「ノアが?なにかあったのか・・・分かった、すぐに行こう」

「俺は、オデーィンもよんでくっからよ、一人で先行っててくれや」

 「分かったよ。じゃあ後で」

「おう!」

 そう言い残すと、トールは木を飛び移り颯爽と遠くまで行ってしまった。

 「ところで、クロノス、君が彼をここまで案内したのかい?相変わらず賢い蛇だね」

私はそういわれて素直に嬉しかった。でもそれを伝えることも私にはできないことだ。そう思うと本当につらい。

 「よし、じゃあ君はここで待っててね、すぐ戻ってくるからさ」

首を縦に振り、頷くような行動を取る。

 「いい子だ」

そう言い残し、主も遠くへと歩いて行った。一人、いや、一匹残された私は木のそばで動かずに帰りを待つことだけしかできなかった。

 ひと眠りでもしようか、そう考えていると目の前に見たこともない少女が一人現れた。その後ろには少年もいる。

 「こんにちわ、蛇さん、貴方も私と、そして彼とおんなじ、鳥かごの小鳥なのね」

「本当にこの蛇が、鍵になるのか?」

 「彼がそういうのなら。信じましょう」

「・・・時間が無い、早く実を・・・」

 「待って、ここは私に任せて」

「分かった」

はて〈楽園〉の中にこんな二人は、いただろうか。

 「籠の中の鳥は飛ぶことができないの。でも、飛ぼうとする、小さい世界の中でね。最初はそれで満足かもしれない。でもね、しだいにこう思えてくるの、もっと広い世界で飛んでみたいってね」

 私はこの時、その少女がどうしてこんな話をしたのか分からなかった。しかし、この言葉が後に重大な意味を持つことになった。

 「そうだ、私の名前を言うの忘れてたね。私の名前はイヴ、よろしくね。そこの彼はアダムっていうの、怖い顔してるけど良い人よ」

少女はイヴと名乗った。そして、もう一人の少年はアダムというのか。イヴ、不思議な少女だ。白いローブを身にまとっているせいでも、その純白の髪の毛でもなく、その吸い込まれそうな瞳が不思議だった。もう一人の彼からは、そういったものは感じなかった。

 「私たちね、これから鳥かごの中を飛び出すんだ。わくわくするわ、ねぇ、蛇さんも籠の外に出てみない?」

 鳥かごの外・・・私には、それが何を意味しているのか分からなかったが、自然と頷いていた。

 「そう、君もなんだ。じゃあ、これあげるわ、食べてごらん」

そういうと、イヴは木になっている実を取り、私の目の前に差し出した。

 「この実はね、全ての罪の象徴なんだ、ノアは怖かったの、自分の創った物たちが自分の手を離れ、汚れてしまうのではないかとね、初めはあの〈棺〉がそうなのかもしれないと思ったんだけど、それは間違いだった・・・ノアは、その罪をこの実に変えて隠していたの、あの棺は所詮ニセモノ。諦めようかとも思ったよ、でも、私たちは罪を受け入れなければならない、籠の中にいれば居心地が良いよ。でもね、それじゃあ、私たちは前に進むことはできないの。ねぇ、貴方はこれを口にする勇気・・・ある?」

 その問いに私は・・・・

                       ・

「ようやく、三人とも揃ったな」

 楽園エデンの中心にある、巨大な神殿の玉座の間、この神殿には、この玉座しか存在しない、そしてその玉座には、この世界全てを創造し、我々を産んだ主、神ノアがいる。私を含む、神の代わりにこの地上世界ブレススフィアの管理をしている三人の賢者が、今日この場に揃えられた。

 「それで、緊急に僕らを揃えて何を始めるんだい?」

楽園エデンに不秩序をもたらさんとする愚か者たちがいる」

 「そりゃあ、穏やかじゃないね。でも、その不秩序っていうのは何の事なんだい?」

「不秩序の事など、お前たち三賢者が知る必要のないことだ。貴様をここに呼んだのはその者たちを〈楽園〉より、追放するため門を開かせるためだ」

 「またそれか・・・」

「まぁ、いいじゃねえか。ノア様が知らなくていいと言うんだ、それに従ってる方が正しいに決まってるじゃねえか」

 「・・・・」

三賢者の一人、オーディンはとにかく賢い男だった、しかし、何故だろうか、彼は時折、ノアに対し、不満な態度をとるのだ。彼なりの理由でもあるのだろうか。

 「とにかくです、その愚か者たちとは?」

「アダムとイヴの二人だ」

 「お待ちください。それはいったい・・・」

「おいおい、あの二人が一体何をしようとしたって言うんだ」

 「あやつらは、〈パンドラの棺〉を開こうとしている」

「〈パンドラの棺〉・・・」

 「あれが、開けば〈楽園〉は崩壊し、〈楽園〉のみならず、地上世界も混沌へと落ちるだろう。その前に止めねばならなん、本来ならば、審判者ジャッジメントであるあやつか、私が動くところなのだが、貴様らも知って通り、私は玉座から身を離すことが出来ん、それに〈審判者〉も今は、地上界に赴いている」

 「だから、我々に門を開かせ、追放しろと?」

「そういうことだ」

 「・・・分かった」

「了解したぜ!」

 「承知いたしました」

「では、三賢者よ、門を開き、愚か者どもを追放したまえ」

                        ・

 「おい、待てよ、オーディン」

「なんだい?トール」

 玉座を出るとすぐに、トールがオーディンに食って掛かった。

 「普段なら、さっきみたいにすぐノアさまに、食って掛かるお前が最後はやけに素直だったじゃねぇかよ。何か隠してんのか?」

 「隠し事?まさか・・・そんなわけないだろう」

「おいやめないか、トール」

 「だってよ、ロキ、おかしいじゃねえか」

「何もおかしいことなどないだろう。さぁ、門を開きに行くぞ」

 「ちっ、納得いかねーぜ」

トールが疑いすぎているだけ、と言えばそれまでかもしれないが、私自身も何かが心の奥にひっかかっているのは確かだ。だが、この違和感の正体が分からずにいた。

 「いや、やっぱり駄目だ」

「どうしたんだ、トールさっきから」

 「お前のあの目、何かを隠してやがんな」

「・・・・」

 「お前、前に言ったよな、俺に。沈黙は時として、答えを出すって、つまりはそういうことなのか」

 「詳しい話は、外に出てからにしよう」

「オーディン?」

 「すまんな、ロキ、どうやら私は隠し事をすることが苦手なようだ」

「じゃあ、本当に・・・」

 「そうだ、俺は、この〈楽園〉の秘密を知った」

「そりゃあ、いったい・・・」

 「トール、ロキ、お前たちに〈革命〉を起こす覚悟はあるか?」

オーディンは私たちにこう問いかけた。そして、神殿の外に出た後、今まさに起きようとしていることの全てを話してくれた。

 それはまさに、我々の概念のすべてを変えることになった・・・

                        ・

不思議な気分だ。自分の身体じゃないような、そんな気分。

 私は、イヴのいうままに、実を口にした、その瞬間、身体は光に包まれ、気がつくと私は・・・人間になっていた。

 「これが・・・私?」

「そうだよ。でも、本当に人間になっちゃうなんて・・・これで彼も信用していいってことになるのかな」

 「そうだな、にしても本当にこんなことがありえるなんて、オーディン、彼は・・・」

 「これはいったい・・・どういうことだ、オーディン!」

「言っただろう。これが〈革命〉の鍵になるんだよ」

 「ロ・・キ?」

「クロノス・・・なのか?」

 「おいおい、あの蛇が人間になっちまったのかよ・・・」

三賢者の三人が現れた。なぜこの三人がここに?

 「オーディン!この人たちは・・・」

「大丈夫だ。彼らは全てを知っている」

 「じゃあ・・・」

「そうだ、これで準備は整った。あとは君らが外の世界に出るだけだ」

 「オーディン、私は・・・」

「ロキ、お前の気持ちは良くわかる。しかし、しばしの別れになるだけだ。いずれまた会うことができるんだ」

 「分かっているが」

「ロキ・・・私も外に出なければならないの?」

 「すまない、クロノス、でも真実を知った以上、これが最善の策なんだ。君を僕の元から離れさせるのは辛い」

 「大丈夫だよ、私も人間になったばっかりで、混乱している部分もあるけど、私は・・・ロキを信じるよ」

 そういうと、ロキは私を抱きしめてきた、強くつよく、だきしてめてきた。

「よし、行こう。オーディン、門を開くんだ」

 「ああ、そうだな」

「たく、これじゃあ、本当にお前の話を信じなくちゃいけなくなっちまった。ノア・・・どうしてなんだ」

 「一つだけ言えることは、彼も我々と同じだった、ということだ」

こうして、門は開かれた。アダムとイヴ、そして僕は〈楽園〉を追放され、外の世界に飛び出していった。しかし、籠から出た鳥は、その世界の広さをまだ知らなかった。

                     ・

ここからの先の僕は、断片的な記憶しか残っていない。

 〈楽園〉より追放された、アダムとイヴ、そして僕の三人は、オーディンの依頼通り〈革命〉を起こすための仲間を探した。

 そして地上世界で四人の王と出会い、共に〈革命〉の為、戦うことを誓った。

暫くして、オーディン、ロキ、トールの三賢者は、ノアに宣戦布告をし、オーディンは、自らの名を魔術神ソロモンと名乗り、地上世界に黄金の居城ヴァルハラを建設、そこを拠点に軍隊〈革命軍〉を設立した。僕は、トールの指揮の元、〈七英雄〉の一人として、戦争に参加することになる。

 ロキは最初、僕が戦うことには反対していたけど、でも僕も人間として、誰かの為に戦いたいという思いが強かったから、ロキを説得し、戦った。

 それから、約十年の間、ノアと僕たちは戦った、いろんな人が死んで、悲しい思いもたくさんしたけど、でも僕たちは最後まで間違ったことはしなかった。

 多くの犠牲と共に、僕たち〈革命軍〉は勝利した。ノアは死に、〈楽園〉は崩壊した、それで、世界は平和になると思っていた。

 でも、僕もロキも、誰もがこの時、そんな平和は仮のものでしかないと知らなかったんだ。

 僕らの世界の新たなる主となったソロモンが、自らの城、ヴァルハラでかつての仲間を大虐殺したあの日、全てが変わった。

 一体ソロモンが何を思ってそんな事をしたのか理由は分からなかったけど・・・

その後すぐにトールが〈革命軍〉を再編成、ロキはかつての同志と戦うことを頑なに拒み、僕もこの時はロキと一緒に戦うことを拒んだ。でも、この時はみんなの空気が戦うことを拒めなかった。

 それでも、拒もうとする者たちを容赦なく、断罪した。僕もこの動乱の中、ロキと共に裏切り者として、殺された。

 私は死ぬまでの間、投獄されていた。最後、ソロモンは〈パンドラの棺〉に封印されてしまったらしい。それ以上の事を私は知らない。

                    ・

 「私の持つ、古文書ルーンブックには、ここまでしか記されていません。これが私たちの知る歴史の裏に隠されたもう一つの歴史でしょう」

俺たち全員はコトミの話を最後まで、無言で聞いていた。後半の方は・・・俺も聞いていて辛かった。

 「ここからは、私の推測でしかありません。最後のお話は皆さんも知っている神話聖戦ラグナロッサの出来事だと思います。そして・・・」

 「一つ、疑問なことがある」

ハルトが唐突に、コトミの言葉を遮った。

 「何でしょう?」

「結局僕らのつながりは何なんだい?」

 「恐らく私たちは〈七英雄〉と三賢者の生まれ変わりなのではないかと思うのです」

「なるほど・・・そう繋がってくるのか」

 「私は、賢者トールの生まれ変わりということですか?」

「そうなりますね、フランジェシカ、そしてレイルファントム、貴方は蛇クロノスの生まれ変わり、ここには記されていませんが、ラインハルト貴方は、星詠の王、かつて星詠の初代長をした男、バルムンクのね、貴方は一族の祖の生まれ変わりなんです」

 「まさか・・・僕がね・・」

「そして、ミヤリは魔弾の女王トリスタンの生まれ変わり」

 「私にも、そんなつながりがあるとは・・・」

「コトミは誰の生まれ変わりなんだ?」

 「私は・・・イヴの生まれ変わりです」

「なるほど・・・そうだ、一つ聞いていいか?」

 「なんでしょうか?」

「もしかして、俺たちの集めようとしている鍵はその、〈パンドラの棺〉の鍵じゃないだろうな?」

 「どうしてそう思うのですか?レイル」

「いや、直感というか、この話を聞いてそう思ったんだ」

 「貴方の予想通りですよ。貴方たちが揃えようとしている鍵、クルアトキーは〈パンドラの棺〉を閉じるための鍵です」

 「閉じるための鍵?どういうことだ?あの棺は、もう閉じているんじゃないのか?」

「いえ、正確には閉じていないのです。貴方たちがこうして再び運命によって揃ったのは、偶然ではなく、必然だということです」

 「じゃあ、僕らは完全に封印することのできなかった〈パンドラの棺〉を封印するために、集まったと?でも、〈古文書〉にはそんなこと・・・まさか、未来の・・・」

 コトミは言いかけたハルトの口を手でふさいだ。

「それは・・・秘密ですよ。ラインハルト」

 「な、な、なにをするんだ!」

ハルトは何故か、顔を真っ赤にして怒っていた。こんなに、感情を表に出しているハルトは初めて見た。

 「どうしかしました?口をふさいだだけなのですが」

「い、いや・・・すまない取り乱してしまって」

 「そうですか、少し話を戻しましょう。ともかくです、これで貴方たちの旅の目的が完全に決まりました。そして、この大陸に来たのは、鍵を手に入れるため、そうですよね?」

 「ああ、そうだな」

「実は、私、〈クルアトキー〉の在処を知っています」

 「本当ですか!コトミちゃん、どこにあるんですか!」

「落ち着いてください、フランジェシカ、まだ話の途中ですよ」

 「す、すいません・・・」

「その鍵はこの家の地下にある、魔術式の金庫に入っています。しかし、それは私にも開けることができません」

 「じゃあ、誰に開けることができるんだ?」

「私の、父です」

 「それでは、そのお父様はどちらにいらっしゃるのですか?」

「父は今・・・バスティーユ牢獄に投獄されているのです」

 「バスティーユ牢獄・・・この大陸の中心にある、あの塔か」

「はい、ですので、もう一つのお願いです。父を助けてもらえませんか?報酬は、鍵ということになりますが」

 「それが報酬になるなら、仕方がない、やるか」

「そうですね、レイル!やりましょう!」

 「私は姫様についていきます」

「君らがやると言うのなら、僕も付き合わないとな」

 「みなさん、ありがとうございます」

「いいって、いろいろと俺たちの知らないことも話してくれたし、それで?あの牢獄の中にはどうやって入るつもりなんだ?」

 「方法が一つだけあります」

「それは?」

 「コロシアムで優勝するのです」

「コロシアムで優勝って、面倒そうだね」

 「はい、正直言って、猛者ぞろいですよ」

「猛者ぞろいか・・・面白れぇ、ここの所戦う機会が少なかったんだ。久々にひと暴れすっかな」

 ギルドを辞めてからずっと、戦うことを避けている自分がいた、そのせいか心のどこかでくすぶってる火をどうすることもできないでいた。

 だが、俺はまだ知らなかった。コトミの言っていた、猛者たちが一筋縄ではいかないということを・・・

                  第九話 終

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