勇者、無駄に奇跡を起こす
四面楚歌とはこういう状況のことをあらわしているのか。
俺は力が抜けていくのを感じていた。
前方にはチャラ男のロッシュと侍のキリカゼ。後方にはユキ。おまけに左右は警察が包囲している。
「さあ、チャラ男、侍。こいつを倒しちゃいなさい!」
命令するユキ。
「……御意」
「腹黒姉ちゃん。オレのことは本名でいいからな」
しぶしぶといった様子で俺を狙う二人。ってちょっと待てぇ!!
「に、逃げろーーーっ!!!!」
ダッシュをする俺。
『しかし、まわりこまれてしまった!』
「本官は逃しはしませんであります!」
やたらとゴツい警察官が、海の底のように遠く見える。
ああ、目の前が真っ暗になるって本当なんだな……。
だが、奇跡は起きた!!
「きょわっ!?」
魔導銃を撃とうしたロッシュは変な声をあげた。
ちなみに魔導銃とは自らの魔力を弾に変換し、拳銃より強い威力を放つ暗殺武器であるはずなのだが……。
発射されたのはバナナの皮だった。
そして、キリカゼがそのバナナをモロに踏み、派手にすっ転んだ。
「うげっ!?」
刀が当たりそうになり、ユキは青ざめる。
「い、いやーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
意外と女の子らしい悲鳴をあげ、ユキは去っていった。
「チャーンスッ!」
俺はドサクサに紛れて走り出した!
(……アホか)
剣のツッコミなど、気にしている場合じゃない!
「ぜぃ、はぁ、ぜぃ、はぁ……疲れた」
再びダンボール箱に隠れた俺は、ぐったりと座り込む。
「しかし、ちょっと村長の家に忍び込むだけであんな目にあうとは……」
(あの女、なかなかあくどいな)
そう。ユキ(&警察)のヤツはよく分からん殺し屋を連れて、俺を始末しようと企んでいやがるのだ。
「ホント、頭に来るよな!」
思わず、こぶしを握る。
すると、どこからか聞き慣れた鳴き声。
「にゃう……にゃあう……」
それは、さっき見たちっこい黒猫。
「む、ここを住処にしているのか?」
「にゃ!」
もしや今のって……返事?
「ところで、ハラへったしお前食っていい?」
「にゃあ!?」
黒猫が目をひんむく。
だが、本当に驚いているのは剣だった。
(何を言ってるのだ!この黒猫は村長が隠し持つ尊いお宝、その名も『幸運のミイ様』だぞ!)
「はいっ!?」
「うにゃ?」
黒猫は小首をかしげた。