卑怯勇者、決断する
俺に出されたのは、ごく普通のシチューだった。
「あ、ありがとう……出来れば『最高級黒アワビのキャビア和え(特注オーロラソースを添えて)が良かっただがな」
「お前さん本音が口にでとるぞ」
「!」
老婆に指摘され、俺は慌てて口を押える。
そんな彼を、ユキという少女は挑戦的に見た。
「勇者さま。賭けをしませんか??」
「え」
「まずはこのシチューを勇者さまに食べてもらいます。それで、『おいしい』『うまい』などの言葉をいただけたら私の勝ちです。どうですか?」
俺は考える。
コイツが何を考えてるか知らんが、この賭け、圧倒的に俺に有利だ。言わなければいいんだろ。
それじゃあ……。
「勝ったときの景品はないのか」
それを聞き、ユキは笑い出した。一方、仏頂面の老婆は気味が悪い。
「景品?そーですねぇ……あそこの棚にあるものはどうでしょう?」
俺はその場で固まった。
あれはまさか……!
「『金のゴブリン像』です。商人にでも持っていけば5千万Gぐらいにはなると思いますよ」
「もらった!」
即答。当然だ。
俺は一目散にスプーンをにぎった。
そして、運命の一口をほうばる。
だが……。
「う、うまし!!!!!」
俺は叫んでしまった。
驚くほど濃厚なクリームソース。噛んだ途端広がるジューシーな肉の旨味。野菜が口の中でふわっと広がる。こんなシチュー、食べたことが無い。
「言いましたね」
しまった。
目の前ではユキが勝ち誇った顔でこちらを見ている。
「いや、『うまい』じゃなくて『うまし』だって!数行前をよく見てみろ!」
「同じことじゃないのかね」
老婆に突っ込まれ、俺は何も反論できなかった。
「ま、参りました……」
もはや溜息しか出ない。
しかし、シチューを食べる意欲だけは止まらない俺である。
5分後、結局大鍋一杯分食いつくしてしまった。
あああああああ……。
後に残ったのは後悔の叫びだけだった。