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三話・少女の本質

早すぎる展開……っ!

わろたw

3.


「わたしと、ナオ先輩の間柄……ですか」

 受話器越しから戸惑うような声が聞こえた。しかし、ある程度の予測はしていたのだろう。決めていたかのように鋭く切り返される。

「『シュン、あなたはこの星を滅ぼそうというの?』」

「――――はっ?」

「そういうことなら、変に関わらないでください。ナオ先輩も、絶対話しませんから」

 彼女が最初に放ったのは俺の小説の核心を突く台詞だ。間違うはずがない。

 なんだ。サークルの間に画面を見られていたとか? 

「おい、佐藤。なにがどうなったらそんな台詞がいえる? なんつー本だ」

「知らんぷりしても無駄です。わ、わたし、知ってますからね。いいから、詮索やめてください。小説なんて書けるくらいなら、わたしが話さなきゃいけない理屈こねてからにして」

 そこで、不愉快な音を立てて彼女との通話は途切れた。

 げんなりしながらも頭をふり思考を留める。俺の悪いところだ。なんでもかんでも最悪を考えるな。と必死に言い聞かせる。

 なんにせよ、はっきりしているのは俺の中の彼女への印象が大きく変動しつつあることだ。おっとり天然系? その手の生物がああも簡単に脅迫なんぞして堪るか。

 しかし、これでは直光先輩と佐藤後輩の問題は解決できていないことになる。それが意味するは俺の死だ。当たり前だ。これでは助けるはずの姫もいないRPGだ。わかりづらいというならば、ルーのないカレーライス(つまりは白米だけという恐ろしい事態)。またはトシのいないタカアンドトシ(ツッコミもいないで薄ら寒い芸人)と同じだ。小説を書けない大学生活なら五千円で売る。むしろ金払うから譲りたいくらいだ。

 とりあえずと思いまだ手にある携帯電話を行使し、メールを飛ばす。すると再び端末が鳴動する。あまりに早い反応で少々たじろぐが、そんな暇も惜しい。すぐさま通話ボタンを押して電話に応じる。

『もしもーし!』

「いいですか、先輩。怒らないから切らないでくださいよ?」

『……それは切れっていうフリかな? おでんネタみたいな』

「だー、やかましい! いいからやめろよ」

 苛立ちをどうにか抑えて深く息を吸う。

「いいですか。俺も怒らない、先輩も感情的にはならずに電話を切らない。わかりましたか?」

 俺がそう諭すようにいうと、受話器越しに先輩の動揺と躊躇が取ってわかったが、

『……唯名ちゃんから聞けなかったんだね』

「なんであんたがそれを知ってる!? またいつもの読心術紛いのあれか!」

『違う。丸わかりだよ、カイカイ。そんなに女の子2人の過去を調べて。ストーカー気質あるね。……唯名ちゃんなんていってた?』


 さっきの電話に至るまでの経緯、その内容を話すとやはりどこか辛そうな声で先輩はいった。

『バカだなあ……』

「いまさら気づいたんですか。俺だけじゃなくて男はみんなそうですよ」

 わかってはいてもうなだれてしまう。結局は先輩に聞くしかないのだろうか。情けない限りだ。

「やっぱり、先輩も教えてくれませんか?」

 思った通り、これには沈黙しか返ってこない。

 どうしたものかと考え込んだ矢先、申し訳ない限りこれしかないとわざとらしく咳払いして、

「あー。そういえば佐藤後輩が俺の小説の台詞を流暢に語ってたなぁ。先輩、知りません?」

『……意地悪ぅ』

「いまさら気づいたんですか。俺だけじゃなくて――」

『あたしから口外できるようなことじゃないと思うんだ。ただ、唯名ちゃんんを説得だけはしてみるから』

「もしかして、先輩があの娘をいじめてたとか」

 おどけていうと、先輩ははっと息を呑んで通話を終了されてしまった。まさかとは思うが、割と痛いところを突いてしまったのかもしれない。

 しかし、これは決着に大きく前進したはずだ。

 直光先輩と、佐藤後輩。2人の過去に重大な『なにか』があるのは決定的であるし、今までの感じからわかるのは先輩がほとんど一方的にそのなにかを気にしているように思える。


 あくびをして窓の外に目をやる。

 なんだかんだいってこの二日間の休みをほとんど家――しかも募る欲求不満に悶えていただけに等しい――で過ごしてしまった。

 振り返ればもどかしいのだが、その最中は素晴らしく心地よい。惰眠。なんと素敵な響きか。

 そんなことを考えてるうちにも時間は過ぎていく。

 早いうちに彼女たちのしこりをなくしてあげたいのだと、この際認めよう。

 先輩がサークル中1人の女の子と顔を合わせるだけであんな空気になられちゃ、普段から絡まれている俺としては非常にやりづらい。それに、佐藤後輩に関しても小説の内容を知られたからには放っておくわけにはいくまい。げっへっへ。嘘です、ごめんなさい。



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