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大空の黒騎士  作者: 雨晴
第一章
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5 暁中尉と訓練小隊-2

「ライノ・ワンよりライノ各機、報告せよ」


 異常無しのコールが無線越しに響き、隅田は息を整えた。

 高度3000フィート、傍らの3機を見回し、目視で確認。特に4番機を気遣いつつ、特に異常は見受けられない。


「ライノ・ワンよりベース、標的無力化、各機異常無し」

『標的の無力化を確認した。各機隊形を維持し、ポイント3へ』

「了解、各機隊形維持、方位2-4-5、左旋回20ピッチ」

『了解』


 緩やかに雲が流れていく。風も無く穏やかで、編隊も崩れない。

 2-4-0まで到達、ゆっくりと水平へ戻しつつ、僅かに落ちた高度を取り戻す。


「2-4-5、ヘッドオン」

『ポイント3、ドローンを射出する』


 レーダー反応、数は6。計器上のタッチパネルで目標を指示する。


『ライノ各機、標的を無力化せよ』

「了解、マークした3機は第二エレメント」

『スリー了解』

『フォー、了解』


 榛原と吉野が散開し、離れていく。キャノピ越しに岩倉と頷きあい、接敵まで50秒予測。


『マナ、無理しないでね』

『う、うん、大丈夫、ありがとう』


 気遣わしげに岩倉が言い、返答はいつも通りだ。


『行くよ、吉野さん。ライノスリー、散開』

『はい、ライノフォー、散開』


ポイント1、2での成果は悪くない。4番機もスコアを得ている。

 とは言え、気になるのも事実だ。吉野はあの"大佐"を知っていて、しかも墜ちたという噂が、ここ最近の吉野の調子を悪くしているのであれば。


 "誠さんが、墜ちるわけないじゃないですか!"


 あの、悲鳴にも似た絶叫が思い返された。あの気弱な吉野がパイロットを目指したのは、短い間ながら馴染みのあった丘野誠に理由があるらしい。

 とは言えその"誠さん"が、実際に丘野誠大佐なのか。それは彼女自身、核心に至ってはいないようだが。


 ―――良くない。訓練中に、そんな事を考えるな。


『ライノ・ツー標的補足、交戦』


 振り払うように、二番機が突撃する。ドローンの回避行動を目視し、頭を振って、思考を正す。


「了解、援護に回る」

『頼むよ、よーすけ』


 ウィングマンの気の抜ける要請に苦笑いしつつ、加速を叩き込んだ。
















 本当に懐かしい響きがした。好調なエンジン音。そのノイズ。

 ラダー、エルロンに異常は無い。油圧も正常作動。スティックの追従も狂いは無い。ペダルの遊びも申し分無い。

 良い仕事だ。整備兵に感謝。


『ライノ・ワンよりベース、ポイント3の標的を無力化』

『ベース了解、ライノ各機は指定のポイントで待機』

『ライノ了解』


 ―――さて。

 一瞬目を閉じる。戦地の空を思い浮かべ目を開ければ、どこか獰猛な輝きが戻ってくる。


『ライノ・ゼロ、離陸を許可します』

「ライノ・ゼロ了解」


 エンジンが唸りを上げる。旧世代のエンジンは出力こそ低いが、それでも軽い機体を易々と持ち上げる。


『ライノ・ゼロ、ポイント3の方位は2-4-5』

「了解」

『小隊は緩やかに旋回中』
















「待機指示って、初めてだよね」


 珍しい指示に緩やかな旋回で答えながら、岩倉が口を開いた。


「訓練行程は3箇所でドローン撃墜して終了だったよね?」

『ああ』


 ふと、いつもよりも挙動の重たかった機のことを思い出す。そうだ、燃料の搭載量が、いつもより多かった。


「最初から待機指示が出る予定だったのかな」

『かもしれないな』

『いやあ、重たかったもんね』


 機を水平飛行へ戻し、4機が揃う。女友達に目を向けて、とりあえず、安心した。


「ま、マナが普段通りで良かった」

『ご、ごめんね、香奈ちゃん』

「ううん。でも、まさか黒騎士の隊長と知り合いなんて驚いたなあ」


 言えば、会話相手が黙ってしまった。しまった、どうして私はこう、相手の気持ちを汲めないのだろう。


『吉野の言う丘野誠が、"大佐"だとは限らないんだろ』

『それにあの黒騎士が、そんな簡単に墜とされないよ』

『そうだ吉野、ガセだガセ、気にするな』

『―――うん』


 男二人のフォローに、胸中ありがとうと述べておく。


『でもね、前にも言ったけど、知り合いってほどじゃないの』


 数日前の会話を思い返す。親友のお兄さんだった彼を、ただ一方的に慕っていたらしい。それも、10年ほど前のことらしい。

 一途だなあ。軽い笑みが浮かぶ。


『レーダーコンタクト!』


 榛原の声に、どきりとする。


『全機、レーダーチェック』


 隅田の声が、一段階低くなった。すぐに全員が意識を訓練へ持ち帰る。


『友軍、未確認機接近、距離6マイル』

『良い反応だ、榛原』


 ここ数日で、聞きなれた声を無線越しに聞く。

 疑問が生まれた。


「センセー?」

『ポイント3へ向け飛行中の機は、教官機でしょうか』


 隅田の質問に肯定が返ってきた。


『訓練小隊全機はそのままの針路を維持するように、右方より進入し、ライノ・ワンの前に付く』

『了解、各機留意しろ』

『了解』


 右方、自分の持ち場だ。目を凝らして、探す。青の中に、小さな白。


「方位1-1-5、視認!」

『ほう、お前は良い眼だ、岩倉』

「ありがとう御座います!」


 静々と近付いていた教官機が旋回を入れる。高い迎え角に、ベイパーを引く。

 一度の修正無くぴたりと隊長機の前方に付いた機に、隊内から感嘆が漏れた。岩倉の口からも、うわあ、と漏れる。


『所定の位置に付いた。コールは、ライノ・ゼロ』

『ライノ・ワン了解』

『では、訓練概要を説明する―――もう判っているだろうが、対空戦演習だ』


 やはり、あの待機は元から組み込まれていたものだったようだ。教官相手の、1対4。

 相手は旧型機。エンジンパワーの違いが圧倒的にこちらに有利。


『見ての通り、TA-7練習機一機。だが舐めて掛からず、一機も撃墜されずに撃ち落して見せろ』

『了解しました』


 隅田の、息を整える鋭い呼吸音が響く。


『撃墜判定は、赤外線照射で3秒以上及び、ガン有効圏内追従を2秒以上とする』


 あの謎センセーの実力が判る初めての機会だ。少しばかり心が躍る。

 さっきの右旋回は凄かったし。あれ、どうやってやるんだろう。


『では、演習を開始する』


 教官機は目前、速力も上げず、位置を変えることもない。

 ・・・あれ?


「センセー、ヘッドオン状態からの演習開始じゃないの?」

『ヘッド・オンからで勝てるのか?』


 むっとする。


「言ったね、センセー」


 この状態からでも、3秒のロックで勝ちは勝ちだ。


「次は、ヘッドオンだからね!」

『ああ』


 赤外線照射開始。1秒、2―――


『墜とせたならな』


 声と同時に、教官機が消えた。

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