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大空の黒騎士  作者: 雨晴
第一章
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4 暁中尉と訓練小隊-1

 それと対峙した男は驚愕を覚えていた。

 叩き落されていく無人機は数知れず。

 多くの仲間は墜ちていた。

 化け物染みたその機動を捕らえられず、ただ狂ったように旋回を続ける。


 黒だ。あの黒、黒の騎士。

 黒色塗装の専用機。


 化け物め。悪態を吐く。レーダーロック。当然のように外され、また一機消失。

 相手はたった一小隊。糞が、化け物が。どうかしている。

 この戦力差で。

 翻った黒が、こちらを向く。彼我との一瞬の交差。意識が千切れるその刹那。

 キャノピー。その脇の羅列。


 "Co.Makoto Okano"。


 意識が千切れた。












 暁義也はハンガーに居た。赴任してきてから4日、全く実機に触れる機会が無い。

 思い返せば赴任手続き、4人の過去データの照会、訓練日程の確認に、訓練飛行の地上監督。

 何をしているのだろう。考えたくは無いが、やはり巡る。

 ハンガーに在る機体も、戦地のそれではない。TA-9、単座練習機。

 無表情で見つめれば、声が掛かった。振り向き、会釈。


「何やってんだ、こんなとこで」


 秋山幸和、整備主任。あとはモンキーでも持たせれば町工場に居るだろうその風格。


「いえ、少しばかり懐かしんでいました」

「お前の頃は"9"じゃないだろ」

「ええ、TA-7組です」


 一世代前のその機の名に、秋山の笑みが零れる。


「世間は新標準機が何だ言ってやがるが、やっぱ前線は違うだろ?」

「TA-9も、それに与する標準機も良い機体ですが、やはり慣れた者ほど旧世代機を好みますね」

「巧いヤツは皆そう言うんだ」


 何だ、案外自信家なのか?軽いからかいを交えた物言いに、苦笑い。


「多少の自負はありますが、上には上が居ますよ」

「違いねえな」

「ただ、一機でも多く墜とし、一人でも多く救うことが出来ればとも思います」


 言って、"9"を見上げる。訓練機には、パイロンが無い。ガンも、爆装も出来ない。

 機を見上げる暁の眼を見た主任が、眼を細める。


「―――ま、導くのも一つの勤めだろうさ」

「今は、そう思うことにします」


 あの眼は、兵隊の眼だ。ただ任に従い、何人も屠ってきた兵士の眼だ。

 しかも、それを受け入れてしまっている。


「整備主任」


 掛けられた声は平坦で、しかしその目は、先のそれとは違う。

 多少安堵しつつ、何だ、と答える。


「予備機のTA-7を一機、整備して頂きたい」

「ほう、そりゃ何でだ」


 TA-7は旧型機だ。TA-9の予備機として確保されているが、確保されているだけだ。

 いえ、と暁が首を横に振る。


「まずは訓練生達に、自分達の実力を知ってもらわなければ」














「うぅん、やっぱりおかしいよね」


 榛原の唸りは色濃く響き、午後3時の食堂には第一小隊のメンバー以外は居ない。

 思い思いの飲み物を片手に話すのは、4日前に赴任してきた教官のほかに無い。


「北部戦線なんて激戦区から引き抜かれた先が訓練部隊の教官って、変だよな」

「何かやらかしちゃったのかな」


 岩倉の予想に、隅田が首を傾げる。


「そんな人にも見えないけれど」

「でも、変な人だよね」


 榛原の人物評は的を射ていて、一瞬会話が詰まる。


「でも良い人だよ、センセーは」

「うーん、会って二日じゃ何とも言えないかな」

「確かに、どことなく"作ってる"風にも感じたな」


 隅田が言って、先日の態度云々の話を思い出す。

 階段踊り場での彼の口調は、それまでの砕けた感じとは異なっていた。

 それが異質だとも思わず、むしろ彼にしっくり来るようにも感じる。

 とは言え、それも作っていた可能性も捨てきれず。


「判断材料がまだ少ないよなあ」


 少し難しそうな顔をする隅田に、岩倉のむー、と言った顔。

 彼女の中では、どうも理想のセンセー像が出来上がっているらしい。


「ね、マナはどう思う?」


 会話に参加せず、ゆっくりとカフェオレを消化していた吉野が、びくりと顔を上げる。


「センセー、良い人だと思うよね」

「え、う、うん」

「だよね!」


 満足そうに頷く岩倉と、困ったように苦笑いを浮かべる吉野が対照的に映って、男二人、顔を見合わせる。


「・・・どうしたのかな、吉野さん」

「さあ、わからん」


 小声でのやり取り。

 ここ最近、それこそ暁が赴任してくるよりも前から、吉野の調子はおかしい。

 あれは、いつからだったか。


「多分、"黒騎士"が墜ちたって噂が流れてからだよね」


 隅田の疑問に、榛原が応える。ああ、それくらいだったかと納得。

 黒騎士。或いは黒騎士隊。このクーデター戦争の中、知らない兵士は居ない。

 黒色塗装の専用機を駆り、戦場を闊歩する英雄。或いは化け物。


「士気に関わるだろうし、実際に報道はされていないけれど」

「でも、ゴシップの割りには妙に信憑性高いよな」


 曰く、工作員による破壊工作で一番機が墜落したと。

 曰く、回収部隊が突発命令で北へ飛んだと。

 曰く、以降黒騎士隊の戦闘行動は自粛されていると。


「うーん、吉野さんの士気も下がっちゃったのかな」

「正規兵ならまだしも、訓練兵に士気もなにも無いと思うが」

「そうだよね、僕らもまだ兵隊って意識も無いし」


 言って二人、吉野を見返す。何か元気ないよね!そ、そんなことないよ。そのやり取りに、思う。

 やかましい方ならまだしも、この静かな方が、そんな事を考えているとは。


「それは、無いな」

「無いね」

「何が無いの?」


 唐突に会話に侵入してきた岩倉に、一瞬驚かされる。いや、と隅田。


「吉野が少しおかしくなったの、黒騎士の噂が流れてすぐだっただろ?」

「それが原因かなって思っただけだよ」


 あー、そうなんだ。そう答える岩倉の隣、吉野の変化を隅田が見逃さない。

 確かに、少しだけ顔色を変えた。


「確か、一週間くらい前だっけ?」

「正確な情報も正式な発表も無いけどね」


 あ、もしかして!また唐突に声を張り上げた岩倉が、ダン、とテーブルを叩き付けて立ち上がった。


「センセーが黒騎士なんじゃないの?」

「え?」


 反応したのは榛原だけだった。吉野はどこか俯き加減で、隅田は"部下"の精神状態の管理に忙しい。


「だってさ、前線パイロットだったセンセー謎の引き抜きと、謎の黒騎士の墜落だよ?」


 タイミングばっちりじゃん!


「何で墜落したからって、教官になるのさ」

「それはアレだよ、えっと、左遷?」


 苦し紛れの岩倉に、榛原の苦笑い。


「それにさ、墜ちたのは一番機でしょ?隊長機だから、パイロットは"大佐"だよ」


 おい、優、やめとけ。隅田が思う。あの吉野が、唇を噛み始めたからだ。

 言おうにも、岩倉の"大佐って誰"、なんて馬鹿げた質問にタイミングをかき消された。


「誰って、丘野誠大佐に―――」


 決まってるじゃない。その続きも、掻き消される。


「―――誠さんが、墜ちるわけないじゃないですか!」


 一瞬で、その場が静まり返った。

 あの吉野が叫んだからだ。

少し間が空いてしまいましたが、続きになります。文量も、これくらいを目安にしていこうかなと思います。。。

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