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大空の黒騎士  作者: 雨晴
第一章
4/47

3 橋本学園-3

「では二等空士、彼を宿舎棟へ案内してくれたまえ」


 顔合わせと軽い自己紹介ののち、そう告げられた隅田二等空士が敬礼を交え拝命する。

 時刻は12時を半分ほど過ぎ、昇りきった陽が、校舎4階のそこを照らさない。


「では中尉、ご案内致します」

「すまないね、隅田空士」


 いえ、と否定が入り、こちらです、と促される。


「では橋本中佐、失礼致します」

「ああ、明日の朝礼での挨拶は考えておいてくれ」

「は」


 敬礼ではなく会釈で返し、それでは、と下がる。

 榛原空士の手で扉が閉められ、訓練生の肩の力がくつと抜けて、4人と1人で歩き出す。

 階段の踊り場へと差し掛かったところで、暁が立ち止まった。当然、4人も立ち止まる。


「―――いつも、あの通りなのかな」


 向けられた視線の先、執務室。

 暁の知る橋本は、より柔らかい人間だった筈だ。

 4人の前ではむしろ硬く、教育者然とした態度にも見えた。


「ええ、自由な校風を与えてくださる割りに、とっても厳しい学園長ですよ」


 先に答えたのは岩倉香奈三等空士だった。

 その物言いに、隅田が苦い顔をしている。


「改めまして、岩倉香奈です。よろしくおねがいします、先生」

「ああ、よろしく」


 軍規とはかけ離れた素早い礼を仕掛ける岩倉に、軽い苦笑いが来る。


「そうか、それが"素"か」

「はい!堅っ苦しいのは苦手です!」


 苦い顔が、これでもかと険しくなる。


「岩倉空士、中尉に失礼だぞ」

「そうだよ香奈ちゃん、先生じゃなくて、教官だよ」

「・・・吉野さん、そこじゃないと思う」


 的を外した注意を掛けたのが、吉野愛美三等空士。

 苦笑いでツッコミを入れるのが、榛原優三等空士。

 暁の視線が二人に向く。気付いた二人が、慌てて向き直った。


「よ、吉野愛美です!」

「榛原優、三等空士です!」

「畏まらなくて構わないよ」


 吉野と、榛原だな。確認を含めて名を呼び返し、一つ頷く。


「ではこちらも改めて、暁義也、階級は空軍中尉だ」


 宜しく頼むよ。言って、頭を下げる。

 尉官が士官に対して頭を下げたことに隅田が慌てるが、岩倉ははしゃぎながら礼を返す。


「良かったあ。中尉なんて階級の人が来るって聞いてたから、どんな恐ろしい人かと思ったけど!」

「岩倉空士!」

「良いじゃん、よーすけもホッとしてるんでしょ?」

「お前は―――!」

「隅田空士」


 名を呼ばれた隅田が、詰め寄ろうとした姿勢を再び直立へ戻す。は、と来る言葉に備える。


「別に構わないから、私への態度は君も含めて自由にすれば良い」


 その提案に、一瞬呆ける。


「で、ですが中尉」

「私は、君らに軍規を説きに来たわけではない」


 言って、4人を見回した。一人を除き、ぽかんとしている。

 一人は、にこにこしていた。


「率先して乱せと言っている訳でないことくらいは、わかっているだろう」

「は!」

「私が教えられるのは空戦技術、ただそれだけだ」


 無言の頷きに、続ける。


「階級を気にして学ぶことを疎かにしてくれなければ、それで良い」


 言っていることは判るな。言えば、4人分の肯定が来た。


「理解が早くて助かる」

「おどおどしてたら質問も出来ないってことですね!」

「その通りだ、岩倉空士」


 唐突に歩き出して階段を降り始めた暁を4人が追い、前に出る。


「教導に関しては私も素人だから、判らない事があればすぐに言ってほしい」

「―――はい!」


 4人分の大声。


「良い返事だ」

「ありがとう御座います!」

「とは言え、無理に変えろとは言わないからね。その裁量は、君らに任せる」

「了解しました!」


 少しばかり真面目な表情を浮かべていた暁が、それを和らげる。


「話しておきたかったことは以上、じゃあ、改めて宿舎へ頼むよ」

「っとその前に!」


 告げたのは再びの岩倉だった。

 どうやら訓練外ののイニシアチブを握っているのは彼女らしい。

 隊長は、頭を抱えている。


「どうした」

「先生、お腹すいてますよね!長旅明けですし!聞きたいこともありますし!」

「おい、岩倉」

「食堂で陣取ってますので、ご飯にしましょう!」

「いや、私は」

「よーすけは、先生連れてくるように!マナ、すぐるくん、1テーブル確保用意!」


 ぐんと、二人分の手を引く。


「うわ、香奈ちゃん!」

「ちょっと、教官の意見は―――」


 みるみる見えなくなる3人に、取り残される2人。

 先にため息をついたのは隅田だった。


「申し訳御座いません、中尉」

「中々苦労しているな、空士」


 労いに、僅かばかり頭を下げる。


「恐縮です。…アイツ、覚えてやがれ」

「ふむ、それが"素"か」


 言えば、はっとしたような素振り。それも一瞬で、振り払うように首を二、三度振る。

 緊張の解けただろう、軽い笑みを覗かせる。


「3人の手前、中々見せることは無いかと思いますが」

「自然体であれば、構わないよ」


 は、と軽い返し。


「では遺憾ながら、訓練校食堂へとお連れ致します」

「ああ」


 言いながら、隅田が歩き出して、暁も続く。

 変わった人だと感想を抱きながら、中々に遠い食堂までの最短距離を割り出し始めた。

 プロローグの流れはここまで、これ以降は少しずつ話を進めていきます。では。。。

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