表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大空の黒騎士  作者: 雨晴
第一章
3/47

2 橋本学園-2

 隅田陽介二等空士は割と焦っていた。

 今日の自分の任務は、赴任してくる教官である暁中尉を迎えに中央基地までの定期輸送便に搭乗し、彼を連れ、学園長と引き合わせて終了のはずだった。

 筈だったのだ。想定外だったのは、学園長が皆を集めろと言い出したことだ。

 

 まずい。現代っ子風にいうなれば、やべえ、マジで。


 今日は自分以外休息日にあり、どこにいるか見当もつかない。とにもかくにも全力疾走である。

 縋る気持ちで各人の持ち部屋をあたるものの誰一人おらず、畜生、人がクソ狭い中央連絡便の中2時間も空士から見たら雲の上でインメルマンキメちゃってるような中尉なんて階級の人に無礼無いかビクビクしてたのに遊び呆けやがって!

 とか何とか思いつつ涙目である。

 やべー。学長命令だぜ、最上位命令だぜ、これ。

 既に万策尽きた。無駄に自由利きすぎなんだ、この学園。何で軍直でしかも訓練生に自由外出許すんだ馬鹿げてる。

 あ、嘘です。僕も自由外出大好きです。盛大なため息がこぼれる。


 さて、本当にどうしたものか。素直に謝るしかないだろう。思い、もうひとつため息が出る。

 不意に脚に伝わった振動に、無意識に手が伸び、無意識に画面に目が行く。

 

 "from:岩倉香奈 title:お疲れー、皆教室に居るよー 本文:やほー、うわさの中尉殿にはもう会えた?"


 ―――神様!

 割と本気で奇跡に対して祈りを捧げ、一瞬で"そこを動くな"と言った内容の返信メールを打ち込み、ダッシュ、ラスト一本。

 彼は敬虔な仏教徒だった。十字の切り方は知らなかった。でも構わない。ああ、神様は休日にも働く私のことを見捨てなかった!

 携帯端末のことは忘れていた。








「あはは!よーすけ汗だくだ!」

「だ、大丈夫ですか?」

「その様子だと、焦ってたんだねぇ」


 ぜえぜえと、息も絶え絶えの彼を3人が迎える。座学全般のための多目的教室は空調完備。


「あはは、じゃ、ねえ」

「だらしないわね、ほら、どうしたのよ」


 酷い言われようである。おおよそ1キロ半を、ほぼ全て全力疾走で走りきれば誰でもそうなる。


「い、今、お水を」

「いや、う、いい、いらない、吉野」


 息を整え、3人を見やる。気の強そうな短髪少女と、弱そうなセミロングと、少しだけふくよかな青年が首をかしげる。


「小隊各員は、執務室に集合」

「え?」

「新教官との顔合わせ、今かららしい」


 それを聞いた3人が、ぽかんとしている。


「あ、あれ?明日全体朝礼で中隊挨拶じゃないの?」

「第一小隊が一番お世話になるから、今やるってさ」


 気の強い岩倉香奈にそう伝える。


「隅田さん、それは、いつごろ受けた命令なのですか?」

「1152」


 気の弱い吉野愛美にそう答える。

 ふくよかな青年こと榛原優は、目に見えて青ざめた。


「げ、現時刻は?」

「1205!小隊、走れ!」


 その一言で、皆慌てて走り出した。集合するのに5分以上。

 軍人たるもの即行動が原則である。

 それだけに13分は、やばいのだ。










「知っての通り、ここ空軍アカデミー、人は橋本学園などと呼ぶがね」


 橋本学長が席を立ち、暁へ背を向ける。


「ここは、連合空軍主催の大学校、といったところだ」

「存じております」

「極東方面軍西部基地の領地内に在り、主に選抜メンバーによるパイロットの育成を行っているが、それだけではない」


 校舎4階に位置する執務室からは、駐機場、滑走路、管制塔までの地上設備が見渡せる。


「管制、航法、整備、気象、航空技術、或いは戦術まで、空軍士官を輩出すること。そこまでを含めての、一つの役割だ」


 暁が頷き、外へ向けていた視線が戻される。


「とは言え、大学校は研究機関だ」

「なるほど、広大な基地領内にある理由ですね」

「公にはしていないが、新装備の開発からテストまで、一貫して行える施設が揃っている」


 暁の眉間にしわがより、言いたいことはわかる、と橋本も肩を竦めた。


「そのための正規軍であったが、如何せん、どこも人材不足でな」


 ある意味で、基地よりもこの学園在りきになっているのが現状だと、彼は言う。

 しかし、と続けた。


「易々とは抜かれんよ、この"城"は」

「極東本部基地も近いから、でしょうか」

「それもあるがね、いくら駐在航空戦力を抜かれても、ここは西部地区の要諦だからな」


 最低限の軍備は保障できる。そういうことだ。


「当然、自衛策も必要になる。その為の、教官への貸与機だ」

「極東軍標準機が貸与されると伺いましたが」

「名目上、受け取っておいてくれ」


 これだ、と受領証を渡され、サイン。


「ハンガーで眠らせるよりは、せめて正規部隊の予備機にするべきかと」

「君も頑固だ。そんなに受け付けないかね、君には」

「良い機体だとは思います」


 だが、それだけだ。


「如何せん、安定志向すぎます。限界機動は浅く、搭載能力は低い。挙げれば切りはありませんが、格闘戦では敵に比べ不利です」

「開発局の人間が泣くぞ、そんなことを言っては」

「いえ、いい機体であることには変わりありません。この速成パイロットが多い中、損耗率の低さはその安定性に利があるからでしょう」

「そうか」


 さて、と切り出しが来た。


「話は変わるが、君の寝床についてだが」

「どちらでも構いません」


 にべも無くそう告げた暁に苦笑いで返し、彼にカードキーが差し出される。

 受け取れば、苦い顔。


「宿舎棟は上下士官共用、尉官用の個室が開かないので、佐官用のものを手配したが、問題は無いな、どちらでも構わんのだろ?」

「…は」

「場所は追って、二等空士たちに案内させる」

「了解しました」

「―――ふむ、遅いな」


 暁の奥の扉へ視線が移り、彼も身をそちらへ向ける。


「もう間も無く、20分か」

「戦場に於いては、何事にもASAPが基本かと」

「理解しており、徹底させている。おや、噂をすれば」


 どた、どた、どたと、踏みしめる音が近づいてくる。ばたんと、重厚な扉が開かれた。

 4名。


『第一訓練小隊4名、出頭致しました!』

「有事外の廊下は走るものではないし、上官の執務室へ入るのに作法は要らないのか。4階、階段踊り場からやり直せ」

『は、失礼しました!』

 

 一瞬の初顔合わせ。合わせられていない。

 速やかな早歩きで退室する4人を、上官二人、見届ける。

 結局5人の顔合わせが実現したのは、おおよそ10分が経過してからだった。

今日3本目、これ以降はぼちぼち書き溜めていきますんで、ぼちぼち投稿していきます。次回でようやくの全員顔合わせになります。気合入れてがんばりますー

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ