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大空の黒騎士  作者: 雨晴
第一章
2/47

1 橋本学園-1

『1030、定刻通り現着、降機開始は2分後を予定』


 アナウンスが響き、交代要員であろう乗り合いの数人が荷物を持ち、席を立つ。


「中尉、遠路お疲れ様でした」


 到着です。そう続ける担当官に、中尉と呼ばれた男が一つ頷く。


「お疲れのところ恐縮ですが、学園長より真先に連れて来るようにと」

「ああ、構わないよ」


 学園長。その肩書きに軽く苦笑が漏れる。彼の男は学園長である前に、基地指令であるはずなのだが。


『後部ハッチを開放、降機開始』

「では、御案内致します」


 輸送機の陰を出で、強い日差しを受ける。

 先を歩き始めた担当官を男が見やれば、パイロットらしい小柄、と言っても身の丈170ほどの青年だ。

 隅田陽介。階級は二等空士、訓練部隊の隊長であると、長旅の中確認していたデータを思い返す。


「隅田空士」

「は」


 声を掛ければ、生真面目に直立し、正対される。

 歩きながらで構わないと告げれば、了解しましたと返答が来て、背を向く。


「君たちについて、先に得ていた情報と差異がないか確認したいが、構わないかな」

「は、私の判る範囲にあれば」

「難しい質問ではないから、気負わなくていい」


 緊張を解すつもりで伝えたはずが、逆効果だと気付く。少しばかり背筋の伸びた後姿に、中々難しいものだと思いつつ、きりがないので進めることにする。


「まず、部隊構成を」

「中尉に指導頂く第一訓練小隊、一番機隅田以下、岩倉、榛原、吉野の4機編成です」


 隅田、岩倉、榛原、吉野。胸中で反芻し、その情報を思い返す。


「隅田、榛原が男、岩倉、吉野が女だったね」

「は、間違いありません。使用機材は三ヶ月前よりTA-9単座練習機4機です」


 練習機で単座、これはシミュレーターと地上管制の進歩ゆえだろう。ラジオコントロールの要領で、指定空域内ならば墜ちる事は無いと、そういうことだ。

 隊に女性が二人居ると言うのも、耐G技術と操縦士に対する機体のフレンドリー化、その進歩ゆえだ。基礎体力に縛られず、純粋な才覚と技量によって適任者を選別できる。


「次に、中隊の構成は」

「は、訓練中隊は16機編成4小隊、第一小隊以外の機も全て、TA-9単座練習機を使用しています」

「事故、トラブルの発生は?」

「報告されていませんし、我々も認識はしていません」


 ふたりが、シンプルな白色校舎の門をくぐる。基が軍事施設だけあり、なんとも校舎とは言い辛いが。


「機体整備は」

「正規整備部の秋山幸和主任以下正規整備兵10名、及び整備訓練部の実習生30名で実施されます」


 階段を昇り、ただ長い廊下へと入る。本当に静かで、靴音と二人の声だけが響く。駐機場が近いと言うのに、防音対策の成果だろう。

 ここは、あくまで学び舎なのだ。


「緊急時、臨戦時の扱いは」

「予備役待機となっています」

「では、実戦部隊への指揮権の委譲などは」

「橋本学園長の許可無く、指揮権委譲、剥奪は不可能です―――すみません、中尉」


 どうやら到着したらしく、執務室とプレートの掲げられている部屋の前に留められる。


「続きは後ほどで構いませんでしょうか」

「いや、もう十分だよ隅田空士。ありがとう」


 は、と直立からの敬礼を見せる。敬礼を解き、この建物には不釣り合いな、いかにもと言った風の重厚な扉をノックする。

 すぅ、と、息を吸い込む音軽やかな音が数瞬響く。


「隅田陽介二等空士、暁義也中尉をお連れしました!」

「入りたまえ」


 簡潔な許可。失礼しますと告げた隅田が、重いその戸を開く。10メートルほど先に、初老の男性が居る。

 橋本学園こと、太平洋連合軍空軍直下、極東空軍アカデミーの長、橋本純一。





「案内ご苦労、二等空士」

「は!」


 別に、橋本が威圧している風ではない。それでも、やはり相手が相手だからか。


「ことのついでで申し訳ないが、小隊の皆をここへ寄越してくれないか」

「了解致しました!」

「中隊全体には追って紹介するが、君らが最もこの男の世話になる筈だからな」


 行きたまえ。先と同じく簡潔な許可を得た隅田が、これ以上無いだろう早足で立ち去っていく。取り残された暁が、軽くため息をついた。

 執務室は、どこか暗い雰囲気のする一室だった。基は書庫だろうか、申し訳程度の窓からは、朝の強烈な日光が降り注いでいる。

 少しばかりの沈黙が流れ、破ったのは暁中尉と呼ばれた男の方だった。


「二等空士を追い遣り、私はここで、ようやくこの任の本質を知ることが出来るのでしょうか」


 その言葉に、無表情に近かった橋本学園長の表情に笑みが映る。とはいえ暁は無表情で、それでも場の空気に濁りは無い。


「本質など、かの召還書に記載しておいただろう、暁義也中尉殿」


 呼ばれたフルネームに、すこしばかり苦い顔をする。


「あの通りに、君には我がアカデミーの優秀な学生を指導して貰いたい」

「人には得手、不得手というものがあるものかと」

「経験も無しに、不得手も無いとも思うがね」

「私に何を望まれるのですか」


 切り返しは鋭い。これまでの声質よりも低く、聞く者が聞けば萎縮するような。

 その鋭さも意に介されず、黙って首を振る。なぜなら学長の階級は中佐であり、権限の許、必要以上を話すことは無い。


「ただ、そうだな。君のためにもなればと思うが」

「仰る意味がわかりませんが」

「まあ、要するに休めと言うことだ」


 休め。そう言われた途端、暁の表情が険しくなる。


「まさかとは思いますが、本心からそう仰っているのですか」

「休息は重要だろう。あの黒騎士も、無理が祟って墜ちたのかもしれない―――と、中尉、冗談だ」


 さらに雰囲気を悪いものへと変えようとする暁を窘め、今度は学長がため息をつく。

 掛けていたオフィスチェアの背がきしりと鳴った。


「ワーカーホリック、病気だという意味だぞ中尉」

「私は職務に忠実なだけです」

「では此度の任もこなしたまえよ」

「納得のいく説明の上で、ならば」


 言って、改めて向き直る。学長へ向けられたその瞳は、軍人のそれだ。

 座っているわけでもなければ、どこか高潔な。それでいて、獰猛な。


「―――自分はスタッフではなく前線の人間であり、立つべきは最前線」


 そう言いたいのだな。学長が尋ね、頷きが来る。

 ならば中尉、一つだけ伝えてやろう。その言葉に、彼は微動だにせず先を待つ。

 どこまでも真摯な視線で貫き、放つ。


「ここが、最前線だ」


 静かな元書庫の中、その声が響いた。

まだまだプロローグの続きと言う形です。練習機はT-4かなとも思いましたが、既存機ではなかなかラノべ的なトンデモ機動も難しそうですし、せっかくのパラレルと言うことで航空機はオリジナル設定で。その分描写がついてくるかですが・・・精進します・・・!

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