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大空の黒騎士  作者: 雨晴
第一章
13/47

12 ブレイクタイム-1

「うわ、あれ本当にクラッカー?」


 訓練空域モニターからのリアルタイム映像が、管制室に居合わせた人間を釘付けにしている。

 午後3時、本来ならば訓練小隊が用いるべきその場所で、一機の極東軍標準機がドローンを蹴散らしていく。

 訓練生達は、休暇中だ。


「スリー・ダウン、グッドキル」


 残り三機です、担当の管制官が伝えるものの、返答が来ない。

 その無口さに、観客の一人が首を傾げた。


「なあ、誰が乗ってるんだ」

「訓練教官の中尉だってよ」

「教官貸与機の、初回慣熟飛行です」


 新任管制官の女性が、マイクに手を当ててぼそりと教えてくれた。

 モニターしていたパイロットの一人がありがとうと謝意を述べれば、いえ、と業務へ戻る。


 途端、"クラッカー"と呼ばれた機体が鋭い旋回を見せた。どよめき。

 パーティグッズから取られた名は蔑称で、新標準機の頼りなさを表現している。筈だった。


「クラッカーであんな急旋回出来るのか!」

「ありえねえよ、俺なら空中分解する自信があるね」


 標準機が急旋回を止めれば、その目の前に別のドローンが居る。

 FOX2、射出コール。


「フォー・ダウン」


 感嘆が起こる。行動に迷いは無く、まるで模範解答のような精密さで叩き落していく。

 今度はそのまま加速し、宙返り。そしてまた一機。


「やべえ、興奮してきた」

「これ、貸与機の初回慣熟飛行って言ったか?」


 とんでもねえな。その呟きと同時に、全機撃墜のコール。3分も経過していない。

 誰からともなく拍手が上がって、モニター連中が騒ぎ出す。


「いや、すげーもん見れたわ!」

「こりゃ、ちょっとご指導頂くほかあるまいな」

「ああ、ナマで見てえな!」


 いつの間にかその場に居た橋本基地司令に連行されるまで、騒ぎっぱなし。管制官たちのしかめっ面も、お構いなし。

 西の空は、緩んでいる。

















 馴染まない。思い、暁中尉が緩い弧を描きながら旋回を入れる。


『ライノ・ゼロへ、ドローンを射出します』

「了解」


 まだ目標まで距離があるのに、短距離のレーダーだけで補足できる。6体。

 これも、馴染まない。入れた旋回も、思うように描けない。


「バンディット・インレンジ」

『交戦を許可します』

「ライノ・ゼロ、FOX2」


 射出コールに撃墜判定を確認して、翻す。


『ワン・ダウン』


 重い。その感想を得て、それでも感覚を掴もうと努力する。

 格闘戦では不利と考えていたが、これほどとは。

 ガン選択。レティクルに捉えるにも、巧く機動が取れない。


『ツー・ダウン、チェック・シックス』


 管制から後方注意のコールを受けるまでもなく、機首を引き上げる。出力は高く、重い挙動に相応しくない上昇力。

 なるほど、と呟いた。この荒い出力調整で機体が音を上げない点については、評価できる。

 敵機、直近。


『スリー・ダウン、グッドキル。残り3機です』


 排気を絞り、可能な限り鋭く旋回しようと下降を入れる。操縦性は確かに素直で、TA-9練習機との互換性さえ感じられた。

 確かにこの機なら訓練課程修了直後でも、少ない慣熟訓練で容易に操ることが出来そうではある。


「FOX2」

『フォー・ダウン』


 後方に付かれそうな一機を最高出力で振り切って、インメルマンターン。反転状態から、位置を選んでスプリット・S。

 左方へ流れていくドローンの逃げ道を、上空から押さえつける。

 この機体での逃げ道は左右ではなく、上下か。ロールの遅さ、旋回半径の広さを考えれば、妥当な判断。そう言える。


『ファイブ・ダウン』


 だが、それだけだ。囲まれればどうにもならない。

 今のような稚拙な方法で、敵機はかわせない。ならば生き残る術は、高度な電子機器を用いての遠距離攻撃。

 似合わないな。ひとつ呟いて、最後の一機へ詰め寄った。


『オール・ダウン、ライノ・ゼロの演習を修了、帰投してください』

「了解、ライノ・ゼロは帰投する」


 管制に感謝する。言って、通信を切る。

 好みではないとは言え訓練機とは違うコクピットは、どこか心地よかった。

















「新標準機は、受け付けないんじゃなかったのかね」


 先まで搭乗していたそれを無機質な視線で指している男に声を掛ければ、振り向かれる。

 フライトジャケットを着込んだ暁が、そのままの姿勢で会釈する。


「長い間貸与機を放置しておいて、どういった風の吹き回しかな」


 橋本の言葉は嫌味のようにも聞こえるが、その表情は穏やかだ。いえ、と返す。


「思いがけず長期休暇となりましたので、この機会に慣熟を、と」

「だから、君は少々休みたまえよ」


 苦笑いのまま隣に付き、機を見上げる。つられて暁も見上げれば、もう陽も沈む頃だ。

 その大柄な機体を、辛うじて照らしている。尾翼には、FC-204の文字列。


「これ以上怠けていては、鈍ります」

「そう簡単に鈍るものかね、君の技術は一夕一朝のものでもないだろう」

「鈍ります。これだけ実戦を離れれば、なおさら」


 言って、暁が北を見やる。


「戦時に貰える休暇でもなし、羽を伸ばしてこれば良かったではないか」

「十日以上も、私にどこで、何をしろと言うのです」

「車の一台手配して、放浪旅でもしてみたらどうかね」

「空襲で死ぬのは御免被りますので」


 冗談のような言い草も、無表情で全て台無しになる。


「明後日には一日だけ、外へ出ますよ」

「それは、ただの街歩きだろう。長期休暇にすべきことではないよ」

「戦時です。休暇といえど、兵士は臨戦待機であるべきかと」


 今君は兵士ではないだろうに。その発言を口元で引き止めた。


「―――まあ、休暇にまで君に干渉するのは避けようか」

「どうも」


 一つ大きなため息をついて、ところで、と橋本が話題の転換を図る。


「どうかね、君にとって、バックフロウは」


 "バックフロウ"、新標準機、FC-204の正式ペットネーム。

 感想で宜しいのですか、との質問に肯定が来る。


「典型的なミサイルキャリア、私には受け付けませんでした」

「ふむ、その通りの運用思想だからな」

「格闘戦軽視という時点で、私にとっては扱い辛い」


 高機能のレーダー郡、電子機器を用いた精密中、長距離攻撃主眼機。


「その割には、見事な飛びようだったではないかね」

「あの程度では、小隊規模に囲まれて撃墜されますよ」

「管制室は呆けてたぞ、何人が職務放棄してモニターしていたことか」


 割と直接的な賛辞を受けても、顔色一つ変えない。

 ぺた、と、冷えた主翼に触れる。生産性重視の、無骨なデルタ翼。


「訓練と実戦は違います。それが有人機相手ならば、なおさらでしょう」

「では君が今日これに乗ったのは、弟子達の鍛え方を考えるためかな」


 唐突に来た質問に、翼を撫でていた手が止まる。

 視線が交わり、暁が先に折れた。


「それは、どうでしょうね」

「この短期間で、君も少々変われたかな?」

「変わるような人格が、私に在るのでしょうか」


 陽が落ちた。駐機場を照らすのは白熱灯だけになり、今日も冷える夜が来る。

 それを合図に、では、と暁が踵を返す。


「―――暁中尉」


 呼び止める声に、足を止めた。

 幾らか感情を殺したような声に、振り返ることは無い。

 しかしその性質は、上司から部下への命令のような。


「年明けだ」


 何が、とは言わない。言うべくもない。暁が黙って頷いて、待機室へと消えていった。

 お気に入り登録、ありがとうございます・・・!励みになります!オリジナル機の説明を、さらっと文章に組み込める文章力がほしい・・・次回は小隊メンバーと教官それぞれのお休みのお話を。。。

 さて、当方小売業に勤めておりまして、そろそろ年末に掛けて仕事が忙しくなりますので、投稿ペースが落ちると思います。出来る限り急ぎますが、どうか見捨てないで下さい。。。1月からは、平常運転で!

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