0 プロローグ
何年振りだろうか。
過去の記憶と照らし合わせる。
遠目に見るその街は、何一つ変わりの無いように見えた。
喜ぶべきことなのかもしれない。奇跡的なことなのかもしれない。
この光景を、どう受け入れるべきなのだろうか。喜べばいいのだろうか。奇跡だと呟けばいいのだろうか。
視野を狭めれば無表情がそこに居て、睨み合う。
自分自身には、他に成さなければならないことがある。あるはずなのに、こんなところへ、こんなことのために。
与えられた紙切れ一枚、これだけの為に、何を今更。
「中尉」
掛けられた声に目を向ければ、まだ10代であろう担当官。どことなく緊張したような面持ちで直立している。
「間も無く到着いたしますので、ご準備下さい」
堅苦しい物言いだ。軽い作り笑いを試みるものの、恐らく苦笑いにしかならなかっただろう。
表情を作るのは、苦手だった。
「そこまで畏まらなくても、構わないよ」
言ったところで、この状況が改善されないことはわかっている。彼にしてみれば私は上官であり、教官だ。尉官なんてものは、きっと雲の上にも感じている筈だ。
彼も会釈はするものの、その硬い表情は崩れない。
「まあ、追々慣れていけば良い」
「は」
素早い敬礼を、どこか眩しくも思う。きっと純粋な代物で、作っているのだとしても、あれに乗るのに必死なのだ。
そんな彼に、彼らに、私は、或いは俺は、一体何が出来るというんだ。
視線を外へと向ける。彼が席へ戻るところを見れば、もう着陸体勢なのだろう。輸送機独特の、重たいギアの下がる振動。近づいてくる光景が、くっきりと映し出される。
ああ、良い天気だな。
帰ってきたのだと、改めて思う。
帰ってくるべきだったのかと、改めて思う。
シルバーのブリーフケースを握る力を自覚する。緩めればカタンと鳴って、無意識にため息が漏れた。
「下らない」
本当に、下らない感情だと思う。とっくの昔に捨ててきたはずの、郷愁なんて概念を振り払う。
どうやら暁義也という人間は、大変に人間臭い男のようだ。その思考さえ下らない。あまり私に、人間味なんて求めないでほしい。
視線を落とし、掌を握る。同時、接地感。スラストリバーサーの低音を覚え、下げていた顔を上げる。
まあ、考えたところで、始まるものでもない。
いずれにしても、ただこの木偶は、与えられた責務を全うするのみ。ただそれだけ、たったそれだけだ。
減速していく機に身を委ね、今一度だけ目を閉じる。
さあ、仕事の時間だ。
はじめまして!ぼちぼちペースで更新できたらな、と思います。。。