第三章
第三章
――夢を見た。
夢を夢だと知る実感は、現実には希薄な不条理さだ。
黴臭い、と感じた。夢なのに匂いがするのは不思議だと、感じるともなしに思った。
修一は蔵の中にいた。べったりと暗かったが、自分の姿も、そこにある漆塗りの長持や振り子時計、骨董品のすべてにいたるまで、あらゆる角度から見ることができた。だから夢だと思った。
闇はあっても影はない。
唯一の扉は閉まっている。外から鍵がかかっているはずだと、知るはずもないのに知っていた。
つまり修一はいま、閉じ込められていることになる。
だが、不思議と恐ろしくはなかった。
「 お に い さ ま 」
と、呼ぶ声がした。
また、だ。
やはり、――姿はない。
声は慕っているような、甘えたように媚びた響きだった。
「 お 待 ち 申 し 上 げ て お り ま し た 」
声は言った。
「 ず っ と 」
と。
修一は捜す。声をあげて。
長持の中。
着物をすべて引き出して、そこに姿を求める。
いない。
青磁器の入った桐の箱をひとつひとつ開けて、そのすべてに目を通す。
どこにもいない。
捜す。捜す。
会いたかった。
誰に会いたいのかもわからない。
やがて修一は気づく。
小さな壁の穴。
強い光が洩れている。
張り付く。
――目があった。
誰かが修一を覗いていた。
壁を隔てて内と外、小さな穴でお互いの眼球を見つめあう。
まばたきひとつせず。
じっと。
じっと。
そして内と外で、同時にこう言った。
「お前は誰だ」