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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

営業二課勤務、藤間明久の運命が決まった日

作者: 小さな犬

 


 

 この、気持ちは何だろう。

 

 


 カップを持つ長い指が優雅なのに気づいた。

 

 俺の指はあんなに綺麗ではない。




 電話で話すとき少し節目がちなのが色っぽくて心臓の音を人に聞かれそうな気がする。


 

 美人の受付嬢と話していると見入ってしまう。


 仕事の出来る上司であり、一つ上の格好の良い先輩だ。

 単なる憧れか、恋愛感情なのか。


 


俺は入社して二年くらいの時に大失態をやらかした。

 大事なお得意様の発注を間違えてしまったのだ。

 新しく発注してたんでは納期に間に合わない。



 

 課長に罵倒されながら汗をかくばかりだった俺に先輩は起死回生のアイデアをくれた。

 なんとか上手く間に合わせ、課の全員に平謝りし、今もこうして勤務しているわけだ。

 助けてもらったからというわけでもないが先輩はいい人だ。


 

 ちなみに先輩のデスクは俺の斜め向かいに位置している。

 顔をあげれば見えるが近すぎると緊張するのでこれくらいがちょうどいい距離だ。




 自分では隠していた感情も見る人が見ればわかってしまうようだ。

 同じ課の山峯ゆり、営業二課の癒し係でもあり縁の下の力持ち的な頼りになる存在だ。

 実をいうと年下なのだが、なんというか漢前だ。


 

 気づいたのは自分が腐女子だと言っていた。

 BLが好きだそうだ。

 よく、わからないが応援してくれるそうだ。



 主任を慕っているのは俺以外にもいて油断できない。

 女子はもちろん男子も惹きつけてやまない俺の憧れの人である。

 だが、他の課の人間まで寄ってくるのは、どういうわけだ。



 「主任、今日の飲み会は出席ですか?」



 今も、営業三課の渡辺とかいう野郎に飲み会の出欠を聞かれている。

 主任が出るかどうかで参加人数が変わるらしい、という情報はもちろん山峯の姉御からだ。

 


 

 「う~~ん。多分、大丈夫」



 「多分ですかぁー。遅れてもいいんで必ず出てくださいよ」

 



 どうやら女子の参加者にかなり、楢崎ファンがいるらしいな。

 それとも自分のためか。

 渡辺よ、主任に近寄りすぎだ。




 俺はイラッとしながら聞いていた。

 イライラしながらも定時になって課のかなりの人が退出していた。

 俺も一応飲み会出席者なので残りの仕事をもう少しだけ頑張って終わらせるつもりだった。


 

 主任の方をちらりと見ると仕事が終わった風には見えないが何故か目が会ってしまった。

 なんとなく逸らすのもおかしいので声を掛けてみた。

 

 「主任、終わりそうですか?」


 「だめだ、全く終わりそうにない」


 不自然ではない声が出せたことに安心していたらとんでもない答えが返ってきた。

 おやおや、渡辺の焦る顔が浮かんできて俺は自然に顔がニヤついた。

 でも、主任らしくもない弱気な発言にそれどころではない気がして自分の仕事をさっさと終わらせた。

 

 お手伝いしますと声をかけて主任のパソコンを覗き込むようにすると思ったより顔が近すぎてどきどきしてしまった。

 俺は初恋の女の子を前にした中学生かよと自分に内心ツッコミながら無表情を装っていた。

 主任、俺は何を手伝えばよろしいのでしょうかと横を向いたところで何故かがっちりと拘束されていた。


 主任?腰にまわされた手は何ですか――

 何故俺は主任の膝の上に座らせれているのでしょう?


 何となく薄暗くなった室内を見回すとすでに誰もいなくなっており俺と主任だけだった。

 主任のいつも爽やかな笑顔にほんの少し黒いオーラみたいなものが混ざった気がした。

 美人の黒いオーラはものすごいヤバイくらいのフェロモンが出るんだ。

 知らなかったけど、色気がダダ漏れです。主任。


 なんだか黒いオーラがどんどん強くなってきて身動きも出来ないでいる俺にどんどん拘束がきつくなってきているのは気のせいですか?

 主任、俺の口に舌を入れるのはなぜなんですか?

 さっきから気持ち良すぎて気を失いそうなんですけど……


 主任の携帯電話の着信音が響いたかと思うと山峯ゆりの声が響いた。

 

 「主任、渡辺君が楢崎イケメン王がいないと騒いでいましたよ」


 渡辺が?うるさい奴だなと言いたげに私の方を見た。どうやらバレているようですね。

 一応言い訳はしときましょうか。

 


 「お二人の邪魔はする気はありませんでした。むしろ応援したいと思っています」


 見た目に反して神経が図太い楢崎主任はともかく仕事で組むことも多い藤間君のことは純粋に心配だったのだ。

 尊敬する楢崎主任に強引に迫られたら拒めないだろうしなぁ――

 両思いなのは間違いないけどなどと考えていたら、どうやら気を失っていたらしい、藤間君が目を覚ました。

 あらら、顔が真っ赤だわ。愛い奴め。

 恥ずかしがって部屋から藤間君が出ていく。多分、顔でも洗ってくるのだろう。

 密かにファンが多いはずだとため息をつきつつ、藤間君がいない隙にあるリストを渡す。


 「何のリストだ?」


 「藤間明久に密かに想いを寄せる社内の男性のリストアップです」


 「ほう?」


 

 あらら、主任の背中から黒い霧状の何かが……

 藤間君への独占欲、半端なさそうで嬉し、いや心配になってきた。

 大丈夫かしら? 藤間君。


 

 「では私、先に店に入っていますんで二人もなるべく早く来てくださいね」


 

 楢崎主任が後輩の藤間君を気に入っているのは知っていたけど、これほど本気とは考えていなかった私は少々主任の魔王もかくやという瘴気に蝕まれる前に立ち去ることにした。

 ビジュアル的には楢崎主任に似合うのは他にもいるが藤間君の可愛さを損なわせずに愛を育んでくれそうなのは主任だけな気がしたので私は密かに二人のことを応援する会を設立していた。

 会員は私の他に数人の女子社員と何故か社長だ。

 

 

 何故社長が二人を応援する会の会員なのは置いといていいが心強い味方だ。

 とりあえず、藤間君を狙っているリストの中には飲み会の幹事渡辺も入っている。

 わが課に顔を出すのは藤間君に会いに来ているらしい。

 まあ、とにかく、二人は大接近だ。

 一方的にだけどキスも済ませたようだし、と笑顔になりながら店への道を急いだ。

 

 


  

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