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Reality Cyber Space――《リアリティ・サイバー・スペース》――  作者: 月草
Stage1――Things brought by guild are...――
9/35

Ⅳセナカヲマモルモノ【New Member】

密談です。

―――5/4_18:21―――


「まあ、座れ」

「はい……」

 十伍は武蔵によって部屋に招かれていた。

 『Reality Cyber Space』において、プレイヤーはほとんど各自の住居を持っている。中には宿泊施設を渡り歩いたりしているものもいるが、長期的な滞在を考えれば住居を購入または賃貸するほうが、費用が安く済むのでよい。

 ここは現実世界と同じ時間を共有しているようで、二十四時間で一日が終わり、月日も開始時から規則的に経過している。

 今は五月で晴れ晴れとした天気が多くていいが、雨が降ったときなどは、たとえここが『ゲーム』であったとしても濡れるという感覚を味わう。

 そのため一日中外で過ごすことをプレイヤーたちは好まない。

 ギルド『不断の輪』では、同じ一部屋『1LDK』のマンションにメンバー七人全員が住んでいる。

 これは【RAID TIME】がいつ起こってもすぐに集合ができるようにするためだ。

「何か飲むか?」

 武蔵がキッチンまで行って冷蔵庫の中を覗く。

「いえ、いいです」

「じゃあ、お茶な」

 遠慮をする十伍だが武蔵はガラスのコップにお茶を入れて持ってくる。

「あの……武蔵さん?」

「ふーむ。なあ? いい加減、『おっさん』と呼んではくれんのか?」

 武蔵は十伍とテーブルを挟んで向かい合って椅子に座る。

 彼らここに呼んだのは先ほどの【RAID TIME】のことについて話し合う。はずだったのだが。

「えーと……」

「はぁ……。十伍よ。お前は『不断の輪』の一員だ。そして俺たちの『仲間』だ。わかるか?」

 本題とは離れたことを話し出す武蔵に対して十伍は言葉を詰まらせる。

 彼は一週間前に新たに加わった『新入り』であるので、まだ『不断の輪』の人たちに気を使っていた。しかし彼自身はその自覚はなかったようだ。

「確かに楓と晃輝は十伍のことをまだ『新入り』と呼んではいるが、あの子らもお前のことを『仲間』だと思っている」

「あの話はしなくていいんですか? 武蔵さん」

「それだ」

 十伍は武蔵に何かを指摘されるも何がなんだかわからない。

 一向に本題に入らない。

 彼はそれをどう軌道修正しようかと思索していた。

「お前が『あの件』について話したいのはよくわかる。だがな。その前に一つ聞こう。お前は俺たちを『仲間』だと思っているのか?」

 

 出された質問によって十伍は突然立ち上がった。

 

 武蔵は無言で彼を見ている。

「当たり前です! 俺は……俺があの時あなたに拾われていなかったらたぶんソロでこの世界で生き抜こうとしていたはずです。そんなことすれば生きられるはずがないのに……」

 それだけ言うと十伍はまた椅子に座る。

「なら、もう少しお前は柔らかくなれ。今のお前はただ『一つのこと』しか考えていない。それは『仲間』とは呼べない。俺たちと同じところにお前は立っていない。一歩引き下がったところに立っている。それが『仲間』と呼べるか?」

 十伍は答えられずに下を向いていた。

 答えられない十伍を見て武蔵は彼の方に手を置く。大きな手だ。このギルドのメンバーを支えている者の手。

「とりあえず俺のことをお前も『おっさん』と呼んでみろ。本題はそれができてから入ってやる」

 笑って言葉をかける武蔵。彼は十伍と出会った時からこうであった。心の広さがこの男のよいところ。だから他のメンバーは彼と共にいる。ついていくのではない。共に同じ場所に立っているのだ。

「わかったよ、お、おっさん……」

 やや照れ気味に言った十伍だが、武蔵はその名前で呼んでくれただけで大満足だった。

「ちょっ……痛い! おっさん! 痛いって!」

「あっ、スマン」

 嬉しさのあまり十伍の肩に乗せていた手で叩いてしまっていた。

 十伍もようやく顔を上げたところで、武蔵の表情が厳しくなった。

 

 ここから本題に入るという合図。


「見たんだな?」

 武蔵の問いに頷く十伍。

「影に潜んでいたから顔はよく見えませんでした……すみません」

「だから謝るなって。あと丁寧語でなくてもいい」

「うん、わかった。それでソイツは銃で狙っていた」

 十伍は【RAID TIME】で怪しい者を取り逃がしたことを振り返る。拳で自分の足を殴りたくなった。

「俺を、か?」

「たぶん。【魔性の大蛇(Venom)】を倒したところにいる誰かを狙っていたんだけど、おっさんで間違いないと思う」

「お前がそう言うなら、確定かな」

 ここ最近聞くようになった悪いうわさがある。

 【デバイス】にはプレイヤーが自由に利用できるコミュニティツールがある。簡単に言ってしまえば情報掲示板のようなもの。

 『Reality Cyber Space』ではどうやってこの個人情報を仕入れたのかは定かではないが、『本名』と『本人の顔』が晒されている。本来ニックネームを名乗ることでオンラインゲームはするものなのに、ここでは全てが初めから明かされている。それにこの世界の創造者のどんな思惑があるのかも知らされていない。

 だからこの『Reality Cyber Space』で生きることは現実世界で生きることと大差がない。

 コミュニティツールではどんな者でも使用できる言わばネットワーク。ここがネットワークの上に成立っているのに、そこにさらに上にネットワークが成立っているという奇妙な構図。

 『Reality Cyber Space』を現実とおけばコミュニティツールはネットワークとなるので、本名を明かさずに情報をプレイヤーは交換し合うことができるようになっている。

 そして一週間前からそのコミュニティツールで騒がれるようになった話題こそが。


「【PKプレイヤーキル】か……」


 『Reality Cyber Space』で受けるダメージは『痛み』と言ってもいい。安全対策のためにゲーム内で起こった衝撃などは、受けるとしても多少のものにしなければならないはずであった。

 これは法律でも取り決めがあるほどだ。

 だがこの『Reality Cyber Space』はそれを完全に無視している。

 この世界で受ける攻撃はそのままプレイヤーが、【HP】の減少を起こすダメージと、感じる『痛み』として受ける。

 それはモンスターによる攻撃に収まらない。

 プレイヤーからプレイヤーへの攻撃も同じようなことが発生するのだ。

 剣で切られれば痛みは感じる。銃で撃たれても痛みを感じる。

 ただ武器を使えるのは【RAID TIME】で、さらにこのゲーム開始から存在する【強化(Boost)】というスキルによって軽減が可能になっている。

 しかし、それがあってもプレイヤーを即死させないだけで、苦しめるだけの『痛み』は発生する。

「【結晶クリスタル】を目当てで狙っているんだよな?」

 【結晶クリスタル】はこの世界から抜け出すための重要アイテム。これを横取りしようとするがために非人道的好意が行われる。【HP】を『0』するまでには至らなくとも、【結晶クリスタル】を強奪するためにプレイヤーを攻撃することがある。

「確かにそれもあるだろうが、そのプレイヤー自体を苦しめるのを楽しむ悪趣味な奴もいると聞いたことがある」

 プレイヤーキルとはその意の通り、プレイヤーがプレイヤーを殺すこと。

 『VRMMO』では可能なものもあり、最初から禁止しているものもあるが、もし可能ならば、それを行ったプレイヤーはペナルティを背負うというような対策がある。

 

 けれどもこの世界にはそれがない。

 

 そしてこの世界でプレイヤーが殺されるということは――――――


 「絶対にさせない」


 十伍は告げる。それがこのギルドに入るときから抱いている決意だ。

「もう二度と俺は目の前で大切な人たちを失いたくない! あの時みたいに……。守れないなんてこと俺はもう嫌だ! 『アイツ』は【PK】されたわけではないけど、モンスターにやられようと人にやられようと関係ない! 絶対に守る。俺はこのギルドの背中をなんとしてでも守ってやる!」

「わかってるよ」

 気を荒くしている十伍を武蔵は優しい言葉で鎮める。

「わかっている。だがそれはお前一人に託したわけじゃない。お前も俺たちの仲間だ。お前が危機に陥れば俺たちは絶対に駆けつけて助ける。それでお前にこのことで相談があるんだ。リーダーとしては情けない話だがな」

「いいよ。俺なんかが力になれるなら」

「ありがとよ。やっぱりお前を仲間にしてよかった」

「それで相談っていうのは?」

「このことはまだお前にしか話していないのは知っているだろ? そして実際に怪しい奴が現れた。これを他の奴らに話すべきかどうかということだ」

「話すべきじゃないのか?」

 十伍は当然のことのように思うのだが、武蔵が言うにはなにかわけがあるのだろうと話を聞き続ける。

「問題は【RAID TIME】っていうシステムのせいだ。周りを敵に囲まれている時に【PK】を警戒していたら逆にモンスターの攻撃を食らっちまうんじゃないかと考えている」

 彼の言い分はメンバーを思ってのことだった。

 だが十伍には両方を任せている。

 それはこの問題が、彼が元々いた渋谷区で先に起こっていて既に対策を講じてきていたからであった。

 つまり、より熟知している者の意見を聞きたいというわけだ。

「そう……だな。確かに俺が元いた渋谷区では何件か実際に起こっているというのを聞いて、全員が警戒をしていた。モンスターへの注意がおろそかになるということもあったな」

「心配事を増やして、いざという局面で。というのを考えると悩むんだよ」

 十伍にとってもこれは悩み事だった。

 どちらが一体得策なのか。

 一歩でも間違えて取り返しのつかない事態になってからではもう遅い。

 このゲームで【HP】が『0』になればプレイヤーにはこの世界での死が訪れる。

 たとえ『0』にならなくとも『痛み』を味わうことになる。

「とりあえずまだやめておこう。今日みたいに『K級キングクラス』を相手にしている時なんかは最もだ。俺が厳重に見張っておく」

「ありがとよ。だがちゃんとお前も自分の心配はしろよ? そして何かあったらすぐ連絡をくれ。楓みたいに勝手に一人で突っ走るなんてことはやめてくれよ、な?」

 十伍は、わかっている、とだけ返事をして席を立つ。

 【RAID TIME】が終了してから一時間が経過している。

 【RAID TIME】は終了後、最低でも六時間は発生しないというルールがある。

 最低でも六時間なので、七時間や八時間、はたまた丸一日起こらないとも考えられる。しかし、いつでも起きていいように対策は練らなければならない。

 前回から六時間後は午後十一時。

 夜の【RAID TIME】は特に危険が多い。暗闇だけにモンスターの方が有利だ。プレイヤーキルをするにとっても。

 だからそれまでに疲れもちゃんととっておかなければならない。

「じゃあ、おっさん。また」

「おうよ、しっかり休めよ」

 別れの挨拶を交わし十伍は武蔵の部屋から出た。


「『あれ』の使い時かもしれないな」


 十伍は自身の部屋に戻る途中で別の人の部屋の方向に向きを変える。

 これはいざという時のために準備を整えるため。

 そして他には誰もいないマンションの廊下を歩きながら十伍は独り言を呟く。


「おっさん、心配はいらねぇよ。皆が安心して戦えるように、俺が皆の背中を守ればいいだけだからよ」

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