表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Reality Cyber Space――《リアリティ・サイバー・スペース》――  作者: 月草
Stage1――Things brought by guild are...――
8/35

Ⅲアヤシイカゲ【Suspicion】

主人公の出番です。

―――5/4_16:59―――


 十伍の役割は『J級ジャッククラス』を倒すこと。すなわち、前衛が心置きなく大物を倒すための邪魔者の排除。

 これは凛夏と千世も同じ役割だ。

 彼らのおかげで『K級キングクラス』の【魔性の大蛇(Venom)】の【HP】は順調に削られている。

 このままなら時間内に倒せそうだ。

 これで十伍の心配事は『一つ』消えた。

 彼は最初からずっと周囲に目を光らせている。

 『不断の輪』が戦っている全体をくまなく。

 

 モンスターとは『別の脅威』からギルドの仲間を守るために。


 十伍がこのギルドに加わったのは約一週間前のことだ。

 だから彼は『新入り』なのである。

 このギルド『不断の輪』の行動拠点は、世田谷区で渋谷区よりに当たる所だ。

 モンスターのレベルは千代田区を中心として外側に行くにつれて、下がっていく傾向がある。それは大きくても『10』の差なのだが、やはり二十三区の中心ではレベルの高いプレイヤーが集まっている。

 十伍は以前、渋谷区で行動していたので、そこより中心から離れる世田谷区で行動していた『不断の輪』のメンバーよりもレベルが少しだけ高い。

 そんな彼が前線に出ない理由は、彼の扱える武器にある。

 『Reality Cyber Space』で数少ない銃を扱えるプレイヤーは、ギルド内には凛夏もいるが、一人ではバランスが悪い。

 敵は地上だけではなく上空にもおり、それらを打ち落とすのが十伍の役割だ。

 空の敵は、近接武器を使う五人のメンバーには分が悪い。

 ゆえに十伍は後衛を任されている。

「お、倒したか」

 前衛で戦っていたメンバーが『K級キングクラス』の【魔性の大蛇(Venom)】を倒した。

 それと同時にあるアイテムがドロップする。

 【結晶クリスタル】。

 この『Reality Cyber Space』から脱出するために必要なアイテム。

 『K級キングクラス』級を倒した時には必ず出現し、『Q級クイーンクラス』や『J級ジャッククラス』を倒した時に出現する【結晶クリスタル】より良質なものが得られる。

 これで今回の【RAID TIME】の成果はいいだろう、と十伍は判断する。

 成果は。


〔【RAID TIME】終了まであと 00:45〕


 『K級キングクラス』を倒したからといって『J級ジャッククラス』がいなくなるわけではない。

 【RAID TIME】終了までギルドのメンバーは残党処理に取り掛かっている。

 十伍もそうしていた。

 ただこのエリア全体への警戒の目は決して怠らなかった。

 近頃、よくないうわさを十伍は武蔵から聞かされていた。

 そして任されていた。もう一つの役割を。


「――――――ッ!」


 十伍は突然相手をしていたモンスターをほったらかしにして、別のものへと向かっていく。

だが彼が向かっている先にいるものは十伍に気付いたらしく瞬時に逃げ出す。

「【追い風(Accelerate)】!」

 彼の持つ『一時的に動きを加速する』効果のスキルを発動する。

 これはシステムのアシストによって自身の限界よりも早く動けるようになる。


《どうしたんや?》


 【デバイス】から凛夏の声がしたが十伍はそんなことに構ってなどいられない。

(間に合えッ――――――!)

 ただここで逃すわけにはいかなかった。


 影から銃を構えていたプレイヤーを。


 モンスターは十伍を攻撃しようとするが、彼は見向きもせずに避けていく。

 システムアシストの力を借りてもなお、もっと早く、早くと出せる限界の速さで道路の上を駆け抜ける。

 だが、間に合わなかった。


〔【RAID TIME】終了〕


 『Reality Cyber Space』のスキル、すなわち【PSIサイ】は【RAID TIME】で使用が可能になる。

 また【武器ウェポン】も同じ。

 【RAID TIME】が終わってしまった今、彼の走る速度は通常に戻っていた。

 しかしそれでも彼は諦めない。

 人《NPC》が建物から続々と出てくる。

 彼らが今まで戦っていたところは車道の上。

 すぐにここには自動車が行きかうようになる。

 この世界は『ゲーム』という仮想にすぎないが、感覚は実際のものと同じになってしまう。

 それは『痛み』も含まれる。

 もし車が走ってきてぶつかれば、それは現実世界で起こったのと同じ衝撃を受けるということだ。

 どうなるかはもう言うまでもない。

 逃走者も十伍も歩道に移動した。

 だが歩道には人《NPC》もいるため障害物が彼の追跡を妨害してくる。

「邪魔だ!」

 逃走者はもう十伍の視界から消えていた。

 十伍は息を荒くして建物の壁にもたれかかる。

 悔しさと怒りを込めた拳を地面に叩きつける。血は出ないが痛みは伝わっていく。

「クソッ……!」

 自分を咎めるように何度も拳を叩きつける。


《十伍。今どこにいる?》


 同じギルドのメンバーからだ。


《どないした? 急に【PSIサイ】まで使うて走り出しよって》

《十伍君?》

《おい、新入り! 何か返事しなさいよ!》

《おーい。何か言えよー》

《どうかしましたか?》


 各メンバーが十伍を心配している声が【デバイス】から聞こえてくる。

 十伍は痛みがまだ残っている手で【デバイス】の通信ボタンを押す。


《ああ、ちょっと。『Q級クイーンクラス』を遠くに見たんで、最後に倒そうかと思って。先に帰ってもらっていても構わない》


 それだけ言って十伍の腕はだらりと地面についた。


《なんだ。勝手な行動しないでよ、新入り》

《楓ちゃんは人のこと言えないよ?》

《じゃあこれで解散でしょうか》

《そうやね。【武器ウェポン】のメンテいる人おる?》

《俺の頼もうかな》

《うむ。じゃあこれで今回は解散だ。お前らは先に帰ってくれ、俺は十伍のところまで行ってくる》


 そこで通信は終わった。

 十伍はただそれを聞いているだけだった。いや、聞いていたのかも定かではない。

 自分の失敗がこれから先に何かを引き起こすかもしれない。

 絶対ではない。

 だが可能性があるというだけで彼は恐怖した。


《十伍》


 これはプレイヤーとの間での個別通信だ。

 【デバイス】の通信機能は二種類ある。

 通話かメール。

 そしてさらに通話は、あらかじめ設定したグループで会話するものと、直接特定の個人を選択して会話する、二つに分かれる。


《まずどこにいるかを教えてくれ。何があったかは察しがつく》

《……ああ》

《んー、大丈夫だ。安心しろ。お前は『役割』をちゃんと果たしたじゃないか。これからの対策のために少し話し合おう。だから、な》

《わかりました。武蔵さんの方へ行きます。さっきの近くでいいですか?》

《ああ待っている。だからちゃんと来いよ》


 十伍はゆっくりと立ち上がる。

 人《NPC》は彼に目も向けない。ただ背景を作るために前を向いて歩いている。

 今の彼よりも。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ