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Reality Cyber Space――《リアリティ・サイバー・スペース》――  作者: 月草
Stage2――They are sleeping under "here".――
35/35

ⅩⅡベツノスガタ【What is here?】

―――6/9_12:50―――


 カン、コン、と降りる度に、このどこまで続いているのか予想もできない長い階段に音が響き渡る。

 外壁は相変わらずのコンクリート製。今まで通ってきたところと違う点を上げれば、下水が流れておらず、常時明かりが灯っているということくらい。

 階段は一切曲線を描かないでひたすら一直線に伸びている。


「マップはどうなってるの?」

「さっきとは別の階の扱いになっているよ」


 楓が千世の【デバイス】を覗く。表示されていたのは一度通った道を記録して自分たちの足で作っていくマップ。下水道の迷宮だった階層を描いた地図とは異なり、また別の新しい白紙に戻った地図が表れていた。ホログラム表示に切り替えると立体的な地図になって平面から道が一本だけ下に伸びる。これが今、彼らの歩いている階段だ。


「戻る時に大変だな、こんなの」

「さすがに地上まで戻る手段が欲しいですね」

「おい、ようやく見えたぞ」


 コンクリートではなく鉄など金属性の材質をした扉。それだけが空間に溶け込めていない気がした。

 武蔵が「準備はできたか?」と他六人とアイコンタクトを交わす。確認を終えて扉を引き追いよく開け放つ。


 世界が変わった。


 それが十伍の抱いた第一の感想である。

 目が周囲の風景を目で見渡したいという衝動は抑えられない。


「こりゃ、噂にあったとおりやったな」


 一言で説明すればSFの世界に入り込んだ感覚。何かの宇宙船の中にでも迷い込んでしまったような錯覚に陥る。

 扉の先にあった一つの空間は放射状に三つの新たな扉。こちらは横開きではない、というよりもそもそも手動ではなく自動で開きそうな雰囲気を醸す。それぞれの扉(自動ドア?)の上部には逆三角形の赤い光が点滅している。ここへ入れという意味であろう。


「ますます訳がわからなくなってきわ……」

「でもなんかでもカッコよくね?! 十伍、お前もそう思うだろ?」

「ああ、なんかくすぐられる」

「千世にはよくわからなよ?」

「それは千世が女の子だからなのよ。男ってこういうの好きよね。あとロボットとかそういう感じの」

「私は女やけどわかるわぁ」

「この先にあの機械仕掛けの怪物がいても何らおかしくはなくなったな」

「武蔵さん、どうします? 行きますか?」

「行こうぜ、おっさん!」

「晃輝とは思ってることは違うけど、私も先に行きたいわ」

「千世もまだ頑張れるよ」

「俺は皆に任せる」

「弾の残量はまだあるでー」

「私も、もう少し行けます」

「それじゃあ、皆でどれに進むか指差すぞ。せーのっ!」


 七人の指差した先はど真ん中。

 決まりだ。

 自動扉の前に立つと勝手に「ウィン」と横へ自動扉が開く。先の道はベルトコンベアーになっていてその上に立つだけで体が運ばれていく。


「何この快適さ」

「こんな場所にモンスターがいるんでしょうかねぇ……」


 周囲が余りにも機械化されすぎていて生物のいる気配が感じられない。完全に危機感が抜け落ちていた。

 ベルトコンベアーで運ばれること一分弱。また自動扉が前方に見えて開くとそこへこうりだされる。そして新たな四角い広間へと辿りついた。

 高い天井に取り付けられた白熱球が室内を照らしていて、壁際には何本ものコードが張り巡らされている。特徴的なのは十伍たちと同じ高さにあれば、手の届くはずもないところにもある閉められたシャッター。

 彼らが足を踏み入れて数秒も経たないうちにどこに設置されているのか不明なスピーカーから耳障りな警報音。パトカーや救急車などにあるような赤い回転灯が赤い光を放って回り出す。

 ざっと『不断の輪』の七人は侵入者という扱いだろうか。

 彼らの侵入を阻むためのセキュリティが作動した。シャッターが上げられると彼らを迎撃するための刺客が送られる。


「『合成獣キメラ』の後は『機械化動物サイボーグ』かい」


 改造を施された猟犬の登場だった。

 地上では一般的なモンスターに【暴食な狗(Gluttony)】がいる。そのモンスターの足や腹部に鎧をつけたみたいな姿。

 また空中からは黒翼を羽ばたかせて【餌食み狙う烏(Hungry)】が飛来する。こちらも地上では一般的な飛行するモンスターの一体。嘴と翼などに装甲をつけている。


「こいつら素早いぞ!」

「強化版ってことでしょ! いいじゃない! 手応えがあって!」

「十伍! 私らは上の敵を打ち落とすぞ!」

「はい!」


 合成獣キメラモンスターに比べれば一個体の能力値はまだまだ低い。

 だが逃げ場のない部屋の中で、強化された雑魚モンスターでもぞろぞろとあらゆる方面から襲い掛かって来るのであれば、次々に倒していかなければ完全に敵に囲まれる。

 しかもこれが七人で捌ききれる量なのかもわからない。前衛後衛のポジション分けをしている余裕はない。自分の身は自分で守り、かつ自分に来たモンスターを倒さず逃せば、他の仲間へと向かわせてしまうことになる。

 特に空中は十伍と凛夏の二人で倒していく必要がある。手を休めず軽機関銃ライトマシンガンで銃弾をばら撒き続ける。

 敵の正式名称は【Cサイバネティック暴食な狗(Gluttony)】と【Cサイバネティック餌食み狙う烏(Hungry)】というどちらも『Cサイバネティック』の頭文字を冠する。


「ったく、切りがねぇ……」

「男がへばってんじゃないわよ!」

「へばってなんかねぇ! よっしゃ、おらららららあららぁ!」


 楓の一言でスイッチが入った晃輝が大検を振り回して敵の装甲をどんどん破壊していく。

 単純な奴だな、と十伍は心の中で思ったが彼のおかげで助かっているのも事実。

 他のメンバーも気合を入れなおして敵の殲滅を続ける。

 広間を埋めていたモンスターの数が急激に減少を始めた。シャッターから出てくるモンスターが底を突いたのだ。


「これが最後の一体!」


 残った【Cサイバネティック暴食な狗(Gluttony)】を晃輝が正面から切り伏せる。

 全部のモンスターを倒し終えると回転灯の赤い光から通常の白色光に戻った。

 同時に鎖されていた奥の自動扉の鍵が解除された。


「さあ、まだまだ行くぞ!」


 その後も同じように部屋に閉じ込められて、敵の襲撃を受けるというパターンが三回続く。一部屋をクリアすればまた分かれ道。同じ風景の繰り返しだが敵だけは例外。モンスターの種類は増加し、強さも着実に増している。

 『不断の輪』の面々にも勢いの衰えが見え始めた。

 【RAID TIME】は三十分間で終了する。

 彼らがこの『ダンジョン』に潜り込んでから一時間は経過していた。つまり普段の二倍の時間、彼らは戦い続けていた。

 四つ目の部屋をクリアした時には皆の口数は減っていた。それは【HP】というシステム的な問題ではなくて、もっと人間的な疲労の問題。


「ごめんなさい、私、そろそろきつくなってきました」

「ごめん、千世も」


 千世と紗綾はもう限界に近かった。

 こういう状況になることは前々から見えていた。周りの流れを読んでずっと気を遣っていたのかもしれない。

 少しばかりは疲れを見せる楓や晃輝たちはまだこのまま戦闘できるのだが、二人の気持ちを理解しているから今回の捜索はここで断念しても文句はなかった。

 だがしかし。


「どうやって出たものかな」


 ベルトコンベアーは一方通行に動く。その動きに逆らって進めばいいと思うかもしれないが、部屋を出たときに自動扉だけでなく鍵も閉められてしまっていて引き戻せなくなっていた。

 ある地点まで進むと途中で引き返せるチェックポイントみたいなのがあるはずだ。

 それを信じて突き進んできた。

 初めから用意されていなかったとしたら、こんなの無理ゲーだ、と罵倒しても誰も反論を言うまい。

 不安に包まれながら次の部屋への自動扉を通る。

 彼らは武器を構えたがその必要は無かった。ここは彼らが待ち望んでいた部屋であったから。

警報音は鳴らない。

 モンスターが出てきそうなシャッターも見当たらない。

 事実、モンスターが襲ってきた部屋よりも狭かった。

 あったものは主に二つ。

 一つはエレベータ。

 もう一つは上下方向に長い円柱に淡い緑光が包み込む謎の装置。その装置の傍にはボタンやらレバーやらが設置されている。

 穏やかな趣の空間。自分たちの足音以外にするのは装置から出る「ピピピ」という音ぐらい。

 警戒を解いた七人は部屋一帯を歩き回る。


「みんなー、こいつで帰れるみたいやでぇ」


 凛夏の言う『こいつ』とは謎の装置のこと。彼女が適当にボタンを押したりしていると解説文が液晶画面に流れ始める。


【――ココハ帰還可能地点ワープポイント/コノ装置ヲ作動サセルコトデ地上二転送ガ可能/稼動条件ハ『RPリターンポイント』ヲ消費スルコト、以上――】


「【RPリターンポイント】を消費?!」

「ただでは返してくれないようですね」


RPリターンポイント】は【結晶クリスタル】というアイテムの変換によって得られる。その【結晶クリスタル】を集めることこそが『Reality Cyber Space』のプレイヤーたちに課せられた脱出条件であり、モンスターと戦う目的そのもの。

 だから【RPリターンポイント】を消費すればこの世界からの脱出まで、また遠ざかってしまう。


「まあ、うまくできとるなあ。私らがここまで来るのにかなりのモンスター倒して、合成獣キメラからもどでかい【結晶クリスタル】が出よったのに。どうりで効率よく集められ取ったわけやな」

「七人分の転送となると今回集めた七割がた使うのか」

「とりあえず利益は出るようにはなっているのな」

「何を言っても仕方がないって。払ってでも俺たちは帰らないと」

「そうだな、こいつで帰るとしよう」


【――RPリターンポイント変換方法/一、コノ装置ノ接続ケーブルヲ個別端末と接続/二、準備完了ボタンヲ押ス/三、光ヲ照射スル転送範囲ニ移動/『RPリターンポイント』変換ヨリ一分後ニ転送ヲ開始スル】


 彼らは装置から垂れ下がっている十数本の接続ケーブルの中から一本選んで【デバイス】の側部へ接続。すると【デバイス】の表示に【はい/いいえ】の選択肢が出るので『はい』をタッチ。一分を過ぎるまでに転送範囲にいなければ無駄となってしまうので早足で移動する。

 全員が緑色の光が照射されている範囲に立った。


【条件完了ヲ確認/転送スル『プレイヤーID』ヲ承認/コレヨリ一分後ニ転送ヲ開始】


「ねぇ、これってワープだよね?」

「そうだろ?」

「気になることがあるんだけど……」

「千世が気になるなら言ってみたら?」

「うん。これってどこにワープするの?」


 目の前が光で埋め尽くされたのと「あっ!」と不意を突かれた声をこぼしたのは同時だった。

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