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Reality Cyber Space――《リアリティ・サイバー・スペース》――  作者: 月草
Stage2――They are sleeping under "here".――
34/35

ⅩⅠチョウセン【By seven.】

―――6/9_12:20―――


 『ダンジョン』の入り口にて、十伍は若干泡を吹いて倒れていた。


「ほな、十伍行こかー」


 凛夏は【裁きを下す業火ヘル・パイロ・バレット】をアイテムウィンドウに収納。余りに重量がありすぎて取り出したまま持ち運びができないのだ。

 偶然にも十伍は凛夏の上半身裸姿を見てしまった事件は三時間前に遡る。

 その制裁がちょうど完了したところだった。

 なぜ十伍がそんな制裁を受けているのか、詳しい事情はもちろんギルドのメンバーには話されていない。

 とんでもなく凛夏を起こらせる何か。その何かを十伍がした、とだけ認識している。

 ギルドの他のメンバーは先に行かせてある。

 凛夏に置いていかれると気づいて十伍はふらりくらりと起き上がった。


「死ぬかと思いましたよ」

「ははは、死なせられんのが残念やなー」


 凛夏の笑顔は恐怖以外の何物でもない。十伍は二度と怒らせてはいけないと肝に銘じた。

 早歩きで進むと『不断の輪』と合流する。


「さっき十伍君の叫び声が後ろから響いてきたんだけど」

「ああ、心配してくれてありがとう、千世」

「凛夏ちゃん一体何したの?」

「ナイショや、ナイショ」


 後から晃輝がこっそりと「お前、何したんだよ」と尋ねてきたので、「凛夏さんの秘密(隠れ巨乳)を知ってしまった」と答えると、さらに訊いて来たので、「教えてもいいが、聞くと殺されるぞ」と釘を指すと黙りこくった。

 七人で出現するモンスターを次々と狩って行く。

 これだけいるとやや窮屈だった。しかし楽に進めるのは助かる。

 今回は回復役ヒーラーの紗綾がいるので、体力はほとんど減りが無い。『K級キングクラス』に一体遭遇したが、息のあった連携で難なく倒せた。

 本日使った入り口は前回、合成獣キメラに太刀打ちできずに逃げた際に一番近かった箇所。

 だからあっという間にその大広間に着いてしまった。

 緊張感が高まり、思わず唾を飲み込む。

 柚子たちは先に戦っているはず。そして負けることはないと思うので倒したはず。

 問題は合成獣キメラが再出現するモンスターであるか否か。


「もしいた場合は、あまり近づきすぎないのがいい。部屋の奥のほうにいるから逃げる時に困る。それに相手が首を伸ばしてくるのを待てばいい。待って避ける、その後、反撃」

「一応、情報とは違っとる場合も考慮やな」

「最初は十伍と私で行くわ。違っていたら一先ず退却の指示を出すから。他の皆はある程度後ろで待っていて」

「了解した、それで行こう」


 十伍と楓が大広間に足を踏み入れると一番近い照明が点灯。さらに足を進めるにつれて手前から奥へ順に点灯していく。

 二人とも剣を正面に構える。

 広間の奥の最後の明かりが灯り、巨大な甲羅が姿を現す。中からは気味の悪い音が聞こえ、七人は身を震わせる。


「来るぞ!」


 例の首が出てくるのを察知した十伍の掛け声で全員の身が引き締まる。

 戦いの火蓋は切って落とされた。

 暗闇をつくる甲羅の隙間から怪しい眼光が光る。

 直後、大蛇の頭が勢いよく飛び出してくると、上へと上昇し始めた。


「気をつけろ! 前からもだ!」


 五メートルの高さまで上がった蛇の頭に気を取られていてはいけない。

 そう十伍が警告すると、他のメンバーの視線が前にも向く。

 両脇から工事現場で解体作業を行う重機のごとき鋏、前方から長い舌を波打たせ上下の毒牙を顕にするもうひとつの頭。

 情報通り。

 ゆえにこのまま戦闘は続行。

 まず全員が正面から迫りくる頭部を回避し、すぐに上からの攻撃に備える。上からの二つの頭は晃輝と凛夏に狙いを定めた。

 二人とも横に飛んで避けると頭が横で通過する。


「【炎の裁断(Strike)】!」


 晃輝の燃え盛る大剣が太い首に一撃。彼の大剣ですら両断できないほど首は厚みがある。

 後方支援の凛夏はこの隙に反撃よりも距離を取ることを優先。彼女の防御のため千世もそちらへと走る。

 だが三対の頭だけではない。

 残り二つの大鋏は一方は楓を挟もうと、もう一方は武蔵を横に弾き飛ばそうとする。

 こちらは頭と違って体積が大きく避けにくいことは楓にとって既に承知済み。二枚の刃の間から逸れて、避けきれない部分は【花鳥風月かちょうふうげつ】を斜めに傾け、衝撃を剣で受け流す。


「おっさん!」


 あろうことか避けようとしない武蔵に十伍が叫ぶが、それは武蔵が避けるつもりが最初から無かったから。

 『特別製ユニークタイプ』である武蔵のハンマー【巨人の鉄槌(デモリッション)】を大きく後ろに振りかぶる。

 まさか、と十伍が思った瞬間に彼はそのまさかの行動に出た。


「うぉおおおおおおりゃああああああっ!」


 モンスターに劣らない咆哮を轟かせて巨大な鋏に巨大なハンマーで負けじと張り合い真っ向勝負。

 岩と岩が激突したような激しい音が大広間で反響する。

 弾き飛ばされたのは鋏側だった。

 進行方向を強制的に曲げられて打ち上がる。速度を失って落下してきたところに、もっと強い一発を捧げる。


「【大地の怒り(Eruption)】――ッ!」


 横殴りをしてきたことへ横殴りの仕返し。

 真横に飛行する鋏はコンクリート壁にひびを入れて止まった。

 『不断の輪』随一のパワーは伊達ではない。豪快なやり方は相変わらずである。


 楓、晃輝、武蔵が前方で頭と鋏の相手をする。

 彼らの背後から攻撃を襲おうとすれば凛夏と十伍による射撃で軌道を逸らす。

 【裁きを下す業火ヘル・パイロ・バレット】の重量のため身動きが取れない凛夏に直接向かって来れば、千世が自分の体ほどある盾で守り、唯一仲間の回復を行える紗綾も回復と防御を二つ担当。

 人数が二人増えた、というよりはチームとしての役割のバランスが良くなったことで、昨日に比べ合成獣キメラの『HP』をしっかりと削れている。

 『HP』が半分に差し掛かった頃、相手は頭と鋏を一旦甲羅の中に戻した。

 新しいパターン。

 警戒のため攻撃が止んだからと言って不用意に接近はしない。反対に距離を取って様子を窺う。

 甲羅の中から紫の煙が噴射された。

 予想では毒ガス。


「よし、後退するぞ!」


 武蔵のずぶとい大声でギルドが大広間の中間まで後退していく。

 毒ガスは天井まで瞬く間に拡散し、モンスターの姿が毒ガスの中に埋もれる。

 油断はできなかった。

 頭上から毒ガスの中を突き進んできた鋏が二つ突如出現。その二つともが剣士の二人に振り下ろされる。


「こんのっ!」

「重いっ!」


 ちょっとでも気を抜けば体の芯が折られる。

 たちまち苦々しく強張った表情に。

 十伍は彼らの元から鋏をどけようと連射。仕舞った【裁きを下す業火ヘル・パイロ・バレット】の代わりに凛夏も手持ちきる軽機関銃ライトマシンガンで援護。

 鋏がどかされるまで耐え抜いたが、今度は蛇の頭が毒ガスの中から三箇所飛び出す。

 今までと違うのは、毒ガスのせいでどの方向から襲ってくるのかわからない点。

 やや反応が遅れてしまうのは改善の余地無し。

 楓と晃輝が蛇の毒牙に侵される。

 彼らを毒状態から治療するのを最優先で紗綾が【PSIサイ】を使う。

 その間に残りの四人で攻撃を凌ぎ続けなければならない。

 毒ガスが消えるまで二分弱要した。

 合成獣キメラの『HP』は半分を切った。

 毒ガスが消えたこのチャンスを見計らって七人が前に出る。さっきと同じ要領で地道にダメージを与えていく。

 再び甲羅の中に引っ込めば、毒ガスが来るとわかるので後退。

 やがて四分の一を通り過ぎ、『HP』バーは赤色を示す。


「新しいパターンが来るかもしれない!」


 レッドゾーンに到達すれば最後の悪あがきと言うべきか奥の手を出してくるのがゲームでは一般的。

 案の定、予想はあったが彼らの想像を上回った。

 二つの鋏で背後の壁面を押して甲羅が滑り出したのだ。意外にもその速さは彼らの全速力よりも速かった。

 七人とも対応しきれずに弾き飛ばされて壁際に寄せられる。

 甲羅は壁にぶつかればホッケーのように跳ね返って再び襲ってきた。

 かなりの防御力を誇る甲羅には斬撃も銃弾も全く歯が立たない。甲羅が動きを停止し、首を出さなければ反撃をできない。それまでは徹底して逃げる。

 大きさもあればその分、飛ばされる衝撃も受けるダメージも多かった。

 回復の時間を与えてくれないため、七人の『HP』が半分ほど削られ表示されるバーは黄色になる。

 元の定位置に甲羅が戻るとようやく停止。


――これで決めるッ!


 七人とも同じことを思い、一斉に突撃。

 甲羅から伸ばした首元を集中攻撃し、遂に合成獣キメラが最後の悲鳴を上げた。

 首は全てぐったりと床にひれ伏して、暗黒をイメージさせる色のエフェクトを放ちながら、大きな【結晶クリスタル】を残して跡形も無く消滅した。



「「「「「「「終わったぁああああああああああああああああああああああ!」」」」」」」



 七人が歓喜の声を上げた。

 皆、とても清清しい気分であった。

 ギルドの皆が協力して大物を倒した時の達成感で胸がいっぱいになる。

(こんな気分を味わえるなんて。俺の選択は間違ってなかったな)

 十伍が周りを見渡せば笑顔で満ち溢れていた。

 いい雰囲気だった。

 楓と一緒に別行動を取っていた時はどこか罪悪感みたいなのがずっと胸中を渦巻いていたが、これを期に払拭された。


「慎重に行きたいところだが、皆が大丈夫ならまださらに先へ進もうと思う」


 武蔵は合成獣キメラが居座っていた方向を指差すと、そこには両開きの扉があった。

 柚子たちの所属する『氷晶のプレアデス』はとっくにこの先を進んだのだろう。

 一つの関門を突破した先に何があるのか、胸が躍るような気持ちに駆られる。

 七人の総意は「先へ進む」だった。

 十分に休憩、回復してから扉の前に並ぶ。

 リーダーである武蔵が彼の背丈の二倍もある扉を押し開けた。


 出迎えたのは、さらに下へと続く階段。


 『不断の輪』はさらなる奥へと足を踏み入れる。

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