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Reality Cyber Space――《リアリティ・サイバー・スペース》――  作者: 月草
Stage0――It is only just beginning.――
3/35

Ⅱシュウゲキ【Raid Time】

―――4/10_10:17―――


 影によって狼は顔から一刀両断されてしまった。

 出現したときと同じように、今度は弱々しい光のエフェクトを放って消滅する。この時、狼の上部に【暴食な狗(Gluttony)Lv.2】と表記されていた。このモンスターの名称。さらにそのすぐ近くにあった赤いバーが右から左へ短くなっていき、ついにはなくなっていた。

 十伍は腕をどけて、【暴食な狗(Gluttony)】を倒したその正体を見る。

 美しい栗色の髪。

 それは影が動くと共にたなびく。

 

「ちょっとアナタ、なにやってんの?! バカじゃないの?!」

 

 影は十伍じゅうごのほうを振り向いた。

 その正体は十伍と同い年ぐらいの一人の少女だった。

 整った顔立ち。眉を上げて詰め寄ってきた彼女の双眸は、十伍の顔を直視していた。

 十伍のほうは、突然の出来事による恐怖、モンスターからの難を逃れた安堵、少女に詰め寄られたことによる戸惑い。

 色んな感情やら、出来事やらで彼の頭はもう混乱の域を超えていた。

「アナタ! このッ……聞いてんのかっ?!」

 十伍は正気に戻る。

 いきなり現れた彼女に剣を顔の真横で振り下ろされたからである。剣が空気を切る音が耳のすぐ近くで聞こえた。

「おっ、おお、って誰だよ?」

「いいからさっさと剣を出せ!」

「剣?」

 十伍が彼女の言う剣を出す前に、他の【暴食な狗(Gluttony)】が襲い掛かってきた。

「チッ――――――」

 少女はそれを察すると十伍と反対側を向いて【暴食な狗(Gluttony)】に切りかかる。

 一撃目だけでは【暴食な狗(Gluttony)】は消滅しなかった。だが【暴食な狗(Gluttony)】へとすぐさま次の斬撃が襲う。

 二撃目。

 さらに三撃目。

 少女は三連続切りを十伍の前でイリュージョンのごとく見せ付けた。

 剣は鞘が無いために切った後手に持ったままである。

「ってまだ剣出してないの?!」

 また十伍のほうを見て驚いたようにそう言った。

「けっ、剣?」

「……まさかマニュアル見てないの?」

 マニュアル。

 はて、それはいかなるものか? と十伍はそんな表情をしていた。

「ちょっと、アナタもあの音声ガイダンスを聞いたんでしょ? まあいいわ。私も意味不明な世界で意味不明なモンスターの相手しながら、いちいち一緒に操作説明するわけにもいかないわ。だから今から私の言う事にしたがって、その腕に引っ付いている白っぽい機械を操作してよ。余裕無いんだから、しっかり付いてきなさいよ。いい?」

「わ、わかった」

「まずその時計の横にあるスイッチを押す」

 十伍は慌てて少女の言うとおりにスイッチを押した。

(こんなのついてたんだ)

 押した後、ウィンドウが出現する。

 他の『VRMMO』でもよくみるアイテムウィンドウだ。ホログラムで出現したそれはタッチパネル式になっていて、指で押したり、スライドさせたりすることで操作できる。

 少女の言う事に従って操作していく。

 まずアイテム、【武器ウェポン】と表記されたところからたった一つだけ【(Sword)】と書かれたアイテムがあり、それを選択して自分に装備させる。

「これか」

 少女の持っている剣と同じものだった。ゲームの中で初期装備にされている何の装飾もされていない、刃と柄があるだけの剣。

(こんなのでこの人は戦っているのか)

 彼女は十伍の前で、近寄ってくる敵を華麗な剣裁きで切り裂いていく。

 十伍の予想では【(Sword)】はおそらくこの世界で最弱の武器。

 だがそれでも敵をなぎ払う彼女は、武器の力ではなく彼女自身の強さが反映しているということだ。そんな剣を慣れたように自身の体の一部のごとく扱っている彼女は大声で十伍に指示を出し続ける。

 次はスキルウィンドウ。

 指示に従っていくと【PSIサイ】と書かれたウィンドウにたどり着く。

 いちいちどんなものかを説明文を読んでいる暇は無い。

 今も少女が孤軍奮闘しているというのだから、今すぐにでも加勢したかった。

 選んだのは【強化(Boost)】というスキル。

 これもどういうスキルなのかもさっぱりわからないまま、説明文も読まずに発動させる。

「なにこれ?!」

 スキル発動後、十伍の体を白い光が膜のように包んだ。

「それでアナタは肉体強化された状態になった! だから攻撃をくらっても少しの痛みで済むようになる!」

 彼女は十伍に出した指示を全てこなしたことを横目で確認する。

 十伍はさきほどとどこに変化があるのかはわからない。

 少女が言うことには、痛みが和らぐ。

(痛みが和らぐ?)

 『VRMMO』は『VR機器』の性質を最大限に利用するために、見せるだけでなく感じさせることにも重点を置いた。脳へとゲームの中で起こった様々な感触を、電気信号として脳に送り込むことで、あたかも実際に自分がそこで本当に触ったという感覚を得ることができる。

 『痛み』も例外ではないが、それはあくまでもちょっとした感触にすぎない。法律で既に規定値を設定されており、『DREAM』の使用上の安全を確保している。

 変なことを言う少女だが、戦闘準備を整えた十伍もすぐに加勢する。

 少女に背後から襲いかかろうとしていた猿モドキ―――【激昂する申(Wrath)】に剣を突き刺す。

(一撃じゃ倒せないのかっ!)

 そうすぐに察知した十伍は剣を慌てて【激昂する申(Wrath)】から抜いた。他のゲームに比べて刺した感覚がリアルだった。

だがそんなことを気にしている場合じゃない。

 今も【激昂する申(Wrath)】の反撃は始まっていた。

 横殴りの攻撃が十伍に当たる。

「ぐっ……」

 二撃目を猿に食らわす。

 【激昂する申(Wrath)】の上部にバーが表示されている。

(まだ半分かよ!)

 合計四回で猿はようやく光を放って消滅した。

 その後も少女と共に近寄ってくるモンスターを倒していった。だがいくら倒してもどこからやってくるのか別の場所から新たにやってくる。

「はぁはぁ……」

「気付いた?」

 十伍と背中合わせになった少女は周囲をうろうろしている敵に警戒しながら、話しかける。

「何が?」

「それ本気? それだけ疲れたようならわかって当然だと思うけどさ。このゲームって――――――」

 少女は馬鹿馬鹿しいようなことを何のためらいもなく告げる。それが本当ならばこれが、このゲームが、この世界が、一大事なものとなってしまう。


「――――――デスゲームじゃない?」


 十伍は「は?」と当然のような反応をした。

 だが少女は真剣の声色で話し続ける。この事態の深刻さを十伍に知らせるために。

「アナタはマニュアル読んでなかったのよね?」

「ああ、そんなの知らねー」

「じゃあ、アナタはどこのゲームからやってきたの?」

 これこそ変な質問だろう。

 まるで外国人に対して「どこの国からやってきたの?」と聞いているような質問。オンラインゲームにおいて出身地を訊くならまだわかるが、どこのゲームから来たのかという質問自体が矛盾してくる。

 なぜならどこのゲームと訊かれたら、答えなど最初からなく、無理やり答えるとしたら「ここ」としか答えようがないからだ。

「『Middle Age Online』だけど」

「私は『Kingdom Match Online』よ。アナタもここに飛ばされて来たんでしょ?」

 それでも答えることができた。だからこそこれが異常な事態なのだ。

 彼女も十伍とまったく同じだった。

 他のゲームをしていたはずなのに、いきなりこの世界に飛ばされてきていた。

「ゴメン、どうやらまだ話すには余裕ないっぽいわ」

「そうだな」

 モンスターは待ってくれと言っても通じる相手ではない。ただの獣。

 十伍と少女は【(Sword)】を振りかざして、獣たちに立ち向かっていく。

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