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Reality Cyber Space――《リアリティ・サイバー・スペース》――  作者: 月草
Stage2――They are sleeping under "here".――
28/35

Ⅴウワサ【What lies ahead of truth is ...】

―――6/2_20:50―――


 太陽は当の前に沈んだ。

 たった今、本日三度目の【RAID TIME】が終了した。

 夜は『不断の輪』のメンバーが全員マンションにいることがほとんどなので夜の【RAID TIME】は基本ギルドで対応している。暗い中での戦闘はモンスターの側の方が圧倒的に有利に働くから。


「やっぱり凛夏の『ヘルちゃん』凄いわね」

「せやろ、せやろ」

「私の【花鳥風月かちょうふうげつ】は見た目の美しさでは勝っているけど迫力では負けるわ」

「迫力がうちの方が上なのは納得やけど、見た目だっていいねんで。このごっつい黒さが惚れるねん」


 楓と凛夏が自分の相棒ウェポンの自慢話をまた繰り広げている。

 十伍と晃輝はそれを遠めに見ていた。


「あの『特別製ユニークタイプ』手に入れてから、凛夏さん、前より可愛くなってない?」

「そんな気はするけど、恐さもあるよな。というか晃輝は楓一筋じゃなかったのか? 凛夏さんにも気があるの?」

「んなわけない! 俺は楓が――――――」


「私のこと呼んだー?」


「い、いやなんでもないぞ、楓! こっから小声で頼む。で、十伍、俺の気持ちは変わってない……。あと一つ聞いてもいいか?」

「なんだ?」

「今日、午前中から出かけてたみたいだが、まさか楓と一緒だったりしないよな」

「あぁ、違う。昨夜話した前の仲間んとこ行って来た。そいつのギルメン、中々だったぞ」

「ん? それは可愛いさ、ということか? それとも強さか?」

「両方」

「ほぉー、……って話を逸らすなよ。楓とは一緒じゃなかったんだな?」

「違う。あ、でも帰り際に楓らしき人物を見たな」

「それどこで?」

「俺たちの住むマンションよりかなり離れてるぞ。学校をもっと東に向かったところかな」

「誰かと一緒にいたか?」

「いや、一人だ」


 十伍の話を聞いて何かを考え込む晃輝。


「なあ、お前は最近、楓の行動が気になったりしないか?」

「気にしすぎだろ。楓がどこで何してようと勝手じゃないか?」


 とは言ってみたものの、十伍も少し引っ掛かる事柄を思い出してしまった。


「そういえば金曜日、千世が楓と一緒に帰らなかったな。何か部活でも始めたのか?」

「俺が帰るときにはもう楓は学校にいなかったはずだ」

「となると、学校帰りにどこかへ行っていた……」

「ねぇ、さっきから二人とも何コソコソ話してるの?」

「うぉ、なんでもない。楓には関係ない」

「『関係ない』って、なに?」

「男同士の話だよ」

「なにそれ、うわ……キモい」

「何を想像したんだよ、楓」

「え、だって、その……そういう会話じゃないの?」

「安心してくれ楓! エロい会話ではないからな!」

「そ、そんなこと思ってないわよ! 微塵も思ってなかったんだからっ! バカ晃輝ぃ!」


 楓は足早にマンションへと戻っていく。

 男二人はそれを無言で見送った。


「バカって言われた……」

「そこまで落ち込むことはないだろ……」

「それで提案なんだけど、明日、楓が出かけたら俺たちで後を追ってみないか?」

「さすがに引くぞストーカー」

「うっ……で、でも十伍だって気になるだろ? な、そうだろ?!」


 しつこく誘ってくる晃輝が余りにも鬱陶しかったため、十伍はつい『一緒に行く』と返事をしてしまった。



〔09:23〕



 翌日。

 十伍は何回も鳴らされているインターホンの音に起こされた。

 寝間着のまま戸を開けるとそこにいたのは、予想がはずれるわけもなく、晃輝であった。


「楓が出かけた!」


 晃輝に引っ張られる形で無理やり連れ出される。九時過ぎまで寝ていた十伍ではあるが、あんな起こされ方をされては、不機嫌なのは当然である。

 現在、楓を尾行中。

 距離は十メートルほど離れながらマンションから跡を着けて来た。

 楓に見つかったときのことが嫌で、彼女の行き先が気になるとしても正直今すぐ帰りたかった。『奇遇だねー』などで誤魔化せる筈もない。


「お、曲がったぞ。行くぞ、十伍」

「はいはい」


 いつかはばれる、その考えが現実になるのはそれほど遅くはなかった。そのきっかけを作ったのは【RAID TIME】だ。

 これで戦闘をせざるを得ない。そうなれば隠れてなどいられない。いや、そもそも晃輝が楓の援護に行こうとしたのが原因か。


「楓、援護するぜ!」

「なんでいるのよ?!」

「あ、」

「バカだな、本当に……。まー、こうなったら仕方がないか」

「十伍もいるの?!」


 三十分が経過して【RAID TIME】が終了する。

 もちろんそれと同時に楓の尋問が開始した。


「あんたら、私の跡をつけて来たの?」

「え? 違うって、こんなところで会うなんて奇遇だなー」

「ストーカーとか悪い趣味してるわね」

「発案者は晃輝な」

「おい、十伍! 俺を裏切るのか?!」

「二人とも同罪よ」

「それで楓はこんなところで何をしているんだ?」

「あっさり開き直って話を逸らさないでくれる? まぁ、話してもいいか。ただの噂話だし」


 噂話。

 十伍も最近そんなものを聞いた。


「『ダンジョン』を探しているのよ」


「はぁ?」

「やっぱりか」

「でしょ、信じられないだろうと思うけど……、ん? 今、どっちか『やっぱり』とか言わなかった?」

「俺もその話は最近聞いた」

「俺は初耳だ!」

「ちょっと何で知っているのよ! 掲示板のほんと注目されていないような場所で見つけた噂なのよ! あんた、聞いたって言ったわね。誰からよ」

「前ギルド組んでた奴に……、目がコワいぞ、楓」

「ふーん、そう。まぁ、ならいっか」

「楓も当てもなく探っている感じか? 成果は?」

「……無いわ」

「さっきから俺、除け者にされている気がするんだけど」

「じゃあ、晃輝。『ダンジョン』がありそうな場所行ってみて」

「やっぱ、地下じゃない?」

「それは私もそんな感じはしてたわよ。でも世田谷区は地下鉄が通っていないの」

「それだったら下水道とかないんじゃない?」


 どの道行く当てが無いので、晃輝の予想に乗っかることに。

 十伍、楓、晃輝の三人で人が通れるほどの大きさの下水道へ降りる。ファンタジー風に言うならば城の内部に進入するための裏道、といった感じであろうか。


「本当に行くの?」


 十伍は楓の気持ちがわからなくもなかった。

 生活排水が流れ出るところに異臭あり。入り口で鼻をつくようなら、内部はもっと激しいことであろう。


「じゃあ俺と十伍だけで行ってこようか?」

「なぜ俺まで混ざっている……」

「うぅ……、二人とも行くなら私も行くわよ、もう。その代わりに何もなかったら、晃輝を一発殴る」

「俺はそれでいい」

「十伍は殴られないから当然だよな! オイ!」

「行くと決めたら、つべこべ言わず進む!」

「よっしゃ、行くぞ二人とも!」


 【デバイス】には照明機能も付いている。全く便利な物だと感心しながら【デバイス】を見ていると異変が起きたのに気づいたのは、下水道を入って一分経ったぐらいだ。

 画面がややノイズが走ったように歪んだ。『Reality Cyber Space』が開始してから毎日見ている【デバイス】だがこんなことは初めてだ。この世界でプレイヤーにとっての必須アイテムで、捨てることも譲渡することもできないのだから故障などあるはずがない。


「おい、一瞬【デバイス】の調子がおかしくならなかったか?」

「ちょっと十伍、恐いこと言わないでよ……」

「楓って幽霊とか苦手なタイプだったのか、意外だ。よっしゃ、どれどれ俺もちょっと見てみるかなー」


 そして信じられないことが起こってしまった。


「ねぇ、晃輝。それって、どういうこと?」

「おい、今は違う……はずよな。だってさっき起こったばっかりなんだぞ」

「あはは、わからねぇ。深いこと考えずに何も考えずにやったらできちまった」


 三人とも声が震えている。理解がまだ追いついていない。

 ありえない。

 そう彼らは皆、同じことを思ったに違いない。


 晃輝の手にあるものそれは――彼がいつも使う両手剣。


 【RAID TIME】は前回の発生から六時間は起こらないというルールがある。

 しかし、先ほどここへ来る途中で発生してから数分しか経っていない。

 また【武器ウェポン】を使用はできないが出現させることならできる例外もある。

 しかし、それは室内や店内に限られる。


「【炎の裁断(Strike)】」


 特定の詠唱により晃輝の剣が炎に覆われる。

 ここでは【PSIサイ】の使用も可能。


「武装制限が解除されている?」

「嘘……、それじゃあ、本当に」


 もう、これだけの条件が揃ってしまえば確証を持って言えるだろう。彼らが追っていたとある噂の真偽を。



「ああ、この先にあるんだ。『Reality Cyber Space』で今まで隠されていた『ダンジョン』が」


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