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Reality Cyber Space――《リアリティ・サイバー・スペース》――  作者: 月草
Stage2――They are sleeping under "here".――
27/35

Ⅳパーティ【Hero with three girls】

―――6/2_10:40―――


 週末。


「あれ? もう十時過ぎてる……」


 欠伸をしながら時刻を確認。

 深夜に【RAID TIME】が発生したために、こんな時間まで眠ってしまっていた。その時には凛夏が『ヘルちゃん』こと『特別製ユニークタイプ』の重機関銃の初投入ということだったのだが、奇声を放ちながら弾を撒き散らすという衝撃的な出来事があった。

 【RAID TIME】終了後、皆の凛夏に対する接し方が弱気になっていた。さしもの十伍も凛夏に恐怖を抱いたのだった。


「さて、どうするかな」


 週末というのは基本、暇を持て余している。一日中家で怠惰に過ごすということも少なくない。

 ふと思い立って【デバイス】を操作する。使用するのは通信機能。

 【デバイス】を装着した右手を耳元に持ってくると電話の接続中の音が聞こえる。


《もしもし?》


 相手は昨日、連絡先を交換した柚子。


「今日そっちの方行ってもいいか?」

《ん? いいけど。それならこっちのメンバー二人紹介する?》

「じゃあ、そういうことで」


 家を出て、柚子から聞いた駅の場所まで地下鉄を介して移動する。位置的には目黒区との教会に近い場所であった。

 駅のロータリーに出ると三人の女子の塊が。一人だけちんちくりんに見えたというのは口に出さないほうがいいな、と十伍は思った。


「よっ、十伍」

「どーも、『望月 十伍』です」

「んー、柚子の言うとおり、ちょっと気だるさが目立つかなー」

「……」


 柚子のギルドメンバーだという二人の女子は、一人は背が高くスラリとした人、もう一人は十伍のほうを見ているが口を全く開いていない人。


「私の名前は『降旗こうはた 由希ゆき』ね、名前で呼んでくれていいから。そんでもってこっちの無口な可愛い子は『古居ふるい 麗羽れいう』。この娘も名前で呼んじゃっていいから。あと基本言葉発しないから、表情から読み取って」

「はぁ……」


 十伍は麗羽と目を合わせてみる。

 瞼は半分閉じている。眉一つ動かさない。

 無言で無表情のにらめっこが続く。


「どうやって表情から読み取るんですか?」

「……」

「そのうち慣れるって!」


 麗羽は無言で頷いて、由希に便乗。


「これで紹介は済んだだろ? んじゃあ、そろそろ行こうか」

「どういうことだ? 柚子」

「ダンジョン探しだよ」

「昨日の言っていた、あれか」

「望月君も気にならない? 君、結構その噂が本当であってほしい、とか思ってそうだね。根っからゲーマーに見える。柚子から聞いたんだけど望月君は色々できるんだって?」

「いろいろ、んー、まぁ、剣と銃を両方使いますけど」

「こいつ何か極めることを知らねぇの。『Lv.MAX』にする前に諦めるタイプだよ」

「言い返せないな」

「【RAID TIME】にならないかなー。望月君の戦ってる姿見てみたーい。麗羽もそう思うよね?」

「……(頷く)」

「前回発生が午前二時過ぎか。もう六時間経っているし、見られるかも。十伍は期待に応えてやれよ。私もちょっと楽しみにしてんだからさ」

「そんな変わってねーよ。ちょっと『特別製ユニークタイプ』が欲しいとか思っているんだけど」

「わかるわかるー、この柚子チンチクリンのくせに『特別製ユニークタイプ』持ってるとか生意気よねー」

「由希、チンチクリン言うな! 麗羽も笑うな!」


 笑う? 十伍は麗羽の顔を見るがさっきと何が違うのかわからない。だがこのギルドの間ではしっかり通じているようである。


「ほら、さっさと行くからな! 置いてくぞ!」

 

 人をからかうのが好きな柚子は、背の高い人にだけは敵わないのは今も変わらないようであった。


〔11:15〕


「あのー」

「どうかしたの? 望月君。え! もしかして見つけた?!」

「いえ、違いますけど……、あの、」

「さっきから『えー』だの『あのー』だの、はっきりさせろ。ハンパ野郎」

「……(十伍を見る)」

「ごめんね、柚子は口が悪くてー、って望月君は前から知ってるんだったね。何かしら?」


「当ては無いんですか」


「そこは『当てはあるんですか』だろうが、無いけどな」

「やっぱり無いのか! さっきから人通りの少ない道とか歩いているだけじゃないか!」

「暇とか言って連絡してきた奴が文句を言うな! 両手に花どころか、もう一人いるこんなハーレム状態なんだぞ! 贅沢言うな!」


 由希はスタイルが良くオシャレな女性に見え、麗羽は無口だが顔立ちも整っていて素直に可愛いと言ってもいい。

(それに対して柚子は……)


「おい、なんだその目は。あたしだって『レディ』だぞ! 繊細なんだぞ! 傷つくんだぞ!」

「はいはい、柚子も可愛いねー、よしよし」

「……(由希と一緒に柚子の頭を撫でる)」

「やめろぉ」


 そうこうしているうちに【RAID TIME】発生を予告する警報音が鳴る。三人が待ちかねた十伍のプレイスタイルを見る機会で、逆に十伍が『水晶のプレアデス』のメンバーの戦闘を見られる機会だ。

 四人は狭い路地から開けた場所を目指して走る。

「望月君のかっこいいとこ期待してるからね」

「……(親指をグッと立てる)」

「お、公園だ」

 走り抜けた先でため池があり木々で囲まれた大き目の公園に出た。

「さぁ、いっちょやりますか」


〔【RAID TIME】開始〕


 四人で『パーティ』設定をしてから 各自【武器ウェポン】を取り出して武装。続けて【強化(Boost)】を発動する。

 十伍は数ある中でメインの銃剣を選択。

 由希は片手剣と盾という千世と同じスタイル。

 麗羽は拳銃ハンドガン。十伍が見たところ回転式拳銃リボルバーである。

 そして柚子は『特別製ユニークタイプ』の二丁拳銃【双子の光華ジェミニ・シューター】。

ダークブルーのボディに銀のラメ塗装が施されている。現実では扱いづらい二丁拳銃だが、標的補正・自動装填に加えて連射型にも変更が効く。

「へぇ、それが望月君の銃剣かぁ。器用なのかな? よく使えるね」

「短い槍に銃を足した武器ですから」

「……(由希の肩をつつく)」

 

 麗羽は指をくいくいと何かを指差している。十伍は彼女が「あれ、あれ」と言っているような気がした。麗羽の考えがわかった気がしてちょっとした感動を覚えたが、そちらを見ると既にモンスターが出現していた。

 水辺には水辺に合ったモンスターが出現する。

 ウシガエルよりも遥かにでかい。現実ではありえない全身ぶつぶつの黄土色で、目がくりくり動いているどっしりとした蛙モンスター、【囂然たる声(Chorus)】。

 【断ち切り双刃(Claws)】と言う名称のザリガニモンスター。もちろんこちらも人の背丈を越えている。


「い、嫌……」

「え、ちょっ!」


 膝をがくがくさせている由希が剣を落とし、首を横に振る。彼女の手が十伍の腕をがっしりと掴んでしまったため、彼は銃剣を思うように振れない。


「だ、駄目なの。無理なの、生理的に! 見るのも嫌ぁ!」


 自分の持つ盾と十伍の体の影に隠れる。その間にため池からぞろぞろとモンスターが騎士に上がってきた。十伍はどうしていいかわからず、とりあえず柚子を見る。


「おい、女の子にキャーとか言われて引っ付かれて嬉しがってんじゃねぇ……」

「違うって、どうすればいいんだっ?!」

「……(自分の胸をトンと叩く)」

「任せておけってことか?」

「……(頷く)」

「麗羽、【PSIサイ】頼んだ」

「【PSIサイ】って音声認識スペリングじゃ……」


 音声認識で発動する『Reality Cyber Space』におけるスキル――【PSIサイ】を使うことはすなわち、声を出すこと。

(そういえばさっき【強化(Boost)】発動の時、聞き逃したってことか! 麗羽さん、しゃべっ――)


「――ぃ」


(声、小っ! 全く聞こえねぇ!)


 麗羽の口元は……開いている? まるで腹話術をする人の口のようだ。

 と、実際に彼女は引き金を引きリボルバーは回転している。銃弾の当たったモンスターの動きが止まった。彼女の【PSIサイ】の効果だろう。銃弾を次々とモンスターに命中させる。

(良い命中率だな、それに【PSIサイ】は麻痺系パラライズか?)

 動きの止まったモンスターへ今度は柚子が連弾を発砲。

 意外なことに弾丸が当たると単に身体に埋まるのではなく、硬いものが対象の時のように破片となって砕け散った。


「これが麗羽の【凍つる氷塊(Freezing)】。ただの麻痺パラライズじゃなくて『凍らせる』の方が、ニュアンスが近いかな? そこにあたしが弾丸を放つ」


 それを聞いて十伍は納得した。

 拳銃ハンドガンを使うプレイヤーで回転式リボルバーよりも自動式オートマチックを使う者の方が多い。十伍もこれだ。主に回転式リボルバーは連射の面で劣っているためである。だが的確な射撃には逆に勝るので、麗羽の【PSIサイ】を確実に決めるには適していると言える。実際のダメージは柚子が与えればいい。十伍はいい組み合わせだと思った。


「あの……、そろそろ離れてもらってもいいですかね」

「ゴメンね、ほんと駄目なの」

「水辺は私らでやっとくから、十伍と由希は外から来る奴ら頼んだよ!」

「ああ、了解! さあ、由希さん、行きましょう」

「うん、わかった。それなら大丈夫」


 落としてしまった剣を拾って由希が【激昂する申(Wrath)】へと向かう。彼女は敵の攻撃を盾で受け流し、隙ができたところへ斬撃を加える。千世と【武器ウェポン】の種別は同一だが戦闘スタイルは違う。千世は後衛の補助で防御メインであるが、由希は前衛を担当するタイプだ。

 負けてられない、と十伍は銃剣で後方支援にまわった。敵に接近されても近接戦闘に立ち回ればいいだけのこと。


「すごいね、望月君。ホントにマルチプレイヤーじゃん」

「由希さんも盾持っているのに軽やかな身のこなしです」


 ゲゴゲゴゲゴゲ。

 ゲゴゲゴゲゴゲゴゲゴゲゴゲゴゲゴ。

 ゲゴゲゴゲゴゲゴゲゴゲゴゲゴゲゴゲゴゲゴゲゴゲゴゲゴゲゴゲゴゲゴゲゴゲゴゲゴゲゴゲゴゲゴゲゴゲゴゲゴゲゴ。


「うるさい!」

「カエルの合唱?!」


 ため池から少し離れているのに十伍と由希の声が掻き消されるほどの騒音。耳障りなことから集中力が低下して、危うく敵の攻撃を受けそうになる。

 鳴き声は大きくなる一方で、ため池の方向に視線を移すと、柚子と麗羽が敵の追っ手を阻止しながらこちらへ逃げてくるのが見えた。

 柚子が何かを叫んでいるようだが口をパクパクさせているようにしか見えない。しかめっ面で耳を抑えながら頭を横に振っている。

 近くまで来て耳元で話す。


「無理だ、あんなの耐えられるか! ここから離れるぞ、頭がおかしくなる!」


 柚子の提案で公園から逃げることにしたのだが、そこを出ても【囂然たる声(Chorus)】はいなくても別の敵はいる。それらを倒しながら走っているうちに【RAID TIME】も終了した。


〔12:00〕


「あー、やけに疲れた」

「あの【囂然たる声(Chorus)】……手強いな」

「……(頷いて同意)」

「あれ、もう十二時だって」

「それじゃあどこかで昼食にしよ、動いたから余計に腹減った……気がする。仮想世界だからこの感覚が正しいのかよくわからん」

「……(お腹に手を当てている)」

「望月君はどうする? 私たちはこの後、ショッピングにでも行こうかと思うんだけど」


――ショッピング。


「いえ、遠慮しておきます」


 楓と渋谷区に一緒に行った時のことが思い返された。あの時、楓には別の目的があったのだとしてもその前に散々振り回された。

 女子三人ともなればどうなるか十伍には想像がつかなかった。


「そう、残念」

「昼だけでも一緒に食ってけ」

「……(そうして欲しいような目で見つめる)」

「それなら俺も行きますよ」


 その後、ファストフード店で先ほどの【RAID TIME】でお披露目となったお互いの戦闘などの話題で雑談した。


〔13:40〕


「結構、話してたんだな」


 おそらく一時間ぐらい滞在していたのではないだろうか。ギルド内のメンバー以外でプレイヤーと接する機会は中々ないので久しぶりに盛り上がった会話ができた。

 これから帰るか、寄り道するかを悩みながら歩いていると車道を挟んで反対側の前方、見覚えのある茶髪のロングへアーの後姿が。


「楓か? でも、こんなところで何しているんだ? それか人違いか」


 ちょっと追いかけてみることにする。とりあえず車道を渡るため信号機まで走ったが、赤信号で待たされているうちに見失ってしまった。

 そんなに気にすることでもないか、と十伍は真っ直ぐ帰宅することに決めた。


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