Ⅲドロップアイテム【Unique type】
―――6/1_16:40―――
「んじゃ、十伍。あたしは同じギルドの人らと帰るから。またな」
柚子とは教室で別れた。
元々十伍が住んでいる方を通る路線とは違う路線の電車通学らしい。
二年生の教室は一年生の教室とは別の館にある。昇降口を出ると他の校舎からも帰宅する生徒(NPC)がたくさんいた。その中に知った顔が混ざっていないか探すと、生徒(NPC)の影に隠れてしまっている千世がちらりと見えた。千世も十伍に気づいて、てくてくと歩み寄ってきた。
「十伍くんも帰るとこ?」
「まー、そうだな。晃輝は相変わらず部活だとして、楓はどうした?」
高校は教育だけでなく部活動に参加することもできる。例えば晃輝はバスケ部に所属している。練習相手は必然的に『NPC』になってしまうのだが、彼曰くそれなりの練習にはなっているそうだ。『VR技術』を用いたゲームで初期から存在したスポーツジャンルがある。徐々に改良が加えられ、ミニゲーム的なものから体を激しく動かす練習や試合も可能になった。『Reality Cyber Space』の運動系部活ではそれが採用されている。
「楓ちゃんは『先に帰って』って言ってた。何か用事でもあるのかな?」
「楓が部活始めるとは思えないしなぁ」
「部活よりモンスター倒していた方が楽しそうだしね」
「じゃあ二人で帰るか」
「うん」
〔17:16〕
十伍と千世は電車を降りて、駅から出る。
「へぇ、転校生が来たんだ」
「『冬初 柚子』とかいう結構生意気な奴なんだけどな」
「十伍君の昔のギルドメンバーかぁ。今度、紹介してね」
「いいけど、いじられないように気をつけた方がいいよ」
柚子のあの性格だ。背丈が自分よりも高くない千世であればより一層、いじりがいが出てしまうかも知れない。追い掛け回される千世が想像される。
突如、聞きなれてしまった警報が街中から、【デバイス】から鳴り響く。
〔【RAID TIME】開始まであと 04:56〕
「げ、今かよ」
「十伍君!」
「ああ、急いでおっさん達のところへ行こう!」
〔【RAID TIME】開始〕
「聞こえるか、おっさん」
《おおよ、帰宅途中か?》
「千世もいる」
《他の二人はどうした?》
「晃輝はまだ学校、楓はわからない」
《楓か……、一人で『K級』にさえ突っ込まなければ大丈夫だろう。とりあえず二人は合流するか?》
「一応、そのつもり。そっちに行くまであと五分はかかる」
《わかった。お前達が着くまでマンションの周辺にいるから》
通信を終えると【暴食な狗】が目の前まで迫っていた。彼に噛み付こうと大口を開け、鋭い犬歯を覗かせる。
「十伍君、ごめん! 一匹行った!」
慣れた手つきでアイテムウィンドを操作。右手に短剣を出現させて、【暴食な狗】の顎目掛けて下側から一閃。
【暴食な狗】の口は閉ざされ、後ろへ仰け反る。しかしすぐに体勢を立て直して後ろ足をバネに再び飛び掛る。
その時【暴食な狗】の前には黒光りする銃口が待ち構えていた。
上下二連式ショットガン。まさしく猟犬を狩るにふさわしい【武器】だ。二つの弾丸が【暴食な狗】の脳天に叩き込まれる。
そして彼は次の敵に銃口を向けようとした。
「……っ!」
嫌な予感がして振り返ってみれば【暴食な狗】はまだ消滅していなかった。咄嗟にとれた行動は持っている銃身で叩くので精一杯だった。
もう敵の【HP】は風前の灯だったらしく弱い一撃で黒紫色のエフェクトを発し消滅した。
「十伍君! なんか前より強くなってない?」
「あぁ、俺もそんな気がする!」
いつもならば倒せるはずの感覚ではモンスターが倒せなくなっていた。出現するモンスターの『Lv.』には多少のばらつきがあるのだが、今日は以前よりも一撃多く加えないと倒せないことがある。
今日は月初め。
「六月に入ったからか?」
「確か五月になった時もこんな感じだった気がするよ」
けれども強くなるのはモンスターだけではない。プレイヤーも日々、経験値を溜めて『Lv.』は上がっている。プレイヤーに比例するのは当然という気もする。
「楓ちゃん大丈夫かな?」
「心配いらない。これぐらいなら大丈夫だ」
十伍は楓の腕を認めている。彼女ならば中心部でもやっていけると前から思っていた。それにたまに思うことがあった。楓がどこか物足りなさを感じているような。
二人は敵を倒しつつ合流箇所へと近づいていく。
戦闘をしている人が遠くに見え始めた。さらに黒い毛並みの大きなモンスターが見える。
「あれ、『K級』クラスじゃない?」
「そうみたいだな」
《おう、来たか。十伍は後方支援、千世はいつもどおり頼むで私の後ろを頼んだ》
「了解」
「任せといて!」
《前衛が二人もいないと手際よく行きませんね》
《俺たち大人も子供たちに負けてられないな》
《私はどっちに入るんや?》
《子供だろ? まだ酒も飲めねぇ年は皆ガキだ》
やはり楓と晃輝が抜けた『不断の輪』の攻撃力低下は響いていた。
『K級』の【暴食な狗】は図体が大きいわりに動きが速い。俊敏な機転の利く前衛の欠席で確かな一撃を与えることがなかなかできず、倒した頃には【RAID TIME】も終わりかけだった。
残り時間は残党処理。
〔【RAID TIME】終了〕
「おつかれさん」
「おつかれさまです」
「皆、ご苦労さん。そうだ、そうだ。さっきの『K級』から【結晶】と一緒に【武器】がドロップしたんだ」
「どんなの? どんなの?」
「まぁ待て、ここじゃ取り出せない。俺の部屋に来てくれ」
武蔵はぴょんぴょん跳ねる千世の頭を抑える。
五人はその後、武蔵の部屋へ。
『Reality Cyber Space』のシナリオというまでもないが、舞台設定は銃刀法が存在する日本であり、例え仮想世界でも例外ではなかった。通常【STAND TIME】で【武器】をアイテムウィンドウから取り出すことはできない。そのため使用も不可能。
解禁されるのが【RAID TIME】であり、使用はできないがメンテナンスなどで出現させる場合は室内もしくは販売店などで可能である。
武蔵は床の上にドロップアイテムを出現させる。
「大きいですね」
「おっきぃ……」
「ほぅ、種別はヘ『重機関銃か、しかもこれ『特別製』か? おい、十伍。お前はデカイほうは使えんよな?」
「俺が使えるのは大きくてライフルとかで、持ったまま移動できる【武器】しか使わない」
「せやなぁ、うふふ」
凛夏はぺろりとなめずり目を輝かせている。いかにも『欲しい』と言っている目で武蔵を見る。珍しく子供っぽさが出ている。
「俺達の中で扱えるのは凛夏だけだからな。やるよ」
「うおっしゃぁいっ!」
「凛夏ちゃんうれしそう」
「えーっと、名前は【裁きを下す業火】ちゅうんか。じゃあ今日からおまえさんの名前は『ヘルちゃん』や」
すりすりと頬を鋼鉄のボディに擦り付ける。
【裁きを下す業火】――凛夏命名『ヘルちゃん』は『特別製』と呼ばれる種類の【武器】だ。
『Reality Cyber Space』内の武器には現実世界で存在する刀や銃が多いのだが、中には実在しないものもある。それが『特別製』と呼ばれる他の【武器】よりも強力であったり特殊効果を備えていたりする。楓が持つ片手剣【花鳥風月】、武蔵のハンマー【巨人の鉄槌】も『特別製』である。
「これでかなりの俺たちも戦力強化になるな」
「頼もしいですね」
「うぅ……早くこいつでぶっ放したいわ」
次の【RAID TIME】は終了後、六時間は発生しないため、次の【RAID TIME】が待ち遠しいのだ。
(『特別製』、俺も欲しいなぁ)
十伍はうらやましそうに凛夏を見ていた。
〔18:20〕
「そう簡単には見つからないか」
楓はため息をつく。何かを探していたらしいが、日が暮れてしまったので帰路につくことにする。
【RAID TIME】も起こってしまったため家でゆっくり休みたい。
(明日は休日だしちょっと離れたところにも行ってみようかな)




