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Reality Cyber Space――《リアリティ・サイバー・スペース》――  作者: 月草
Stage1――Things brought by guild are...――
23/35

ⅩⅧシンパン【Reconciliation】

―――5/6_5:40―――


【RAID TIME】が終了してから十分が経っている。

 モンスターは跡形も無く消え、(NPC)は何事も無かったかのように街中を歩き出す。この時間帯だとそろそろサラリーマンの通勤が忙しくなってくる頃か。それでもまだ日は低い位置にある。

 八人の男女、大人子供が公園に集まっていた。ここはギルド『不断の輪』のメンバーが住んでいるマンションの前のそれだ。

 集まっているといっても凛夏と晃輝はブランコに腰掛けたり、十伍はもう明かりの消えた電灯に瀬を預けたり、寄っている訳ではない。が、話の届く範囲には全員いた。

 その中心にいるのはベンチに座っている唯一『不断の輪』のメンバーではない者。

 皆が口を閉ざし俯いている中、やはり最初に武蔵が口を割った。

「一件落着したことだし、今夜は打ち上げだな!」

 返答は無い。

「だな!」

 またも返事は帰って来ない。

「しません?」

 とうとう誘いになった。

 武蔵はどうしたものかと頭をぽりぽりと掻く。

「俺は、」

 次に口を割ったのは紀蘭。だがどういう言葉を繋げていいか彼にはわからなかった。また黙りこくってしまい場は静寂に帰る。


「チッ」


 あからさまな舌打ちをしてから晃輝がブランコから飛び降りて一直線に歩き、紀蘭の前に立つ。そして彼の胸倉を掴みあげた。

「晃輝……」

「晃輝君……」

 楓と千世は止めようとしたのだろうが、足が一歩前に出ただけだった。それ以上彼女たちには何もできなかった。

「なんで……なんで、なんで、なんでなんだ!」

 掴みあげた紀蘭を晃輝はそのまま突き飛ばしベンチに叩きつける。紀蘭に抵抗の素振りは微塵も無かった。ただ胸倉を掴まれても力なくただされるがままに。

「お前らはこいつに言うことはねぇのかよ! この裏切り者に! お前も何とか言ってみろってんだよ! 紀蘭!」

 怒りを抑えきれなくなった晃輝の拳は紀蘭の眼前で阻まれた。

「おっさんも! なんで止めるんだよ! まさかこんなことしてもこいつを許すっていうのか! こいつをまだ仲間だと言うつもりなのか!」

 武蔵の答えは余りにも簡潔だった。

 そうだ、と。

 すぐに切り返されて、晃輝は怒りの矛先を一体どうすればいいのかわからずただ強くこぶしを握る。

「殴られることすら許さないときたか……、」

 晃輝に殴られなかった紀蘭のほうも途方に暮れているようだった。かつての仲間に手を掛けたという拭いきれない事実。そして自分にはその罪の意識を相手からの怒りを受け止めることで薄めることもできない。

「紀蘭君、一先ずあなたがこの状況を作り出したら理由を説明してあげたら?」

 母親のように優しく紗綾は語り掛ける。紀蘭はそれに頷く。

「理由は……単純なものだよ。単に、恐かった。そしてこの世界から一刻も早く抜け出したかった」

 入れ替わる形で『不断の輪』に入った十伍は、彼も仲間を傷つけた怒りが消えたわけではない。今にでもこの怒りを紀蘭へぶつけたかった。だがどうにか堪え、耳を傾け続ける。

「そんな理由でこんなことをしていいと思っているのか?!」

「俺のしたことは間違っている。それは……自覚している」

 この時、彼の言葉を十伍は真っ向から否定はしていなかった。恐らく彼も自分と同じくあの光景を目にしていたのだろうから。

「ちょっといいか」

 やはり入れ替わりで『不断の輪』のメンバーとなった十伍は紀蘭との新旧の関係に気まずさは隠しきれてはいない。やや逸らしたが紀蘭の目を見て話す。

「えっと、紀蘭さ……」

「『紀蘭』で、呼び捨てで構わないよ」

「紀蘭、君は……四月三十日に渋谷にいた、と聞いた。ということは見たんだよな、あの惨劇を」

 紀蘭は静かに頷く。

「俺は、あれから生き残れたのを奇跡だと思っている。下手したらとっくに死んでいた。あんな化け物が街中を動いて何から何までを破壊していくものを見せられて、こんな場所になんてもういたくなかった。もう本当に一刻も早く逃げ出したくなってしまったんだ。そしてその後出会ったのがあいつらだ。効率のいい【RPリターンポイント】の稼ぎ方を教わって、それで周りに流されるようにどんどん闇に落ちていくように……それからは、こんな形になってしまった。本当に何をして償えばいいかわからないっ!」

 十伍も思い出したくもない四月三十日の出来事。『K級キングクラス』など比ではない。考えられるはこの『Reality Cyber Space』におけるボス級モンスターの出現。

 あれで一体どれほどの犠牲者が出たのか想像もできない。

 まさしく、災厄。

「俺たちは掲示板でしか見ていないからな……。あの場にいなかった俺たちには理解できないのだろうな。紀蘭をここまで追いやってしまったものを」

 武蔵たちは掲示板に書かれた文章とわずかに貼られた画像から憶測するしかない。それに移っているのは破壊されたビル郡にあちこちで炎が上がっているものばかり。現場では冷静に撮影をする状況などではなかったのだ。

 事実、十伍のかつての仲間も――――――

「紀蘭のような奴が出てきてもおかしくは無いと、その場にいた俺はそう思う」

「確かに、俺たちは見てないけどよ、だからって紀蘭コイツを許すこととは別だろうが……」

 過去に何があったにしろ今回の紀蘭をどう対処するかに関しては今だ解決策は無い。この世界の【RAID TIME】には通常の法制度というものは通用しないようになっている。紀蘭の罪の償い方はどうすれば。

 紀蘭はどんなものがこようとも受け入れる覚悟があった。

 が、

「許す」

 リーダーの決断は最初から決まっていた。

 武蔵の言葉に驚きを隠せないのは紀蘭だ。自分を殺しかけた相手を何のためらいも無く許してしまう武蔵。

「私は構わないわ」

 武蔵の意見に最初に賛同したのは紗綾、その隣に寄り添う千世も小さく頷く。凛夏は勝手にしろというように、早起きを強いられたため寝不足で大きな欠伸をしている。

「俺はそんなの……」

 晃輝は思ったとおり納得行く様子はなく、楓はまだそれでいいのか迷っている様子だ。十伍としては『不断の輪』の他のメンバーが納得のいくならばそれでいいと思っていた。

「わかったわ」

 楓が先に妥協した。

「くそ……、楓が言うなら俺もそうするしかねーじゃねぇか、納得いくわけがねぇがな」

 それに続くように晃輝も。

 皆の同意が得られたことを武蔵が確認すると再び紀蘭の顔を見て、

「お前は今、『不断の輪』の一員ではない。だが仲間でなくなったわけでもない。そして今回のことは許されることではない。納得のいっていないガキ達がいるが、お前もそうだろう?」

 紀蘭は、あぁ、と小さく声を漏らす。

「それでいい。納得はするな。今はそうすることがお前への刑罰だ。今回のことをふまえて次へ進めばいい。改心してな」

 どこまでも心の広い大柄な男である。

 だからこそリーダーが務まるのか、と心の中で十伍は思っていた。


〔AM06:00〕


「一人で行くの?」

 駅の入り口で後ろから声をかけられて紀蘭は振り返る。

「ああ」

 紀蘭は皆と一度別れを終えていた。去り際に「二度とあんな真似はするなよ」としつこく言われてから、彼は深い謝罪とともに「はい」と確かな決意を述べた。

その後、楓が一人で彼を追ってきたのであった。

「お別れはさっきしたぞ」

「うん、何か話そうとは思ったんだけどね……、何を言ったらいいのか思いつかないや」

 楓は安心していた。もう彼女の知っている以前の仲間の顔をしている紀蘭を見て。

「はっきりしないのは嫌いなんじゃなかったのか?」

「ええ、そうね」

「ちょっと見ない間に少し角が取れたんじゃないのか? 前より丸くなったと思うぞ」

「そうかしらね」

「体型が」

「はぁ?! それどういう意味! って、そんなわけないじゃないの! ここはシステムの中なのよ!」

「さぁ、わからないぞ? これだけ現実に近い世界だよ。そういうシステムがあったとしてもおかしくないと俺は思うけどなぁ」

 ぷくぅ、と楓は頬を膨らませる。

 それを見て紀蘭はくすくすと笑う。

 腕に取り付けられた【デバイス】の時刻表示を見る。

「そろそろ電車の来る時間だな。楓、他にいうことはあるかい?」

「ごめん、やっぱり何を言ったらいいのかわからない」

「そっか、じゃあ俺が言おう。何度も言ったが今回のことは謝っても謝りきれない。たりるわけがないけど、何かの形で償いはするつもりでいる。必ず」

「うん」

「十伍、だったね。彼は『不断の輪』の必要不可欠なメンバーだ、大切にしてやってくれ。優しく接してやりなよ? 彼にも何か大きな抱えているものがあるみたいだからさ。俺みたいに闇に陥ったりしないように手を差し延べてあげて」

 じゃあ、と手を軽く振って紀蘭は改札を過ぎていく。

 彼がこれからどうするかに関して楓は口を出せない。ただ以前と同じように一人で去って行く仲間の背中を見つめる。また会えるような気もした。連絡は取れないわけではないが紀蘭から返事が返ってくるという確信はない。

 自分も帰ろうか、と思って踵を返そうとしたら、改札の向こう側から「おーい!」と紀蘭がまだ何か言い足りなかったことがあるようで大声で言う。


「ツンツンばかりしていると鈍感な人には通じないからなー!」


 な?!

 楓の肩がビクンと跳ねる。眉が吊り上がり、片方の口角が変に持ち上がった。

 もう紀蘭の背中は見えなくなっていた。

「あいつぅ……」

 さきほどから握りこぶしが震えてたまらない。

 ――次に合った時、覚えていなさいよ。

 今度こそ踵を返して帰路に着く。

「鈍感な奴、ね……」

 真っ先に上がってくる人の顔があった。心底むかつく間抜け面の男。

 ――でも、あの時のアイツの表情は……。


「あぁん、もう! モヤモヤするぅうううううう!」


 楓は帰りにコンビニに寄って甘いものでも買って帰ろう、と思うのだった。


これにて『Stage1』終了です。ここまで呼んでくださった方ありがとうございました。『Stage2』ではもう少しゲーム要素を混ぜるつもりです。

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