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Reality Cyber Space――《リアリティ・サイバー・スペース》――  作者: 月草
Stage1――Things brought by guild are...――
22/35

ⅩⅦシンライ【Because you are a fellow】

―――5/6_5:15―――


〔【RAID TIME】終了まであと14:17〕


 武蔵が率いる『不断の輪』のメンバーだけでなく、紀蘭が所属するギルドの面々も一様に攻撃の手を止めた。

 彼らの視線の集まる中心にいる紀蘭は何が起こったのかといった表情である。痣になっているというわけでもないが、武蔵の拳が叩き込まれた頬に手を当てている。まだ痛みがじわじわと染みてくるようだ。たかが素手で殴られた程度、システム上ならばもう痛覚は治まっているはずなのに。

 そんな異様さに正常な思考の処理が滞っていて俯いているところへ、太い二本の足が現れる。それに気がついて上を見上げればかつてのリーダーの顔があった。

「なぜだ……」

 まるで反抗的な子供が下から父親を睨みつけるように。

「なんで、そんな顔をしてんだよ!」

 そしてそこには優しく接する父親のような武蔵の顔があった。

「目は覚めたか」

 そう言って武蔵はアスファルトの上にへたれこむ紀蘭へと手を伸ばす。

 胸の奥から無数の針が突き出てはち切れそうな。

そしてこのままその差し延べられる大きな手へと自分も手を伸ばしたい、とふいに思ってしまった瞬間。


《どうした紀蘭! さっさとれ!》


 紀蘭は今のギルドのメンバーから通信によって、はっと我に帰った。

 周囲では同時に戦闘が再開される。銃弾が放たれる音に、剣が交じり合う金属音。

 自分もまたすぐに落とした刀の柄を強く握り、その切っ先を武蔵の喉元へと――――――


「紀蘭」


 武蔵は向かってくる切っ先を瞬きせず、そしてその場を一歩も動こうとはしなかった。防御も回避も、どちらの選択肢も取らなかった。

 刀身はピタリと動きを止め、わずかながら震えていた。

「おっさん……俺は、俺はッ!」

 ようやく動いた武蔵の手は紀蘭の肩に置かれると、刀身の震えは大きくなって終には刀は手元から離れて落とされてしまった。

 カランカランと音を鳴らした刀はもはやガラクタのようにさえ思えた。

「これで終わりだと思うなよ、紀蘭。この後、説教だからな、覚悟しとけよ」

 武蔵の手は肩から頭に移動して、ワシワシと紀蘭の髪の毛を掻き乱してグシャグシャにしてしまう。

 一方。

「紀蘭、俺たちを裏切るのか!」

 紀蘭のギルドメンバーの一人が銃口を武器も持たない彼へと向け引き金に指を掛ける。

「おっさん! はよそこを離れんか!」

 凛夏はそれを阻止しようと自分も銃口をかざす敵に銃口を向けよとするも、今は【RAID TIME】。周囲には本来あるべき敵が今も個々一体へと集まり続けていて、楓、晃輝、紗綾、それぞれ人間を相手にしている彼らの背後を守るという責務もある。千世も遠距離系の凛夏を近距離で守るため手が放せない。

 武蔵は紀蘭を庇うようにして、身に緊張が走る。


しかし銃口をかざす敵はしばらく動かなかった。


 いや、既に動けなくなっていた。その敵はその場にドサリと倒れる。

 凛夏はその原因が背後にあると察し後ろを振り返ると、そこには『不断の輪』最後の一人のメンバー。

「悪く思うなよ。まあ安心しろ、一撃で死なないように脳天からはちょっとずらしてあるから」

 目標を打ち抜いた彼は手に携えたライフルの照準から目を離す。

「十伍っ……」

 楓は「遅い!」と切れ気味に言ってやろうと思って振り返ったのだが、最後は口ごもってしまった。それは彼が今まで見たこと無い表情をしていたからだ。

 いつもの気だるげな顔とは打って変わる険しい、明らかな―――怒り。

「こいつらからポイントぶんどって退散するぞ!」

 敵側は戦況を読み取って最後の攻撃に出る。

 意地でも餌に喰らいつこうとする獰猛な飢えた獣のように『不断の輪』のメンバーへと切りかかる。その不気味な気迫に尻込みしてしまったところへ漬け込んで、とにかく傷を負わせようと【(Guilty)】の効果を伴った攻撃を繰り返す。

「俺の仲間に手を出すなぁあああああああああああああああああああああ!」

 道路を駆け抜け、そのまま凛夏の横を通り過ぎる。

 【武器ウェポン】を変更。拳銃ハンドガン

 今の十伍にとって容赦などというものは無縁だ。自動式拳銃オートマチックによる連射で射出された弾丸は敵の身体を打ち抜く。先ほどは【PSIサイ】の【風穴《Dot》】で敵を的確に狙ったため必殺といった威力を発揮したが、これはただの銃弾だ。【強化(Boost)】を発動中の敵にとっては蹲るほどの痛みがあるわけではない。

 だが、それでも怯みはする。

 その隙に晃輝が大きな一撃を浴びせる。

「楓の方は任せた! 紗綾さんの援護は任せろ!」

 十伍は晃輝を一瞥し、楓が応戦している敵へとまっしぐらに向かう。さらに武器を変更。

 接近した十伍はダガーナイフで切りかかり、それに対し敵は剣をぶつける。これで手はふさがった。

「今だ、楓!」

「ああ、もう! アンタの援護なんていらないわよっ!」

 髪を靡かせながら斜めに一閃。

 敵はよろめきながら後退しひざまずく。


《十伍、そのくらいにしておけ》


 殺しに掛かってきた敵でさえ情けをかける武蔵の通信に「ああ、わかってる」とだけ返事をする。

「そろそろ、お前らの『HP』も危なくなってきたんじゃないのか? 今が退き時だとは思うぞ。【RAID TIME】も残り少しだが、それでも奴ら(モンスター)にやられないとは限らないからな。もしくは俺が止めをさしてやろうか?」

 敵が顔を上げた時には十伍の手にある物が拳銃ハンドガンに変わっていた。そして俯瞰する彼の目ははったりを言っているようには見えなかった。

「た、退散だ!」

 一人がそれを言った途端、他のメンバーもその言葉を待っていたかのように一斉に散らばって行った。ただ一人を残して。

「悪かったな、ちょっと冷静さを失ってた」

 近場にいるのは楓だけなので、彼女は自分に対して発せられた言葉だと受け取った。だが、どこか独り言のようにも聞こえた。というのも、十伍は彼女に背を向けていたからだ。

「……ふん、ったく遅いのよ。まだ【RAID TIME】は終わっていないんだから周りの狩っとくわよ、いい?」

「はいはい」

 十伍が楓のほうを振り返ったときにはいつもの調子に戻っていた。

 ぽん、と楓の肩を手で軽く叩いて『J級ジャッククラス』の【魔性の大蛇(Venom)】へと向かおうとした。

「心配……かけないでよ」

 十伍は踏み出した足を一瞬止めて、

「今、何か言ったか?」

 ボソリとこぼれた言葉は十伍の耳へは届いていなかった。

 数秒だけ返答が返ってこなかったが、

「独り言よ」

 間が合った割には短い返答だった。それから彼女は足早にモンスターへと駆け出した。




およそ一年ぶりの執筆&投稿でした。

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