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Reality Cyber Space――《リアリティ・サイバー・スペース》――  作者: 月草
Stage1――Things brought by guild are...――
19/35

ⅩⅣサイカイ【Again】

十伍VSラセツの戦いが行われている頃、彼らは……。

―――5/6_05:04―――


 楓は【暴食な狗(Gluttony)】を切り伏せる。

 しかし、いつもの覇気が無かった。

 普段ならば襲い掛かっているモンスターよりも、真っ先に自分から敵へと襲い掛かっていくような彼女が自信に満ちた表情をしていない。


《楓。集中せぇや。そんなやと犬っころに噛み付かれるで》


 別のことに気が向いて集中力にかけている楓に後衛の凛夏が注意を促す。遠くからでも楓が戦いに集中していないことがまるわかりだった。


《わかってるわよ……》


 楓と凛夏の仲は微妙な仲になっている。それは彼女たちに似ている点があるからかもしれない。

 楓はよく十伍や晃輝などには強気を見せたり、時には罵倒したりする事だってある。

 武蔵と紗綾は年上で大人なのでやや気を使ってしまい、逆に千世は一つ年下なのだが見た目がそれ以上に年下に見えるせいでまるで子供を相手にしているようになってしまうからだ。

 凛夏は二つ年上。だが年上だからといって敬語は使わない。

 彼女も楓と同じで実は気が強いところがある。または抜け目が無いとも言える。

 それが原因で『不断の輪』結成当初から関係はあまり変化していなかった。


「どうした! 楓! そんなんじゃ俺に負けてんぞ!」


 晃輝はいつもどおりでモンスターを駆り続ける。

「アンタに言われるとなんかムカつく……」

 彼としては彼女に気に入られたい一心なのだが、なかなか気に入ってもらえない。

 それでも彼は楓が普段通りに戻るならば本望だ。

(なにアイツのこと気にしてるのかな……私は。ほんとにバッカみたい! さっさと戻ってきなさいっての!)

 【PSIサイ】を発動してモンスターの排除に努める。

 他のメンバーたちはその様子を戦いながら横目で確認する。 楓の様子が戻ったのを確認するとまたモンスターに目を向ける。

(それにしても、本当にあのラセツっていうプレイヤーだけなのかしら……?)

 最初は『PK』ということが話題に上がったことで今の警戒態勢になってしまったが、現れたのはラセツ一人。

 いつの間にか『十伍がラセツと対決する』という方向に変わってしまった。

 彼の仲間がどこかに潜んでいるのかはまだわからなかった。

 ここまで警戒する必要があるのか疑問に思えてきた。


 これなら『K級キングクラス』を皆で狩り行くこともできなくはないのでは?


 現在、別の場所では十伍が死闘を繰り広げているはずだ。そんな時に何をしているんだ、ということにもなりそうではあるが、この三日間で【結晶クリスタル】は全然手に入らず【RP】もちっとも増加しないことを考えるとすぐに『K級キングクラス』を倒したいと思ってしまう。


《皆、注意! 何者かが接近!》


 突然緊迫した通信が入る。何事かとメンバー全員が反応する。

 十伍がここを離れているため、全体を見渡して警戒する役割は凛夏へと移っている。彼女は【DEX】への能力値配分が高いため遠くの敵も見える。その凛夏が通信を入れた。

 皆の緊張感が高まる。

 周囲のモンスターは七割ほど殲滅した。

 今、プレイヤーと戦うことになっても応戦できる。


《あれは……》


 凛夏の声がやや緩む。

 いったい何が近づいているのか?

 モンスターから距離をとってから他のメンバーも確認する。

「え?」

「……」

「そう……なんですか?」

「何しに来やがった、あの野郎!」

 六人の目線は近づいてくる一人の少年へと向けられる。

 彼ら全員が見覚えのあるまだ記憶からは薄れていない人物。

「紀蘭」

忘れるはずが無い、かつての仲間。


「久しぶりだね、みんな」


 彼はモンスターが襲ってこないぎりぎりの位置を保ちつつ歩き、それでも襲い掛かってきたときには両手に持つ拳銃が打ち抜いて排除する。

 彼は楓の元へと最初に行く。

「紀蘭……来てくれたんだ」

「この前ちゃんと『また会える』っていったはずだけど」

 彼は昨日何気なく約束をしていたのだった。だがそれはちゃんと会えるとまでは楓は思っていなかった。メールでもそのことは話さなかった。

 楓と紀蘭のところへ最初に駆け寄ったのは――――――


「おい! 何しに戻ってきやがったって聞いたんだよッ!」


 晃輝は紀蘭の胸倉を掴みあげる。それによって苦しそうな表情をする紀蘭を見て楓が止めに入る。

「ちょっとアンタ何やってんのよ! さっさと離れなさいッ!」

 楓が晃輝を突き飛ばす。

 大丈夫? と楓が紀蘭に気遣うのを見て、晃輝は舌打ちをして不機嫌そうな顔をしながらそっぽを向く。

「ああ、大丈夫だ。それに別にいいんだよ。これは俺が悪いんだから」

「そんなことないよ。悪いのは晃輝」

 そう言って楓は晃輝を睨む。

 彼女と目を合わせにくそうにしているが晃輝は何とか彼女のほうを見る。

「何だよ……」

「アンタ本当に何がしたいの? 紀蘭は……『仲間』でしょ?」

 仲間。

 かつての仲間。

 『Reality Cyber Space』開始後から四月の間、紀蘭と一緒に『仲間』として過ごしてきた。晃輝だって同じ。

 それは紛れもない事実だ。

 彼は紀蘭のことはあまり気に入ってはいなかったが『仲間』としては認めていた……以前までは。

 晃輝は紀蘭のほうを向く。対して紀蘭は彼の形相にやや困ったような顔をした。

「俺はもうお前を『仲間』だとは思っていない」

「ちょっ――――――」

 楓に割り込む隙を与えずに晃輝は怒りを紀蘭にぶつけ続ける。

「俺たちは約束したはずだ。この七人で『Reality Cyber Space』から必ず脱出すると。それなのにお前は何のためにこの輪を途切れさすようなマネをした! 答えろ、紀蘭!」


《そのくらいにしておけ、晃輝》


 『不断の輪』のリーダーが止めに入る。晃輝も彼の言葉は簡単には聞き過ごすにはいかないので、仕方なく武蔵がいる方向へ首を回す。

「すまないね」

すると紀蘭が軽く頭を下げて楓と晃輝から離れて武蔵の元へと歩み寄っていく。

「おい!」

 紀蘭の肩を掴もうとした手が横から入った手に掴まれて静止させられる。彼がその手の繋がった腕の先を見ると、楓の怒りに満ちた顔があった。

「いい加減にして」

「楓は、どうして――――――」

 その続きは言えなかった。その問いの理由が確証とは言い切れないが、それに近いものならもう既にずっと前から気付いていた。

 そして自分の口からそれを吐露することが出来なかった。

「クソッ……」

 もはやどうすることもできなかった。

 この怒りをぶつけるあてがどこにも無い。

 これを楓に向けることは絶対にあってはならないのだ。

 そんなことをよそに紀蘭は世話になっていた武蔵の元へ。

「お久しぶり、『おっさん』」

「ああ……そうだな。お前がまだ生きていることは昨日聞いた。どうなんだ? 調子は?」

 武蔵は強く当たる晃輝とは違って昔どおりに――同じ『不断の輪』のメンバーだった時のように接する。

 紀蘭もそれを見て微笑む。

「今でも渋谷区を中心にしてる。あっちで新しいギルドのメンバーも見つけたよ。自分勝手で申し訳ない」

 頭を下げる紀蘭だがすぐに上げさせられる。

 武蔵はそういうのをあまり好まない男だ。

「そうか。俺たちにも新しいメンバーが入った」

「昨日会った。望月十伍。いい人だった。彼なら俺よりこのギルドにはぴったりだ」

「悪いな」

「ははっ、何を謝るのか? まったくおっさんはいつになっても『おっさん』だ。変わらない。人には謝ることをさせないくせに自分は謝る、直らないね。その癖は」

 彼らの会話は他のメンバーの元までは届かないが、その光景を見ると紗綾と千世の顔には安堵が漏れる。

 たまにちらっと確認しながら凛夏はただモンスターを倒し続けている。彼女の顔は常に気を緩めていない真剣な顔だった。

「そういえば十伍君は? 見当たらないようだけど」

「アイツならちょっと別用を任せてあってな。今はそれに集中してもらっている」

「この近くにはいないの?」

「そう……だな。かなり遠くまで行ってしまったようだが……」

 心配して十伍が走って行ったのであろう方角を向いている武蔵の顔を、紀蘭は見てさらに話を続ける。

「それは残念」

「なんだアイツと会いたいのか? ならすぐに戻ってくるさ。そういう奴だ」

 紀蘭も武蔵が向いていたほうを見る。

 十伍はこの場にいない。

 この場にいるのは旧『不断の輪』の全員。

 前までは紀蘭はこのギルドでの後衛――十伍と同じ役割を与えられていた。

 実に懐かしい。

 そうここには新しいメンバーである十伍はいない。

 

 邪魔者はいない。


「どうして急にここに来たんだ? 来るなら連絡の一本ぐらい入れてもいいじゃないか」

「ごめん、ごめん。皆を驚かせようと思って」

 そう言いながら紀蘭は【デバイス】でアイテムウィンドウを操作しだす。

 何をしているのかと気になった武蔵は尋ねてみる。

「何をしてるんだ?」

「ああちょっと待って。あげたいものがあるからさ」

 プレゼント?

 なんだろうか?

 武蔵はアイテムウィンドウから何が出てくるのかを楽しみにしながら大人しく待つことにする。

「あ、目つぶっていてて」

「なんだぁ? そんなに驚かせたいのか?」

「楽しみにしててよ。きっと『必ず』驚くからさ」

 武蔵は手を差し出したまま目をつぶってさらに待つ。

 ふと、十伍のことを気にかける。

(十伍の奴はうまくやれているのだろうか?)

 自分たちは昔の仲間との再会に興じてしまっているのが罪悪感を生む。

(こんなことしている場合じゃないか)

「なぁ……まだか?」

「準備できたよ」

 紀蘭は準備が完了する。

 そして付け足してこんなことを言った。

「あと、今日は挨拶しにきたんだ」

 挨拶?

 またそれを何か不思議に思った。

 そもそも何の挨拶だ?

 単に「久しぶりー」の挨拶か?

 んー、と紀蘭の言う挨拶を推理するも中々答えが見つからない。

 そして一本の通信が入る。


《おっさん! そっから早く逃げぇや!》


 通信機器【デバイス】を伝わってこの通信はメンバー全ての元へと届いた。武蔵以外のメンバーの顔が青ざめる。

 紀蘭は思わず笑みを溢してしまった。

(やっぱり凛夏は気付いたかー。でもね。もう手遅れなんだよ?)

 武蔵は凛夏の先ほどの通信が気にかかり紀蘭を待たずに目を開けた。それでも手遅れだと知らずに。



 武蔵の体を一本のやいばが貫く。



「別れの『挨拶』だよ。そしておっさんには『弔い』を――――――」



 ――――――あげよう。


〔【RAID TIME】終了まであと20:04〕


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