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Reality Cyber Space――《リアリティ・サイバー・スペース》――  作者: 月草
Stage1――Things brought by guild are...――
14/35

Ⅸツグナイ【Apology】

十伍が元活動していた渋谷区へ。

―――5/5_13:27―――


「さて、どうしたものかな……」

 武蔵は顎に手を当て、真剣な顔立ちそのものである。

 彼の部屋には、『不断の輪』のメンバー、十伍、楓、紗綾、晃輝、凛夏、千世の六人を加えて計七人が集結していた。

 さすがにメンバー七人全員が集まれるほどの余裕はこの部屋には無い。だから普段は広めの一人部屋でも今はとても窮屈に感じられる。

 テーブルには席が四つしかないので、楓、紗綾、凛夏、千世と女性陣四人が着席している。男性陣三人は壁際にもたれかかっている。

「とりあえず、十伍。アンタが交戦したプレイヤーのことから話しいや」

 やや重い空気の中、凛夏が口火を切る。

それに十伍が頷いて壁から背を離す。

楓はその様子をちらりと見て、そっぽを向いた。

「俺が交戦したプレイヤーは『ラセツ』と名乗った」

「本名かどうかは検討つかないか?」

 『Reality Cyber Space』では本名を開示されている。プレイヤーの【デバイス】を使ってウィンドウを開くとそこに記されている。

「無理だな」

 だが現実世界と同じように、身分証名称なるものを見せない限り、その者の名が名乗ったものと同じであるという確証はない。

 偽名だっていくらでも名乗ることができる。

「コミュニティを使って探すのも無理そうですね」

 プレイヤー間が本名を開示しなくても扱えるコミュニティツールは日々様々な情報が飛び交っている。

 モンスターの最新情報のような『ゲーム』に関したこともあれば、こんな服を売っている店があるなど『生活』に関したものまで様々だ。

 それを使って本日、十伍が交戦したプレイヤーの情報を仕入れること可能そうにも見えるが、彼が偽名を名乗っていたとしたら身元が判明しない。

「だけど、そのプレイヤーは特殊な戦法を使う奴だったから、もしかしたら何かわかる可能性はなくもない」

「ほぅ、十伍から見ても『珍しい』と」

 凛夏が興味ありげに目を細める。

「どんな奴だったんだ? お前が苦戦するとか相当な奴だろ? 俺も戦ってみたいぜ」

 晃輝も興味ありげなようだ。

 質問が出たところで十伍もそれに答える。

「剣と銃を同時に使うスタイルで、さらにそれぞれの遠距離攻撃可能【PSIサイ】を持っている」

「かなりの手足れだな」

 

 それから彼らは今後のことについて話し合い、終わった頃には時計の長針が一周以上回っていた。

 対策会議も終わったことで『不断の輪』のメンバーはそれぞれの部屋へと戻っていく。


「ねぇ? ちょっといい?」

「ん?」

 皆が自室へと戻っていく中で、楓が後ろから十伍を呼び止める。

 十伍は「なんだろうか」と不思議に思う。

 先ほどの話し合いで楓はほとんど口を開いていかなかった。

「十伍はこれから予定ある?」

 なにやらもじもじしている様子な楓。

 彼女らしくもないと思いつつも、十伍は「別に何も無い」と答える。


「じゃあ、ちょっと付き合ってくれない?」


 これまた珍しいものだった。

 だから十伍は彼女に「大丈夫か?」と思わず尋ねてしまった、彼女は「なんでもない」と答える。

「で、どこ行くんだよ?」

「渋谷に」

 渋谷区。十伍が元活動をしていた所だった。その時には彼はまだ『不断の輪』には入っていなかった。

 そこで過ごした一ヶ月間の記憶が脳内を過ぎるのを、十伍は振り切る。

「嫌……だったかな?」

「……大丈夫だ。そんなことはない」

 もう過ぎてしまったことをいつまでも引っ張るわけにはいかなかった。まだこの『Reality Cyber Space』からは脱出でできていない。できる日もそんな近いわけでもない。

「何しにいくんだ?」

「まぁ……とりあえず付いてきなって!」


 十伍は半ば無理やりながら渋谷区へと連れて行かれた。


 『Reality Cyber Space』は『東京二十三区』を舞台にしている。

 東京には地下鉄が蜘蛛の糸のように張り巡らされている。どこに行くのでもあっても地下鉄を利用しないという方が少ないだろう。

 この世界も変わらない。

 プレイヤーは移動手段として鉄道を使うことができる。

 鉄道だけには収まらず、バスもタクシーも使用が可能である。マイカーだって手に入る。ただし購入するには多額の資金が必要だが。

 ただ残念ながら飛行機と船は利用ができない。

 プレイヤーの行動範囲は『東京二十三区』に限られているため、そこから外には行けないようになっている。

 だからその境界線の向こう側には同じ様に他県があるのか、はたまた海の向こうには別の国があるのかなど、どこまで作りこんであるのかをプレイヤーはその目で見ることができない。

 十伍と楓は鉄道を利用して渋谷区へと来ていた。

 相変わらずの(NPC)の多さである。

 ここが『ゲーム』であることを忘れてしまいそうな光景である。

 そして彼らが行動している世田谷区などとは違って、(NPC)が邪魔で歩きづらい。

「懐かしいな……」

 十伍にとって渋谷区ここが生まれ育った土地なわけではない。だがこの世界に来てから一ヶ月間ほどはこのあたりで暮らしていたのである。

 世田谷区に移ってからは特に用も無かったのでそれ以来一度も訪れていなかった。


「じゃあ早速、お買いものね!」


 楓が(NPC)を掻き分けて進んでいく。

「なんだ? ここに買い物しに来たのか?」

「そう。というか渋谷に来るなら大体わかるでしょ?」

 当然。

 と、言いたげな楓の様子を十伍は「そういうものなのか」と見ていた。

 渋谷区に居続けた十伍にとっては訪れるという感覚すら持っていなかったからだ。

「まず服! 昨日『K級キングクラス』倒したから金が入ったのよねー。どうしよういっぱい買っちゃうかも」

 『Reality Cyber Space』で金を稼ぐ手段と言えば、モンスターを倒すことに他ならない。それ以外で稼げるものはそうそういない。

 『報奨金』とも呼ばれているそれのもらえる金額は、上級モンスターを倒すほど高くなる。昨日『不断の輪』は『K級キングクラス』の【魔性の大蛇(Venom)】を倒すことに成功したため、それなりの報酬を得ている。

 逆に『J級ジャッククラス』などはちっぽけなお小遣程度にも満たないほど、報奨金の額は低い。

「使いすぎて家賃払えなくなったりするなよ?」

 もちろん彼らが住居で暮らすにもお金はいる。これも現実世界と同じ様に。

 現実世界では現役高校生である彼らにとっては、一足早い一人暮らしを経験している。

「は? 馬鹿ね、そんなことわかってるに決まってるじゃない」

 この様な光景も新しいものなのかもしれない。

 数日前の十伍ならからかうことなどしなかっただろう。

 彼が『不断の輪』に馴染みつつある証だった。

(ここも、『アイツ』と何度も来たもんだな)

 十伍はファッションセンスなるものを持ち合わせてはいない。

 オシャレ好きな楓によって連れ込まれたビルには、何店舗もの洋服専門店が詰め込まれている。

 とにかく十伍にとっては大変だった。

 特にここで自分はすることもなく、ただただ楓に振り回され続ける。

「いつまでもここは俺には似合わない」

 うんうん、と一人で納得する十伍の元へ、楓がやってくる。

 服を何着か持っている。

 『Reality Cyber Space』はファンタジーの世界にあるような鎧などはあまり売っていない。ここは現実世界に酷似しているわけであって鎧を着ている者がいたら、それすなわち――――――コスプレだ。

 通常『ゲーム』で装備道具には、防御力アップなどといった付加効果がある。

 それはこの世界にも当てはまる。

 見た目は洋服でもそれには『能力値アップ』や『耐性』が付いていたりする。

 これに置いてはなんとも言えないのだが、現実世界でただの洋服姿でモンスターの攻撃を受けたとしたら身を守れるはずが無い。

 だがこの世界では多少なりとも軽減されるとことは、やはりここは『ゲーム』なのだな、と思わされる点である。

「似合う?」

「ああ、似合ってる。似合ってる」

 楓の要望に答えてやったつもりの十伍だったが、楓は頬を膨らます。

 原因はわかっているがファッションセンスを持ち合わせていない十伍には見分けが付かないのでどうしようもない。

「いいわよ……どうせ突き詰めていっても意味ないし」

「ご察しどうも」

 レジへと向かっていく楓。

 正直買いすぎなのでは? と十伍はふと思ったが、彼が今いる場所からではレジの金額表示は見えない。

 そこへ楓が戻ってくる。

「これで用事は終わりか?」

「違うわよ、もぅ……。もういいはっきり言う。これはただのついで。本当はいい喫茶店があるから連れて行こうと思ってね」

 楓は買った物をアイテムウィンドウにしまう。現実世界でもこんなことができたら、荷物に困らないだろうに、と十伍はそれを見て思った。


 またまた十伍は楓に連れられて『ある喫茶店』の前まで来る。


「ここ最近評判いいのよ、ホント。少し話題になる前から見つけてたんだけど、残念」


 自慢げに語りだす楓をよそに十伍はその喫茶店の看板を見上げていた。

 ふと、楓の方に視線を移すと思わず、口を開きそうになった。別の人の名を呼びそうになってしまった。

(違う! 楓は……アイツじゃない……)

 彼は我に返り、『今』だということを改めて確認する。


「どうしたの?」

「ん? あぁ……。実はな……」

 

 十伍は楓に告げてやる。


「俺もこの店は随分前から知ってるんだぜ」

 それを聞いた楓はというと「しまった!」とでも言いたげな顔をした。

 そしてため息をついた。

「なーんだ。せっかくお礼になることできると思ったのに……」


「お礼?」


 なんだかよくわからない十伍は聞き返していた。


「は? あ、ああ、いや……えっと、その……。と、とりあえず中に入ろう!」


 おー、と何故か片腕を上に伸ばす楓を変に思いつつも、とりあえず十伍も同じく、おー、と腕をあげて、二人は店内へと入っていく。

 店内はなかなかの繁盛ぶり。

 空席はわずかすしかない。

 より自然な動きをする(NPC)ではないプレイヤーがいることが見てわかった。

(あれ以来、まだここに居座る人もいるのか。まあ、あれは一度きりだったしな……)

 店内を眺めつつ席に着く。

 そして適当にメニューを頼むと、すぐにテーブルへと店員が持ってきた。

「今日は私のおごりだからね」

「ん? どういうことだ? というよりそもそもどうして俺をここに連れてきたんだよ?」

 このお出かけに十伍を連れてきた意図が全く見えない。

 服を買うときはただ店内を眺めることしかしなかったし、いまだ十伍がここに来て何かをしたわけではない。


「ごめんなさい」


 突然だった。楓の口からそんな言葉が出た。

 一体何の脈絡があってそんな言葉が出たのか十伍にはさっぱりであった。

「私は十伍に迷惑をかけた。確実にあれは足手まといになった」

「待て待て! 一体何のことを話している?!」

 下を向いていた楓の顔が持ち上がる。

 なんともいつもの元気の尽きない彼女らしからぬ顔をしている。

「私のせいで十伍が敵の弾丸を受けたことよ」

「ああ、それか。だからあれは俺のせいだって。楓のせいじゃない」

「いいや。あれは私があの場にいなければ絶対に起こらなかったこと。痛かったんでしょ?」

「たいしたことないって」

「そんなことあるはずないじゃん」

 ぼそりと呟く。

 十伍はいつも強気な彼女にこんな一面があることを初めて知った。

「だからそのお礼というか、償いというか、そんな理由でこの店に連れて来たわけだけど……」

 意味無かったね、と困ったように笑ってみせる。

「――――――。そう……だな」

 十伍も同じ様に笑う。 

互いの間に暖かな雰囲気が立ち込める。十伍も楓も最初は頑なだったのがようやく打ち解けて柔らかくなっている。


しかし楓は十伍の心の内を知ることはない。何度も何度も彼は自分に言い聞かせ続けていることがあるなど思いもしていない。


 十伍が『不断の輪』に入ってこの一週間全く会話をしなかった分、二人の間で話しのネタが尽きることは無かった。 

「さて、帰りましょうか」

「もういいのか?」

「私の償いがこの程度でいいと思うのなら、ね?」

「そんなもの最初からねぇよ。『中途半端』に引きづっているのはそっちじゃないか?」

「そうね。私らしくもないか」

 二人は喫茶店を出て駅へと向かい始める。

 十伍は帰りでも街の風景を眺めている。

 いや、思い出しているのかもしれない。渋谷区ここで過ごした日々のことを。


「あれ? 懐かしい顔に会ったなぁ」


 楓は聞き覚えのあるその声に足を止められた。

 彼女が立ち止まったことで十伍も立ち止まる。

「久しぶりだね」

 楓を引き止めたのは十伍と同じく高校生と思われる少年。

 十伍とは違ってファッションにも気を使っていると見える。

「んー、なんか言ったら? それとも奇跡の再会に驚愕とか?」

「なぁ誰だ?」

 うんともすんとも言わない楓に十伍は突如出現した謎の少年の正体について尋ねる。

 だが何も返さない。

 十伍のほうを見た少年も、十伍のことについて楓に尋ねる。

「君はもしかして楓の彼氏?」


「ち、違うわよ!」


 否定したのは楓だった。これによって彼女の口がようやく開いた。

 十伍は楓のほうを見て謎の少年のほうを見てと、状況理解に苦しんでいる。

 そんな彼を裏腹に、楓はその少年しか今は見ていなかった。


「えぇ……久しぶりね、紀蘭」


 彼女はかつての仲間にそう告げた。

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