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Reality Cyber Space――《リアリティ・サイバー・スペース》――  作者: 月草
Stage1――Things brought by guild are...――
13/35

Ⅷマモルコト【Substitution】

―――5/5_12:17―――


(どこに行ったのよ……まったく)

 十伍は武蔵の通信に応答しなかった。

 それに不信感を持った『不断の輪』の十伍を除く六名は増援を行かせたほうがいいのでは? という考えが芽生えた。

 そこで楓と晃輝が二人組みで十伍を探しに出ている。

J級ジャッククラス』のモンスターがぞろぞろと群がっているのを、なるべく避けながらの移動となる。

「まったく十伍はどこ行ったんだよ? 死んだりしてねぇよな?」

 モンスターは倒さずに避ければいいだけなので、襲い掛かってきたときは軽く避けて受け流す。

 むやみにモンスターの『敵対心ヘイト』を駆っては、後が面倒になってしまうからだ。

「二手で探す?」

「『K級キングクラス』もこの辺にはいないみたいだしな。危険性はあまりないだろ」

「問題は仲間が潜んでいないか、というところかしら」

 十伍の話では、昨日の【RAID TIME】で見かけた怪しいプレイヤーは一人だけ。今朝に銃専門店で会った人物もその場に一人しかいなかった。

 仲間の存在はまだ確認できていない。

 現時点ではソロで『PK』を行っている可能性もある。

「俺のほうは大丈夫だ。そんな簡単にやられたりなんかすっかよ」

「私も問題ない。軽くなぎ払ってやるわよ」

 互いの意見が合致したところで、楓と幸祐はそれぞれの剣をぶつけ合う。

「決まりね」

「よっしゃ。じゃあ手分けして捜索ってことで」

 十伍の位置さえわかっていればよかった。

 彼が怪しい人物を追っていった先に楓と晃輝は行ってみたのだが、そこに二人の影はなかった。

 場所を移動してしまったらしい。

 【RAID TIME】で街中にモンスターが溢れている中でプレイヤー同士が戦闘を行うことは難しい。

 だからモンスターがあまり寄ってこない狭い路地などでしかできないはずなのだが。

「ホントにどこ行ったのよ……アイツ。俺がやるから大丈夫だ、みたいなこと言って格好つけちゃってさ。全然格好よくなんかないし。それに……」

 モンスターはすぐ近くにいるのだが、考え事をしている。

 一ヶ月間何度も経験した【RAID TIME】は習慣化してしまっていた。

モンスターに囲まれさえしない一対一の戦いならば、頭で別ごとを考えながらも相手ができる。

そんなことが可能な楓は『もう一人のメンバー』のことを考えていた。

 竹之内武蔵。

 堀江紗綾。

 池永晃輝。

 椎名凛夏。

 日向千世。

 これに彼女を加えて六人。

 そして、もう一人のメンバーは……。

「今頃アンタは何やってんのよ……紀蘭きらん

 楓は一週間ほど前のことを思い出していたが、もう過ぎ去ってしまったことだと振り切ろうとする。

 中途半端は嫌いだった。例えば新しく入った『あの少年』のように。

 それなのにいつまでも過去のことを引っ張っている自分は何なのか?

 矛盾していた。

 なぜか忘れることができない。諦めることができない。

 彼がまた『不断の輪』に戻ってくることを信じて。

 だがもし彼が戻ってきたとしても、もう彼の入る余地はない。今の『不断の輪』には空席がない。

 あの『新入り』が埋めてしまったから。

「ああっ! もうっ!」

 『J級ジャッククラス』の【暴食な狗(Gluttony)】を乱雑に切り伏せる。

 『敵対心ヘイト』を煽るような行為を避けるのはもう面倒になってしまっていた。

 ただあの少年に苛立ちを感じているのを何かにぶつけたかった。

「どこよ?! 十伍! 出てこないと叩き切るわよ!」

 晴天を仰ぎ見て叫ぶ。

 これで十伍が現れなかったら本当に、彼の捜索なんて止めてしまおうかと思った。

 そうなればよかった。

 彼女は現れないことを望んだ。

 だが彼は現れた。

「……チッ」

 思わず舌打ちをする。

 十伍は楓の方に向かって一直線に走ってきている。彼の走る速さは通常のものよりも上がっている。

 つまり彼の持つ加速スキル【追い風(Accelerate)】を発動しているということだ。

「なにをそんなに急いで――――――」

 常人よりも速い速度で走る十伍の表情は緊迫そのものだった。

 彼は楓の元へと駆け寄ると腕を掴み取って自分のほうへと引き寄せた。

「は?」

 十伍の腕は楓の腰の後ろに巻かれて、そのまま楓の体が半回転させられる。代わりに十伍が、楓が先ほど立っていた側に立つ。

 社交ダンスのアプローチのように体を持っていかれた楓は、いきなりの十伍の行動に驚きつつも、体を触ってきたという不快感が高まり、剣で切り伏せてやろうかと思った。

 だがそんなことをする暇もなかった。

この時、彼女は気付いていなかったのだ。

 十伍がどうして全速力で駆け寄ってきて、しかも抱くようにして体を彼の後ろ側へと追いやったのかを。

「ちょっ、離れ――――――」


 楓の言葉は刹那の音と光によって遮られた。


「え?」


 十伍の苦しむ声が耳元で聞こえる。

 さらに彼女の体を掴んでいる方の手に力が入る。だがそれも一瞬で放し、楓がその原因を確かめる前に十伍は『銃剣』の引き金を引いた。

 弾丸は影となっているところへと飛んでいく。楓はそこに何があるのかを知らない。

「え? ちょっと……どういう……」

 問い詰めるという考えは彼女の頭からもうなくなっていた。

 楓は十伍の腕を掴んだことで崩れかかった彼を支える。

「はぁはぁ……」

 息を荒くして腹部を『銃剣』を持たない左手で抑える十伍。

 顔色が悪いながらも彼は懸命に立ち上がろうとする。

「何なのよ……いったい……」

 疑問をぶつけた楓に返ってきたのは、答えではなく警告だった。


「早く……ここから離れろ……」

 

 『Reality Cyber Space』では全てのプレイヤーが習得している防御スキル【強化(Boost)】によって軽減されるものの、『ダメージ』とともに『痛み』を感じる。

 彼が今感じているのはその『痛み』。

 苦しんでいる十伍を楓は見ていることしかできなかった。あまりにも一瞬の出来事だったために。


「今回はお預けのようだ!」


 街のどこからか声が二人の耳元に届く。

 その声の主の姿は見当たらない。それでも十伍は目を光らせている。


「今日はもうこれで終わりだ! だがまた闘えるのを楽しみにしているぞ!」


 十伍はその声の意図を探るために腕に取り付けられた【デバイス】を見る。

 楓もつられてそれを見た。


〔【RAID TIME】終了まで00:05〕


 そして五秒後、街中の全てのモンスターが光のエフェクトを放って消滅した。

 装備していた【武器ウェポン】も強制解除される。

 (NPC)も建物から出てきたことで通常の街の風景に戻りだす。

「ちょっとスマン、肩貸してくれ……」

 十伍が体の力を失ったかのように楓の肩に寄りかかる。

 避けようと一瞬思った楓だったがそうもできなかった。今の十伍の様子を見ては。


「まさか……さっき私を庇ったの?」


 いくつかの思考の末に彼女がたどり着いた答えはそれだった。

 さっきの『銃声』と『エフェクト』。

 考えられるのは【PSIサイ】によって付加された銃弾の一撃。

「厄介な相手だった……。遠距離攻撃用の【PSIサイ】を二つも持っているなんて……」

 十伍は楓の肩を駆りながら建物の壁まで移動してもたれかかる。その際に「サンキュ」と弱々しい声で礼を述べた。

「しかもチャージで威力増大ときたか……」

「ちょっと?! そんなにさっきの攻撃が大きかったの?!」

 まだ体力を取り戻せない十伍を見ると心配せずにはいられなかった。

 

《おい、そっちはどうなった?》


 【RAID TIME】が終わったことで武蔵が通信を入れたのだ。

 

《なんとか無事……。けっこう苦戦する相手だった……》

《大丈夫なの? 十伍君声荒いよ?!》

《【HP】の方も危ないんじゃないですか?! 今すぐ駆けつけます!》

《私も行くべきやったか……》


 各々通信が入ったところで、晃輝が二人の姿を見つけて駆け寄ってくる。

 

 楓は言葉が出なかった。


(私は……、私のせい……)

 俯く彼女は顔を上げた。手のひらに他の手のひらが乗せられたからだ。

「ハッ、別にお前のせいじゃないって……。俺がさっさと仕留められなかっただけ。自業自得ってやつだよ」

 笑顔を作ってみせる十伍。

 だがそれが自然なものであるかと問われれば、そうとは言えなかった。


(なんて馬鹿なことをしたんだろ、私)


「おい、大丈夫か? 十伍、楓?」

「別にたいしたことじゃないさ。もう立てる。ただこれからもっと頑張らなきゃいけなくなったみたいだ」

 

 そう。決着はつかなかった。

 まだ次がある。

 

「次は絶対に勝つ」

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