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彼らの日常

「きいた?C組の大野と青山サン、付き合ってるんだって」

クラスに響く、高い声。すると、教室に居た男子たちが、どやどやと騒ぎ出す。

「マジで?」

「俺青山サン狙ってたのにーッ」


「アホくさ」

ふぅ、と溜め息をつきながら、音楽雑誌をパラパラと捲る。短髪を金に染め、見るからに生意気で素行の悪そうな少年…藤堂信太(トウドウノブタ)の呆れたような発言に、つり目気味の、ストレートの黒髪が美しい少女…秋月まひる(アキツキマヒル)が頷いた。

「よくもまぁあれだけ騒げるわよね。才能かしら、あれ」

まひるもまた、呆れを顔中で表しながら雑誌に目をやる。すると、ウェーブの髪の、童顔な女の子…新垣桃(ニイガキモモ)が、いちごミルクを飲むのを止めて2人を見た。

「えー、私はいいと思うな。ウワサによると、大野クン、小学生の頃から青山サンのこと好きだったらしいし…いいよね、ロマンチックで」

両手を組み、うっとりと頬を染める。信太とまひるは、互いに顔を見合わせると、再び雑誌に目を戻した。

「あ、このグループ解散するんだって」

「ちょっと、ノブ、まひる!聞いてるの?」

「聞き飽きたっつーの。モモはいーっつも

「ロマンチックだよねー」

とかしか言わねぇじゃん」

「ぶぅ、2人共意地悪ーっ」

唇を尖らせて拗ねる桃。すると、長身でがっちりとした体躯の男…板野攻次(イタノコウジ)が、慰めるようにくしゃりと桃の髪を撫でた。大きな掌の感触に、桃は目を細める。

「ありがとう、コーちゃん。…コーちゃんだけだよ、私の味方は」「甘やかすなよ、攻次ー」

「そうよ、コーちゃんはモモに甘すぎ」

「……」

無口な攻次は、反論するでもなく眉を寄せる。彼がその仕草をするときは、大体

「ケンカしないで」

などの類のサイン。この場合明らかに喧嘩ではないのだが。

「昔からコーちゃんはモモには特別優しいんだから。…まぁ、コーちゃんは誰にでも優しいけど」

「昔からと言えば、モモはいつまで経ってもガキっつーか、夢見がちっつーか」

「いーでしょー!それを言うなら2人だって、クールすぎだよっ」

皆が互いに、昔を口にする。

彼らは、幼い頃からの親友同士なのだ。

そう、幼稚園の頃からの。

男とか女とかカンケーない、これが彼らのモットー。べたべた同性の友達と付き合うよりずっと楽よ、とまひる。居心地良いしな、と信太。クールで感情の起伏が目立たないと思われがちな2人だが、本当はとても優しくて、一緒にいて楽しいことを桃は知っている。そして攻次は、その何倍も優しいことも。


新垣桃は、髪にウェーブのかかった少女だ。所謂天然パーマで、色素は薄め。比較的可愛らしく女の子らしい顔立ち。彼女の何よりの特徴は、夢見がちなことだった。それは幼稚園児の頃から変わらず、恋に恋するような性格。恋愛小説は桃の必需品だ。将来の夢は、絵本作家。決して大人っぽいとは言えない、そんな少女。


秋月まひるは、つり目気味な少女だ。その髪はストレートで、日本女性らしい美しい黒髪は、彼女のスッとシャープな顔立ちをより美しく見せている。可愛いというよりは美人なタイプで、桃にとっては親友であり姉のような存在であった。クールで冷静沈着。しかし友達思いな、まさに姉のような、そんな少女。


藤堂信太は、短髪を金に染めている少年だ。目もキリッとしており、鼻筋も通った美形の類に入る外見。耳朶には小さなシルバーのピアス。喋り方も、お世辞にも良いとは言えないが、彼らの中で最も頭が良いのは彼だった。冷たく、何事にも無関心だと思われがちだが、いつも皆を気にかけている、まさに兄のような、そんな少年。


板野攻次は、とても長身で、がっちりとした体躯の男だ。少年とはもはや呼べないほどで、少し顎髭も生えている。手を加えていない黒の短髪に、小さめの瞳。例えるならば大型犬。無口で滅多に喋らず、しかし大らかで誰よりも優しい。争い事を好まず、実に穏やか。一緒にいて安心できる、そんな男。


そしてもう1人。大きな瞳に、笑うと見える八重歯が特徴の少年がいる。制服は着崩し気味。背は高い方ではなく、本人曰くまだまだこれから。非常に子供っぽく、趣味はアニメもしくは特撮ヒーローものの番組を見ること。明るく、まさに子犬のような少年。クラスでも人気者な、彼の、名前は…。

「ノブーっ!ちょっ、見て!購買幻のパン・抹茶クリームパンっ!!遂にゲーット!」

「るせェよ、裕也」

「何よパン1つで…大袈裟ね」

「おーげさちげーよ!幻なんだぞ、すげーんだぞ、な、モモ?」

中西裕也(ナカニシユウヤ)。桃たちの大切な親友の1人であり、…桃の、幼稚園時代からの想い人。太陽みたいだと思い続けてきた笑顔は今も変わらず輝いている。まぶしい、と時々目を細めそうになる。

その瞳が、同意を求めて桃を見つめている。桃、だけを……。

くすぐったい。そう思いながら、こくんと頷いてやる。口元を綻ばせて。すると裕也は、満足げに桃に笑みを浮かべる。

「ほらなー、モモはちゃんとわかってんだよ」「バーカ。わかってあげてるんだよモモは」

信太が裕也を小突く。裕也は、うーと唸りながら攻次を見やる。

「コーちゃんも食いてーよな?」

「……」

こくんと頷く攻次。その目は、雨の日の公園に捨てられている犬のよう。攻次は、身体は大きいが、中身は無邪気で可愛らしい。弟のようだ、と4人は常々思う。幼稚園の頃、5人のうち一番小さかったのは彼で、裕也は彼の兄を気取っていた。

「おっけー、じゃあモモとコーちゃんにはおスソ分け〜」

「ありがと、裕也」

まさに雀の涙ほどの抹茶クリームパンを受け取り微笑む。桃はあまり抹茶が好きでない。だが、裕也がくれるものなら何だって嬉しいのだ。

「あげるならもっとあげなさいよ」

呆れた口調でまひる。

「やーだよ、俺の分減るじゃん」

「…意地汚ぇ…」

「はぁ!?テメッ、これは幻の抹茶クリー…」

「まぁまぁまぁ、私さっきチョコいっぱい食べてお腹いっぱいだし、ね」

「ほれ見ろー」

4人のやりとりを見て、攻次が笑みを浮かべる。

クールなまひるが居て、女の子らしい桃が居て、オトナな信太が居て、大らかな攻次が居て、子供っぽい裕也が居て。

それが彼らの

「日常」

だった。

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