9 いい加減気がついて下さい
ただ一緒に運動したからかローアン様とは前より仲が良くなった。
最近ではオスカーと同じくらいの距離感で接してくれる。
だからと言ってローアン様の女性嫌いが克服されているとは言い難い。
いつまでたっても私は男として扱われていた。
(あなたが親しげに肩を組んでいるのはまぎれもない女の子じゃ)
この感覚は兄やその友達と同じ反応。
幼い頃、優しく頭をなで手をつないでくれた兄の親友。
かっこいい彼に憧れてはいたのだが、私の初恋は見事に砕け散った。
恋人ができたと嬉しそうに教えてくれたその瞬間、理解した。彼にとって私は恋愛対象ではないのだと。
ただの友人の妹で幼馴染。だからこそ剣を取って本気で遊んでくれたのだろう。
手を握るのも肩を組むのもただの友情表現。
(ああ悔しい)
思い出と現在がリンクして、目の奥がツンとする。
今だって執務室に2人きりなのに、ドキドキ展開が1ミリも起きない。
「こんな法案、どうやって実現するんだよ」
書類片手に至近距離で嘆くのをやめて欲しい。
肩に腕を置かれ体重をかけてくる公子。そしてそれをいとも簡単に支える私。
きれいなお顔が目の前にあってこっちは気が休まらないのだよ。
「いい加減気がついて下さい。僕ばっかり緊張して‥!」
思いが乱れてうっかりつぶやいてしまった。
ハッとした時にはもう遅い。自分からばらすなんて契約違反だ。
(聞こえた。さすがにバレた?)
恐る恐る確認すると、ローアン様は顔を赤らめて私を凝視していた。
うん詰んだ。これは詰んだ。
「え? ま、まさか」
令息の瞳はキョロキョロ動き出した。思考がつながって行くのだろう。
ほうっと息をはく私。
とうとうこの任務と別れの時が来たんだ。
「ようやく分かりましたか」
今は大人しく怒られよう。
苦手な女性がこんな近くでだましていたのだ。怒られるだけで済むだろうか。おそらく失望させてしまっただろうし。
「す、すまん。お前の気持ちには答えられない!」
ん? 気持ち?
彼の口から想定していないワードが聞こえてくる。
「お前に好意はあるがそれは友情であって、わ、私は女性が苦手でも男が好きなわけじゃないんだ!」
あ、大丈夫だった。
(そっちかーい!)
心の中でツッコみつつ、一気にホッとする。
顔がゆるみそうだ。私は急いでポーカーフェイスを装った。
「違います。えーっとその、気がついて欲しいのは女性たちの好意に、ですよ」
自分のつぶやきの内容を思い出しながら必死で言い訳を構築じゃ。
「さっきだって僕だけ手を握られて緊張したんですから」
よし、うまく逃げたぞ。さっき部屋まで突撃して無理やり握手をしてきたお嬢さんがいたのだよ。彼女に感謝を。
ローアン様の表情がやっと落ち着いた。
「そ、そうか。そうだよな、ははは」
おもわぬ展開に別の意味でドキドキした。
「そんなことがあったのね」
週に1度の定期連絡でピンチになったことを報告。公爵夫人の憂い顔はまだ晴れない。
「仲良くはなったのですが」
頭を下げた私に公爵夫人は手を振る。
「いいのよ。ただ‥ 自分は男が好きになってしまったのか! くらいの葛藤が欲しかったわね」
「はいまったくです」
私もそれくらいのドキドキを期待していたのに!
「じゃあ次の手を考えましょう」
公爵夫人の目がキラリと光った。
「我が家で夜会を開催します」
荒療治が決定されます。




