7 熱で
今朝は冷えた。
みんな暖炉を求めて室内にいるようで、王宮の廊下も人通りは少ないし訪問客は来ない。
仕事は楽だが暖炉から離れた場所に立っているのはつらい。
(あれ?)
主の姿に違和感を持つ。
ローアン様の足取りがふらついていた。熱でもあるようだ。
「本日は早退されては?」
「問題ない」
答えた側から若様が机に手をつく。やはり体調不良だ。
「君はもう帰りなさい」
公爵様にも心配されてしまった。
書類の整理はオスカーたち側仕えに任せ、帰路を急ぐ。
馬車の中も冷え切っている。
早く温めて差し上げなくては。
屋敷に戻ったが、いつもと時間が違うせいで使用人が誰も部屋にいなかった。
「報告してくる」
もう一人の護衛が部屋を出る。
私は暖炉に火をおこした。
部屋が温まるまで時間がかかる。
ローアン様はガクガク震えているのに顔が真っ赤で汗をダラダラかいている。
同僚が戻ってきた。
「湯を持って来る、ブライト、若様の服をぬがせて体をふいてさしあげろ」
なんですとー!
そりゃ今ここにそれができる人間は私だけだ。
熱に浮かされる主人を放置したら護衛としても失格になる。
恥ずかしいけどやるしかなかない。
これは仕事である。
私はローアン様と向かい合った。
やらない選択肢はないけど‥動きはぎこちなくなる。
大体、イケメンの服をはぎ取って体をタオルでふいてなおかつ給料がもらえるだと?
(夢か? それとも運を使い切ったせいで命の危機にでも襲われるのか?)
「し、失礼いたします」
金色のボタンを外す。次に上着を脱がせる。
ふらつくローアン様が私に体重を預けてきた。
(密着―!)
心臓のバックバクが止まらねえ。
なんとか無表情を装いワイシャツのボタンを3つほど外した時、
侍女長が部屋に飛びこんできた。
「ブライト、その先は私が代わります。あなたは水をくんできて」
「は、はい!」
私はバッと飛びのいて部屋を出る。
助かったような残念だったような。
普通のメイドはこんな荒行をするのか。頭が下がる。
私は台所に走った。
侍女長の手で若君の入浴は無事終わり、ローアン様はスヤスヤ眠った。
翌日には熱は下がっていたから私もホッとする。
月初め、公爵夫人に呼び出され金貨を渡された。
私はこれまでの経過を報告する。真実を見破られる機会が一切来ないことを。
(お金になるはずなのに、なんだこの悔しさは)
「もっとすぐ気がつくかと思ったのに」
「ですよね」
公爵夫人のため息に私も同感する。
「別に気がつかなくてもね、他の男の子と違ってドキドキするとかないのかしら」
すみません。そんな気配は微塵も感じられません。
私が男装してローアン様に近づいているのは女性に少しでも慣れて欲しい公爵夫妻の愛情なのだ。
しかし今の私は完全に『男』としてしか見られていない。
「こうなったら、あの子と至近距離で見つめ合ったり、体を密着させるしかないわね」
「申し訳ありません奥様、非常に言いにくいのですがそれはもう済んでございます」
夫人の目が丸くなった。
「えええ?」
いつもは完璧なアルカイックスマイルを浮かべる公爵家の女主人がうろたえている。
「あの子がそんなに鈍感だったなんて」
私もそう思います。
「もうなりふり構っている余裕はないわ。ブライア、もっと息子と親愛になりなさい。恋仲になっても受け入れますわ」
ミッションが追加された。




