6 公爵家の日常
顔にかかる朝日で目が覚める。
短くした髪はすぐボサボサになる。かるくブラッシングしてから井戸へ向かった。
水をくまないと顔も洗えない。使用人は不便だ。それにくみたての水は冷たい。
毎回ブルっと震えてしまう。
「おはよー」
オスカーと会う。まだ髪が短いパターンだ。
カバンから何か取り出していく。
彼は顔を洗うと、近くの窓ガラスを鏡にして化粧を始めた。
中性的な顔立ちが、たちまち美少女に変身していく。
どう見ても変身魔法としか思えない。
「いつ見てもすごいね」
ほめたのにオスカーは眉をひそめた。
「ブライトだって化粧水くらい使いなよ。肌は男女問わず気をつけるべきだね」
説教されてしまった。
「ところでさ、オスカーって心は女の子だったり?」
都合よく2人きりだったから気になることをたずねてみる。
身体と心の性別が合わない人間がたまにいることは知っていたから。
「ううん。ボクはただかわいいのが好きなだけ」
そんな人もいるのか。
まあ私もフリフリドレスより騎士服が好きだから、似た者同士なのかもしれない。
「じゃあ恋愛対象は女の子なんだ」
「うん。でもボクよりかわいくなかったらお断りだけどね」
それってハードル高すぎだろう。
「ブライトも着飾ればいいのに。基本は悪くないんだから」
はははと愛想笑いを返す。
悪くないってほめ言葉なのか?
「化粧塗りたくれば絶対かわいいって」
う~ん、これほめられてはいないな~
ローアン様に続きこちらもまったく脈が感じられない。
身だしなみが整えられると、台所へ向かう。
広い台所の中央には長いテーブルがあって、パンが山盛りの籠が置いてある。席に座るとミルクが配られて、朝食だ。
みんな次々と起きて来て代わる代わる食べる。
寝坊するとパンがなくなるから使用人はみんな早起きだ。
私はこの任務が終わった後は庶民として働くだろうし、色々覚えなくちゃね。
う、いやまあ、お金持ちのご夫人を狙ってもいるのだけど。確率的に考えて準備するに越したことはない。
「はよーっす」
他の護衛騎士とも顔見知りになった。
「お、チビ助じゃん。お前も寝起きは不細工だよな」
「人のことが言える顔かよ」
悪気のない軽口には軽くかえすけど、へこむよ?
正体は女子だよ?
あと別にチビでもない。
護衛隊はでかい奴が多いから相対的にチビになるだけで側仕えと同じくらいの身長はある。
「お前は坊ちゃんのお守?」
「いや、今日は屋敷」
本日の予定では王宮へ向かわない日。だが非番でもない。
私は仲間と一緒に鍛錬だ。
走りこんだり素振りしたり。
汗をかいて上着を脱ぎ捨てている男共を横目に見る。
「暑いだろ、お前も脱げよ」
無理なのだよ、私には。
「格好つけるなって」
そのままそいつは軽くグーで私をたたいてきた。
それ自体は構わないが、場所が、鎖骨の下なんですけど!
「へえ、固い。胸筋鍛えてるんだな!」
そりゃ鍛えてはいる‥しかし固いのはぶ厚いベストのせいだ。
うん絶対。
「センタリオンはもう戻れ」
汗だくの私を心配してハロルド隊長が解放してくれた。
館に入り自室に鍵をかけてからやっと服をぬぐ。
「汗もふけないのは面倒なんだよね」
隊長以外に私が女だと知っている護衛はいないから、贔屓だと言われることもある。
今のところ新人だから、と手をぬく理由をもらっているが。
「新人なのに1人部屋なのが生意気なんだよ」
夕方、自分への文句を聞いてしまった。
へこむ。
主人公の名前 ブライアは守るみたいな意味があります。 苗字は強そうなのが欲しかったのでローマ軍の百人隊長の英語読みでセンタリオンにしました。




