5 令息と私の苦悩
公爵家のメイドには若い子も大勢いた。
だが若様のお世話ができるのは昔から仕えている年配者ばかり。
若いメイドはローアン様の部屋に入ることさえ禁止されていた。
大体ローアン様は廊下で女子とすれ違うだけでビクッとする。
「せめて公爵家の使用人には慣れて下さいよ」
私が交代のため主の部屋に入ると、オスカーがくだけた口用で頼んでいた。
彼は子供の時から公爵家に仕えているので主人との距離が近いらしい。
「そう言われても苦手なものは苦手なんだ」
「全員ボクと同じ男の娘だと思えばいいじゃないですか」
オスカーは面白い提案をしてきた。
そうすればローアン様も屋敷内では普通にふるまえるはず。
しかし令息は眉間にしわを寄せた。
「以前、そうしてみたんだ。だがうっかり近づきすぎて顔をよく見てしまったら、震えが‥」
うわぁ、ローアン様怯えて肩を震わせている。重症だ。
しかし近づきすぎると発覚する危険性が高まるのか。私も気をつけなければ。
「う~ん、ボクの方がカワイイはずなのに」
(オスカー君の自信がすごい)
まあ彼はたしかにかわいい。フリフリのワンピースが良く似合っている。
今、ノーメイクの私と並んでどちらがよりかわいいかたずねたら、10人中10人がオスカーを指すだろう。
まあメイクしたら分からないけどね? 今はスッピンで男装中だからしょうがないだけだし。
仕事上バレないのが必要なのだから、男装女子が女装男子に負けることもあるさ。ここは気にしないのが大人の反応の、はず。
(でも‥心は痛いです。乙女のハートは傷つきやすいの!)
そんな私の葛藤を、同室の男共は気がつきゃしない。
ツインテールをゆらしてオスカーはこちらを見た。
「じゃあ女顔の男子で慣れましょうよ。ブライトとか」
「え、自分ですか」
いきなり話が私に振られて、キョドってしまった。
「そうだな」
執務机からおもむろに立ち上がる令息。
(ローアン様も乗らないで下さい!)
近づいてくるローアン様。
私は後ずさったがそこは壁だ。すぐに追い詰められてしまう。
「別にぼ、僕、そこまで女顔じゃないですよ」
私はあせった。
(おいおい、いきなりな展開すぎて心の準備できませんよ)
パニックで声が上ずってしまう。いつもは落ち着いた低い声しか出さないのに。
ローアン様の顔が目の前に来た。
ほぼ壁ドンの態勢である。
(うっきゃあ! イケメンが! 近い!)
金色のまつ毛。きらめく瞳。かけられる吐息。
ヤバい顔が赤くなる。必死になって顔をそらした。
しかしここまで間近に観察されたら絶対バレる。女だって見ぬかれてしまう!
せっかく髪まで切ったのに、私の護衛騎士としてのキャリアはお終いだ。また新しく仕事を探さないといけないじゃん。
ローアン様が身を退いた。首を少し傾けさせて。
「いくら女顔でもな、やっぱり男じゃ練習にならないか」
‥‥‥あれ?
この距離で? バレなかった、だと?
頭の中を疑問が渦巻く。
(私って女ですよ。中性顔ですけど、骨格とか肉付きとかどう見たって)
公子様は男だと刷りこんだ人間はみんな男に見えているのか?
それとも私に女性らしさが本当にないのか‥
まあ仕事を始めて早々にクビにならなかったのは良かったのかもしれない。
(いや良くないだろ、絶対に)
私の女としてのプライドが音を立てて崩れ落ちた。
とりあえず、その日の夜は侍女長にグチって寝た。




