4 王宮には危険がいっぱい
ローアン様の心の傷が早く癒えるよう、私は気合を入れ直す。
学生時代は友人が多かったから、同年代女子との付き合い方はよーく知っているのさ。
ノックの後開かれる扉。
王宮の侍女らしき女性が入室する。
「こちらの書類を渡すよう頼まれまして」
「ありがとうございます。ひとまず僕がお受け取りしますね」
ローアン様へ手渡ししたいだろう侍女にウィンクしながら、私は書類を奪い取る。
公子には決して近づけさせないが、女の子には優しく角が立たないように接しなければ。
女官らしい訪問者が言伝と共にお菓子の袋を渡そうとしてくる。食べ物は要注意だ。何らかの薬が混入されているかもしれない。
「わたくしの手作りですの」
「では中身を改めますのでこちらに。うわぁ良いにおい、僕も食べていいですか?」
プレゼントを押しつけようとする貴婦人の手をそっと取り先に回収し、毒味。
変な味はしない。異物は混入していなさそうだ。
「おいしい! クッキーが作れるなんてすごいなぁ」
疑っていたことは隠さないと。
ほめられて怒る女子はいない。ニコニコしながら立ち去ってくれた。
「オールデン子息、どうしてわたくしとのお見合いをお断りになったのぉ」
「お待ちください」
直接ローアン様にすり寄ろうとする令嬢には立ちふさがる。
もちろん令嬢が嫌な思いをしないように、肩を引き寄せなぐさめながら。
「けして貴方のせいではないのです。公爵家には止まれぬ事情があり‥そうでなければ貴方のような美しい方を、どうして断れましょう」
優しく、しかし断固としてローアン様から女性たちを遠ざける。
私が懸命に阻止しているのが伝わったのだろう。
数日が立つ頃には公爵令息の側から、令嬢の突撃が激減した。
みんな大人しく私を通してくれるようになった。
だがなぜか私を捕まえておしゃべりしないと帰ってくれない。これでは時間を取られてしまう。
「すみません仕事の最中に」
自分だけサボって話に興じているように見えたら大変だ。
性別がバレる前にクビにされてしまう。
「構わないよ。近くに寄られなければ平気だからな。お前が相手をしてくれた方が助かる」
寛容な上司だ。
とがめられないことに安心するのだが、私が令嬢を追い返すたびにニヤニヤしながら見てくるのは理解できない。
「ブライトを入れたのは正解だったな」
お父上の宰相閣下もうなずいている。仕事ぶりはほめられているらしい。
帰り際、女官の1人から手紙を渡された。
封筒を確認すると「護衛の騎士様へ」と書いてある。
女子校時代にはよくあったことだ。
「僕に? ありがとう」
お礼を言うと頬を染めた女官はそそくさと立ち去った。
まるで本当の思い人に手紙を渡したかのように。
(あれ? 学生時代と違って私が女だってことはみんな知らないよね?)
勘違いさせてしまったら申し訳ない。
罪悪感を抱えながら屋敷に戻る。
手紙の内容は『憧れています』くらいだった。
告白されたわけでもつき合って欲しいと言われたわけでもない。
ホッとした。
(あんまり期待させすぎてもダメだよね)
王子様風の演技をやりすぎたようだ。反省しなければ。
分かって楽しんでいる子と同じ対応をしてはいけない。
男じゃないと分かってびっくりするのはローアン様だけで十分だ。
(かわいい淑女の瞳を、涙でぬらさないよう注意しなくちゃ)




