3 事情
男装生活はとどこおりなく始まった。
お屋敷の中で私の正体を知っているのは公爵夫妻と執事と侍女頭と護衛隊隊長のみ。
周りの使用人にあいさつするも特に不審な目は向けられていない。
しかしそれってどうなんだろう?
女としてのプライドが傷ついちゃう。
私が着ている服は周りの騎士服とそこまで違わないが、上着の丈が長い。
腰から膝上まですっぽりおおってくれる。
男女の見分けが一番容易なのは腰から大腿にかけて。
そこを確実に隠しているからだよね? 私に女らしさがカケラもないからじゃないよね?
「これから出かける。オスカーとブライトはついて来い」
ローアン様の声に気を引きしめた。警備の仕事に支障が出ないのは利点なのだけ。
ちなみに私はそれなりに強い。
騎士志望だった兄のまねをして幼い頃から剣をふるってきた。
もう力もスタミナも兄に勝てないが技量は何とか引き分けるくらい。
父が護衛に推薦したのもそのため。
ローアン様は王宮で宰相であるお父上を補佐している。
私たちの仕事は王宮で若様に女性を近づけさせないこと。
オスカーもさすがに外出の時は女装を止めていた。
今は中性的な魅力の側仕えだ。
ある意味イケメンに囲まれた職場。ラッキーではある。
しかし仕事は大変だった。
王宮なんてそこらここらに貴婦人や侍女がたむろっている。
そして主人のローアン様は、スタイルはいいし白磁のように透き通った肌に髪と瞳がバッチリ映える美青年。
「まあオールデン家のご令息ですわ、ごきげんよう」
「こちらわたくしが刺繍いたしましたハンカチですの、受け取って下さる?」
「ただちにお茶をお入れいたしますわ」
確実にかつ柔らかに丁寧に、むらがる女性たちをいなすのは気が休まらない。
一定距離以内に女性が近づくとローアンは「ひいっ」とうめき声を上げるのだ。
「ふ~ いつもあんな感じですか」
「そうだな、明日も頼むが今は休憩してこい」
夕方、お屋敷に戻ってやっと一息つけた。
護衛を交代してもらって私とオスカーは主人の前から下がる。
「髪の毛はどうしているの?」
女装をしていないオスカーの髪は肩にかかるくらいだ。いつもはローズピンクのツインテールだから不思議に思った。
「あれは付け毛。似合うでしょ」
「似合う、すっごく似合う」
談笑しながら使用人の控室に向かう。
「若様はどうして女性が嫌いなのかな?」
厨房の大テーブルで夕飯を食べながら、私は彼に聞いてみた。
「うーん、そもそも周りに同年代の異性が少ないから苦手意識はあったらしいんだけど」
オスカーは口を開く。口止めされてはいないようだ。
「貴族学院に通っている時にね、男爵家の令嬢と仲良くなったんだよ。そのせいで婚約者に嫌われてしまって婚約は破棄」
私は首をかしげた。
それだけなら婚約者が別の令嬢になるだけだ。その男爵令嬢が家から認められるかはともかく、女嫌いになるレベルじゃない。
「しかも話はここで終わらなくて‥婚約が破棄されるとすぐ、男爵令嬢はローアン様から離れだした」
「あ、もしかして公爵家が男爵家に圧力をかけたとか」
跡取り息子を篭絡するなど、公爵夫妻からしたら許せないだろう。家がつぶされそうになったらその女も身を退くに決まっている。
「ううん、男爵令嬢と元の婚約者がグルだったって」
おお? 予想外の展開。
「我が家有責で婚約を破棄させるため、男爵令嬢はローアン様に近づいてさ。目的をとげた後はポイ捨てだったらしいよ」
うわぁ思ったよりひどい話。
「元婚約者には狙っている相手がいて、今はそっちと交際中だって」
公爵令息はそれ以来、若い女性に嫌悪感や恐怖感を持ってしまったらしい。
「あんなに素敵な方なのに、どこが不満だったんだろう?」
「さあ、上の方々の政略とか評判とかいろいろでしょう。慰謝料も欲しいだろうし」
そんなことされたら女性が苦手になってもしかたがないじゃん。
ふう、私も若様の女嫌いを治せるように頑張らなくちゃ。
ローアン様は浮気して婚約破棄をされた令息でした。(^_^)




