29 別れ
「ええ、お姉様とはもうお別れなのですか」
デイジーがすがりついてくる。
「まあ、危機がさったからね。公爵家に戻らなくちゃ」
マキシム・ホークは失墜した。
暗殺の失敗は即座に送り主の失点へつながる。
公爵家は暗殺者を王家に報告した。
犯人が以前ホーク家の護衛として働いていたことは、王宮全体に広まる。
「出まかせだ。我が家を陥れるためオールデン家が流したデマだ」
その程度の言いわけは宰相閣下には痛くもかゆくもない。工事計画の杜撰さもついでに議会で責めている。
ホーク夫人には浮気の証拠を送った。彼女は屋敷を去ったらしい。
第一王子とは険悪な関係に持ちこんだから、しばらくは復活できないはず。
「ずっと一緒にいたかったのに」
「あーそれだけど、結婚したら私がデイジーの護衛になりそうで」
「え、それならすぐお嫁に行きますわ!」
すぐに結婚とは行かないが、ローアンとデイジーの婚約は発表された。
公爵家にフローレス家を呼んで、今日は昼さん会だ。
良く晴れた日だったのでガーデンパーティーに。
「おめでとうござります」
「オールデン家は安泰ですなあ」
お祝いの空気もオールデン公爵家を後押しする。
私も令息に歩み寄った。
「ローアン様、私の我がままを聞いて下さり、感謝の極みにございます」
あの後、ダッシュの身柄を私の子爵家で預からせて欲しいと、ローアン様と公爵様と親に頼みこんだ。
本来なら強制労働だったのだが、彼の有用性を説いて納得してもらう。
「まあ他ならぬお前の頼みだからな。子爵家が手綱を握ってくれれば安心できるよ」
デイジー嬢を眺めながら、ローアン様はにっこにこしていた。
数日前、私はハロルド隊長他数名と共にダッシュを子爵家に連れて行った。
王都のタウンハウスは公爵家と比べ小ぢんまりとしているが、懐かしの我が家だ。
「お嬢が男を連れて来たぞ!」
玄関をくぐると廊下の奥が騒がしくなる。
手紙で伝えていただろうに。
「ええ、お嬢様の妄想じゃなかったの? 親に合わせたい男だなんて実在したんですか?」
「多分オレ、幻覚を見ているんだ‥」
失礼な。
同僚の護衛兵には生暖かい目で見られたし、ダッシュにはあきれられている。
「お帰りブライア」
「こちらがあなたのお友達ね」
私しか見ない父とそれなりに友好的な母親が向かえてくれた。
「それで、お前か。我が家で預かる犯罪者は」
「はい、子爵家で性根をたたき直していただきたい」
ハロルドがダッシュの身柄を引き渡す。
「ふん、確かに我が家は無法者も受け入れてきたが。うちの娘に言い寄って罪を免れようなど、簡単には許せんな」
父のこめかみには筋が浮き出ていた。
気迫はすさまじいが、別にダッシュは気後れもしていない。
「お嬢様の温情、忘れはいたしません。一生をかけて恩をお返しする所存でございます」
さすが私が選んだ相手。侯爵に仕えていただけはあるスキのない身のこなしに、父からはそれ以上文句が出なかった。
「当たり前だ、手加減はせんぞ」
「構いません」
センタリオン家の領地は辺境にある。国境付近の警備が仕事なのだ。国境警備の責任者はオールデン公爵だから、父は現場監督的な役割。
入隊条件には推薦制もあるからズルじゃない。彼の実力があれば出世もすぐだろう。
ダッシュはすぐ領地へ送られる予定。私は仕事があるので見送りには行けない。
ここでさよならだ。
「しばらく会えないね」
私は彼の手を取る。
「私のこと忘れないで」
「それはこちらの言葉です」
別れを惜しんでいたら隣の父にぼやかれた。
「忘れて構わん!」
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