26 襲撃
1日の仕事を終えた私は別館に戻る。
「ブライト、ちょうど良かった」
建物からオスカーが駆け寄って来た。
「本館に忘れ物しちゃってさ、一緒に来てくれない?」
「それくらい1人で行きなよ」
「夜のお屋敷は怖いんだって」
メイド服の彼はちょっとだけ震えた。
「オスカー? 君子供の時からここで育ったんじゃなかったっけ?」
「だってオバケとか出そうじゃん」
彼はほおをふくらます。
絶対かわいいと分かって、わざとやってるな。
「しょうがないなー」
私は可愛い子に弱いのかもしれない。
夜の本館は暗いし人も減る。
ロウソクの明かりで歩く廊下は確かに不気味。
「あ、あった」
秘書室の机に封筒がのっている。
「これ、執事に持って来るよう頼まれてたの」
(あれ)
隣のローアン様の部屋から、変な気配を感じた。
ガタンと音もする。
よく分からないけれど気持ち悪い。
「ちょっとゴメン、待ってて」
こんな直感を無視してはいけないと、家族からしつこく教わったものだ。
私は隣室の扉を開いた。
「ぐ」
真っ赤な血しぶきが目に飛びこむ。
目の前で護衛がゆっくり倒れんだ。
黒ずくめの男が、小刀の血をはらう。
「侵入者!」
私は瞬時に叫び剣をぬいた。
男に切りかかったが、切っ先はかすりもせず空を切る。
顔は隠してあるが、こんなことができるのはまちがいなくあの男。
部屋にはローアン様がへたりこんでいた。
「早くお逃げください! オスカー、ローアン様を早く」
私の後ろから様子を見に来たオスカーへ主人の保護を頼む。
「ぅわ、分かった」
私は2人を背にかばって侵入者と対峙した。
息を吸う。刃をかわし敵に剣をふるう。
私が時間をかせいでいる内に、オスカーたちは部屋を出た。
「何なのですかこの家。女みたいな護衛の他に、男みたいなメイドまで」
男は無表情のまま軽口をたたいている。
こんな状況でも余裕があるのか?
今日の武器は長剣だが、たしかに1人で倒せるかどうかは微妙なライン。
それでもこの場所は勝手知ったる公爵邸だ。味方はそこら中にいる。この前のようなアウェーではない。
つまり勝機がある。
私は剣を握り直しジリッと相手との距離を詰め、一気に飛びかかった。
カンカンっと刃物がぶつかり火花が飛ぶ。
相手が肉薄し、剣を打ちあい離れる。何回かくりかえしたら腕がしびれてきた。
室内では距離を取ろうにも限度がある。
「このままだと俺は君を殺してしまいます。ここは手を引きませんか」
ペリドットの瞳は感情を読ませない。
力量差を考えればそれもありだけど、ホームでそれは弱気が過ぎる。
私は時間さえかせげれば良いのだ。
「そんなことあきらめて、こっちに鞍替えしない?」
私は勧誘することにした。結構本気で。
彼のような腕利き、味方に引き入れれば形勢も逆転できよう。
「簡単に裏切る人間が、信頼されると思いますか?」
侵入者は目を細める。
まあそれはそうだ。
「君と同じ職場ならそれでも‥いや、同僚を手にかけた俺が君に許せるのかな?」
「それもそうですね」
絶命しているのはベテランの兵士。
気の良いおっさんでかわいがってもらった。
「残念ですが、これで終わりにしてあげます」
空気が冷えた。
くり出された斬撃をかわすため私は後ろへ飛ぶ。
後方には開け放たれた扉。
廊下の壁には激突したが、敵の刃はかわせた。
すかさず方向を変え第二撃も避ける。
それでも敵の少刀が胸をえぐった。鮮血が宙を舞う。
「痛っ」
私はさらに後ろへ下がり敵と距離を取った。傷口を確認すると切れたのはほとんどさらしだ。
良かった。
傷は浅い。
(まだ動ける。援軍が来るまであと少し)
自分を叱咤し、敵に注意を向け直すが‥
侵入者は目を丸くしてこちらに注目している。
「はあ?」
変な声まで上げて。珍しくスキだらけだ。
やっと、やっとお約束にたどり着けました!




