25 王都改修計画
とにかくピンチをチャンスに替えねば。
「私もホーク家の調査に回ります」
「だめだ。お前にはデイジー嬢の警備がある」
「今なら大丈夫ですよ。敵がローアン様の恋人と目しているのは僕ですから」
会場ではブライア・センタリオンの本名を使った。調べればすぐブライトである私にまではたどり着けるだろう。
しかしそこからデイジーまでは探れない。
「分かった‥ブライトの力は欲しかったんだ」
ローアン様もしばらくデイジーの側から離れることを了承する。
「ローアン様、マキシムの周辺では王都改修計画が盛り上がっていますよ」
ホーク卿の周辺に凄腕の護衛がいないのだ。私は気配を殺して彼らの集団に忍び寄り、廊下で報告を受けているのをちゃっかり聞き取っていた。
「ああ貧民街を取り壊し、新しい商業区画に整備する話だな。しかし住民の住居や土地が確保できていないから計画は止まっているはずだが‥マキシムは強硬派なのか?」
工事開始の議案が議会に提出された。第二王子派の反対を押し切って可決される。
マキシムが第一王子を言いくるめたらしい。
王都の警備兵を動員し、建物の撤去を始めた。
貧民の嘆きを一切顧みず。
「住民を何だと思っているんだ」
「納税者以外はいらないのだろう」
街にはホームレスが大量にあふれ、強硬策に批判が高まるが工事は止まらない。
(彼らに、せめて仕事があれば)
路上の物乞いに銅貨を一枚落としながら、私は悩む。
ふと思った。この公共事業に彼ら自身は関われないだろうか。
私はさっそく思い描いた計画を上司に提案した。
「できなくはないが、住居は用意できないぞ。そこまでの予算を慈善事業には回せない」
「一時的な物で構いません。工事業者の建屋くらいで。そこに貧民を家族ごと吸収し、働ける者だけ人夫として雇用すれば」
令息よりオスカーの方が素早く反応する。平民の彼の方が治安の悪化は身にしみているのだろう。
「貧民に住まいと仕事を与えた公爵家って、功績を宣伝できるじゃん」
ローアン様もうなずいた。
「こちらに世論が味方し、向こうの拙速を批判できるか。父上にも報告しよう」
公爵様の許可も取り、計画を始める。
商業地区の一部に簡易住宅を建設し、居住者を募集することも含め議会に認めさせた。
貧民対策には敵陣営も賛成せざるを得ない。
「その程度で貧民を全て救えるとでも?」
マキシム・ホークは嫌味くらいしか言えなかった。
その程度、現宰相であるオールデン公は歯牙にもかけない。
「何もしないよりはマシでしょうなあ」
「く、我が家だとて救貧院に多額の寄付をしている!」
「その程度で貧民全てを救えるでしょうかねぇ?」
議会はそれなりに荒れたようだ。
それでも王宮での劣勢を持ち直すほどではないらしい。庶民の間ではオールデン家の評判は上々なのだが。
「酒場で知り合いから酒をおごられた」
「お店の人からほめられちゃったわよ、あなたのご主人良い人ねって」
街中に良い噂が広まっていると、オールデン家に情報が集まる。
「これを貴族間に流してみるか」
ローアン様の命令で寄子の下位貴族家にお茶会などで話題にさせた。出入りの業者には金を渡し他家への宣伝を持ちかける。
少しずつ、風向きが変わった。何とか逆境は脱出できそうだ。
「第二王子からお褒めいただいたぞ。改修計画の手柄がそっくりこちらに移りそうだ」
人足が増え工事の進みが迅速になったことも影響したらしい。
「後はローアン様の男色疑惑を払拭するだけですね」
しかしデイジー嬢との仲を公表する前にはまだ政敵の力が大きいだろう。
マキシムはブライアのことは真剣に調べてはいません。噂をそれとなく流すだけです。




